傀 コヨミモノ 物 ガタリ 語(上) かんにんぐ編 ◆xR8DbSLW.w
<<000>>
正論は容赦なく君を砕く。
正義は分目なく僕を砕く。
<<001>>
さて、阿良々木君は死んだみたいよ。
心が苦しいわね。
心が悲しいわね。
まぁ、今は悲しんでいても仕方ないものね。
話をお先に進めましょう。
それにしても吸血鬼って案外脆いのね。
いつ死んだかは知らないけれど、死んだのには代わりない訳で。
一応私の知っている阿良々木君は腸が千切れたところで普通に生活していたのにね。
今ではあの自由気ままに動いていたアホ毛も懐かしいわ。
「……………阿久根………せんぱ、い?」
あぁ、ここに一人の男の子が何やらほざいているわ。
阿久根高貴。
私を開幕早々襲ったあの人の名前だったはず。
―――私を襲った罰が当たったのね。
「………う、嘘だ、………ろ」
そんなところで嘘を吐いて誰が得をするのかしら。
けれど、そんなこともお構いなしでこうして悲しんでいるのだから
私が邪魔する権利はないわね。
今はとことん悲しませときましょう。
「………………くそぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
何やら人吉君は絶叫しているけど、私には生憎関係がない。
自身を襲った男の人に同情できるほど私はお人よしではないし、
どちらかというと、死んだ人の数の方に注目が行くわ。
10名。6時間にして10名。
多分、多いと思う。
1時間当たり2人、ないしは1人。
多いんじゃないかしら。
ていうかいい加減その咆哮は止めてもらえないかしら。
今ここに人が集まるのは、私にとって嬉しいことではないし。
あと涙が汚い。………童貞が移るわ。
………まぁもう私の処女を奪うに足りる人材なんていないんでしょうけど。
阿良々木君も死んじゃったことだし。
じゃあ、話を戻しましょう。
死んだ人は10名、その中には勿論のこと阿良々木君や阿久根君といった面子もいた他に気になる点があった。
二人ほど死んだ病院坂。
………兄弟、はたまた姉妹揃ってが死んだのかしら?
可笑しな、いえおかしなこともあったことね。
まぁ、けれどそれ単体ではさほど重要なことではないわ。
けれど、似たような人が他にもたくさんいることが問題なのよ。
真庭。
零崎。
阿良々木。
鑢。
黒神。
…………血縁関係ありすぎでしょ。
改めて見て見るとあんまりにも異常。
こんなにも血縁関係が集まるなんて異常過ぎる。
確かに親戚が死んだ時の悲しみはあまりにも強大でしょうね。
勿論のこと、そう言う目的があるのは目に見えているわ。
でなければこんな話はそもそもしていないと思う。
とと、何かちょくちょく脇道に入るわね。
語り部としては気を付けなければいけないわ。
………語り部? ―――別にどうでもいいけど。
そこで私が思うのは、この名簿がある程度の偽造が入っているという可能性。
勿論、全てが全て偽造ではないでしょうね。
それ故に起こる波乱。
特別あってもおかしいは話じゃないと思うわ。
現に
人吉善吉という人間がいる以上。
阿良々木暦、阿久根高貴という人間がいた以上、名簿の信憑性は十分あるけど。
ていうかなきゃ困るわ。
けれど、可能性の一つとして。
そう言う見方もあっても良いんじゃないかと私は思うわ。
正直放送のことと同じで、それで主催勢に得があるかというと、そこまでないでしょうけど。
「………………」
……………あら?
いつの間にやらやかましい雄叫びを中止して
こちらを泣き顔にも似た奇妙な顔でこちらを睨んでいる人がいた。
ていうか人吉君だけど。
「………どうしたの? そんな馬鹿みたいな顔して。
馬鹿がばれるわよ。………あ、ごめんなさい……今さらだったわね…………」
「…………あぁ、別に。ただよぉ」
何かもったいぶって言おうとしているのが嫌でも分かる。
それが、何を言いたいのかも、分かる。
どうせ、彼のこと。
あの事しかない。
あの事しかないでしょうね。
「………おい、恋人が死んだんだぞ」
やっぱりね。
どうせ来ると思ったわよ。
しかしこの子。
「何で。何で、そんな無表情なんだよッ! どうしてそんな顔が出来る!」
………自分から墓穴に入ろうとするなんて、稀に見る馬鹿ね。
その話題を掘り返すのは、貴方にとっても良いことはないでしょうに。
「別に隠すつもりもないし話すわよ、けどそれを説明する前に、ある場所に行きましょう。――――ここから直ぐよ」
……さて、心の準備はいいかしら。
論破の時間よ。
人吉善吉君。
精々、自ら犯したその罪をその身を抱えて震えあがっていると良いわ。
さぁ、阿良々木君。
せめて最後のお別れぐらいきちっと行いましょう?
