笑み曲ぐ惡鬼
血で血を洗う戦い、不毛な争いを繰り広げ、いつどこから命を狙われるか分からない戦場。
そんな戦場の中、彼は怯える。逃げる。
物陰に隠れた先には、またしても自分を狩る者が。
味方、いやお互いには傷付けあわないような仲の人達はいる。
彼らは自分と絶体絶命の危機に陥ったとき、真っ先に私を置いて逃げるだろう。
責める気はない。自分もそうするだろう。
この空間には私の信頼できる者はいないのだ。
挙げるとするなら、この二つばかりの小さな救急キットぐらいだろうか―――
死に物狂いで追っ手を逃れてきた彼は、腹部に鈍痛を覚える。
どうやら銃で撃たれたらしい。
急いで処置をしよう。 奴らが来る。
キットを広げ、処置を始める―――
その時だろうか。突如黒い影が自分を覆う。
血の気が引いた。まずい、追っ手か。
・・・いや違う。これは味方だ
味方が自分のキットを刹那の中、持ち去ってしまった。
おい、待て、おまえは―――
そう叫んだ時だった。
彼は振り向いた。
否、彼ではなかった。 彼女であった―――
聖月華―――
その時の彼女はまるで惡魔にでも取り憑かれたようなおぞましい形相であったという。
最終更新:2011年01月19日 19:20