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Yagami帝国興亡史:第二章

Yagami帝国興亡史:第二章『ミネルヴァ城謁見事件』その二

後にyagami帝国騒乱時代と呼ばれるこの時代を語る上で、代表的な資料といえば後世に生きる者達は2つを取り上げる事が出来る。
一つは北方圏の資料である『八神帝国史』、もう一つは南方圏の資料である『パラレル・グラウンド騒乱時代史~yagami専制体制への自由主義者達の活動と抵抗、そして混迷~』(大抵は騒乱史と略される)、この二つである。
北方圏と南方圏、それぞれ異なる文化圏の双方が、八神とyagamiと書き方は違っても互いの歴史書に八神はやての名前を入れてある事は注目に値するであろう。
それ程にこの時代を語る上で、八神はやてと彼女が築き上げた帝国は欠かせないファクターだったといえる。
この二つの史書はそれぞれ書かれた文化圏が違う事から、その書き方にも違いが見られる。
『八神帝国史』は王侯制国家の文化圏である北方圏らしく、格調を重んじた文語体による紀伝体形式の歴史書。
ちなみに紀伝体とは、簡単に言うならその時代に活躍した主要な人物達の列伝を集積して掲載し、それによってその時代を把握させる書き方である。
一方、『騒乱史』は市民共和制国家が多い南方圏らしく、わかりやすい口語体による編年体の歴史書。
編年体とは紀伝体形式とは逆に、何年何月に何があった~と時系列毎に起こった出来事を記載していく書き方である。
紀伝体の『八神帝国史』ではこの時代に活躍した無数の人物達の伝記が掲載されており、各人の事を詳細に知り、その動向を追っていく場合には適しているが、
その分全体の流れを把握する為には複数の伝をあたってクロスチェックしてまとめたり、編年体の資料を参照する必要がある。
一方の編年体である『騒乱史』は時代全体の流れを把握するには適しているが、各登場人物達の詳細を知るためにには、
それぞれの人物の動向を追ってまとめたり、紀伝体の資料を参照する必要がある。
そういう意味で、この二書はお互いの欠点を補完しうるという点で、書かれた立場が間逆であるという点からも、この時代を語る上で併用すべき資料であるといえる。
そして編年体である『騒乱史』が最初に筆を起こしているのが、これから述べる事になるミネルヴァ城謁見事件であった。
同書ではそれ以前の八神王国(当時はまだ八神はやては帝を称してはいなかった為、呼称は王となっている)の膨張、
そしてなのは・フェイトの2女王の亡命にいたるまでの流れを前置きとして簡素にまとめて(それでもある程度の量はあるが)説明し、
その上で第一巻第一章の最初にこの事件をとりあげている。
比較的近い後代から見てこう書かれている事からも、この時代の騒乱がここから始まったという認識は早くからあったのであろう。
さてそのように認識されたミネルヴァ城謁見事件とは、果たしていかなる事件であったのだろうか。



時は北方暦1197年(南方暦では891年)5月21日。
この世界、パラレル・グラウンドの神聖血統である鳳皇圏の第一皇子シン・アスカが城主を勤めるミネルヴァ城。
その謁見の間に二人のゲストが訪れていた。