ねぇ、阿良々木君。
<<002>>
場面移って、先ほどの死体処理場。
言い方変えれば埋葬現場。
別にいくら森の一角とはいえども先ほどまでいたんだから迷う場所ではないわ。
………さて。
「さて、人吉君。今から私は少しばかりお話をするわ。聞きたいことがあるなら後でまとめて聞くわ。異論も一切受け付けないわ」
そう、私は今から色々話す。
けれど、思い出話とかそんな楽しいものではないし、明るいものではない。
ただ一つすることは、今から私は人吉君を徹底的に虐め抜くということ。
「………お、おう」
そう言うとディパックからメモ帳と筆記用具を取り出した。
――いまいち動揺を隠し切れていない。
だからこそ私に付け入られる隙もできるし、隙間も縫われる。
「そう、なら。―――――――――行くわよ」
「…………あぁ。何があったんだ」
今から喋るのは、
オオウソツキ達の話。
人吉君の、オオウソの話。
私の、ウソで固められた論破の話。
私の自己満足の話。
では、長ったらしい前置きもここまでで。
ようやく、議論の開始よ。
暫しの間、お付き合いくれたらと思うわ。
<start>
「………ねぇ、まずあなたに確認するけれど、本当にここにはさっきの金髪美女の姿しか無かったの?」
「あぁ……、そいつしか確かにいなかったぜ」
声が僅かながらに震えている。
たぶん自分自身では気付いていないでしょうけど、僅かばかりに震えている。
……愚かね。
許しを乞える最後の機会もみすみす逃すなんて。
むしろ哀れだわ。
けれど、焦らずじっくり落ち詰めなければいけない。
私に墓を荒らす勇気なんて無いわけだし。
―――――戯言ね。
「そう、だったらいくつか教えてあげるわ」
「何をだ」
「………さっきのあなたの滑稽な話を信じた理由よ」
「………いや、信じるも何もそれしか可能性は―――」
彼の言い訳は聞かない。て言うか最初にそう忠告したしね。
だから、彼の言葉に被せるように、その台詞を発する。
「吸血鬼」
本来だったら言ってはいけないこと。
けれど、今さら隠したところでしょうがないわよ。
―――その当の本人が消えちゃったのだから。
「…………は?」
しかしこの子は思うように予想した言葉を返してくるわ。
正直? ――――じゃないわね。愚直というのかしら?
「吸血鬼。――――いくら人吉君が無知とはいえそのぐらい知ってるわよね?」
「ん? ま、まぁなんとなく。血を吸うとか。不死だとか………。十字架に弱いとかか?」
「そうね、まぁ阿良々木君はハーフ扱いだからそこまでじゃないにしろ、死なないはずよ」
「…………いや、けど。んなもん信じられるわけねぇだろ」
………何かしら、この子。
もしかして喧嘩売られているかしら。
自分勝手で、私の恋人も馬鹿にしている。
阿良々木君だったら絶対しないわ。
だから特別蔑む以外に、意に反すこともなく言ってあげたわ。
「あのねぇ………。貴方の言葉をさっき信じたのは私よ?
