これまでの
登場人物紹介(注:以下の登場人物は全て本ssのオリジナルキャラクターです。捏造です)
ハイネ・シュト―レン:未来から来たフォルテの長女を名乗る十代前半の少女。
ルナ・フランボワーズ:蘭花の娘だという十歳前後の自称未来人。
レイ・ブラマンシュ :赤い瞳以外は「母親」と瓜二つなミントの子供を自称する少女。
ステラ・アッシュ :ヴァニラの面影を持つ時を翔ける幼女
偽ミルフィーユ :ミルフィーユ・桜葉と全く同じ容姿の謎の少女。本名不明。
前回までのあらすじ:にせミルフィーユ が あらわれた?
子供の頃、両親を目の前で失ったあの日から、世界は優しくも暖かくもなくなった。
お菓子作りの達人だった母も、「別の宇宙の御伽噺」をよく聞かせてくれた父も、あの時のわたしの世界そのものだった人達は、あの日の血と炎の海の中に消えてしまった。
だからわたしは、〝力〟を求めた。
守られるだけの無力な自分が悔しかったから、これ以上何も失いたくなかったから。
全てを薙ぎ払いながら全てを守る、絶対的な〝力〟が欲しかった……。
一体自分は何をやっているのだろうか……迷路のように入り組んだ通路を右へ左へと駆け回りながら、彼女は自己嫌悪に沈んでいた。
見た目はまるで母親の生き写しだと親類知人一同から口を揃えて言われる自分だが、しかし中身の方は父親の血を色濃く受け継いでいるらしい。
他人よりも少しだけ恵まれた運動神経はともかく、この短気な性格や運の悪さまで親譲りというのは正直言って勘弁して欲しかった。
おかげでただでさえややこしかった話は更に拗れ、自分は侵入者として追手から逃げ回る羽目に陥っている。
更に悲惨なことに、ブリーフィングルームを飛び出してから十数分、一体どのような道順でここまで来たかなど覚えていなかったりする。
言葉を選ぶことなく率直に言えば、彼女は今、現在進行形で迷子になっていた。
実は両親共通のドジまで遺伝しているのだろうか……?
不意に浮上した新たな疑惑を必死に頭から振り払いながら、十数分前にミルフィーユ・桜葉の偽者と断じられた桜色の髪の少女はもう何度目かも分からぬ十字路を曲がる。
だが曲がり角に飛び込んだその先に――、
「――――っ!?」
――彼女の進むべき道は、無かった。
袋小路に入り込んだ訳ではない。ただ比喩無しに、偽ミルフィーユの前に通路が存在していなかったのだ。
眼前に広がる景色は断崖絶壁――天井は崩れ落ち、壁は抉り取られ、途中から消失した床の下には奈落の闇が広がっている。
まるでピンポイントで災害にでも見舞われたかのような破壊の跡を前に、偽ミルフィーユの脳裏に、痴情のもつれから暴走する鋼鉄の蟷螂と刃金の巨人の姿が過った。
どちらもつい一時間ほど前の出来事、忘れたくても忘れられない悪夢である。
床板を踏み締める踵に体重を乗せ、偽ミルフィーユは咄嗟にブレーキをかけた。
慣性に引かれて傾く身体を無理矢理持ち直し、〝崖〟の間際で辛うじて踏み止ま――れなかった。
気をつけよう、車は急に止まれない……(字余り)。
今週の軍内標語が頭の中で無意味にリフレインする中、重力に引かれて奈落の底へと落下する偽ミルフィーユの手首を、その時誰かが掴まえた。
反射的に顔を上げた偽ミルフィーユの眼に飛び込んできたものは、まるで鏡合わせのように自分と同じ顔を持つ桜色の髪の少女……〝本物のミルフィーユ・桜葉〟だった。
「お、重い……」
必死の形相で自身の偽者を支える本物のミルフィーユが吐露した、余りにも正直過ぎる本音に、偽ミルフィーユの額に青筋が浮かぶ。
だが次の瞬間、事態の深刻さを把握した偽ミルフィーユの顔が蒼白に変わった。
同じ顔でも“自分とは違い”ミルフィーユ・桜葉という少女は身体能力に秀でている訳ではない、寧ろ運動神経は常人以下と称しても過言ではないだろう。
