#freeze

有栖川有栖

contents

#contentsx

書籍情報

plugin_html is not found. please feed back @wiki.

著者 : 有栖川有栖 発行元 : 講談社 新書版発行 : 1996.5 文庫版発行 : 1999.5

エラリー・クイーンのひそみに倣った「国名シリーズ」第三作品集。

収録作品

  1. ブラジル蝶の謎
  2. 妄想日記
  3. 彼女か彼か
  4. 人喰いの滝
  5. 蝶々がはばたく

あらすじ

文庫版裏表紙より引用


美しい異国の蝶が天井を埋めた部屋で殺害されていた男。何のために蝶の標本が天井に移されたのか。鮮烈なイメージの表題作ほか、小指ほどの小さな鍵の本当の用途が秘書殺しの謎を解く『鍵』など、おなじみ有栖川・火村コンビの名推理が冴えわたる傑作ミステリー全六篇。読者待望の「国名シリーズ」第三弾。


引用終わり

1. ブラジル蝶の謎 実業家の兄が死亡して、その屋敷に戻ってきたのは、長い間孤島で暮らしていた弟だった。が、その弟は戻ってきたその晩に殺されてしまう。 殺されていた部屋の天井は、兄が収集していた異国の蝶で埋め尽くされていた。

2. 妄想日記 ある夜。 その邸宅の庭で炎に包まれて死亡したのは、主人の義理の息子、美彦だった。 自らの運転ミスで子どもを亡くし、更に妻に自殺され、ノイローゼにかかっていた美彦が残したのは、意味不明の文字で埋められた日誌と自殺をほのめかすFAXだった。 この日誌の意味は? 美彦は自殺したのか? あるいは……。

3. 彼女か彼か 殺されたのは、オカマバーに勤める青年。 ただの女装のみで、波の女性以上の美貌を誇っていた彼は、交通事故で亡くなった父親に支払われる補償金や保険金などで大金をつかもうとしていたが……。 突如現れた異母兄弟、金欠の従姉、そしてある「男」を巡って争っていた女性。 犯人は誰?

4. 鍵 ある会社社長の別荘で秘書が殺された。 社長が留守であった別荘には社長の妻と姉が滞在中。 そして現場に残されていた一つの鍵。 この鍵の謎とは?

5. 人喰いの滝 一旦人を飲み込むと決してはき出すことのない「人喰いの滝」 滝につながる川岸の岩場で発見された老人。 彼の家から転落地点まで雪の上にまっすぐ残る老人の長靴の跡。 現地に来ていた映画撮影の一行が、以前この地を訪れた時には、クルーの一員が滝に呑まれて死亡している。 過去と現在の事件のつながりと、雪密室の謎を解く。

6.蝶々がはばたく アリスは一緒に旅に出るはずだった火村助教授とは落ち合えず、代わりに出会ったのが、35年前に失踪した男女を偶然見つけた男性だった。 35年前に海沿いの宿屋から、足跡も無く、いなくなってしまった男女の謎に有栖が挑む。

書評

いわゆる作家アリスシリーズの「国名シリーズ」です。 今回も、正統派の謎解き、ダイイングメッセージもの、(広義の)密室ものなど、バリエーションに富んだ構成で、楽しめます。また、有栖川先生らしく、印象に残る舞台設定のものが多く用意されていますし、謎解きがその舞台設定を活かしているのが好印象です。

1.ブラジル蝶の謎 表題作です。犯行現場の部屋の天井に異国の蝶の標本が一面に飾り付けられているという、異様な状況を中心に話は展開します。しかしコンパクトながら謎解きは、きちんとロジカルな過程を踏んで行われ、その辺はさすがと思わせます。ただの雰囲気を盛り上げるための設定と思われるものも謎解きに深く絡んでくるあたりも素晴らしいです。

2.妄想日記 家の庭で焼死するという設定と、その被害者が重度の鬱病であったという設定。 ここに、彼が残した意味不明の文字で綴られた日記が絡んできます。雰囲気は抜群です。こちらも細かい状況証拠から火村先生が推理を組み上げてゆきますが、どちらかというと鉄壁のものというよりも、推論的な推理が続きます。 が、それは最後の1点の指摘を効果的にする効果を生んでいました。 この辺に物語の波をうまく作る有栖川先生のセンスが顕れています。

3.彼女か彼か 殺されたのは美人なオカマ。 ちょっと実際にはどうかな? と思いつつ、ワンポイント印象的な手がかりが用意されています。

4.鍵 会社社長の別荘に集まる秘書、社長の姉と妻。更にお隣には知り合いの女社長の別荘があり、そこには社長夫妻の他に、息子とそのフィアンセがいて犯行当夜は両家の者が一堂に会してパーティが行われていた……。と、本格ミステリの舞台としてまさしくうってつけなのに。 よくこんなネタにつなげたな、というのが正直なところです。 参りました。 普通ならこれだけの本格的な舞台を、こんなネタに使うのは気が引ける……と思うのですが。さすがですねぇ。

5.人喰いの滝 現場図なども出てくる、典型的な雪密室です。 この短編集の中でも、一番ストレートな謎解きものっぽい雰囲気がありましたので、ワクワクしながら読んだのですが、正直トリックはあまりいただけませんでした。その状況を想像するだけでもかなり笑えてしまうのですが、準備段階を考えてもちょっとねぇ。 有栖川先生の短編には、あえて非現実的なアクロバチックなものも意外と多く、それ自体は面白くて好きなのですが、これに関しては、ストレートな謎解きっぽい雰囲気が最後の方まで続いていたので、ちょっと肩透かしな感じでした。

6.蝶々がはばたく 35年前の事件を、その話だけを頼りに謎解きをする、いわゆる安楽椅子探偵スタイルの物語です。しかも、今回はアリスが頑張っているので面白いです。もちろん、最後はやっぱり火村先生なんですけどね。 あえて詳しく書きませんが、これも有栖川先生の作品にはたまにある、余韻重視の作品でした。この辺の文章センスがわたしは好きです。

総評としては、有栖川先生の特徴がよく出ている作品集だと感じました。 ロジカルな謎解き、しかし読者を退屈させない印象的な謎、手がかり。もちろんアリスと火村先生の掛け合いも健在です。 気軽にすっと読めてしまうのは毎度のことですが、今回は、各話の印象的な謎に埋もれがちになっていますが、その裏には綺麗な謎解きがしっかり存在していますので、じっくり読まれることをお勧めします。

感想・書評投稿

ぜひ、この書評に対するあなたのコメントをお願いいたします! こちらからどうぞ

あなたもこの本についての書評を書いてみませんか? 短いものでもけっこうです。 こちらからどうぞ

最終更新:2008年11月28日 19:13