詩歌藩国 @ wiki

背中でバカンス

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rilyuuguu

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はじめに


水竜は当初、非武装の輸送船として生まれるはずだった。
それが理想でしかないことはわかっていたが、それでも開発が決まって最初に出てきたのは、そんなユメのような話だった。
そも、戦うために生まれてくる生命など、あっていいはずがない。
すべての戦いが終わった後、水竜の武装は解かれ、平和な世に放たれることが予定されている。
これから語られるお話は、その予定を一足先に実現させたもの、もしくはその予行練習のようなものだと思っていただければ幸いである。


L:背中でバカンス = {
 t:名称 = 背中でバカンス(イベント)
 t:要点 = ロッキングチェア,バカンス,水竜の背中
 t:周辺環境 = 海の上
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *背中でバカンスのイベントカテゴリ = 世界イベントとして扱う。
  *背中でバカンスのイベントの位置づけ = 自動イベントとして扱う。
  *背中でバカンスの効果 = 国民は善政を祝う。
 }
 t:→次のアイドレス = 善政(イベント),高位吟遊詩人(職業), 魔法戦士(職業),ドラゴンライダー(職業)



その日、詩歌藩国に大量のビラがばらまかれた。
一枚拾って見てみれば、まず目に飛び込んでくるのは一組の男女が水着でくつろぐ様子。そんな写真。
男性は【ロッキングチェア】であおむけになり、白い歯を輝かせながら、やたらと嬉しそうにサムズアップしている。
女性のほうはうつぶせで、チェリーの浮かぶジュースを片手に微笑んでいる。
背景は海のようだが、なぜか地面は黒っぽい。黒砂とはまた珍しい浜辺があったものだ。

観光業者の宣伝だろうか、と思ってよくよく見れば発行主には「詩歌藩国海軍 沿岸警備隊」とある。
煽り文句を読めばそこには「水竜ソットヴォーチェの背中で楽しいひとときを過ごしませんか?」と書かれていた。
砂浜ではなく、【水竜の背中】でとられた写真なのだった。

それが、人と竜との交流会。その先駆けだった。


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極寒の地として知られた詩歌藩国だったが、現在は火山活動の影響から気温が大きく上昇している。
もとは北国であるゆえ暑さに慣れていない国民は、だれた。
それまで見向きもされなかったカキ氷は大ヒットした。

中でも最近になって流行しだしたのは水竜ソットヴォーチェの住む海辺だった。
海辺で涼をとりながらクジラ(正確には竜だが)とたわむれることができるとあって、家族連れやカップルが多く訪れる観光名所となっていた。
特に生まれたばかりのミニソットなどはやたらかわいいと評判で、それを目当てでやってくる者も多かった。
国民の中にはドラゴンシンパシーの持つ能力によって水竜と交信できる者もおり、それも流行の理由のひとつのようだ。

ソットヴォーチェとたわむれる様子の生活ゲーム
http://www28.atwiki.jp/komachi/pages/172.html

この様子をみて藩国首脳部は決断。暑さ対策の一環としてある計画を立ち上げる。
その名も水竜と一緒に夏を満喫しようゼ計画、通称『プロジェクト ラブ&ソット』である。

イベントの内容はこうだ。
夏のもっとも暑い時期である6~9月一杯を期間としてもうけ、十数頭の水竜が毎日、背中に国民を乗せて海へ出る。
水竜は一日中貸し出しとなるが、すべての水竜が外海に出ているわけではないため、海辺の観光名所はそれまで通りに国民の憩いの場となる予定となっている(最初は10頭しかいなかった水竜だが、現在では自己複製によってその数を増やしている)
そうして朝から夕方、日が暮れるまでたっぷり夏の海と水竜を満喫してもらう、というわけだ。
ちなみに行き先としては政府指定の無人島のほか、水竜おまかせコースというものもある。
ソットヴォーチェの遊泳に付き合ってひたすら海を突き進むというもので、船に乗る場合ともまた違い、のんびりとした泳ぎから、時間がゆっくり流れる感じがすると評判が高い。

計画当初は、竜への畏怖や軍隊のいかついイメージから応募数は少ないだろうと予測されていた。
しかし蓋を開けてみれば、宣伝効果かもともとの水竜人気の高さゆえか、数千通もの応募があった。
この結果をかんがみて政府は計画の延長を決定。
かくして水竜の背中で【バカンス】計画は毎年の恒例行事となった。
現在では、3~5日間の予定で他国まで足を伸ばせるようにする、という話や、暑さ問題が解決した後も楽しめるようにと砕氷船を使ったホエールウォッチングならぬドラゴンウォッチングまで計画されている。

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いつかは人も竜も武器を捨て、ともに手をとりあえる世界が来ることを願い、この計画は立てられた。
願わくばこの行いが、理想へ近づくための一歩とならんことを。


キャプテンタルクのバカンス


『拝啓
 早いもので私が詩歌藩国に来てもうすぐ1年が経とうとしております。そちらはいかがお過ごしでしょうか。こちらはこの国の人々のご厚意にも助けられ、何とか平穏無事に過ごすことが出来ています。
 こちらの国では最近音楽院が創設されました。詩歌の名を冠するだけあって、そのレベルの高さには目を見張らされます。何より、この国の人々は皆心から音楽を愛しています。だから、この国の音楽はいつも人々の笑顔と共に在る。その対象が何であれ、心から愛することのできる何かがあるという事は、それ自体が何よりも得難い財産であると思うのです。
 さて、この国には、この国を象徴する存在として音楽と共に挙げられるものがいくつかあります。そしてその中の一つに水竜があることは既にご存知かと思います。実は先日は、……』

