オオウソツキ ◆mtws1YvfHQ


 戦場ヶ原さんが前を黙々と歩き続けてどれ程の時間が流れたか。
 少なくとも、話しかけ辛く、しかし暇だから荷物の確認をしようとこの俺が思い付くだけの時間が過ぎた時の事だった。
 俺が何とも無しに取り出した液体の入った小瓶。
 何が入っているかの確認をしていなかった俺が中身を確認しようと蓋を開け、匂いを嗅いだ。

「うおっ、臭っ!」

 しかしその液体、多分匂いの感じから言ってアンモニアだと思うんだけど、からしたのは刺激臭。
 思わず俺は顔を逸らし、瓶を遠ざけてしまった。
 その時に小さな悲劇が起きた。
 前を歩いていた戦場ヶ原さんが声に驚いたらしい振り返り、その顔に、遠ざけた小瓶の中身が僅かに飛び出てかかったのだった。
 不運な偶然だった。

「え、なに臭っ!」

 一瞬何が起きたか理解できなかった様子の戦場ヶ原さんでも、顔にかかった液体からの異臭にはすぐに反応した。

「わ、悪い……」
「悪いで済んだら警察はいらないわよ馬鹿! それより拭く物! 鼻が!」

 顔を歪めて荷物から何か拭く物はないかと探り始める戦場ヶ原さんに、俺は慌てて小瓶に蓋をし、入れ替わりにハンカチを手渡す。
 ひたぎさんは躊躇う事無くひったくるようにそれを奪い取り、ハンカチで、顔にかかっていた液体を拭い取った。

「だ、大丈ッ!?」

 拭い取ったタイミングを見計らって声を掛けようとした。
 が、しかし咄嗟に、いやむしろ反射的に、顔を逸らした。
 言い切るよりも速く戦場ヶ原さんの平手が眼前を通り過ぎていた。
 もしも顔を逸らしていなければ俺の頬に赤い紅葉が出来上がった所だろう。

「大丈夫な訳ないでしょ!」

 俺の顔が少し引き攣っている事だろうが、少し涙目になりながらも戦場ヶ原さんは思いっ切り俺を怒鳴り付けた。
 それから投げ付けるように俺にハンカチを返すと、もうこちらを見ようともせず、機嫌悪いから話しかけないでと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら先へ先へと歩き続けて行く。
 偶然も混ざってはいるが、俺自身が完全に悪いと言うのは自覚している。
 だから黙ってついて行く。
 それしか、戦場ヶ原さんがどんな思いで足を進めているのか分からない今の俺には、それしか出来なかった。
 黙々と歩き続ける。
 ただただ歩き続ける。
 何も言わず歩き続ける。
 時が過ぎても歩き続ける。
 お互い喋らずに歩き続ける。
 戦場ヶ原さんの足が止まった。
 吊られるように俺の足も止まる。

「この辺りね」
「そう……だな」

 死体があると聞かされていた辺りに着いた。
 着いてしまった。
 俺も戦場ヶ原さんも足を動かすに動かせない。
 俺の理由は単純明快だ。
 俺は、怖いのだ。
 最早、匂いからして確信はしているけどそれでも、本当に死体があったら、その死体は、〈改〉になってるめだかちゃんが作り出した物かも知れないと思う事が。
 戦場ヶ原さんの理由は想像するしかないけど、何と無く想像は付く。
 死体を見るのが怖いのだろう。
 俺だって死体を見るのは怖いが、それよりも、二つあると言っていた死体の男の方が、本当に阿良々木暦と言う人の、大切な人の死体だったら。
 だから俺達は足を動かせないでいた。

「本当に、死体なんかあるのかしら……?」
「え?」
「いえ、気にしないで」
「……そう、か」

 まさか気付いてないのか。
 この匂いに。

「――――二手に分かれよう」
「え?」
「その方が速く見付けられるかも知れない。誰の死体か、本当に死体なんかあるのか分からないけど」

 誰の死体か、本当に死体なんかあるのか、と言う部分を強調して俺は言う。
 俺の言葉に多かれ少なかれの勇気を得たのだろうか、戦場ヶ原さんは黙って頷いた。
 それと同時にほとんど確信した。
 戦場ヶ原さんは今、鼻が利いていない事を。