士官学校を首席で卒業した秀才ではあるが完全な内勤型、それが軍の個人データや過去の経歴から判断したミルフィーユの分析結果だった。
当然、彼女に〝自分の偽者〟一人を持ち上げられるだけの腕力など期待出来る筈が無い、このままでは二人とも落ちるのは時間の問題だろう。
「は、離して下さい! このままじゃ二人とも落ちちゃいます!!」
慌てたように叫ぶ偽ミルフィーユの科白にミルフィーユは一瞬唖然としたような表情を浮かべ、しかし次の瞬間、
「な、何馬鹿なこと言ってるんですか! 駄目です、わたしが手を離したらあなたが落ちちゃうじゃないですか!?」
と、憤然とした顔で至極当然な言葉を返したのだった。
ごもっとも……ミルフィーユの正論に偽ミルフィーユは一瞬思わず一瞬口を噤む。
だが、すぐに殺がれた気力を取り戻し、理屈による説得を放棄して力押しでの恫喝に切り替える。
手段を選んでいる暇は無い、自分はミルフィーユ・桜葉を、この人を今ここで死なせる訳にはいかないのだから。
「離して!」
「駄目です!」
「いいから離せ! この馬鹿!!」
「だから嫌です! この分からず屋!!」
文字通り崖っぷちに立たされていながら、しかし自分達の状況をまるで分かっていないかのように、二人のミルフィーユは子供じみた言い合いを展開する。
だが二人の命懸けの口喧嘩は、決して長く続くことは無かった。
ミルフィーユの足元の床が、がらりと音を立てて突如崩れ落ちる。
一瞬の浮遊感の後、虚空に投げ出された二人の少女は悲鳴と共に奈落の底へと落下し――なかった。
誰かに掴まれたような痛みが足首に走り、同時にがくんという衝撃がミルフィーユを襲う。
気がつけば、ミルフィーユはまるで逆立ちしたように上下逆の体勢で、闇の中に宙づりになって静止していた。
限界まで伸ばされた右腕の先は、呆然とした顔で〝自分達〟を見上げるもう一人の自分に繋がっている。
掴んだ手は、未だ離れていない。
そしてミルフィーユの足首は、彼女でも偽ミルフィーユでもない〝誰か〟によって掴まえられていた。
か弱い女の子への気遣いなど微塵も感じさせない、背中の向こうの〝誰か〟の乱暴な握り方に、ミルフィーユは小さく苦悶の声を漏らす。
「痛いよ、――シン君」
「仕方ないだろ」
ミルフィーユの抗議の声に、“彼女二人分の体重を支えている”その誰か――シン・アスカは憮然とした表情を浮かべ、ぶっきらぼうな声で言い返した。
「引っ張り上げるぞ。じっとしてろよ?」
シンの言葉にミルフィーユは「うん」と首肯し、改めて偽ミルフィーユの手首を両手で握り直す。
「シン君、良いよ」
ミルフィーユの合図にシンも頷き、足首を掴まえている右腕に力を籠める。
ゆっくり引き上げられていく二人のミルフィーユ……その時、逆立ちになった方のミルフィーユはふと、自分の今の状況を思い返してみた。
今シンは、偽ミルフィーユの手首を掴んだミルフィーユの足首を掴み、上へ引っ張り上げている。
つまりシンは今、ミルフィーユのスカートを下から覗き込むような体勢で踏ん張っているのであり……――、
そこまで思い至った瞬間、ミルフィーユの思考は爆発した。
「ちょ、シン君どこ見てるのっ!?」
「うぉわ!?」
突然怒号を上げながら暴れ始めたミルフィーユに、シンが狼狽えたような声を上げる。
「お……おい、こら! あんた何やってんだよ、ミルフィーユ!? じっとしてろって言っただろ!?」
「そんなことよりシン君! あなた、わたしのパン……パンツ覗いたりしてるよね!?」
「断定系!? 断定系なのか!? 俺がお前のパンツ覗いてるってゆーのは確定なのか!?」
「パンツパンツ連呼するなぁーっ! シン君のラッキースケベ!!」
「連呼してんのはあんただろーが! あんた一体何なんだーっ!?」
ぎゃーすぎゃーす。
命を賭けた崖っぷちの口喧嘩、その第二ラウンドが唐突に始まってしまった。