なのにあなたは私の言葉を信じようともしないと。―――――屑ね。
それにさっき私は異論は受け付けない、と言ったはずよ。ルールぐらい守って頂戴」
「……………ッ」
微かに人吉君の顔が歪む。
瞳は既にこちらを向いておらず、泳ぐというより全力疾走している。
……嘘吐きの末路よ、それが。
―――――いえ、私を怒らした罰よ。
「で、阿良々木君は不死。だからこそあなたの幻想も聞き入れてあげたのよ?」
「…………」
さて、相の手も消えたことだし、もっとスピーディに行きましょう。
………時間はないの。
「普通に考えてよ、人吉君。おかしいと思わないの? 人を死体と見間違えるだなんて」
いくら視力が悪かろうと、片方を死体と判断した以上は、
その光景が見えている以上は、視力の問題はほとんどないわ。
それに串中君がいつからあそこにいたのかは知らないけれど、
さすがに一時間にも満たない少しの間だけでしょう。身を隠すにしたって森の中なりもっとあったはずだから。
その短時間の間で、その黒髪のアホ毛変態男はどこに行ったというの?
―――――そして、どこで死んだのよ。
おかしな話ではないと思うわ。
けれど、おかしな話で無くたって、疑うに当たる可能性はこれ見よがしに見せつけてくれてるわ。
それが嘘に塗れた発言であるという可能性をね。
「それに隣では金髪美女は虐殺されていたのよ? 片方だけは倒れているだけで殺されず無事だなんてご都合主義信じるの?
………おかしいわよ、そうだとしたらとんだ茶番劇よ。くだらない」
人の命を粗末にしている、ね。
「まぁ一時は確かに阿良々木君の繰り返すようだけど不死身性という性質があったから信じたけど。放送で呼ばれた今は違う。
不死身であろうと、死ぬのよ。この舞台に。この物語には、ご都合主義の文字はないみたい。
けれど。確かにその死体が。その死体だったものが阿良々木君とは限らないわ。
限らないからこそ、ここでは仮に阿良々木君としておきましょう。――――別にいいわよね」
ここで一息。
さて、人吉君はというと、―――――無表情。
………さっきの貴方自身の言葉をそのまま返してあげるわ。
……さて、ゆっくりはしてられないわね。
では続きと致しましょうか。
「さて、ところで、人吉君。
今ね、私に嗅覚という感覚が消えているみたいなの」
今だって、何も臭わない。
体臭はおろか、目の前に広がる惨劇場(跡)にいても何も臭わない。
血の臭いが、――――――――感じないのよ。
……まるで出鱈目よ。
「ふん、大方。何時かのアンモニアの所為だと思うけれど。
………ねぇ、人吉君。あなたは知っているだろうけど、血の臭いって意外と凄いのよ。結構遠くまで臭ったはず」
そう、あの阿良々木くんが大切そうにしていたマウンテンバイクが壊されたあのときも。
学習塾跡で無残な姿になっていたあのときだって感じたあの感じ。
咽返るような異臭が、何も感じないなんて、ありえないわ。
「ここまで言えば分かるかしら。あなたと一旦別れた場所。
あの時点で本来なら臭ってもおかしくないと思うわ。憶測の域を超えないのが悲しいところだけど。
それでもこれにはかなりの自信があるわ。私はこれでも阿良々木君の血は何度も嗅いでいるから。
――――引かなくていいわよ。私だって好きで嗅いだ訳じゃないし」
もう、好きでも嗅げない臭いだけどもね。
「何ていうのもそうだけど、もっと直接的な証拠もあるわよ。
要するに、貴方は余計なことを言った。
《血の匂い。キツイだろ。大丈夫か?》
なーんて言っちゃったのよ、貴方は。馬鹿丸出しね。
御蔭さまで説得するまでもなくなったわ」
そう、だからこそ違和感をもてたのだけれども。
何故、あの時になって初めて血のことに触れたのか。
考えれば、直ぐに分かってしまったわ。
自分の秀才ぶりに頭が痛くなるわね。
「で、どういうつもりだったのかしら? 人吉君」
分かることだけど。
「恐らく臭っていた辺りで、別れようと言った、貴方の真意は何なのかしら」
分かることだけど。
「シャベルを貸してほしいと言ったあなたの本意はなんだったのかしら」
分かることだけど。
「…………そんな怖い顔しないでほしいわ。貴方を疑っているという以外に取って喰おうだなんて思っていないのよ
まずそうですもの。―――――で、実際のところ、どうなのかしらね? 人吉君?」
聞かざる負えないことだってある。
いつだって、現実は残酷なのだから。
ここで再び一息。
さて、人吉君はというと、―――――焦りの顔。
分かりやすいったらないわね。
けれどここで意見を迫って逆切れされるのも面倒だから。
一旦退いておくとしときましょう。
「答えられないのならいいわ。後でいっぺんに答えてもらいましょう」
「…………何が言いてぇんだよ、戦場ヶ原さんはよ」
なんか久しく聞いたと思ったらこれ、本当に人吉君の声かしら?