「俺は右の方を行くけど、良い?」
「構わないわ。一時間ぐらいしたら、またここに集合しましょう」

 そう言って戦場ヶ原さんは足を進めようとしたが、辺りに目印になる物がないと気付いたのか、足を止めた。
 俺は適当な木の、それなりに太い枝の根元を持って、圧し折り、地面に突き刺す。
 目印としては十分だ。

「また後で――――っと、ちょっと待って。シャベルかなんか持ってない?」
「あら……急に如何したの?」
「いや、もしも死体があったらその後に埋葬する――よな?」
「するでしょうね」
「そのための穴掘るのって、多分戦場ヶ原さんじゃなくて俺だろ? もしも見付けられたらあらかじめ多少なりとも掘っておこうと思うし――いざと言う時は、武器にもなる」

 戦場ヶ原さんは考え込むように目を閉じた。
 俺はじっと待つ。
 そして、しばらく経ってから、どう入ってたのか分からないけど、シャベルを取り出した。
 本当にあるとは。

「ありがとう」

 お礼の言葉を言いながら受け取り、

「それじゃ、また後で」
「ええ、また後で」

 お互いに頷くと、戦場ヶ原さんは緊張を押し殺している風に左の方へと歩いて行く。
 その戦場ヶ原さんの背中に向けて、心の中で謝りながら、俺は右の方へと足を進めた。
 俺が足を止めた理由は実を言うと、もう一つあった。
 血の匂いがしたからだ。
 噎せ返るように濃厚な、吐き気がするほど密度のある、血の匂い。
 それがして、戦場ヶ原さんが足を止めたのに合わせて俺も足を止めてしまったのだ。
 だけど俺は、戦場ヶ原さんが匂いに気付いていない事に気が付いてしまった。
 来る途中にうっかり戦場ヶ原さんの顔に掛けてしまった液体。
 あの液体のキツイ匂いの影響でひたぎさんの嗅覚が麻痺しているようだと思い至るには、そう時間が必要な事じゃなかった。
 ある程度付き合ってるから分かってる事だけど、気丈な戦場ヶ原さんの事だから、これ以上俺絵に弱みを見せる事に抵抗があったんだろうと思う。
 それが例え、俺が原因の物でも。
 そして、言い方は悪いけど、俺は、それを利用した。
 俺が先に血の匂いのする所に行って、死体を確認しようとしている。
 俺は、一人で確認しようとしているのだ。

「――――――――」

 そして、程なく、二つの死体を、見付けた。



 作業を終え、シャベルを片手に待ち合わせの場所で待つ事少し。
 現れた戦場ヶ原さんと顔を合わせた瞬間に、その表情が変わった気がした。
 変わった気がしたけど、何が変わったかまでは分からないまま、戦場ヶ原さんが口を開いた。

「見付けたのね?」

 俺の顔を見ただけで、何と言おうとしたのか分かったようだ。
 だったらわざわざ口で何か言う必要もない。
 俺は、地面に突き刺さったままの太い枝を引き抜き、何も言わずに進む。
 俺の後を戦場ヶ原さんが着いて来ているのが足音で分かった。
 少し歩いた所で、俺は言う。

「血の匂い」
「え?」
「キツイだろ。大丈夫か?」
「……これくらい大丈夫よ」

 僅かに間を開けて、戦場ヶ原さんは返して来た。
 実際の所、枝を引き抜いた段階で結構匂っていたのに俺が言うまで反応しなかったのは、やっぱりそう言う事なんだろう。
 特に意味は無かったけど、想像でしかなかった嗅覚の麻痺が本当だと言う事の確認を済ませた。
 少し、少しだけ、後ろめたい気持ちに襲われる。
 だけどもう決めた事だ。

