シン・希望の船?絶望の城?





 んんっ。

…あー、もう一度だけ説明しようか。
ボクはピーター・ポーカー。Poak!
みんなからは『スパイダーハム』と呼ばれている。
放射能のクモに噛まれてそれ以来、誰もが目を奪われる究極で完璧なスパイダーマンになった。…豚だけどね。

あとは知っているね?

マルチバースがどうとかで出てきた時空のゆがみに吸い込まれて、別世界に召喚され、その別世界のNew Genesisスパイダーマン・マイルス坊を育て、敵を倒してそれまた敵を倒して…
そして世界を救った。

 それで話はここからだ。
お役目を終え、元居たカートゥーンのおバカな世界に戻ったボクは大好物のホットドッグを食べていたんだ。
(あ、大丈夫。ソーセージはちゃんとヴィーガンの物用さ! 決して豚肉なんかじゃないよ!! …ウソ)
ケチャップとマスタードの配分はいつも2-8だ。とにかくカラシたっぷりスパイシーにするのがコツで、こうして食べるとこりゃ美味いように辛い。Fire!!!
とにかくそいつで腹ごしらえをしていた時、また現れたんだよ。──奴が…。
 サイケデリックな色合いでゴチャゴチャとした、あの時空のゆがみ。穴がね。
まあ、これも2回目ともなるので、「あーあ…。また厄介ごとに巻き込まれちまったなーめんどくさいなー」と割と落ち着きつつボクはそいつに吸い込まれていった…。

 それで、転送された先が「殺し合いをしてもらいます」ってワケ。
どうだい?前作と打って変わって一気にR18な有害指定世界観を舞台にされちゃったんだよ。もうーっ、ヤッレヤレ…!


 さて、ボクからの説明はここまでにしておこう。
バトンタッチ、以降は『彼女』の口から聞いてくれ、みんな。

…ってもうこれ以上説明することあんのかなー…………?
ちょっと喋りすぎちゃった感あるね、ボク。


「いやもう話すことなんかないしっ! 私もほとんど同じような感じで来させられたのよ! ここに!!」

「……あー、そら失敬」



 よいしょっと。まっいいワ!
ミナサン、コンニチワー!

 私、ペニー・パーカー。
私は3145年のニューヨークから!このBR<Final Wars>に来させられた経緯もこのブタと大体同じ。
それと、これまたブタと同じくあまりこの殺し合いに緊張感なんか感じなかった。
なにせ私たちは一度あのキングピンとの決闘──生死をかけた闘いの経験者だしね。
みせしめとしてカタツムリや少年が死んじゃった時は、メラメラとした怒りこそは沸いたけども恐怖や絶望は微塵もなかった。

 ただーーーーー……。
私の親友でありいわゆる『武器』でもあるロボット“SP//Dr”がこの場にいないのは、かーなり残念。
って!!そんな状態でどうやってバトれっていうのよ!主催者!!
私はクモを動力源にしてるSP//Drで戦うからスパイダーマンなわけで、それがいなかったら本当にただの一般人なんですけどっ!
…一応叱っておく…!

 …とりあえず、その問題は置いておくとして。
私にとってのバトルロワイヤル、初遭遇はこのスパイダーハムだった。
まったく頼りにできなさそうなコメディキャラだけども…、顔なじみに出会えただけ一安心した思いもある。


「ブラブラ歩いてたら急に頭がビビッ~!って来てさ。振り返ったら、ペニーがいたんだよねー」


 そそ。スパイダーマン同士が近距離にいたらビビビ~ッってくるアレで、コイツとご対面。
そんなブタさんと、私はしばらくは行動することになるんだけども、さてさてこのバトル・ロワイヤル──…どんな運命になるわけか…。
私も、当然ハムもこの信っじられないゲームにノリノリで乗る気はない。
ならば何をするのか、って?決まってるでしょ!生きて帰る、──そして、願わくば黒幕の打倒。
私たちは救いのヒーロー<Spider Man>に課せられた使命なんだから────…っ。

 ま、とりあえず。私としてはまずこの悪趣味な首輪の解析を始めたいかなー?
私、機械いじり好きだからもしかしたらワンチャン<One chance>外せるかもしれないし。
うーん、どこか工具かなんかないかな。外したい…いじってみたい欲求が抑えきれなくなってくるよ~~…。


