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 漆黒。その一言で済むかのように全てが見渡せない暗闇。
 己の手足でさえ満足に見ることができない程に光なき空間。
 光すら飲み込む漆黒を喩えるならば、この光景がまさにそれだろうか。
 先の見えない未来ではなく、閉ざされた未来を暗示するかのような、
 或いは全てが無になったその時は、今のような光景が広がってるかもしれない。
 そう思えるような暗闇の中に、パッと一つのスポットライトが地面を照らしだす。
 演劇の壇上のような木材の床をコツコツと踏みゆく足音が静かに響いていた。
 世界中の音と言う音を消し去って、そこにしか音が存在しないかのようで。
 全ての生命が死に絶えて滅びた世界で一人歩むのであれば、そのような感じなのだろう。
 やがて、そのスポットライトに一人の男性が照らされ、姿を見せた。

「やぁ、初めまして……俺かい? いや何、俺はしがないMCって奴さ。」

 足音と共に姿を見せたのは若い男性だ。胸元を開けた黒のドレスシャツを着こなし、
 黒いファーストールをまとった黒髪の姿は、さぞ女性受けが良さそうな顔つきをしていた。
 肌の露出は少々度が過ぎてこそいるため、品のなさはどこか伺えてしまうところはあるが。
 それが人の視線を惹きつけるかのような妖美な色気と言う、男性らしからぬ雰囲気を醸し出す。
 視界を捉える深紅の瞳もまた、彼の魅力を引き立てるのに一役買ってると言ってもいいだろう。
 モデル、俳優、タレント。いずれであってもきっと引く手数多な姿をしているのは間違いない。
 ……もっとも、それは彼が何も言葉を発さず黙っていればの話であるのだが。

「と言うのは嘘……と見せかけて本当さ。
 流石にこれをやるにしても、俺を知らない人も多い。
 だからちゃんと説明するから安心してほしい。君達の大半は疑問に思っている。
 何故自分は此処にいるのか? と言うより、何故君達は座席から動けていないのか。」

 客席にいた一部の人が自分の身体を動かそうとするが、
 固定されているのか、まともな身動きすら取ることができない。
 ただ淡々と、男の演説を、解説を見届けるためだけのオーディエンス。
 今やこの場は文字通り、この謎の男の独壇場と化して物事が進行していく。
 スポットライトと共に壇上を、一歩一歩足音を立てながら彼は歩き出す。

「そう急かさないでくれよ。焦らされるのは嫌いかい?
 ひょっとして、スローなタイプは萎えちまうタイプとか?
 じっくり時間をかければ、きっと最高の快楽が伴うが……まあ、
 この状況を続けたところで意味は薄いか。とりあえず簡潔に説明すると、だ。」

 品のない言葉と共に不敵な笑みを浮かべながら、仰向けに倒れ込む。
 そのまま倒れてしまえば、床に背中を打ち付けるであろう光景は訪れない。
 同時に何処からともなく飛来してきた赤黒の剣が数本壇上へと突き刺さり、
 それを椅子として扱うかの如く、さも平然と座りこんでそのまま話を続けていく。

「此処にいる連中同士で、ちょっと殺しあってもらいたいだけさ。」

 一息ついた後、顔を上げながら不敵な笑みと共に言葉が紡がれる。
 多くの人物は戸惑ったことだろう。一部例外もいるかもしれないが。
 彼は自分の発言がどういう意味を持っているのかを理解しており、
 人によってはそれを悦とできると思わせるだけの表情をしていた。
 誰しもが相手は伊達や酔狂で行動してるわけではないと認識させるには十分だ。
 事実その通りだ。彼は下劣であり、最悪と謳われる狡知の存在なのだから。
 既に彼の言動に生理的な嫌悪感を抱いてる人物も少なからずいるだろう。

「ルールは……まあ細かいことはともかくとして、
 至って単純さ。制限時間の間にたった最後の一人になればいい。
 前戯は好きな手段を使うといいさ。一人と言う結果に達せばそれでも。
 おっと、達するとは言ったが意味合いは別だ。意味深に思ったなら違うぜ?
 騙すのもストレートに殺すのも、なんなら相手を調教して従順にするのもありだ。
 俺だったらそうだな……っと、俺のフェチシズムを話すと長くなりそうだから割愛しよう。」

