Happy Birthday~真編~

菊地真のバースデイ


 ――時を一週間前まで遡ってシンは夢を見た。
 バースデイライブを控え、真と二人で現地の下見に行ったときのことだ。

「シン、会場のチェックは終わったのになんでこんなところまで調べてるの? ボクがリハーサルやってた
ときもどこかに行ってたみたいだけど」
「一応、念には念を入れてな。毎度毎度とんでもない目に合わされてるし……」

 ここは袋小路だから曲がったら駄目だな、と呟きながらシンは地図に×印を付ける。
 すでに会場から半径300m以内の道は完全に把握していた。いつものライブならここまでやる必要など
ないのだが、真の……しかもバースデイライブとなれば徹底的にやらなければならない。

「なんのことか分からないけど、大変そうだね」
「まぁな。あ、当日までには真にも渡せると思うからちゃんと確認してくれ」
「う~ん、イマイチ話が見えないけどわかった……あ」

 退屈そうに辺りを見渡していた真の足が止まった。やや遅れてシンも立ち止まって振り返る。

「どうした真」
「え!? いや、なんでもないなんでもない!」

 わずかに頬を朱に染めながら真はズンズンと先に行ってしまった。
 何かあったのかとシンは真が立っていたところを見やる。

「……あぁ、そういうことか」

 苦笑しながらシンは真の背中を追いかける。

 ――どういうわけかまったく見当がつかなかったが、シンは何故かそのときのことを夢に見ていた。



「……って思ったけど理由なんてのはこの状況だけで充分なんだよなぁ!」
「何言ってるのか分かんないけど今はとにかく逃げたほうがいいと思うんだけど!」
「いい考えだ! 何も考えず走れーーー!!」

 ……バースデイライブが終わってすぐに、シンは『真王子ファンクラブ』――菊地真の女性ファンのみで構成された精鋭たち――に追いかけられていた。
 真はライブ衣装のタキシードを着替える暇もなく、なんとかシンと合流して裏口から出たものの待ち伏せ
を受け今に至る……というわけだった。

「ちぃっ! またあの赤目がついてるわ!」
「いつもいつも邪魔ばかり……真様、今お助けします! その悪い虫を排除して!」
「うぉぉぉぉぉぉい! なんか物騒なこと言ってるぅ!?」

 いつも以上に殺気をみなぎらせているファンの群れに怖気を感じながら――何故か嫌な既視感を覚え
たが――シンは真の手を引いてひたすらに逃げの一手を打っていた。
 いくらなんでも早すぎるその襲撃にシンは渡しかけていた真へのプレゼントを片手に抱えたまま街を
駆け抜ける羽目になった。
 事前に周辺の道を調べていたからよかったものの、その圧倒的な物量にかろうじて地の利でしのいでい
る状態だった。

「とにかく振り切らないとな……ってうわっ!?」
「シン!」

 逃走ルートをざっとシミュレートしていたシンは脇道で待ち構えていた別働隊の奇襲に動揺し、持って
いたプレゼントを落としてしまった。

「しまっ……!?」
「シン!? 逃げないと!」
「けど!」
「早く!」

 今度は逆に真に手を引かれ、シンはつんのめりそうになりながらも走り出す。
 ……一度だけ振り返ったが、小さな包みはもう見えなくなっていた。



「な、なんとか振り切ったみたいだね……」

 荒い呼吸を繰り返しながら真は自分に確認するように呟く。
 すでに日は暮れ、辺りに人の気配は少なくなっていた。真のファンたちももう諦めたらしい。逃げ切れた
とはいえ数時間に渡ってしつこく追いかけてきたのだからその情熱は大したものだが。

「…………」
「シン?」

 壁に背をつけてうなだれたまま何の反応も見せないのを怪訝に思ったのか、真はシンの顔を覗きこんだ。
 ……覇気のない瞳、精も根も尽き果てたとでも言うような顔がそこにあった。

「――悪い、真のプレゼント落とした」

 せめてもっと後にでも渡しておけば、そう考えれば考えるほどにシンは後悔の念に押しつぶされてしま
いそうだった。

「いいって、あんなことがあったんだから」
「でも……」
「それより大丈夫? ボクはなんとか怪我もしなかったけど」

 弱々しく首を振るシンを見て真はホッと息をついた。

「よかったぁ。シンのおかげで助かったのにシンが怪我なんてしたらどうしようかと思ったよ」
「大げさだって……それに俺がしたことなんて辺りの道を見てただけで」

 ――そのとき、シンの脳裏にある光景が蘇った。
 それは今朝見た夢、より正確に言えば一週間前の……

「真!」
「え!? な、なに?」

 いきなり腕を掴まれて目を白黒させる真だったが、次いで告げられたシンの言葉にさらに驚くことになっ
た。

「付き合ってくれ!」
「えぇっ!?」



「……まぁさ、そういうことなんだってことはなんとなく分かってたよ。分かってたけどさぁ」
「さっきからどうしたんだ真?」
「別に。でもどうしてまたここに? さっきの子たちがまだいるかもしれないのに」

 二人は先ほどまで必死に逃げ回っていた場所へと戻ってきていた。先ほどのシンの告白(のようにも聞こ
えた頼みごと)を受けたはいいが、何をしたいのかがまったく見えてこないことに真は釈然としないものを
感じていた。