「って、ちょっとペニー!! それ以上触らないほうがいいって! ボクなんだか嫌な予感がするよ!! あ~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!」


 …は?いきなりなによ!めっちゃうるさ…


BOMB!!!
ーYou Deadー

【ペニー・パーカー@スパイダーバース 死亡確認】
【残り80人】


「うわああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! なんてこったペニーが死んじゃった!! ボクの忠告も聞かずに首輪をごちゃごちゃ引っ張るから大爆発ーー! こんなくだらないことで死ぬような子じゃないのに……グスン……君の意志はボクが絶対受け継ぐからねーー! シクシク……君のお墓はボクが絶対作る…………お墓には毎年お花とボクが手作りのミートスパゲティを」


 うるさああーーーいっ!!!生きてるワッ!!
大嘘で紛らわしいことしないでっつーの!!!このトンチキおバカブタが!!


「…なんだよ、軽いドッキリみたいなもんじゃないか」


 …はいはい、OKOK。
茶番劇はここらへんにしといて、本題にそろそろ入るとしますか。

君に届けたい、この話。
今から語るのは私とブタがBR下にて出会った場所である『豪華客船』での出来事。
そんな大した話ではないけど、私たちとあの『絶望のスリーピングビューティー』との馴れ初めは、この船から始まった感じなのよ──。


☆    ☆    ☆


 舞台は閉園後の静かな遊園地。
子供の笑い声一つすら聞こえないこの真っ暗なゴーストタウンを眩く照らしていたのは、海上に浮かぶ“豪華”であった。
全てが”豪華”。これ以上の単語が見当たらない程、豪華でビッグでギンギラギンな客船。
今、私たちが歩き回ってる場所はその船の中ってワケ。
無数のスポットライトがガンガンに煌めくこの場所は、まるで軍隊アリの縄張りを這う巨大イモムシ。──目立ってしょうがない、長居は危険な船ってところね。
それでも、普段なら上級階級のみしか侵入を許されないってくらいの高級クルーズということもあり、このリッチさに身体が酔いしれて言うことが効かないのであったのだ。

「見てよ、主催者のやつバカ確定。操縦室取り外すの忘れてるぜ」

「バカはあんたでしょっ。首輪はめられてるんだから船使って逃げれる訳ないじゃん。(てか大体操縦できんの?)」

「あーそっかそっか! 首輪ばくだーんなんてついてるもんね~~! いやー厄介の極みだよ首輪で縛り付けるなんてサ。だいたい、ボクを縛るなら普通タコ糸使ってほしいよ! なにせ焼豚だからっ! HAHAHAHAHAHA~~~!!」

 ………………バカ。
あー、でももしハムが遺体になったら、見つけた誰かさんの胃袋に収まることは確実だろーなぁー……。
私は特に何も発することなく、ジト目で返事をした。ギロッ。

「……チョ、チョット! ノーリアクションで睨むだけとかやめてヨ!! 屈辱すぎるっ!!!」

 とにかく。
今私たちがいる部屋はハムのご紹介に預かった通り、操縦室。
真っ黒な大海原や遊園地を一望できる全面ガラス張りに、無数のボタンや時計(?)、舵が執り付いた操縦ルーム。
豪華客船の甲板エリアに所在する小屋型のこの場所もまた、室内灯で明るく照らされていた。
この部屋には適当にブラブラ船内を徘徊して辿り着いた末なので特に用といった用はない。
というわけで、ん、まぁ~暇がてらにこの重ったいバッグの荷物確認でもしよっかな。
(ついでにハムのもこっそり確認。ブタの方が支給品恵まれてたら私のと入れ替えちゃえっ。)

