「脱メフィスト!」という(救い難い)目標を胸に、挑んだ今回。「ち」のお題で選んだのは恩田陸の『チョコレートコスモス』である。
伝説的映画プロデューサの新作に登場するのは二人の女性のみ。そのたった二つの席を巡る、女優たちのドラマ。
恩田作品にはたびたび劇中作が登場する。筆者の演劇に対する嗜好の深さが窺えるのだが、「演劇」自体を題材とする作品は本作が初めて。満を持して、といったところだろう。
明らかに『ガラスの仮面』へのオマージュなのだが、完全にスペクタクルが不足している。読者に『ガラスの仮面』をイメージさせる以上、もっと突き抜けたものが欲しかったところ。
物語自体もトリッキーなオーディション課題に対する、女優たちの平成とんち合戦ぽんぽこで話が終始している印象。一番書きたかった部分だろうし、一番楽しく書いていたであろうとは思うが、どうも盛り上がりには欠けていたのではないだろうか。
ミステリ色はほとんどなく、「冒頭の謎が魅力的過ぎて、読者の想像を超えるだけの結末が用意されずに拍子抜け」というのはなく、話としてはある程度まとまっている。一般的には受けやすい作品かもしれない。ただやっぱり消化不良な感じがする。キャラクター的にもストーリー的にも結末的にも弱い。どうした!? こんなもんじゃないだろう!
この消化不良が、次作(たぶん『訪問者』)できっちり解消されることを願ってやまない。