三浦あずさ永遠の20歳記念~あずささんハッピーバースデイ!~
「…………」
都内某所、某大型テーマパーク。
その入り口で、シン・アスカは佇んでいた。
時計を見やる。正午を少し回った頃だった。
「………………」
無言で携帯電話を取り出す。アドレス帳からとある電話番号を引き出したところで、ふと近づいてく
る人影に気が付いた。
「シン君、おはようございます~」
おっとりとした声音で頭を下げる女性――
三浦あずさを見て、シンは小さく溜息を吐いた。
「……あずささん、今何時か分かってますか?」
「え? え~と……12時5分、よね?」
「はいそうです。そして10時集合だってちゃんと伝えましたよね」
あら? と意外そうな声を上げていそいそとスケジュール手帳を取り出した。
きちんとメモを取っているのは評価したいのだが、それで遅れてしまうのはどうなんだろうかとシン
は思わないでもなかったが。
「あ……そうだったわねぇ。ご、ごめんなさいね~」
申し訳なさそうに頭を下げるあずさだったが、すぐにパッと何か閃いたように笑顔を見せた。
「それじゃあ、『おそようございます』じゃないといけないわね~」
――駄目だこの天然。早くなんとかしないと……
頭を抱えつつもシンはポケットからチケットを二枚取り出し、入り口を指差す。
「とりあえず早く行きましょう。下見だけだからって時間を無駄にできませんし」
「そうね、それじゃあ行きましょう」
「あずささん、そっちは出口です」
「あら~?」
首根っこを掴んだままズルズルとあずさを引きずり、シンはテーマパークの中へと足を踏み入れた。
平日だというのに園内は人で賑わっていた。よくよく見てみれば家族連れがほとんど、カップルも
いるにはいるが数自体は少ないようだった。
――客層としては広い年齢層が多いのか? でも真のときはえらく女の子が多かったよなぁ。
過去の騒動を思い出して季節外れの寒気に襲われる。その様子を見たあずさが心配そうにシン
の顔を覗きこんだ。
「どうしたの? ちょっと顔色が優れないようだけど……」
「え? い、いや大したことないですよ。ちょっと真のライブのことを思い出しただけです」
顔を近づけてくるあずさからシンは距離を取る。ふわりと鼻をくすぐる香りに知らず頬が熱くなるの
を感じて顔を背ける。
「真ちゃんの……あぁ、話には聞いてたけど、大変だったみたいねぇ」
「命の危機すら感じましたよ、あのときは……」
昨日のことのように思い出せるのに、もうかなりの時間が経ったような気もする。それだけこの間に
いろいろあったのだと思うと、シンの中で複雑な感情が生まれた。
「うふふ、でもあの頃から真ちゃん、それに雪歩ちゃんも変わったわよねぇ」
「……あれですか。勘弁してくださいよもう」
「千早ちゃんも秋スペのあたりからけっこう変わったわね~」
「いや、だから勘弁してくださいって……」
思い返せばかなり恥ずかしいことをしでかしたことに気付かされ、シンはまたも顔を赤くした。
「あ、そんなことより本当によかったんですか? 今日
誕生日なのに次のライブの下見だなんて」
「そ、それは……ほら、この年にもなると誕生日を祝ってもらうのは、ちょっと恥ずかしいじゃない?」
気恥ずかしそうに照れた顔を見せたあずさを見て、シンはどこかで似たようなことを聞いたことを
思い出した。
――そういえば、律子さんもそんなこと言ってたっけ。
その気持ちがいまいちよく分からないシンだったが、本人がそう言うのだからそうなのだろうと
納得することにした。
「でも、みんなのことだから何か準備はしてるんでしょうね~」
「あ、あはは……どうなんでしょうね」
バレてるし、と胸中で冷汗をかくシンをよそにあずさはフラフラと周囲のアトラクションを眺めていた。
「あんまり離れないでくださいよ、探すの大変ですから」
「心配しなくても、そう簡単には迷わないですよ~……あら? あれは何かしら~?」
「って言ったそばからどこ行こうとしてんですかあずささんっ!?」
かろうじて見える跳ねるアホ毛を見失わないように、シンは人波を掻き分けていった。
「楽しかったわね~」
「……俺はかなり限界っぽいですけどね」
身体を引きずるように歩きながら、まだまだ元気なあずさの背中をシンは見つめる。
――プレゼント、買えなかったな……
あの後、延々と園内を彷徨ってはシンが追いつくと同時にアトラクションに乗ったりショーを見たり
とほぼ丸一日かけて隅々まで回ってしまったのだ。
早々に下見を済ませてプレゼントを探すつもりだったシンは予想外の出来事に完全に参ってしまっ
ていた。体力的にも精神的にも。
「もうすぐ事務所ね~。みんなどうしてるかしら~」
「……あずささん」
そんな状態だからか、シンは今すぐに正直に謝ってしまおうと思い立っていた。
それが何の解決にもならないと知りながらも、このまま何も言わないよりはマシだろうと。
「あの、俺……」
「あらぁ? シン君、靴紐がほどけてますよ~」
「え?」
反射的にわずかに屈んで靴を見る。右、左と確認したが、どちらも固く結ばれていた。
「――? ほどけてなんかないですよ……」
と顔を上げようとしたところで頭を抑えられる。ほっそりとした指が前髪をかき上げる感覚に戸惑い
を覚え、そして……
――ちゅっ。
額に何かが触れた。俯いた状態、それも一瞬だったのでそれが何なのか分からなかったが、ふと
思い当たったものに弾かれたように顔を上げた。
「いっ、今っ!?」
「うふふ……シン君、今日はありがとう」
いつの間にか数歩先まで歩いていたあずさが振り返り、シンに深々と頭を下げる。跳ね上がった
髪が悪戯っぽく揺れていた。
「素敵なプレゼントだったわ。またいつか、いっしょに遊びましょうね~」
そのまおっとりとした歩調で事務所への道を進み出す。
自分とそう大差ないはずの背中をいつもよりも大きく感じながら、シンは苦笑を漏らした。
「苦手……っていうか、敵わないな」
結局、自分も含めてみんな見透かされていたのだと気付いたシンは、幾分か軽くなった足取りで
あずさを追いかける。
――帰ったら、またいつもの調子になるんだろうな。
その予想に違わず、事務所で盛大な歓迎を受けたあずさはいつも通りの天然っぷりを発揮した。
……時折、目が逢うとウインクをしてくるあずさを見て千早の「何かあったの?」と言いたげに訝し
げな視線を送られたシンは少し居心地が悪かった。
最終更新:2008年09月22日 02:28