 …。
ふむふむ。
えーーーーーっと。まとめるとこんな感じかな。

 まず、武器、食料等を差し置いてその圧倒的存在──heavyさをアピールしていたのがこの『墓石』。
………うん、そう墓石っ。私のバッグがやたら重たかったのはこいつが理由だ。
長方形にきれいに整形されたこの墓石は、ジャパニーズホラーなおどろおどろしさを醸し出していた……。って、邪魔すぎるワっ!この支給品っ!!
ただ、こんな圧倒的お荷物の極みはスルーしておけば、それなりに恵まれた支給物の数々といえる、かも。
防弾チョッキに、缶詰と、コーラ。武器は古風なピストル。BANG!BANG!
 対して、ハムのバッグの中身は、なんというか…とにかくバラエティ豊富。
カメラに、木造りのピコピコハンマーに、マントに、ねずみ取りトラップ、食べかけのニンジン、パーティ用クラッカー、ホウキ、イチジクのタルト、カブトムシ、それに膨らませる前のゴム風船とゴム風船とゴム風船とゴム風船……あっ、このゴム風船なんか穴からソフトクリームみたいな白い液が垂れてて……………。
…一人暮らしの片付けられないの部屋のように、役に立たない物ばかりがわんさか出てきた。
ジト目、二回目。

 バッグの中身を戻し終えた私は、白い一枚の紙に目を通す。
五十音順に印字された名前の羅列──参戦者名簿の確認だ。(被害者リストともいえる。)
んーーーーーー、どれどれ………。

「って、あっ────! ねえハム、この前のピーター・パーカーにマイルスくんの名前が書いてるよ!」

「ふぁわあ~……? って、オイオイそれって、つまり二人ともFinal WARSにぶち込まれてるってコトじゃん? マルチバースのスパイダーマン大集結ってコトじゃんじゃん??」

「そうねー、…まぁ、こんな形で再会となるのは喜ばしくないんだろうけどもーー………、どうだろう? 元気にしてるのかな? 二人とも」

 ふと、二人の陽気でケラケラ笑ったあの顔が思い浮かんだ。
どうしよう?今からでも二人を探しに、船から出るべきかな…。

「まっ1つ言えることは心配は杞憂だろうネッ。なにせボクらレベルでもこうしてこのバトロワ下を呑気に過ごしてんだから、マイルス坊だって平静だろよ!」

 …これは、ハムにしては珍しく一理あるセリフかな。
ピーターはさておき、自分の大切な叔父さんに不幸があった直後というのに、キングピンとの決戦に駆けつけてくれたマイルスくん。
心身共に短期間で凄い成長した彼だ。放置playでいても恐れるに足らないでしょう。
私的に、彼らに再会したい気持ちは強い。が、ひとまずは船内の探索で余暇を潰しますか。

「あっ、一つジョーク思い付いた。なあペニー、ボクが好きなトランプゲームって何か分かるかい?」

「は? …………………………『ポーカー』…」

「ぷっ……! HAHA! HAHAHAHAHAHAHA~~~!!! だぁい正解!!! 仔豚がポーカー! HAHAHAHAHAHAHA!!!!!! おひょ!! あよよよ!! ぐひひ!!!」

 ジト目三回目。…このブタこんな奴だっけ?
はぁああぁあ~~~~~…………。
確かにあの決戦を共にしたスパイダーマンたちの今『現在』は知りたいけども、よりによってなんで真っ先に再会ささったのがハムなんだかっ!
ハムと一緒じゃ私までギャグキャラ扱いになっちゃうでしょっ。そんなの却下よっ!
……あっ。そういや、名簿にあの黒いおじさんの名前だけ書いてなかったなーっ…。なによ?その謎仲間外れは?
第一次世界大戦中のN.Yから来た“スパイダーマン・ノワール”さん──。今踏んでる影がこの人本人じゃないよねー…?違うか。

「ていうかさー、いい加減この部屋から離れね? こんな退屈でジョークのない部屋ボクあくび出ちまうよ、ほわぁあ、あああ~~~~……」

 ハムがわざとらしい素振りでアクビをしながら話してきた。
──その両手にはカードの束がペラペラペラーーーッとキられている。…自分のバッグの中に入ってたんだろなァーー…。

「Uh…うん、まあそりゃ出るけども。で、次はどの部屋行こうとするワケ??」

私がそう聞くと、ハムはこれまたわざとらしく胸を反らして話し出した。
言葉には出していないが「よくぞ聞いてくれました」と確実に示しているだろうそのジェスチャーである。

「はいはいはいはい~~っ!! ボクが次行きたいのはア・ソ・コ!(あ、+18な『アソコ』じゃないヨッ!!) レストランルームさ!」

「…絶対いないよ? シェフ」

「ノンノン、問題ナッシング・ナチス先生!! シェフがなくても食品はあるだろうサ! ちょうど、ボク! お腹減っててネーー、…そうそう、ミートローフにトンカツにミートスパゲッティなんか食べたかったりするんDA!」

