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Scapato

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tranquilizer

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【Scapato(無責任)】

 所用の帰りに何となく立ち寄った洋菓子店。
 中央のブルーローズや、東のロックハートのような有名店ではないが、たまには良いだろうと。
 しかし、店に入った瞬間、後悔する事になる。
「あらぁ?」
 店内にあるどのケーキよりも甘ったるい声色を響かせ、邪気の全く感じられない笑みを浮かべた少女がこちらに向かって手を振る。
「珍しいな。昼間なのに夜君がお外にいるー」
「所用ガありまして。貴女コソ、こんな所デ会えるトハ」
「ふっふっふー。さっちゃんは神出鬼没なのだよ!」
「……迷ってる時に甘い匂いで道決めただけ」
「うるさいなー! ホントのことっていうのは、時に人を深く傷つけるんだぞー!」
 店内の視線を独り占めしているのにも拘わらず、沙鳥は丈之助の背を目掛けて、ポムポムとダメージのなさそうな攻撃を繰り出す。
 店員へと視線を向けると、怯えたように凍り付いている。
 ここまでのランカーを生で見るのは初めてなのだろう。こんな小さな店では当たり前か。
「騒がせてシマッテすみません。ケーキを幾つカ頂きたいのデスガ……」
「あ、この辺がオススメなの! とっても美味しいの! むーちゃんたちにお土産なら、この辺も買っておくと良いんじゃないかな?」
 来るのは今日が初めてだろうに、もう全てを制覇したのか……
「デハ、ソレヲお願いシマス」
 漏れる苦笑を隠さず、店員に少し多めの代金を支払う。
 今後に期待という意味も込めて。
「あ、あの……」
「貰っちゃえ、貰っちゃえ! 男の子には、見栄を張りたい時もあるんだって藤司朗が言ってた!」
 それを本人の前で言うのもどうかと思うが。
「ソウイウ事ですノデ、お気にナサラズ」
「あ、待って!」
 品物を受け取り、早々に立ち去ろうにも、この少女が許してくれるはずなどなく。
「折角会えたんだし、途中まで一緒に行こう!」
 何が楽しいのか、爛漫な笑みを浮かべて隣を歩く。
「ショヨウは終わったの?」
「エェ、お陰様デ。ソチラモ、迷子は終了デスカ?」
「難しい質問ね。けど、もうちょっとでタイムリミットだから、また強制終了かな? 夕ご飯食べないとダメだし」
 そろそろ、女王騎士団からの連絡が来るのだろう。
 そして、道順を教わるか、迎えに来てもらうか。
「相変わらずノようデスネ。安心シマシタ」
「夜君もね!」
 こちらの考えをどこまで読み取っているのか。
 まぁ、大半は読まれているのだろう。隠してもいないし。
「あ」
 足を止めた少女の掌へ、ふんわりと舞い降りる白い羽根。
 それを楽しげにこちらへ差し出す。
「夜君、“気を付けて”ね!」
 ――気を付けて
「何に、カハ教えてクレナイのでしょうネ」
「そうデスネー残念ながらさっちゃんは中立なので、守秘義務というものがあるのデスヨーでも、あっちより夜君の方が好きだから教えちゃうのデス。特別なのデス」
 子供のように無邪気な笑みの裏で何を考えているのか。
「以上、風の噂デシター」
「ナルホド」
 それは、何よりも正確だ。
 わざとらしく見えるほど恭しく、羽根を受け取る。
「遠慮ナク頂きマス。それと、此方のアドバイスも」
 ケーキを持ち上げて見せると、少女は満足そうに頷いた。
「それじゃあ、私はこっちの道に挑んでみるよ」
「そうデスカ。では、此処デお別れデスネ」
「じゃあねー」
 そっちの道は万具堂とは逆方向なのだが、迷いなく進んでゆく。
 そうやって迷いながら兵を増やし、変異を感じ取っているのだろう。至る所の。
「恐ろしい人デスネ、相変わらず」
 いつの間にか浮かんでいた“らしくない”笑みを消し去り、自らの巣へと戻る。
 土産を二つ、手に持って。
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