頭の上で展開される、夫婦喧嘩とも夫婦漫才ともとれる二人のやり取りを、偽ミルフィーユはただ唖然と見上げることしか出来なかった。
こいつらは今の状況を解っているのだろーか……果てしなく嫌な予感が偽ミルフィーユの脳裏を過る。
そしてその予感は、この上なく最悪の形で現実のものとなった。
シンの足元の床が、がらりと音を立てて突如崩れ落ちる。
一瞬の浮遊感の後、虚空に投げ出された一人の少年と二人の少女は――、
「うぇええええええええっ!?」
「ちょ、嘘だろぉおおおおおおおっ!?」
「あーもう! このバカカップルぅううううううっ!!」
――悲鳴と共に、奈落の底へと消えた。
――時は少し巻き戻る。
偽ミルフィーユが逃亡し、それを追う形でシンも通路の向こうへと消えた後、ブリーフィングルームで気まずい沈黙に包まれていた。
気がつけば本物のミルフィーユも、いつの間にか姿を消している。
まるで時が止まったかのように重苦しい沈黙が延々と続き――、
「……別にハイねぇは嘘言った訳じゃないんだからね」
静寂に耐えかねたのか、蘭花の面影を持つ赤い瞳の少女、ルナが拗ねたような表情を浮かべながら口を開いたことで、時は再び動き出した。
「ハイねぇが生まれる前ってのは流石にちょっと誇張入ってるけど、パパが死んだのがアタシやレイが生まれるずっと前ってことは本当だし、ママ達の娘だってのも嘘じゃない!」
「だからそれがおかしいし信じられないって言ってんのよ!」
縋るような眼で訴えるルナの科白に、蘭花が癇癪を起こしたように怒鳴り返す。
「良い、お子ちゃま達? 赤ちゃんってのはコウノトリが運んでくるモンじゃないの。おしべとめしべ、種と卵の二つが出会って初めて子供ってのは生まれてくるのよ」
「それ位わたくし達だって識っていますわ」
蘭花の言葉を遮るように、今度はミントによく似た紅の瞳の少女、レイが憮然とした顔で口を開く。
「おしべとめしべ、そして苗床となる母体が全て揃って初めて、新しい命は生まれます。でも知ってますか? 今の技術ならそれ全部、人工的に造ることが出来るんですよ」
「まさか、人造人間……!?」
何か心当たりがあるのか、愕然とした顔で呟くミントに、レイは「正確にはクローン培養と人工子宮ですけど」と補足を入れる。
「お母様達は、〝コーディネイター〟という言葉をご存じ――いえ、お父様からもうお聞きになりましたか?」
柔和な微笑みと共に尋ねるレイの問いに、まるで凍りついたようにミント達の顔が強張った。
コーディネイター、それは人の手によって受精卵の段階で遺伝子を操作して生み出された半人造人間。
自然の摂理に背き、人の命と未来を弄ぶ忌まわしき技術の申し子。
露骨に表情を変えたミント達に「ご存じみたいですね」と小さく呟き、レイは微笑の消えた真剣な顔で周囲の「母親」達を見渡しながら言葉を続ける。
「時空震のよってノウハウが消失し、コーディネイト技術は滅びました。しかしその研究は、実は今でも――寧ろ今だからこそ、でしょうか――秘密裏に進められているんです。
偶然確保した〝生きたコーディネイター〟から採取した各種サンプルやデータによって、遺伝子の配列によって何もかもを操る禁断の技術はこの世に蘇りました。
そして復活した遺伝子操作技術の試験体としてオリジナル・コーディネイターの遺伝子データと、「彼」に最も身近な女性達の細胞サンプルを基に造られたのが、わたくし達です」
「「「「……っ!!」」」」
レイの衝撃的な告白に、ミント達が一斉に息を呑む。
顔色の変わった「母親」達を見渡しながら、ハイネがレイの科白を引き継ぐように再び口を開いた。
「研究所は軍に摘発されて、あたし達実験体は各々のベースとなった人達、つまり母さん達に養子として引き取られた。でもそれで「めでたしめでたし」には流石にならないよね?