「ミートの意味知ってる?────────って、あっ!! ちょっと!!!」

 POW!
ドッヒューーーーーーーーーーーーン!……………。

ハムは言いたい放題言い終えると、弾いた輪ゴムのように部屋の外へと飛び出ていっちゃった。
ダダダダダッ…………。甲板を踏み鳴らす音が徐々に小さくなってくる。

「………………………………………。」

 この操縦室ただ一人ほっぽり出された私はただ立ち尽くすのみ。
たちまち静かになるこの空間。緑の床に散らばるゴム風船とゴム風船とゴム風船とゴム風船etc…。
……う、うーーーーーーーーーーーーーーーっ…………!!
女の子一人残してすっ飛んでいくなっつーーーーの!!!!

「ちょっと待って!! 待ちなさいよーーっ! ヒヅメ馬鹿がー!!! もうーーっ!!!」

 豚がミート食おうとすなっ。
バッグを肩に掲げた私は、あのブタ野郎ほどではないにしろ、大慌ての猛スピードで扉を蹴っ飛ばし出た。
本当すばしっこい上に思い付きで行動するんだからっ!カートゥーンのキャラたちはっ!

 塩辛く、そして吹き付ける生温い海風を浴びながら、私は甲板を──、階段を──、木造りの床を走り続ける。
相も変わらず人の気配一つしないこの船内にて、声色を響かせるのは波と、それから遠くにて響くボォー……と汽笛のみ。
ほぼ黄金色に輝くこのタイタニックには似つかわしくない寂しさだ。

(って、なんで考えもしなかったんだろー……、船のどっかにもう一人『参戦者』がいるかもしれないワケだよね?)

 遭遇したらどうしよう、等と船内を駆けながら私は色々考えた。
ハァ、ハァ……、しんどっ、広すぎっ……。足を中心に疲労が伸し掛かってくる。
今、私の脳内シアターでは、ちょっと数時間前、クルーズ一階で見たあの『艦内図』が投影されていた。
ハムがすっ飛ぶ先である食事ルーム。あれは確か──、

──二階はスタバにIKEAにカジノルーム、そして『レストラン』とシアタールームとショッピングモールねえー…。ペニー、提案なんだがバトロワ終わったらこの船さ、戦利品で盗まなぁい??

 二階のど真ん中なんだよねっ────。息が切れるぅ……っ。
私は床をとにかく駆け続けた。左を見れば絶海、右を振り向けば立ち並ぶドアの数々…。
あのブタッ、見つけたらまずロープで縛りあげてやるんだからぁ~!

「…って────────────────いたし………」

 やっと………いや、割とあっさり見つけた…。
曲がり角でブレーキをかけた時、あの真っ赤なブタの姿が私の目に入った。
ハムの様子と言ったら何があったのだか、ボーー―っと立ち尽くしていたのだけども。とにかく追いつけて良かったって感じだよ。
私は腰を下ろして、アイツの小さな肩に手を当てた。

「ちょっとーーー! もう、疲れたんだからぁー……! あんまウロチョロしな…────」

「(シーーーーーーーーッ!! 喋るなっ!! ペニー! ヤバい…っ、まずいんだよ~~っ…………!)」

 ふがっ!!
口をハムの手で塞がれ、同時に後ろへ引き戻された。ちょ、ちょっとナニッ?!
──いや本当に何…っ?私を抑えるハムのその手は震え続けていて、しかも顔はマスク越しでも分かるくらい青ざめている様子だった。
まるで…、なにか恐ろしい物を見た、かのように……………。
……。
ここで思い出されるのがさっきの私のふとした考え。『船のどっかにもう一人『参戦者』がいるかもしれない』、だ。

「(フガッ…曲がり角の先に、だ、誰かいるって…いうのっ……………?!)」

 沸き立つ好奇心。──これが危険な好奇心となるか否か。
私が強引に力づくで、曲がり角まで近づくと顔を少しばかりのぞかせる。

「(ちょちょちょチョ~~~~~~! だからまずいんだよペニーーー…!!!)」

 ブタは小声(というか、ただ掠れさせただけの大声)で私を制止するがそんなの関係ない。
曲がり角の先をじっと、凝視した。
さっきまで私が走っていた所同様、扉が──恐らく宿泊室が並ぶバルコニーのような長い長い廊下…。
手すり側にて、ふとポツン、緑の小さなベンチが設置されており、この質朴な廊下にて存在感を示していたのだけども、