「――っと、ちょっと呼ぶまでここで待っててくれる?」

 もう少しで死体が見えると言う所まで来て、流石にキツイ光景があったのを思い出した。

「なんで?」
「なんでも」

 先に進む。
 返事は無かったけど、足音はして来ない。
 待っててくれるのに感謝しながら死体の所に到着する。
 死体。
 上の服を脱いで、死体の首から胸元辺りまでかける。
 これで準備は完了だ。

「いいよ」

 少し大きめの声で戦場ヶ原さんの居る方に声を掛ける。
 が、なかなか出て来ない。
 何か合ったのか少し心配になったけど、悲鳴の一つもしなかったのはおかしい。
 だからじっと待ち続ける。
 待つ事おおよそ数分後、戦場ヶ原さんは顔を下に向けた状態だった。
 意を決したように顔を上げたけど、戦場ヶ原さんの目は閉じている。
 何と無く、声を掛け辛く感じる。
 そんな俺を余所に、戦場ヶ原さんは深呼吸を一つすると、意を決したように目を開いた。

「……誰それ?」
「さあ?」

 素直に俺は答える。
 生憎ながら金髪美人の知り合いなんて俺には多分いない。
 いや、居るかも知れないけど、俺の知り合いじゃないと思う。

「ん、ん、んー……どこかで見たような見てないような……んー…………」

 誰それ、とは言ったものの何かしらの心当たりがあるのか、戦場ヶ原さんは首を捻る。
 が、それもすぐに終わり、金髪美人から俺に視線を変える。

「で、一応聞くけど何であんたは服をこの女に掛けたの?」
「人の首の切断面と胸に空いた穴なんて見たくないだろ?」

 答えると、一瞬だけ目を見開いてから納得したように頷いた。
 俺も頷く。
 その方が良い。

「じゃ、埋めても良いか?」

 そう言って、あらかじめ掘っておいた穴を指差す。
 今の深さは俺のヘソ辺りまでの深さしかない。
 ちらりとその穴に目を向け、戦場ヶ原さんの視線が戻る。

「もう一つ死体があるって聞いてたけど?」

 突き刺すような、視線と言葉。
 来ると分かってた。
 分かってたけど、実際に来るとなるとその緊張は尋常な物ではない。
 だけど、もうやってしまった。
 だから、やり通すしかない。

「俺はこの人……いや、今は死体だけど、を、見付けた時から、少なくとも他に死体は無かった」
「嘘よ」

 突き刺すような物から、突き通すような物に、戦場ヶ原さんの視線と言葉は変わった。
 俺はあくまで、それを言葉で受け流す。

「嘘じゃない。少なくとも、俺が来た時には死体は一つしかなかった」
「そんなはずない」
「実際そうなんだ――これは――あくまで揚げ足を取るような勝手な想像だけど聞いてくれるか?」

 真っ正面から、視線を逸らさないように、言う。
 戦場ヶ原さんは何も言わない。
 だから俺は、続ける。

「串中が死体を見たと俺達は聞いてここに来た訳だ。だけど実際に今あるのは金髪の美女の死体だけ。もう一つの黒髪アホ毛の男の死体は無い」
「――――――」
「よくよく考えれば、串中がどんな死体かまでは言ってなかったよな?」
「――ええ、言ってなかった」
「実は黒髪アホ毛は死んでなかったんじゃないか? ――今はどうか知らないけど、少なくとも串中が見た段階では」
「唐突ね」
「分かってる。続けるけど、首を斬られ、胸に穴まで開いた金髪美人の死体を見て、その横に居るアホ毛まで死んでると勝手に思い込んだだけなんじゃないか、と俺は思う」
「段々と略していくわね」
「気にするな。つまり俺が何を言いたいかと言うと」
「まだ変態黒髪アホ毛ロリコン男は生きてると言いたいのね? 生きて、この場から居なくなったって言いたいのね?」
「――え? ロリコ……いや、まあそう言う事だけどさ」