一度確立してしまった技術はどんなに躍起になっても根っこは必ずどこかに残るだろうし、完全消滅なんてそれこそもう一度時空震でも起きない限り絶対に無理だ。
コーディネイターは人の夢、人の欲、そして人の業の産物。あたし達がこうしている今も、あたし達みたいな〝大人のエゴを押しつけられた子供〟がきっとどこかで生まれてる」
「どんなかたちであれ命はうつくしい、母の言葉にまちがいはない。でも誰かがかってに望んだかたちで生まれて、その誰かののぞんだ通りに生きる命は、本当に生きてるっていうの?」
歌うような口調で横合いから口を挟んだ、ヴァニラを縮小したような緋色の瞳の幼女、ステラに首肯したハイネの朱い双眸が、まるで憎悪に燃えるようにその時鋭く煌めいた。
「それが〝その子達〟の運命だって言うのなら、それは余りにも無慈悲過ぎる。そもそもあたしは、あたし達は、そんなものを運命だとは絶対に認めない!」
だから、とハイネは続ける。
「だからあたし達は決めたんだ。そんなふざけた運命なんて薙ぎ払ってやるって。そんな優しくも暖かくもない未来なんて否定してやるって!」
歴史を改変する、「起きてしまった」悪夢を「無かったこと」にする……。
それがシン・アスカの数奇な運命を遺伝子と共に受け継いだ「子供」達が、時を超えてこの世界にやって来た、最後にして最大の目的だった。
「……それで、貴女方は何をなさるおつもりですの?」
尋常でない「子供」達の覚悟と行動力に蘭花達「母親」が絶句する中、最初に口を開いたのはやはりミントだった。
「――アスカさんを殺しますか? その銃で」
ハイネの右手に握られたままの自動拳銃を一瞥しながら、そう尋ねるミントに、蘭花達ははっと息を呑んだ。
確かにミントの言う通り、〝コーディネイター〟という存在を未来から抹殺したいのならば、始祖であるシンを殺すことが一番シンプルかつ確実な方法である。
剣呑な視線を向けるミントの問いに、しかしハイネは首を横に振った。
「そんなことはしないよ。今更オリジナル・コーディネイターを――父さんを殺したところで意味なんて無いし。……それに〝お姉ちゃん〟まで消えて欲しくないし」
「〝お姉ちゃん〟って、まさか!?」
蘭花の脳裏に、ミルフィーユと瓜二つの顔と、シンと同等の戦闘技術を持つ桜色の髪の少女が浮かんで消えた。
自分達もシンもウォルコット中佐も、皆揃ってあの少女が「ただのミルフィーユに化けた偽者」だと思いこんでいた。
だが、もしも彼女とミルフィーユ、そしてシンの間に血の繋がりがあったとしたら……?
そしてもし、その〝血の繋がりがある者〟同士が、些細な誤解から殺し合いをしていたとしたら。
「……ヤバい!」
最悪の結末が脳裏を過り、蘭花は顔色を失った。
「ノーマッド! シンに緊急連絡、あの馬鹿を今すぐ止めて!!」
基地のセキュリティシステムと一体化したAIに切羽詰まったような声音でそう命令し、蘭花は続いて自身の胸元の通信機のスイッチを入れる。
「シン? シン! ねぇ、聞こえてる!? シン!!」
必死に通信機に呼びかける蘭花の悲痛な声が、ブリーフィングルームに響き続けた。
ただ、強くなりたかった。
全てを薙ぎ払いながら全てを守る、絶対的な〝力〟が欲しかった……。
叔母夫婦の反対を押し切って入学した軍アカデミーでは、ただひたすら勉強と訓練に没頭した。
文字通り「身を削る」努力のおかげでアカデミーは首席で卒業したし、紋章機という「翼」も貰った。
数えきれない程の任務を遂行して――たまに失敗もあるけど――結果が認められて、エリート中のエリートの親衛隊に抜擢された。
強くなった、〝力〟を手に入れた……そう思っていた。
だけどそれは違った。
確かに、わたしは「毅く」なった。
だけどわたしが手に入れたその「毅さ」は、わたしが本当に欲しかった「強さ」ではなかった。
そしてわたしは、そのことに気付いてすらいなかった……。