 そのベンチに、『彼女』が仰向けで現存していた。
ベンチから垂れ下がれる亜麻色の黒いロング髪。まるで、マネキン人形のように微動だにせず目を閉じ続ける、彼女。

「………………………これって」

Final Wars──殺し合い。
先程までのハムの慌てぶりも踏まえて、嫌な予感がよぎってくる。
黒い制服を身に纏う彼女は、グッタリとした様子で両手を垂れ下げていた。

「……………だから言ったろ? ペニー………………………見るなって……………」

思わず息を飲まされる。
と、同時に震えあがる自分の心臓。──気づいたら口を自分の手で抑えていた。
ウソ、ウソ…でしょ………。ゆ、許せない………。

「…………コッソリだよ? コッソリこの場から立ち去ろう…………さ、早くペニー…」

ハムが諭す意図も察せる。
あの、名前も知らない彼女をこうも簡単に殺せてしまう『第三者』が、近くにいることを危惧してるのね…。
それは分かる。
分かるんだけれども…。

「…おかしいよ、……こんなに簡単に、虫を殺す等に人殺しなんてできるっていうのっ…」

 私は普段からスパイダーマンとして、ヴィラン達に襲われるたくさんの市民を救ってきた。
そう、『救った』のよ。誰一人とて、犠牲者は出さずに。
だからこそ、この目の前の惨状がとてつもなく悲しくて……、それでとてつもない怒りが湧いてくるっ。
まるで眠るようにベンチで横たわる彼女。
こうも簡単に人間は死んでしまうのか疑問に思うくらいだ。目立った致命傷は一つもない、彼女の亡骸は本当に寝ている様。
その瞼は二度と開かれないのだろう…。口を半開きにするその表情は”スリーピングビューティー”だ。
何も知らない人にはただグッスリなだけに見えるはず。
それくらい、あの私と同じ年くらいの彼女は、仰向けに天を向いて、スースーーー…と鼻から寝息を漏らし、そして、しばらく眺めてる内に寝返りを打って………

「スースー………誠、くん…………んん……………Zzzzzz」

 いや、本当に寝てるだけじゃんっ!!!
思いっきり生きてんじゃんかっ!!!
なに私勝手に悪い勘違いしてんだーーっ!!恥ずかしい~っ!

って……………

「何が『まずい』よっーー! 『見るな』よっーー!! 全然死んでないじゃないの、このオバカブターーーッ!!!!」

「ちょ!!! ちょちょ! ペニー、シーーーーーーーーーーッ……………ってーーー!!!!」

「この殺し合いの緊迫した場面ではジョークにならないのよーーー!! あんたのそういうジョークはねっ、時と事情によるでしょーっ!! 時と!!!! 事情に!!!!」

「…へ? ジョーク?? あぁ、この『シーーーーーーーーッ』、って別に海があるからSeaって言ってるわけではないん…」

「よるでしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!」


 「ひゃ~~~~~~!」…などと情けない悲鳴が響く。
これはオバカのミミガーに思いっきりツッコミを叫んだが故だ。…ふざけるなっていうの!
ジト目四回目。私の声のボリュームで全身をゾワゾワゾワーーッとさせるブタにはちょっと面白みを感じたが、ただただ、悪趣味な冗談に呆れるばかりだ………。
はぁーーー……。

「ま、ままま、待て待てペニー!!! そんなに声を荒げたらあ、あの女が起きちゃうだろうが~~~~~っ!!!」

「………………はぁっ??!」

 …意味不明っ。
ハムは人差し指を口元に思いっきり近づけながらそんな、変なことをほざきはじめた。
ジト目五…

「あーっ………! はいはいなるほどなるほどねーーっ!! ボクが見るな関わるなと指したのは『あの寝てる病み女』のことだったんだヨっ!! なんというか解釈の違いが生じちゃったね~……っ!」

 なあっー!このブタ!私のジト目カウントを遮るなっーー!
……って、こ、このブタは何を…喋っているの…………?
解釈の違い………、寝てる病み女って……。

「Zzzzzz…うーん、スースーーー………」

あの呑気に寝息たててる彼女が危険だっていうワケ…?!
外見はかなり美形の普通の女生徒。時折口から漏れる「むにゃむにゃ」は小悪魔的な愛おしさを感じる。
そんな女の子が『病み女』?『かかわる』なって…??!