「…………あづい。」

一言つぶやいてパタリと机に突っ伏すタルク。

「……おお、机がひんやりして気持ちいい……。」

ここで一人机に突っ伏してうめいている男は、名をタルクという。彼は満天星国の出身であり、今はこの詩歌藩国に留学している。アイドレスの種類で表現するならばいわゆる北国人であった。そして、たいていの北国人がそうであるように、彼もまた、暑さには不慣れだったのである。

「おかしい……。雪と氷に覆われた白銀の国と聞いて来たのに」

自室で一人誰にともなくごちるが、当然返事をする者などいない。

「うう……。うちの国より寒いっていうから防寒具たくさん持ってきたのにー……。」

その視線の先、部屋の隅には封がされたままの段ボール箱が積まれていた。このままいけば開けずに国に送り返すことになりそうだ。周囲の人々から聞いた話によればこの暑さは、現在調査中ではあるものの、どうやら地熱の影響によるものらしい、ということだった。そんな訳で、彼は部屋着のつもりで持ってきた数枚のTシャツをヘビーローテーションで着続ける日々を送っていたのである。

「とはいえ、さすがに限界だわな……。今度服を買いに行こう……。ついでにかき氷も試しに食べてみようかな……。また海に行きたい……」

氷を食べようだなんて最初に考えた人はすごいねえ……、などと、窓の外にゆらゆらと立ち上る陽炎をぼんやり眺めつつ机にぐでー、と突っ伏したままのタルク。しかし、しばらくするとどうやら机が生ぬるくなってきたらしい。のそのそと起き上がり、手紙の続きを書き始めた。

 “……実は先日は、…………”

――場面は、その先日に戻る。

「うおお……」

 タルクは目の前の光景に圧倒されていた。うだるような熱気の中、眼前には黒山ならぬ白山の人だかり。遠くに視線を向ければ、どこまでも青く広がる海と地平線の果てまで見透かせそうなライトブルーの空。そして、日光を反射して白く輝く砂浜とコントラストを成すかのように海岸にはいくつものの黒い巨体が浮かんでいた。時折光を鈍く反射して輝くなめらかなボディはまさに黒鯨と呼ぶにふさわしい生物的なフォルムを持っており……そう、それこそがソットヴォーチェと呼ばれる水竜達であった。

 元々、この国では、竜と人との過去の遺恨を乗り越え、人と竜が互いを友として生きていけるよう交流の場を設ける予定であったという。しかし、最近の気温上昇によって涼を求めて海を訪れる人々が急増した結果、自然発生的にこの状況が生み出されたようなのである。

 「まあ、仲が良いのはいいことだよね、うん」

 一人頷くとのんびり海岸に向かって歩き出した。

 だが、手放しで喜んでいられる状況ではないのもまた事実である。そもそものこの状況を生み出した原因である気温の上昇、その原因として有力視される火山活動の活発化が今後さらに厳しい状態に至る可能性が指摘されている。

 「おお、やっぱり間近で見るとすごいな……」

 海岸に近付くとその大きさがますます強調される。遠くから眺めている間は気付かなかったが、時折ソットヴォーチェ達の鳴き声が聞こえたり、ライトの点滅が見える。

 不幸中の幸いというべきか、何らかの火山活動が近く発生するらしい事が事前に明らかになっており、すでに対策を取ることが出来ているそうだ。そして、それは何も人だけに限った話ではなく、水竜達も既に動き出していたのである。

 数機の水竜達は波の穏やかな湾内で人々を乗せてゆっくり泳ぎまわっていた。中には水竜の背中にロッキングチェアを乗せていたり、パラソルを設置したりしている人もいる。一見するとただのバカンスである。実際バカンスには違いないのだが、実は避難訓練も兼ねているらしいのである。そのあたり、ドラゴンシンパシーと呼ばれる竜と会話できる力を持った人々が竜と人の間に立ってうまく仲介してくれているらしかった。

 避難訓練という視点に立ってみるとこのバカンスの風景も実は理にかなっていると思えてくるのが面白い。ロッキングチェアはけが人を安静にしたり、応急処置を行うのに便利そうだし、日差しをさえぎる物が無い海上で長時間過ごしたり、あるいは火山の噴火に伴って火山灰等が降り注ぐ可能性を考えると、体力の消耗を防ぐために日陰を作れるパラソルは役立ちそうである。

 「それにしても……お、あれは」

周囲をざっと見渡す。ふと、海岸の一箇所だけ妙に人だかりが出来ているのに気が付いた。何と言うか、明らかに盛り上がっている。黄色い歓声が上がりまくっていた。そっと近づいてみる。

「おお……いいなあー」

人だかりの中心でぷかぷかと水に浮いていたのはミニチュアサイズのソットヴォーチェであった。全長2メートルも無い位であろうか、キュイキュイと鳴き声をあげたり、むなびれを小さく振ってみせるたびに周囲の女の子達と小さい子供達が楽しそうに歓声をあげていた。あいにく自分には竜の言葉は分からなかったけれど、その鳴き声や動作は穏やかなものだったと思う。

 ヒトは、ヒト以外の存在とも絆を結べる。そんなありふれた何でも無い事実を噛みしめながら、しばらくその光景を眺めていた。

 「……よし!今日は楽しもう!」

 きびすを返し、誰にともなく呟くと大きな水竜へと歩いてゆく。そう、避難訓練云々はこの際ただのきっかけでもよかったのだ。一番大事な事は、人と竜がこの国で共に生きる友であるとお互いが実感することだったのである。


……この後、水竜の上で子供達とはしゃぎまくった挙句、浮上した潜水艦でおなじみの大突き落とし大会へと発展したりしなかったりするのであるが、それはまた別の話である。




文:鈴藤 瑞樹、タルク
絵:花陵
編集:鈴藤 瑞樹






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