 二ヶ所ぐらい最後の方に突っ込み所があったけど、何とか聞き流して、言い終わった。
 気分が悪くなる気がする。
 いや、気分が実際悪くなっていた。
 別にそれは、血の匂いの所為じゃない。
 俺自身の所為だ。
 特に、「なるほど」と呟いて安心感を漂わせ始めている戦場ヶ原さんの顔を見ると、本気で吐きそうな気になって来る。
 顔を背けたい。
 だけど、背ける訳にはいかない。
 背ければきっと、戦場ヶ原さんは今の俺の言葉を、嘘だと思う、嘘だと気付く。
 そうすれば、必死にこの辺りをくまなく探す事だろう。
 見付けられない自信はある。
 だけど、自信があるだけで、きっと見付けられる。
 そんな気がする。
 だから俺は、顔を背ける訳には、戦場ヶ原さんに気付かれる訳には、死体を見付けられる訳には行かない。
 果たしてそれは、俺のためなのか、戦場ヶ原さんのためなのか、めだかちゃんのためなのか、それとも別の誰かのためなのか、それすらも分からない。
 だけど少なくとも、死体を見付けてもしかしたらなる戦場ヶ原さんの絶望の表情を見たいと思っていない事は確かだ。
 だから今の所は隠せている。
 きっと、もっと、色々な何かが俺の中にあるだろう。
 だけど、それでも、一部であろうと、なんであろうと、見たくないと思ってるのは確かだ。

「それじゃ、埋めるぞ?」

 もう一度、あらかじめ掘っておいた穴を指差して言う。
 戦場ヶ原さんは頷き、一旦止まり、不意に、何かに気付いたように穴の縁に立った。
 ぞわり、と、背筋が、寒くなる。

「どうした?」
「黙ってて」

 有無を言わさぬ調子で俺にそう返し、戦場ヶ原さんは穴の中に飛び降りた。
 飛び降りたと言っても、今は俺のヘソぐらいまでしかない穴だから足をくじく心配もさほどない。
 俺の心臓が、鳴り響く。
 うるさいほどに鳴り響く。
 それでも顔だけは何とか平静を保っている、と思う。
 やけに熱心な調子で戦場ヶ原さんは底の方を踏み締め、頷いた。
 何やら満足した様子だ。
 良かった。
 どうやら気付かれてない。
 俺は不審げな顔を作りながら首を傾げて、戦場ヶ原さんに向けて手を伸ばすと、その手を取って穴から出て来た。

「穴なんか調べてどうしたんだ?」
「実はあの下にあなたがもう一つの死体を埋めたんじゃないかって思ったんだけど、見当違いだったみたいね。疑って悪かったわ」
「ちょっ!」

 朗々とした口調で、戦場ヶ原さんはそう謝って来た。
 思わず、本当に悪いと思ってるのかと言いそうになったけど、抑えてはいるようだけどそれでも心底から安心したような表情を覗かせるひたぎさんの顔を見て、口からは何も出なくなっていた。
 口の中が苦い。
 いや、俺自身の行いを苦いと感じてるに過ぎないのかも知れない。
 だけど俺はその苦さを無視して、慎重に、首と身体が別れないようにしながら穴の中に降り、横たえる。
 死体に掛けている俺の上着は、まあ、諦めた方が良いだろう。
 気分も悪いし。
 ひとっ跳びに穴から出て、差しておいたシャベルを引き抜き金髪美人の死体の上に土を被せていく。
 戦場ヶ原さんは何も言わない。
 俺も何も言わずに黙々と土を被せ、死体を埋め、土を乗せ、終えた。
 そこだけ不自然と分かる土の小さな山を前に、俺は辺りを見渡す。
 土を盛ったのは良いけど、やっぱり墓石は必要だろうからと見渡してみる。
 あった。
 そう言えばすぐ傍に家でも一つ解体したような瓦礫の山があったのを忘れてた。
 誰がしたか考えたくないけど、手頃の大きさのコンクリートはその中にありそうだ。