 品のない言葉に誰かが顔をしかめたような気がするが、
 そんな視線など意に介すことはあれど、寧ろ笑みで返す。
 誰に流されるわけでもなく、我が道を往くかのようでもある。
 これは今この場は彼の独壇場だから、と言うのが理由だけではないだろう。
 たとえ誰が相手だとしても、その品性のなさは不変のものだと確信させてくる。
 ある意味、星の獣と言う不変の存在の原初の一端であるが故の言動だろうか。

「けれど、こう思う人もいるはずだ。
 殺し合いとなれば普通は暴力が一番の手段となる。
 自分のような弱者には万に一つ勝てる可能性もない、
 或いは自分のような強者は万に一つ負けることもないと。
 そこは安心してくれ。偏ってる方が俺の趣味としては確かに好みだが、
 最低限のバランスの調整ってのが必要でね。君達には後で道具が支給される。
 ただの道具もあるかもしれないが、色んな世界から調達してきたものでね。
 その中には君達のプレイを楽しませてくれるグッズが入ってる。加えて───」

 話の途中、男から見て遠くの座席から轟音が轟く。
 何事かと視線を向けようとする者もいるが座席の都合死角になって見えない。
 彼らの問いに答えるかのように壇上へと文字通り飛ぶ勢いで男へと何かが迫る。
 静かだった舞台に初めて訪れる轟音に大抵のものは反応をせざるを得なかった。

「おっと。」

 その存在に対する対応は早く、
 攻撃が迫る前には既に跳躍していて男は一度暗闇へと消えた。
 だがすぐに暗闇へ消えた彼に対してもスポットライトが当てられ、
 互いを照らすようにスポットライトが舞台を照らし新たな役者と相対する。
 相対するのは一人の女性。銀髪の長い髪を持つ褐色肌の、うら若い少女だ。
 青を基調とした剣と盾を両手に持つ、褐色肌の少女は幼く見えるものの、
 凛としたその表情はさながら歴戦の戦乙女を彷彿とさせる勇ましさが見受けられた。

「私の拘束だけ、どうやら甘かったらしいな。」

 蒼空を彷彿とさせる青い剣先を向け、
 凛とした表情で彼女は男へと立ちはだかる。
 嘗て空の世界でコスモスの代行者として顕現した存在、ジ・オーダー・グランデ。
 その内の一体であり今では個を確立しながら空を生きる存在、彼女の個人の名はゾーイ。
 剣を向けられている状況を前にしても、男は余裕の笑みを崩さない。
 この事態すら想定しており、進行は恙なく行われているとでも言わんばかりに。

「おやおや、俺のお話は気に食わなかったかい?
 そうかっかするなよ。君が均衡を大事にするのは俺にも分かる。
 事実、今回は俺の嗜好はあると言えばあるが、これでも抑えてる方さ。
 だが今の俺はMCでね。司会進行を妨げるのは褒められたことじゃないんだ。」

 くつくつと笑いながら態度を一切崩さない男と、
 態度は崩さないが対照的に鉄仮面の如く男を見据えるゾーイ。
 自分達が動けない今、彼女がこの状況の打破をしてくれる。
 舞台に集められた何人かは心の中でそう願っていた。
 願ったからというわけではないものの、ゾーイは動き出す。
 星晶獣としても高位であったゾーイの剣技は卓越されたものだ。
 一度でも受ければ致命傷となり、死を迎えるかのような苛烈な攻め。
 しかしそれでいて戦乙女のような立ち居振る舞いは希望の象徴だ。
 迫りくるいくつもの斬撃を、男は軽やかな動きで回避していく。
 軽やかとは言うが、少々面倒くさそうな表情で余裕がないようにも見える。

「やるねぇ。流石に並の星晶獣ではないか。
 あのコスモスの代行者の一体のだけのことはある。
 こうして思春期みたいにガツガツ来るのも悪くないが、
 俺も見た目は取り繕ってると言っても結構な病み上がりでね。
 本来なら生身で戦うべきだが……司会進行もあるから、君には悪いが消えてもらうよ。」