「……ぅ」
目を開けると、辺りは一面の瓦礫の山だった。
「あ、起きた?」
安堵の表情を浮かべながら自分の顔を覗き込んでいるのは、自分と同じ顔を持つ桜色の髪の少女――ミルフィーユ・桜葉。
「やー、今回は流石に死ぬかと思いました」
「ていうか普通なら死んでると思うんだけどな、俺は」
あははははーと能天気に笑うミルフィーユの軽口に、隣の黒髪紅の少年、シン・アスカが嘆息を零す。
「……落ちたんですね」
遥か頭上に見える、自分達三人が落ちてきた「孔」を見上げながら呟く偽ミルフィーユに、シンが無言で首肯する。
「馬鹿ですよ、あなた達は」
「……あ?」
嘆息交じりに呟かれた偽ミルフィーユの科白に、シンの赤い双眸が険を帯びた。
しかし剣呑な眼差しを向けるシンに構わず、偽ミルフィーユは続ける。
「馬鹿ですよ、大馬鹿です。こんな得体の知れない偽者なんてさっさと見捨てておけば、少なくともあなた達は落ちなくて済んだのに。
救おうとしたつもりですか? ヒーローでも気取ったつもりですか? 不相応な見栄を張って、傲慢の結果が破滅なんて笑えもしない」
「お前……!」
偽ミルフィーユの物言いに、シンが激昂したように声を荒げる。
だがシンが偽ミルフィーユに掴みかかる前に、何かを口にする前に、それよりも先にミルフィーユが口を開いた。
「分かりました! 次は絶対にちゃんと救ってみせます」
「「へ?」」
あまりにも堂々と的外れな科白をのたまうミルフィーユに、シンと偽ミルフィーユは思わず間の抜けた声を上げた。
呆れたような――寧ろかわいそうな人を見るような――生温い視線を向ける二人に気付くことなく、ミルフィーユは言葉を続ける。
墜落して変なスイッチでも入ったのか、今日のミルフィーユは異様にノリノリだった。
「あ、でも「ヒーロー気取り」ってのはちょっと心外かもです。だってわたし達エンジェル隊は銀河の平和を守る正義の味方、正真正銘の「ヒーロー」なんですから!」
そう言って朗らかに笑うミルフィーユに、シンと偽ミルフィーユは揃って息を吐いた。
ミルフィーユの暴走は更に続く。
「――と、言う訳で! ヒーローらしく努力・友情・愛と勝利の三段論法でバーンとここから脱出しちゃいましょう!」
「おいミルフィーユ、お前「三段論法」の意味解ってないだろ?」
「とゆーかそもそも三つですらないですよね。思いっきり四つじゃん」
シンと偽ミルフィーユのツッコミを無視して、一人盛り上がるミルフィーユのテンションは勝手に最高値に達しようとしていた。
「さぁ! イきましょうシン君、あのエンジェル隊の星を目指して」
果たして今の「イく」は行くなのか往くなのかそれとも逝くなのか、ミルフィーユに大いに問い質したいシンであった。
ちなみに屋内でエンジェル隊の星云々のについては敢えて言及を避けてスルーすることにした。
別に下手にツッコミを入れて「気合いで見ろ」と切り返されることを怖れた訳ではない、ないと言ったらない。
などとシンが自己欺瞞に走るその頃、ミルフィーユは新たな標的を偽ミルフィーユに定めていた。
びしり、と指先を勢い良く偽ミルフィーユの鼻先に突きつけたミルフィーユは、しかし次の瞬間、自分が偽ミルフィーユの本当の名前を知らないことに気付いた。
「――えーっと……」
突きつけた指先を下ろすに下ろせぬまま困ったように視線を彷徨わせるミルフィーユに、偽ミルフィーユはこの日何度目かも分からぬ溜息を吐きながら――、
「……マユ」
気がつけば、そんな助け舟を出していた。
唇が勝手に紡ぎ出した言葉は自分の名前……自分がミルフィーユ・桜葉ではないという、〝ミルフィーユ・桜葉にはなれない〟という一番の証だった。
そう、自分はミルフィーユ・桜葉ではない。
自分の名前は――、
「マユ・シラナミ」
……To be continued
最終更新:2008年12月28日 13:17