「んー……これで良いか」

 近付きながら手頃そうな物を探してみるけど、墓石っぽい感じのは無い。
 仕方がないから山の中から適当な物を一つ選んで持ち上げる。
 まあまあ重いけど、大きさからすれば結構良い感じかもしれない。

「凄い力ね」
「ん、そうか?」

 戦場ヶ原さんに言われて思わず聞き返していた。
 俺的には言うほど凄いとは思わない。
 そんな内心を見透かされたのかどうか知らないが、

「割と……いえ、正直かなり凄いと思うわ」

 一度首を振ってから、戦場ヶ原さんはそう返して来た。
 そう言われても今持ってるコンクリートなんてたかだが、何十キロ程度の重さしかないし、普通だと思うんだけど。
 いや待て、よく考えれば何十キロって結構な重さだろう。
 少なくとも『普通』の感覚で言ったら結構な重量じゃないだろうか。
 最近普通じゃない事が色々と多過ぎて『普通』の感覚からずれて来てるのか。
 まあ、深く考えない事にしよう。
 それはそれとして、コンクリートの塊を土の山の中心から少しずれた所に置いて、離れる。
 黙る事数十秒ほど。
 思わずと言う風を装って、俺は口から声を漏らす。

「…………あー……」
「ずれてるわね」
「…………うん……だな、ずれてる」

 中心からわざとずらせたお陰で、離れて見ると見栄えが悪い。
 それを、戦場ヶ原さんは容赦なく指摘して来てくれた。
 ふっ、と息を一つ吐いて再び瓦礫の山の方へ向かう。
 もう一つ、適当な物を乗せれば丁度いい見栄えになる筈だ。
 なので適当な物を一つ選んで、運んで乗せる。
 再び少し離れて見るとそれなりに見栄えの良い感じには見える。

「よし!」
「ずれてるって私が言って置いて何だけど、一人に二つも墓石がいるかしら?」
「うっ……ま、まあそこは頭と胴体が分かれてるって事で」
「……そうね。それで良いかもね」

 何だかんだ言ったものの、見栄えは悪くないのだから問題ないだろう。
 そのまま黙っていると、戦場ヶ原さんは手を合わせて目を閉じた。
 少し慌てて俺も黙祷した。
 そのまま二人で静かに、手を合わせ続けていた。
 放っておけば何時までも続きそうなその沈黙を、俺が破る。
 これ以上、ここに居たくない。

「――さて、それじゃ、引き続き探しに行こうか?」
「そうね」

 沈黙を破った俺の提案に、あっさりと戦場ヶ原さんは頷いた。
 喫茶店で見せた動揺のような物はもう見えない。
 だから大丈夫だと思う。
 心配があるとすれば、あと少しの所まで迫った放送だけだ。

「しばらくはこの辺りを探索するけど良い?」
「答えは……」
「聞いてないわ。お願いね」

 少しだけ余裕を取り戻した様子で、戦場ヶ原さんは笑った。
 胸に何か突き刺さったように痛む。
 あれが本当に戦場ヶ原さんの探している相手だったとしたら、放送を聞いてどんな反応をするだろう。
 それだけがひたすら恐い。
 多分もう見付けられる事のないあの男の死体を戦場ヶ原さんは探し続ける事になるだろうか。
 それとも探すのを一旦諦めて、犯人探しを先決するだろうか。
 それともまた別の何かを考えるんだろうか。
 それが、分からない。