「いーやイヤイヤイヤイヤ! ペニーの言いたいことも分かる。だが、ナリで判断しちゃダメだっ!! そうだ、確かにボクはカートゥーンの主人公を務めるオバカなブタさ! だけども! バカを演じてるだけで本当に頭が悪いワケではないんだぞっ!!」

 ハムの口から発せられるマシンガンの連発は、アイツの心の焦りっぷりを表してるかのようだった。
いつもひょうきんでジョークを飛ばし続ける愉快なスパイダーハムの姿しか見たことが無かったから、その本心からの慌てふためきはかなり新鮮に見える。
──その尋常じゃない様子がアイツの主張になんとなく正当性というスパイスを作っていた。
汗ダッラダラなアイツは最後、一言結論を締める。

「そんなボクが勘ではっきりと判ったんだよ……っ! あの女には触れるな…、あいつはヤバすぎるって、ネ…!!」

と…。
………………。一瞬、確実に、波の音すら聞こえぬ静寂の間ができた。一瞬だけども。
……うーーーーーーーーーーーん……………。

「いや、やっぱ無いわよ! とりあえず起こしに行くからっ、私!」

「な、ナナナナななナ! なんでさーーーー!! ボ、ボクの言うこと一ミリも聞こえなかったというのかいペニーー!」

「まず、第一にバカの勘に信憑性はないってことっ! 第二にブタの主張は通らないってワケっ! 裁判所で豚に主張権利は、あっりっまっせーーん!!」

「Oh!! ひひょえーーーーっ!!!! ど、どどどど、ど、どうしてそんなにわからずやなのサーー!! なあ信じてくれよペニー!! 本当に危険が危ないんだっ!!!」

 ~~~~~~っ!あーーーーーーーー、鬱陶しいワっ!
埒が明かない口論……。ハムは本当に必死の形相で、私の右足を抑えて離そうとしなかった。
確かにハムの様子はおかしいし、寝ている彼女が殺人鬼じゃない保証はないんだけれども。
だからって、あんな無防備な女の子を放置しろってヒーローとしておかしいでしょうがーっ!…というかブタの言うことを信じる方がヤバいわよっ!
うぅーーっ……!!! 右足が重い~~~~っ!
グイグイと続けられる私とハムの睨み合い…(厳密には私が眉毛の垂れ下がる表情のブタに一方的に視線攻撃をしてるだけだけども…………)は終わりを見せない……。

もうっ!このブタほんとうに邪魔っ………!
ピコピコハンマーで気絶☆させようかなってくらいねっ。
本当、誰か引きはがしに手伝ってくれないものかし………………………。


「こんばんわ。お早うございます。お二人とも」


冷や水を、頭上から一滴垂らされたような。
そう、『戦慄』。
唐突に発せられた第三者のその掛け声に、私もハムも黙らされてしまった。


「わたし、桂言葉と言います。あはは、お二人とも仲が良いようですね。まるで、私と誠くんのように…………」


冷たい声が背後から響き、一文字一文字発せられるたびにゾっとさせられる。
その、彼女の吐く『言葉』には特別恐怖をあおるような表現はない。
すなわち、彼女の持つ『恐ろしさ』『機械のような冷徹さ』に、本能的な背筋の凍り付きをさせられるのだ…。

「アハ、アハハハ………。ど、どうも。か、桂……サン……………」

「お、おはよう……っ! そ、そしてこんにちわ、こんばんわ、おやすみーーーっ…………………!」


☆    ☆    ☆


 今度はわたしの番のようですね。
もう一度、説明をしましょうか。
わたしの名前は桂言葉。榊野学園高等学校に通う一年生です。

あとは、もう、分かりますよね。

 あの晩、愛しの誠くんを持ちやすいサイズにカットしたわたしは、西園寺さんを屋上に呼びつけました。
あれはとても寒い冬空です。雪の冷気といったら、分厚いコートと赤いマフラーで全身を包む私でも身震いするほどでした。
どことなく、心の奥底も冷えてく感触でした、ね。

 よく男性の方は「探求心とは男のみにある」とおっしゃられますが、あの時のわたしは探求心、好奇心、知識欲に駆られていました。
えぇ。
知りたかったんです。
前々から西園寺さんは「ワタシハ妊娠シテイルノヨー、誠ノ赤チャンガーー」とまるで鼻にかけたように詭弁垂らしていた方でしたので。