「高町王国なのは女王、テスタロッサ王国フェイト女王、おなーりー。」

よく通る鈴のような声が発せられたのは謁見の間の入り口扉の傍ら。そこには赤毛をツインテールにした一人の少女が佇んでいる。
ややおっとりめの顔立ち、緑を基調としたメイド服を身にまとった年のころなら15、16程の女性従者。
彼女の名はメイリン・ホーク。この時シンと同じく16歳であったと伝えられている。
姓から伺えるように、シンの護衛兼専属従者であるルナマリア・ホークの妹である。
姉妹ではあるが、活発で積極的なルナと違い、どちらかというと穏やかでおとなしめの性格であり、
シンからも年は同じなのだがどこか妹のように接されていた。
彼女は声がよく通る事から、式典の行事や来客名の読上げ役なども勤めている。
そんな彼女の傍らを通り過ぎ、二人の若い女が並んで歩いていく。
一人は白を基調とし青であちこちの縁取りがされたワンピース形式の法衣服に身をまとった、
年のころなら10代後半から20代初めになるかならないかの女性。
栗毛ポニーテールが特徴的で、その顔立ちには落ち着いた中にも、輝くような明るさがよくあらわれている。
その隣で歩むのは白マントを羽織ながら、その中にグレーを基調とした法衣服を身にまとった、これまた年の頃なら10代後半から20代初めになるかならないかの女性。
長い金の髪、シャープに知的で美しい容貌、傍目にもわかるグラマーなスタイル。彼女はそんな特徴と一見反する優しく穏やかな笑顔を浮かべている。
栗毛の女性の名を高町なのは、金髪のほうの女性の名をフェイト・テスタロッサといった。
いずれも先に八神王国の侵攻によって占領された高町王国とテスタロッサ王国のそれぞれの女王である。
二人の着ている服が法衣服であるのは、この時代における正装として法衣服が認められていたゆえであろう。
敗軍の戦場から急遽離脱した二人としては、謁見に際しての着衣に法衣服を選んだのは無理の無い選択といえた。
やがて城主の席に座るシンの前から、少し離れた場所に着いた二人は、その場に片膝をついて拝礼する。

「高町王国女王なのは、本日は皇子様にお目通りの機会を頂き、光栄の極みにございます。」
「同じくテスタロッサ王国女王フェイト、突然の訪問を受け入れて頂けました事、心より感謝いたします。」

二人の女王の礼を尽くした言辞と所作は、さすがに様になったものであり、シンをして内心で感嘆させるに十分であった。
しかし、国運がかかった問題としては、それだけで判断を下すわけにもいかない。
そんな事をシンが考えていると、不意になのはがその顔に穏やかな笑みを浮かべ、口を開いた。

「それにつきましても、久しくお見かけしないうちに皇子様もご立派になられ、嬉しく思います。」

その暖かな口調と笑顔が不意にシンに昔の情景を思い出させた。
過去、幼き日に二人と出会った時の追憶がありありと彼の眼前によぎる。
広い王宮の一角にある庭園の中、咲き誇る花達に囲まれて遊ぶ三人の子供達。
そのうち一人はまだ皇太子ではなかった頃の自分、そしてそれにまとわりついて楽しげに遊ぶ二人の少女は未来の女王。
それは10年近い歳月を経た後も、決して色あせない温かな情景。



かつて黒髪赤眼の少年は幼き日々にいくつかの国を回った。
シンが属する鳳皇圏はこの世界における神聖血統であり、基本的に中立にして公明正大、そして博愛を旨とする。
それ故にこそ国力的にはそれ程大きくなくとも、これまで存続しかつ全土からの尊崇を維持し続けられたのである。
しかし、これはただそれに胡坐をかいていられる類のものではなく、
歴代の鳳皇達はそのポジションを維持する為、外交において細心の注意と配慮を重ねてきたのであった。
その一環として行われていたのが、各国への皇族親善大使の派遣である。
シンの両親は中位程の貴族ではあったものの一応皇族の血に連なっていた。
故に各国との外交交渉ではなく、
親善大使としては(言ってみれば言質に重要性が特に無く、単に友好表明の象徴という意味で)使いやすかったという点があり、
その付属品としてシンもあちこちに派遣された。
その彼が最初に赴いたのが近場にあった高町王国である。
そしてその国の王女なのは、隣国の王女でありながら高町王国に預けられていた一人の王女、フェイトと出会う。
しばらくその国に滞在していたシンは、年が近かった事もあり、やがて二人と打ち解け親しんだ。
そして少年は二人の少女に告げた。「俺が守ってあげるから」と。