なんとなくだけど、幽霊を思わせる何かを感じたわ。
声色だけでこんなにも人の印象て変わるものなのねぇ。
意外ね。
声だけを聞けば阿良々木君のそれと似ていて聞いても雑音には思えなかったものだったんだけど。
けど、こうなってしまったらもうどうしようもないわ。
彼の元の声なんて忘れましょう。
覚えていたって仕方のないことなんだから。
「………まぁ後で言うわよ、後質問は後に回せと言ったはず。
そんなことも理解できないなんてあなたの頭は錆びているのかしら」
「んな風化なんかしてねぇよ。現役バリバリの高校生だ!」
「初めて知ったわッ………!」
「意外そうな顔をするんじゃねぇ!」
……まぁ、それはさておいてよ。
話を議論へと引きもどしましょう。
ここぞとばかりにツッコミ入れられて不愉快だわ。真っ当なこと言ったと思ったのに。
だからわけもなく話を戻す。
「時に人吉君。それって何?」
私が指を指した先にあるのは、私の腰ちょっと上ぐらいまである二つの石の並んだナニカ。
正体こそ知っているけれど、あの正体を私は人吉君の口からはっきり言ってほしい。
だからこそ、聞いてみた。
けれど、答えは本当に残念なものだったわ。
「……いや、何? も何も墓だろうが。金髪美女の……」
がっかりだわ。
この期に及んでまだしらは切るつもりなのね。
………はぁ。
「そう、………ならいいわ。けれど人吉君に聞きたいことがあるのだけど」
「また質問か」
「また質問よ。それよりも―――――――――なんであの墓はあの程度の浅さしか作ってあげなかったの?」
ここで、無表情を保っていた人吉君の眉が微かに動く。
まぁ、当たり前よね。仕方のないことですもの。
「……というとどういう意味だ」
「少しは考えなさい―――ていうより、もう分かっているのでしょう? 私が何を言いたいか、ぐらいは」
「………さぁ、皆目見当つかなくてもどかしいぜ」
「………そう、じゃあ貴方は愚か者の欄に綺麗に入るわ、良かったわね。
まぁいいわ、なら言ってあげるけど。――――――この、女性とはいえ背丈も高い大人を入れるには狭いんじゃないかしら?」
「―――――――ッ!」
そう、目算で人吉君のへそあたりまでしかないその穴は、あまりにも浅すぎたの。
御蔭で、その場にできた山は私のお腹辺りまである。
顔と胴体が別々だからという謎の優しさを見せる人吉君がそんなところで意地悪するのかしら。
例えば、そうせざる負えなかった理由があるとしたならば。
私が思うに、こんな感じじゃないかしら。
まず、人吉君はシャベルを借りた時点で既に血の臭いは察したはず。
だからこそ、率先して方向を立候補したんだと思うわ。
そこから、直ぐ様死体を発見したんでしょう。
……で、そこからが私にとって問題よ。
ここまではいいわ。
恐らく確実でしょう。
だけれども、ここからが少し怪しいから後で確認も取りつつ行きましょう。
じゃあ、語るわ
見つけてから、彼は穴を掘ったのでしょうね。
でもシャベルで地を掘ったのは予定通りだから問題はない。
そうして、けっこうたくさんの深さを掘ったと思うわ。
そして、そこに何かを埋めたのでしょう。
何かは、あえて触れないでおくわ。
だから話は先に進めるとして、そこで彼にとって予想外の事態が起こった。
深さが、足りなくなったのでしょう。
しかし、今さら掘り返すには時間が足りなかった。
一応私という待ち人がいるものね。
ただ、待ち時間を設定していたかというとしていない。
けれど、私をその穴の掘った場所に近寄らせては行けない理由があった。
勿論ここでそれについて考察はしないでおくけれど、そうなのでしょう。
だからこの場を早くに立ち去らなければいけなかった。
それ故にその作業は中断せざる負えなくなり、土を最下層と思わすため、固め、偽装の為に土を少しばかり掛けておいた。
そこで、私も知っている場面に戻る。
―――――――――といったところかしら。
いえ、さすがに全部が全部、あっているとは限らない。
むしろ憶測の域はこさないのだから、間違っていることだらけかもしれない。
だから、聞かなければいけないでしょう。
人吉君に、事実を突きつけて。虚実も交えながら。
的確に、論破すれば、何かがどうにかなるのでしょう。
ちなみに当の人吉君と言えば、顔はすっかりと強張り、余裕のよの字もない。
………まぁ、与える気もないのだけれど。
それだけのことをしたのだから。
そうして、私は再び口を開く。
「ねぇ、結局のところどうなのかしら? 何で、あんなに浅い穴しか作らなかったの?」
「ち、ちげぇ! 作らなかったんじゃない、作れなかったんだ!