 その一言と共にパチン、と指を鳴らす。
 深淵にも響き渡るかのような小気味いい音と同時に、
 再び轟音が轟く。しかし今度は何が理由かは目が見えれば理解できる。
 少女を中心に爆発が起きて、光と煙で視界を奪われ、状況の確認ができない。
 煙が消えてみれば、あるべきはずの首から上が別れており近くに転がってる。
 死体。それ以外に形容することはまずできないであろう光景がそこに広がっていた。

「クックック……ハッハッハ!
 均衡を保つ星晶獣ですらこの結果に落ち着いちまうのか!
 俺、MCじゃなくてメカニック志望した方がいいか!? なぁ!!」

 狂気じみた顔に手を当てながら盛大に笑う。
 今までの妖美さとは縁遠い、狂気を孕んだ表情。
 いくら彼の容姿に惹かれてもこんなのでは近寄る相手は、
 よほどの趣味を持ち合わせた者や興味がないでもないといやしないだろう。
 ひとしきり笑い終えると、先ほどまでの高笑いは何だったのか、急に訪れる静寂。
 もう彼女のことはどうでもいいのか、相手のいた場所を一瞥するだけに留める。
 スポットライトは再び彼だけを照らし、亡骸などなかったかのように話は進む。
 もう一度赤黒の剣が椅子の代わりとなって、再び席へと着く。

「アクシデントはあったが、君達は彼女同様に首輪が付けられている。
 これがある限り、君達は殺し合い以外で生き残れなくなってるわけだ。
 中には自分は不死身だと、自分はこの程度の爆発耐えられると思う奴もいるが、
 残念だがそんなイキる奴をわからせてやりたい性分でね。細工させてもらったよ。
 首輪は強力な力をある程度縛り付けるのさ。縛りプレイも乙なものだと割り切ってくれ。
 首輪の威力を試してみてもいいが、それで痴態を晒すことになっても君は恨まないでくれよ?」

 首元をトントンと叩く。
 首元の違和感を、多くの人は感じ取れただろう。
 仮に今拘束を抜け出したところで生殺与奪の権は彼にある。
 抵抗することは許さない、飼い犬にされたように思う人もいたはずだ。

「まあ細かく言ったが、自分の道具をよく見て、
 どういうプレイをするかをじっくり考えればいいさ。
 さっきも言ったが調教して従順にして飼い殺しも許そう。
 勿論、ただ殺し合うだけじゃヤる気なんてないだろうからご褒美もある。
 元の世界へ返すことと、君の願いを叶えると言うおまけつきだ。どうだい? ギンギンになれたか?」

 飴と鞭と呼ぶには鞭が相当なものだと思われるが、
 これだけのことをしでかしては相応の力があるとも受け取れる保障となる。
 もっとも、この胡散臭い男を信用するかどうかは各々の状況や心境次第だが。

「それと、島にはちょっとだけ魔物とかそういうのがいる。
 俺からのサービスさ。道具の使い方も戦い方も分からない、
 そのまま誰かに一方的に嬲られるなんて、見てもお互い萎えちまう要素だろう?」

 パチン、と指を鳴らすと出てくる、
 耳が翼のような可愛らしい兎がひょっこりと姿を現す。
 しかし、同じく陰から出てきた斧を持った牛人が無慈悲にも振り下ろす。
 ウサギは悲鳴を上げることもないまま両断され、猟奇的な光景を作る。

「こんな風にはなりたくはないだろう?
 だったら、早めに玩具になれることを勧めるさ。
 ……さて、説明についてこれぐらいでいいかい?
 中には滾って待ちきれない参加者もいるだろうからな。 
 少し時間がたったらまた情報を解禁するから、それまで生き延びてくれよ?」

 舞台は薄暗くなっていく。
 各々の意識が何処か遠くへと消えていき、
 先ほどまで隣にいた相手すらも朧気になっていく。
 訪れるのは舞台の周囲と同じ。深淵のような深く、暗い闇。

「おっと、そういえば名乗ってなかったな。
 ───俺の名はベリアル。では、よい終末を。」

 明日また会おうと言わんばかりの、
 穏やかな声色を最後に舞台から全員が消える。

 Ah hell, let´s get to the finish
 line, welcome to my body on body parade





「今度こそ、歪んだキャンパスを思いっきり塗りたくろうじゃないか……なぁ───」





【ゾーイ@グランブルーファンタジー 死亡】

『主催者』
【ベリアル@グランブルーファンタジー】
最終更新:2026年01月31日 17:32