それは一見少年の日の美しい思い出のようではあるが、10年近い歳月を経てお互いに様々な立場というものがついた後では、
極めてデリケートな問題とならざるを得ない所があった。
いってしまえば、これを拡大解釈すれば「鳳皇圏の未来の鳳皇が2国の女王に対して婚約した」とも言えるわけであり、
それは現在の状況から見て只ならぬ未来へ繋がる可能性を多分に含んでいた。
しかし、そんな世俗の事情をも一瞬忘れさせる程になのはが発した言葉と、それによって思い起こされた過去の追憶は強烈だった。
そしてそれがシンの口から思わず自然な言葉となって流れ出た。

「俺も二人に会えて嬉しいよ。綺麗になったんだな、二人とも。」

言ってから思わずシンはハッとする。
自身の左右に控えるレイとルナが思わずこちらの顔を振り向くのが見えた。
格式を無視したその言葉によって、
3人の会話は「鳳皇圏の皇子と二人の亡命女王の外交交渉」から「3人の幼馴染の昔語り」へとその様相を変えた。
しかし、一旦過去の懐かしさに包まれたシンの心は留まる事が出来ない。

「ありがとう、シン君。昔の事をちゃんと覚えていてくれたんだね……嬉しいな。」
「私たちもシンの事をずっと覚えていたんだよ。
だってあんな事があったんだから。」

シンの言葉に対し、なのはとフェイトも先ほどとは打って変わった、打ち解けた言葉遣いで語りかける。
それに対しシンの隣でルナが「あんな事って何よ、あんな事って!」となにやら小声でいいながら動揺しているが、
シン自身にはそれが何を意味するかは明白にわかった。



「忘れるわけないだろ、二人との思い出は俺にとっても大切なものなんだから。」
「シン君。」
「シン。」

またしても自然に放たれたシンの言葉に、なのはとフェイトがそれぞれ喜びに満ちた暖かな微笑と共に答える。
その笑顔と交わされる視線は三人を遠い過去の追憶へといざなうようであった。
しかし不意にルナがこわばった笑顔のまま、
シンの肩を強くつかんだ事で黒髪赤眼の皇子は現実に引き戻された。
そのままルナは傍に近づいて耳打ちする。

「ちょっとー、どうなってんのよ。何いい感じになってんのよ。
お見合いやってんじゃないのよ?」
「ル、ルナ、落ち着けよ。」
「落ち着いてられるわけないでしょ! 何を考えてるのよ! 
国家の浮沈がかかってるってわかってるわけ?」

小声だが強い口調でまくしたてるルナに対し、
シンが口を開きかけた時、不意に出入り口のほうから扉が開く音が響いた。

「ん?」
「何かしら?」

シンとルナの二人が視線を向けた先、つまり出入り口の扉の前には見慣れぬ幼女の姿が見える。
背丈からすれば年の頃は5、6歳といったところか。
遠くからでもわかる美しい金の長髪をした、
白を基調とし青の縁取りがされたフリルの少女用ドレスを身にまとった幼女。
なにやら走ってきたのか、肩で息をしている様子が伺えた。

「誰かしら?あの子。」

ルナの問いに対して、無論シンも答える術がない。
すると幼女が一声大きく声を上げた。

「ママ!」

そういって幼女は走り出し、なのはの元に駆け寄る。

「どうしたの、ヴィヴィオ。」

そう言ってなのはは駆け寄ってきた幼女を優しく抱きしめた。

「どういうことかしら? ママって言ってたけどあの子はなのは女王の娘って事?」

そういってルナがレイに視線を向けるが、レイも困惑している。

「話の筋から言えばそうなるが、俺は彼女にあんな年頃の娘がいたなどという話は知らない。
シンは知っているか?」

その問いにシンが答えようと口を開きかけた時、再び幼女が声をあげるのが聞こえた。

「パパ?」

幼女から何気なく放たれたその一言。
それが発せられた次の瞬間、場の空気が硬直した。

後世にミネルヴァ城謁見事件として末永く語り継がれる事になるこの日の出来事は、
当事者達の事前の予想を大きく裏切りつつ、早くも第二幕に移ろうとしていた。

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最終更新:2011年06月07日 11:46
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