 ネタばらしをしようと思う。
 と言っても、それは俺の中での再確認に過ぎないけど、それでも、しようと思う。
 ただの後悔の吐露以下に過ぎないけど。
 ネタばらしをしようと思う。
 まず、俺が一体何処に男の死体を隠したのか。
 俺が死体を隠したのは土の中だ。
 土の中。
 それも、金髪美人を埋めた更に下の場所に俺は死体を埋めた。
 実際やると結構疲れたけど、言葉にするだけなら簡単な話だ。
 俺はまず、金髪美人を埋める時の倍以上はある穴を掘って、そこに、掘った土の半分近くを使って男を埋めた。
 それから出来るだけ慎重に、穴の底よりも下深くに何かあると覚られないように、徹底的に固めに固めて、下に死体があると分かってる俺でも気付かないまで固めて、その上に少しばかり土を乗せてからひたぎさんとの待ち合わせ場所に行った。
 それだけだ。
 結構な体力を使ったけど、少なくともばれずには済んだからそれだけの価値はあったと俺は思ってる。
 コンクリートの墓石をわざわざ二つも置いたから、それを退かしてまで掘り返す人間が居るとは思えない。
 ちなみに二つ置いた理由は、下に居る人間が二人居るからだ。
 一個目のコンクリートをずらして置いた理由は、二つ置く理由を作るためだ。
 それだけだ。
 それとは全く別の事だけど、金髪美人の首に首輪が付けられてなかった事が気になったけど、死んだ相手に話は聞けない。
 だけどただでさえいっぱいいっぱいに見える戦場ヶ原さんをこれ以上混乱させる訳には行かないと、隠した。
 だから俺は戦場ヶ原さんの目から首輪がないという事実を隠した。
 斬れてない首が斬られてると説明して、その事実を隠した。
 もしも教えていたらどうなってたか分からないけど、既に、一人の、大切な相手の事で頭がいっぱいになってる戦場ヶ原さんに教えて良い方向に向かうとは思えなくて。
 これが一応、俺のした事の全てだ。
 俺が戦場ヶ原さんに付いた嘘の全てだ。
 思い返しても何一つ意味のない俺の全てだ。
 自己満足にすらならない、俺の所業の全てだ。
 隠しただけだ。
 それだけだ。
 考えたくない。
 それだけだ。
 誰があの男と女を殺したか。
 胸の心臓の位置に空いた穴は何か、どう言う風に近くの建物は解体されたのか、それらを繋ぎ合わせるとどうなるのか、考えたくない。
 考えれば簡単に真実に辿り付けそうだから、考えたくない。
 考えたくない。
 俺は、考えたくない。
 最悪のシナリオを、考えたくない。
 早くめだかちゃんに会ってめだかちゃんを止めたいし、それと同じくらい今はめだかちゃんと会いたくない。
 めだかちゃんを止めたい。
 めだかちゃんを止めなくちゃいけない。
 だけど俺は。
 このままじゃ俺は。

 オレハ
 ドウスレバ
 イインダロウ?

【1日目/早朝/B-2】
人吉善吉@めだかボックス】
[状態]球磨川に対する恐怖(抑えている)、身体的疲労(小)、精神的疲労(大)
[装備]シャベル@現実、アンモニア一瓶@現実
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)
[思考]
基本:不知火理事長を止める。
 1:戦場ヶ原とともに行動。
 2:箱庭学園にも行ってみたいけどしばらくは我慢する。
 3:男の死体の事は隠し通す。
 4:もしまた球磨川に会ったら…?
[備考]
※庶務戦終了後からの参戦です。
※「欲視力」は規制されてないようです。
※男(阿良々木)の死体に関して戦場ヶ原に隠しています。
※B-2の死体は誰が殺したかは考えないようにしています。

戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]右足に包帯を巻いている、嗅覚麻痺
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)
[思考]
基本:とりあえず殺し合いには乗らない。
 1:人吉君と行動。
 2:万が一阿良々木くんが殺されるようなことがあれば、殺した奴を殺す。
 3:この辺りを探索する。
[備考]
※つばさキャット終了後からの参戦です。
※嗅覚麻痺がどの程度続くかは後の作者さんにおまかせします。

魔のつく二人の人探し 時系列順 「鬼」そして《鬼》
あの人ならきっと 投下順 不問題
喫茶店でのお知らせ 人吉善吉 傀 コヨミモノ 物 ガタリ 語
喫茶店でのお知らせ 戦場ヶ原ひたぎ 傀 コヨミモノ 物 ガタリ 語

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最終更新:2012年10月02日 08:48