そうだぜ、だ、第一そんな深くまで掘ったら俺が出れないじゃあねぇか!」
「ビルの壁のぼりをしたくせに?」
「―――クッ……。それとこれとじゃ話が別だろッ!」
「別に無理な話じゃないと思うけれど?」
「――――――アァ、もう! 分かったよ、認めるぜ。浅くして堀ったのには理由がある」
………どんどんそれこそ墓穴を掘っている気がするのは気のせいかしら。
「それは?」
「疲れたんだ! 当たり前だろッ! こんな土掘ってみろよ!」
「………瓦礫は平気でもちあげるくせに?」
「……疲れてるもんは疲れてたんだよ」
「けれど休憩の時間はあったはずよ、私を待っている間。確か貴方は私より先に来ていたわよね?」
「……あんまり休めてなかったよ」
「そう、けれど、私にはまだ、何か不思議に思っていたことがあるの」
「――――何だ」
……本当に不思議そうな顔をして私の顔を窺う。
口から出まかせに言うから、分からなくても仕方のないのかしら?
どちらにしても容赦するつもりはないけど。
「そうね、人吉君ってなんで学校の運動場があんなに硬いのか知っているかしら?」
あんな、を強調させて言う。
……どうせ背丈を高く見せようだとか
主人公みたいに成りすましたいなみたいな行動に無意識か
移している人吉君ならどうせ知ったかぶるでしょうね。
「………残念ながらしらねぇな」
あら、予想外ね。
案外私の定規も少しばかり曲っていたのかしら。
「生徒会のくせにその程度も知らないなんて役立たず以外何者でもないわね」
「カッ! 悪かったな! ………で、どうしてなんだよ。
言われればシャベルかなんかで掘るのは大変そうだしな、掘ったこともねぇが気になるっちゃ気になるしな」
かと思ったら、子供だったわ。
……けれど割合本気で考え始めた人吉君を見てるのも哀感が生じるから早く答えてあげましょう。
「圧力よ。人の足による、ね」
ちなみに嘘、でね。
私とてそんなの知らないわよ。そもそも運動場だって普通に掘れると思う。
――――だからこれはでっち上げ。
引っかかる魚がいるのであれば、それに越したことはないってだけ。
勿論中々の賭けだけれど、別にここは負けても問題ない勝負。
ならば、存分と負けてあげましょう。
「――――は?」
「運動場ってね、最初は意外と柔らかいの。けれど、運動場は使うためにあるでしょ?