「プレゼントの代わり、って言うのもなんだけどさ。何も渡せないのは俺としても避けたいんだ」
「?」
「だから……」

 そこで言葉を切り、シンは足を止める。それに倣って真も立ち止まり、ようやくシンの目的を理解した。

「――これって」
「あぁ、これが俺からのプレゼントだ」

 ショーウィンドウに飾られた一着の真っ白なワンピース。一週間前、真が思わず見とれてしまった一着。
 それほど高級なものではない。しかし心が洗われるような純白な色合いは値段以上の価値があるように
シンは感じていた。
 ……しばらく、真は呆然としていた。
 しかし、

「――ボクには、似合わないよ」

 ポツリと寂しそうに呟いた。

「たしかにカワイイ衣装には憧れてるけど、こういうシンプルにカワイイ服は雪歩みたいな子の方が似合う
なって思うんだ」

 それにほら、と真は手を広げる。あれだけ派手に動き回っていたのに、まるで型にはまったかのように
タキシードを着こなしていた。

「ボクにはこういう服の方が似合ってるから。もし買うことになったとしても自分で買うよ。シンが無理して
プレゼントすることなんてないって」

 それは諦めにも似た言葉だった。ずっと男のように育てられ、それを抜け出すために入ったアイドルの
世界でも男性よりも女性からの方が高く評価されるという現実があった。
 それが分かったからこそ、シンは尚更この服をプレゼントにするべきだと思った。

「――服は眺めるものじゃなくて着るものだ」
「えっ?」
「ってプロデューサーが言ってたんだけどさ。何を当たり前のことをって思ってたけど、馬なんとなくその
意味が分かった」

 一度ワンピースを見て、再び真へと視線を戻す。

「真はこの服欲しいって思っただろ?」
「それは……」

 言葉は返ってこなかった。それを肯定と受け取ってさらにシンは続ける。


「こういうのってさ、なんとなくだけど着たいって思ってる人間が着てこそ本当の価値があるんじゃないか?
ライブの衣装だって、真やみんなが着ているからあんなに輝いているって思うんだ」

 だからこそ、この服を贈りたいとシンは決めた。元から用意したプレゼントも悩んだ末に選んだものでは
あったが、真が本当に欲しがっているこのワンピースに比べれば失っても惜しくないと考えていた。

「あ、それと俺は真にもよく似合うって思うぞこの服。真のイメージカラーって黒だけどさ、たまにはこういう
白いのも……」
「――ぷっ、はははははははは!は」
「ってなんだよ、いきなり笑いだして」
「だって、ははっ! シンの口からそんな言葉が出るなんて思わなかったから……」

 目尻に涙まで浮かべて笑う真を見て今さらシンは気恥ずかしくなったのか顔を赤くして視線を逸らした。

「……で? 結局欲しいのか欲しくないのかどっちなんだよ」
「ゴメンゴメン、そこまで言われちゃ受け取らないってわけにはいかないよね」

 滲んだ涙を拭い、真はうやうやしく頭を下げた。

「それじゃ、喜んで受け取ります! へへっ!」

 ――その一礼は、シンが妙な悔しさを感じてしまうほどに決まっていた。



<後日談>
シン  「あ~、買えたはいいけど結局痛手に変わりはないんだよなぁ」
小鳥  「シン君、あいかわらず餓えてるみたいだけど大丈夫?」
シン  「朝飯はトースト一枚でした……」
小鳥  「そ、それはまた悲惨ね」
まこちー「やー(ピコピコ)」
シン  「まこちー、慰めてくれるのはいいけどそれじゃ腹は膨れ……ってなんですかこのファンシーな服」
小鳥  「三日三晩寝る間も惜しんで作ったわ(ギラリ)」
シン  「いやちゃんと仕事してくださいよ」
小鳥  「ほら、この子も一応真ちゃんと誕生日いっしょってことにしたから」
シン  「……そういえばそうでしたね。悪い、俺からは何もあげてやれなくて(なでなで)」
まこちー「へへっ!」
小鳥  「ふふっ、褒められて嬉しいみたいね」
シン  「これくらいしかできないのはなんか申し訳ないですけどね」

 ――ガチャリ

真   「おはようございまーす!」
小鳥  「おはよう真ちゃん……あら?」
シン  「あぁ、おはようまこ……と!?」
真   「へっへー、どうですかこの服!」
小鳥  「とっても似合ってるわ真ちゃん。素敵なワンピースね」
まこちー「まきょー……」
真   「あ、お前もカワイイのプレゼントしてもらったんだ。よかったなぁ(なでなで)」
まこちー「やー!」
シン  「…………」
小鳥  「シン君? どうして明後日の方を向いてるの?」
シン  「え? あ、いや、その」
真   「ねぇねぇ、シンはどう思う? この服」
シン  「おい真……」
小鳥  「こーら! ここはちゃんと感想を言わないと」
シン  「う……」
真   (ニヤニヤ)
シン  「――に、似合ってる」
真   「ホント?」
シン  「あぁ」
真   「ホっントーにホント?」
シン  「だぁっ! しつこいな! 似合ってる! 想像してたよりもずっと似合ってるよ!」
真   「やーりぃ! その一言が聞きたかったんだよなぁ」
シン  「……意外に性格悪いなお前」
真   「あ、ひどいなー。ボクはただ率直な感想が聞きたかっただけなのに~」
シン  「だからって昨日の今日で着てくるか普通!? っていうか今日はオフだろ!?」
真   「家で着てみたらみんなに自慢したくなっちゃって」
シン  「あのなぁ……」

小鳥  「…………」
まこちー「?」
小鳥  (真ちゃん<言葉攻め>×シン君<総受け>=ヘヴン状態!)
小鳥  「今月の妄想はこれで決まりね!(ベキッ!)」 ←ボールペンへし折った。
まこちー「まきょー……(ブルブル)」





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最終更新:2008年11月07日 00:08
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