著者 : 田中啓文 発行元 : 東京創元社 単行本発行 : 2005.11 文庫版発行 : 2008.7
田中啓文先生の数少ない本格ミステリ短編集。 テナーサックス奏者「永見緋太郎」が活躍する日常の謎系の連作短編集です。「ミステリーズ!」誌上に引き続きシリーズ連載されているということですので、続編も期待できそうです。 表題作「落下する緑」はデビュー前「鮎川哲也の本格推理」に入選した作品。
掲載作品
以下、文庫版裏表紙より転載
唐島英治クインテットのメンバー、永見緋太郎は天才肌のテナーサックス奏者。音楽以外の物事にはあまり興味を持たない永見だが、ひとたび事件や謎に遭遇すると、楽器を奏でるように軽やかに解決してみせる。 逆さまに展示された絵画の謎、師から弟子へ連綿と受け継がれたクラリネットの秘密など、永見が披露する名推理の数々。 鮎川哲也も絶賛した表題作にはじまる、日常の謎連作集。
ジャズが聴きたくなります。絶対!
田中先生自身がテナーサックス奏者であることもあり、とにかく演奏シーンの描写には圧倒的な迫力があります。わたし自身はジャズ系統には全くもって疎いのですが、なんだかいっぱしのジャズリスナーになったかのような錯覚さえ覚えました。 これは、やってる人にしか書けない臨場感だな、と思います。 そして、その演奏シーンの迫力がそのまま物語全体に染み渡っている感じで、わたしにしては珍しく、ミステリを読んでいると言うよりも、ライブを見ているような高揚感を楽しむような読み方でした。
ミステリとしては、いわゆる日常の謎系の連作短編集ですが、なにせ探偵役の永見緋太郎が音楽のこと以外には興味を持たない性格なもので、事件も音楽がらみか、せいぜい他の芸術がらみとなります。このこともこの作品の雰囲気を統一的なものにしている原因でしょう。 謎の構成としては決して凝ったものではなく、難易度もそれほど高くはないでしょう。それでもシチュエーションの面白さで読者にとっては新鮮に見えてしまうから不思議です。「日常の謎」系とは言っても、永見緋太郎の日常と、その感性自体が我々一般人にとってはある意味非日常であり、しかもそれが冒頭に書いた通りの臨場感をもって描かれているため、未知の世界を見ているように感じるのでしょうか?
基本的に文句なく続編が読みたい良作です。
蛇足ながら……。 「基本的に」と書いたのには理由が……。
{以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を };
なんというか、一冊の本の中で同じトリック使ってはイカンのではなかろうか? しかもまずいことに、両作品共に細かいところは別にしても、そのトリックかも……というのは比較的容易に推測できるため、ガッカリ感が大きく、そのために全体のミステリとしての質が低いような錯覚を起こしてしまいます。(難易度が低いことにガッカリするのではなく、難易度の低い同じトリックが複数出てくることで、何となく作品自体の水準が低いものと錯覚してガッカリしてしまうのです)
両作品共に、難易度は低くても良作だと思うので、せめて別の本に掲載していただきたかったところです。
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