そうすると人は土を容赦もなく踏んでいくわ。すると土は勿論圧力がかかり潰れるというか固まるわ」
自分で言っておいてなんだけど、随分とひねくれた秘密だわ。
そもそも比重で勝ってに土が沈んでいくみたいな感じでもおかしくはない話だと思うわ。
確信も根拠も全くない口から出まかせだけど。いえ、心から出まかせだけれどね。
「………へぇ、ちなみにそれでも普段使わない様なところだってあるだろ。そこはどうなんだよ」
それでも、この子は気付かない。
もしくは、見過ごしていてくれる。
好都合だから敢えて何も言わないけれど。
「雨が降って固まっていくのよ。乾燥した後だってくっついたものが簡単に離れることもないわよ。
そうだとしたら、“雨降って地固まる”なんていう諺は何て儚いものなのでしょうね」
どうでもいいこと一つ。
人に儚いと書いてアララギと読むのよ。
またひとつ賢くなったわね。
「まぁ、そうなのか? すげぇな。戦場ヶ原さんは何でも知ってるな」
何か皮肉が大分混じられている気がするのは気のせいかしら。
いえ、そう思う何かがあるのであれば無視するのが一番そうね。
「……さて、話を戻すわ」
「戻すなよッ! 何か言えよ!」
「戻すわよ。それに何だかツッコムの飽きてきたから言わなかったけれど最後まで聞かれたこと以外は黙っているはずよ」
「………チ」
なんか舌打ちしなかった? この後輩。
何て思った後には既に行動を取っていたみたいで。
「いてっ!」
脛を蹴ってやった。
私がこんなキャラだなんて全く思わないのだけど凄くむかついたから。
「………はぁ」
けれど蹴られた理由も分かっていたみたいなので突っかかってくるようなことは無かった。
それきり特別悪態付くこともなく静かにシャベルを杖にしながら私の話に耳を傾ける。
その表情は再び真剣にして無表情を保っていた。
「で、話を戻すわよ。……? あぁそうそう。私がこの運動場の事を言った理由分かるかしら?」
「…………何でだよ」
「私、一回あの埋める前の穴に入ったわよね?」
ここで、動揺一つ。
理由は眉が微かに動いたから。
「そこでね、あの穴の底を調べたわよね?」
ここで、動揺二つ。
理由は目線が私を向かなくなった。
「そこで思ったのよ。それでも少なくとも貴方のへそぐらいまである穴に勢いよく降りたのよ。
ここで疑問なのは、足を痛めいているはずの私が何の違和感もできずに降りれたという事実よ」
ここで、動揺三つ。
理由は冷や汗が朝日により反射されているから。
「いくら包帯である程度固定されているとはいえ違和感なく歩ける程度の緩さにしているし
まずあの高さから、掘っただけのそれなりに硬いとはいえほぐされた筈の穴に落ちたら捻挫必至ね」
ここで、動揺四つ。
……っていい加減あきたわ。
「けれど、現実にはそうならなかった。確かに最初の数センチは沈んだわよ。
それでも、案外沈むものなのね。あるところまでいったら止まったわ。
あ、ちなみに言っておくけれど土に関しては私はプロよ。何せ元陸上選手ですもの。
その場における理想的に走れるように私は土に関しては詳しく調べたの」
まず最初に言っておくけれど最近の陸上競技場はゴムみたいな感じになっているわよ。
だから土に詳しいとかないわ。
で話を戻して。
凄く硬い地面がそこにはあった。
それまでは、まるで踏み潰したような、硬さ。
壁の様に硬かった。
さっきの、運動場の話に戻って、そのぐらいは硬かった。
そう、マンションの壁を掛け抜けれるような脚力をもつ人吉君当たりならば可能かもしれないわね。
でも、ここで勘違いして欲しくないのは、あの硬さは、何もその上に上乗せされていた土が潰れたからそうなったわけではない。
そもそもの土の量だって全然なかったし、私の体重は、あくまで阿良々木君のおかげもあり、無事40キロ後半強辺りに戻ったわ。
そこに勢いを重ねたって60キロ分も行かないでしょう。ていうよりそんなに変わらないと思うわ。
さっき言ったあれだって、割と適当ですし。
そう、今まで語ってきたことは、大抵は憶測の領域であり。
妄想である。空想である。幻想であるわ。
目には目を。歯には歯を。嘘には嘘よ。
……それでも純度100%の嘘は危険すぎる橋だから
当然だけど、事実もちょくちょく加えてよ。
「………つまりは何が言いたいだ?」
「いえ、あの下に何かあるんじゃないかしら? ってことよ」
「…………ねぇんじゃねぇのか。てかねぇよ」
「何でそう言い切れるのかしら。こう言う時、普通は何かが埋まっているみたいなことぐらい思わないかしら」