本当にあのややポッコリしたお腹に子供がいるのか確かめたかったのですよ。

 え?
違いますっ。
殺意…なんかじゃありませんっ!西園寺さんはオトモダチ ナノデスカラ、殺したいなんて思いませんよ。
ただ本当に気になって…。女友達がお昼のお弁当に何を持ってきたかみなさんも知りたくなるでしょう?それと同じと思って頂きたいです。

 それで、ノコギリで西園寺さんのお腹とお首を掻っ捌いたらまぁなんだか、途方に暮れちゃって…。
逃げるように、というんでしょうか。
西園寺さんは血を出してなんかしてましたが、私は誠くんが入ったバッグ片手に、デートスポットのヨットへ向かったんです。
そして、バッグから誠くんのかわいい顔を出して抱きしめながら眠りにつきました。
あの時は、シアワセでした。ほんとに、天使が愛撫でしてくれたような感覚です。
この世の終焉のようなモノクロさを感じると同時に、誠くんとわたしで紡ぎ出す…ふふっ、愛のピンクで色づける。そんな気分になったんです………。


「…それで、気が付いたらファイナルウォーズという訳です。お願いします、ハムさん、ペニーさん。わたしと一緒に誠くんと西園寺さんを見つけてください。いいです、よね…?」


「………ハハ……アハハハ………!」

「う、うん……………? ど、どうぞご自由に………?」

 …アハハッ!!
『ご自由に』…ってハムさん!
わたしに協力してくれるんですか…!それはまた、嬉しい限りです…っ!
誠くんとわたしの、再会を、手伝ってくれると。そうおっしゃるんですねっ……!

「(ヒソヒソヒソ……ちょ、ちょっとハム……っ!! こ、このオンナノヒトさっきから目が死んでて怖いんですケドーーーー…!!)」

「(ボ、ボボ、ボクは知らないもんね~………っ! 身から出た錆っ…!! はいイチ抜けたーーーっと………!」

「(はぁ?! …ちょ、ちょっとやめてよ!! 私一人に負担掛けないでって!!)」


…?

「お二人とも、何を話されてるんですか? 人前でヒソヒソ話って、お言葉ですがだいぶ失礼では…?」


「ヒッ!!! …いえ、なんでも………。す、すみません言葉様…」

「お言葉ですが~、ね………。コトノハだけに……?HAHA……………、生きててすみません…………」


 アハハハッ。
お二人は本当に可愛らしいです。
どうやら、頼りになりそうなオトモダチができたようです、私。アハハハハ………。
そう思いますよね? 誠、くん……っ?


【D8/豪華客船nice boat/1日目/黎明】
【スパイダーハム@スパイダーマン:スパイダーバース】
[状態]:健康
[装備]:ハンマー@スパイダーバース(スパイダーハム)
[道具]:なんでもかんでもゴチャゴチャ
[思考]基本:対主催
1:これでおしまいっ!
2:ヤバい奴に絡まれた
3:ペニーと同行。マイルス達はNo problem!

【ペニー・パーカー@スパイダーマン:スパイダーバース】
[状態]:健康
[装備]:炎刀・銃@刀語
[道具]:防弾チョッキ、食料一式(ドクペ、ナナチごはん)
[思考]基本:対主催
1:ヤバい奴に絡まれた……!
2:自分の見る目のなさに反省……。
3:ハムと同行。ただし、鬱陶しい
4:言葉様と同行(させられている)

【桂言葉@School Days】
[状態]:精神異常
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:伊藤誠西園寺世界を探す
1:オトモダチ ガ デキマシタ!ハム、ペニーと同行
2:しあわせ HAPPY!!

※三者共に参戦時期は本篇終了後です
※墓石@墓場鬼太郎は操縦室で放置されています

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015:ミオリネが死ぬ雰囲気 017:水星エスカー
ペニー
スパイダーハム
桂言葉

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最終更新:2024年01月09日 22:57