そして大詰め。
「だから、そんな宝さがしのオリエンテーションじゃねぇんだ。そんなもの埋まっている訳ないだろ」
「……いえ、物は試しよ。人吉君。掘り返してみるのもいいかもよ」
「そんな道徳に反することなんぞできるかってんだ!」
「………………それはこっちの台詞よ」
「―――――――ぁあ?」
「――――粘るのは勝手だけどね、もうそろそろいい加減私も疲れたわ」
「………何だよ?」
「人吉君。その穴を掘り返して、阿良々木君の死体を掘りだしてくれるかしら?」
「……………」
人吉君の顔が、大きく歪んだ瞬間だった。
<<003>>
「遠まわしに貴方を責めていたつもりなのだけれど。まさかここまで粘るだなんて思わなかったから言わせてもらうわ」
「………ま、まてよ」
「待つわけないじゃない。貴方が阿良々木君をここに埋めたのでしょう」
「根拠は何だよ」
「そうね。一からまとめさせてもらうわよ。どうせだし。
まず第一に貴方の言っていた、死体が生きていた論。
私が信じていたのは阿良々木君が不死身だから。
それ以外の人間であれば私は端から信じる必要はないわ。だって不死身は特例なのだから。
次に第二に私の嗅覚について。
基本気遣いのある性格の貴方が後になって聞いた理由。
それは隠しごとをするため。人吉君の死体がある方向に一人で向かう邪魔立てをするためよ。
そう、例えば一体の死体を隠蔽するぐらいの作戦が実行されるためにね。
最後に、第三に穴の浅さに関連すること。
まず大人の金髪美女の背丈に合わない穴の浅さについては、それ以上掘る時間がなかったから。
力とかに関しては数十キロはあるであろう瓦礫を平気でもちあげたという事実でカバーできると思うわ。
で、ちなみにその穴の底は異様なまでに硬かったわ。
まるで何かを隠しているかのようにね。その下に何かを隠しているかのようにね。
きっとマンションの壁を走れる人吉君の脚力レベルになればあれは余裕でしょうね。
――――自分の力加減を知らないからそう言った隙が出来てしまうのよ。
それに、貴方が馬鹿もここまで行くと仏の域よね。
……頭と体が別々だから墓石を二つだって? ――――――はっ、んなわけないじゃない。
本気でそう思うのなら、私はここで貴方を殺しておくべきだと思うわ。精神異常患者なんてこの場においては厄介以外何者でもないわ。
で、そこで私は提案するわ。
その墓穴掘り返さないかしら。
反道徳的でも。
不秩序観でも。
言っておくけれど、私は阿良々木君に関しての為なら何だってやるわよ。
そう、何でもね。
―――――――――だから、早く阿良々木君をこちらに渡しなさい」
人吉君を何気なく見た。
その顔にはもう、迷いなんて言う文字は浮かんでいなかった。
「本当に、大丈夫なのか」
「ええ、本当に大丈夫よ」
「―――――そうかよ」
そう言うと、そこから無言で墓のそばに向かう、
そして、シャベルで少しだけ丁寧に、土を剥がし始めた。
「……………」
「……………」
数秒の沈黙の後、口を開いたのは人吉君だった。
そして、別に聞いてもいないことを話し始める。
「……すまなかったよ、黙っていて」
そう思うならさっさと動きなさい。
心の中で静かに毒を吐いておく。
「………」
「確かに俺は、この下に黒髪アホ毛男を埋めたぜ」
嘘を吐いた甲斐はあったというわけね。
……けど今となっては嘘も真ね。
「………」
「―――――俺はな、戦場ヶ原さんを悲しませたくなかったんだ、それだけなんだ」
そんな風に思っていたであろう貴方の脳を少し疑うわ。
私は怒っただけよ。
「………」
「こんな身で信じてもらえねぇだろうが、信じてくれ」
随分とこの子はご都合主義な言葉ばかり吐くわね。
誰が信じるというのかしら。
「………」
「なぁ、戦場ヶ原さん。俺を許してくれないか?」
反吐が出る話だったので、私は正直に答えてあげた。
「無理ね。正直この作業が終わったらさっさとあなたとは別れたい気分ね」
それが真実。
阿良々木君を隠した人と、誰も理由なく一緒にいたいわけがない。
「………だな、今までありがとよ」
そういうと、再び作業に没頭し始める。
そんなこの子の背中を見て、私は何も思わなかった。
<end>
winner:戦場ヶ原 ひたぎ【せんじょうがはら ―――】
賞品として、『阿良々木暦とキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード、各々の死体との邂逅』をプレゼント致します。
最終更新:2012年10月02日 13:01