限定イベントテキストまとめ その1


五月という名の病

  • 発生(フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『ミッション:五月という名の病』を発見しました
今回のイベントミッションの開放期間は5/20(水)~6/6(土)までです

五月という名の病
 
 空を分厚い雲が覆う。
 光と陽気を奪われ、街にはどんよりとした重たい空気が漂っていた。

 ゴーストタウン、と言ってしまうほどボロボロではない。
 多少の古くささというか、ノスタルジックを感じる町並みではある。
 だが建物自体はけして、窓が割れていたりドアが破られていたりするわけではなかった。

 ただ、人の気配がまるでない。
 その意味ではやはり、そこはゴーストタウンのような空気感を纏っていた。

 街を歩けば、昼日中だというのに閉まっている店が目立つ。
 すれ違う人の姿もない。
 客がいないから店が閉まっているのか、店が閉まっているから客がいないのか。
 どちらにせよ、とにかく人がいないのは確かだった。
 
 歩く先に、真っ黒に塗られたアーケードが見えてくる。
 それはまるで、街を覆う重たい空気を象徴するかのようだった。

 大黒天商店街。
 黒いアーケードに蓋をされた通り、その入り口に作られたゲートにそう書かれている。

 伏魔殿のような雰囲気を醸し出す、この街最大の商店街である。
 街を暗く沈める嫌な気配は、この静かな商店街から街へと流れ出していた。

 実のところ、この街から人が消えたわけではない。
 人はいるのだ。ただ、揃って自分の家に引きこもってしまっただけである。
 
 この街に蔓延する病。その病巣。
 商店街から流れ出す瘴気の主を探し出せ。

『マップ:大黒天商店街』を発見しました

  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
大黒天商店街
 『大黒天商店街』
 黒く塗られたアーケードが空を覆い隠す。
 夜空のようだと言えば聞こえはいいが、穴蔵とかトンネルの方が印象は近い。
 両脇に建ち並ぶ店が営業していれば、少しは印象が違ったかも知れないが。

 ただの一軒も、その商店街で営業している店はなかった。
 その全てにシャッターが下ろされている。
 
 閉店理由などが説明された張り紙がシャッターに貼られているわけでもなく。
 営業前の朝の風景そのままに、商店街は眠ったままのようだった。

 商店街は直線、500メートルほど続く。
 数メートルおきに細い路地が左右に伸び、その先にも小さな店の看板が見えた。
 奥へ行けば二度と戻って来れないような、だが入っていきたくなるような。
 店自体はやはり閉店中だったが、そんな蠱惑的な空気を漂わせていた。
 
 だが、目的はそこではない。
 探しているのは蠱惑的なものではなく、もっと退廃的なものである。

 例えば商店街を少し進んだ先に見える、あの一角のような。
 
 この商店街で唯一シャッターを下ろすことなく、営業しているお店。
 その店先に机と椅子を並べ、机の上には酒と食べ物が雑然と置かれている。
 椅子には当然、客たちが座っているのだが。

 酔いつぶれて机に突っ伏している者や、同じような体勢でまだ酒をあおっている者。
 酒も飲まず、背もたれに背中を預けて黒い空をただじっと見つめている者。

 底辺が、そこには拡がっていた。

  • フェイズ2(探索可能)

  • フェイズ3
黒空酒場

 店はどうやら酒場のようである。
 『スナックさつき』。店主の名前が何となく想像がつく店名である。
 
 ドアは開けっ放しで固定され、中にも人が詰まっている。
 表の人々はそこから溢れだした、ということらしかった。

 充満する、アルコールとすし詰め状態の人間のニオイ。
 店の中から漏れ出す澱みきった空気には、色が付いてさえ見えた。
 
 だが、その臭気がこの商店街全体を蝕んでいるとは思えなかった。
 アルコールは副次的なものに過ぎない。
 その根っこ、根源はさらに店の奥に潜んでいるのだ。

 表に出されたテーブルの一つは空で、椅子の数はちょうどペインキラーたちが座れる分が置いてあった。
 そこに座って、彼らの仲間に入ることもできる。
 怠惰の道を落ちていくのはある意味、快感である。
 
 店の中からフラフラと、数人の男たちが現れた。
 足下がおぼつかないのはアルコールの影響か、その表情も死人のようである。

 ゾンビのような男たちは近づいてきて、ジョッキを一つ机に置いた。
 なみなみ注がれた酒が僅かにこぼれる。
 
 飲むのか飲まないのか。無言で問いかけてくる。
 
 自分たちの仲間になるのかならないのか。
 それはつまり、そういう意味である。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
商店街店主連合に遭遇した!


  • フェイズ4(戦闘勝利後)
大黒天商店街
 
 派手に椅子から転げ落ちて、椅子と男の体が逆方向に吹き飛ぶ。
 ミルコが何かしたわけではない。
 
 酔いつぶれて机に突っ伏していた。
 その最後の支えを、失っただけのことである。

 彼の他にも数人、そろって同じような格好で地面に寝転がっていた。
 ミルコによるものもいれば、そうでないものもいる。
 とは言え、現在に至ってもなお寝続けているのはアルコールによるもので間違いないだろう。
 
 寝こけている、その顔が今派手にすっころんだ者も含めて皆どこか穏やかなのは謎だった。

「何やってんだい、さっきから!」
 ガラガラに嗄れた怒鳴り声が、開けっ放しになったままの『スナックさつき』の中から響いてくる。
 その声を追いかけて出てきたのは、かなり濃厚な化粧を施した長身の老婆だった。
 
「騒がしいねえ。何時だと思ってんだい、まったく」
 ハスキーボイスと言うような綺麗なものではない。
 ノイズ混じりのしゃがれ声。酒と喋りで潰れた声だった。

「眩しいねえ。太陽が目と肌にしみるよ」
 空を見上げて、自らの顔の前で手をかざす。
 だが、その間に立ち塞がる漆黒のアーケードのおかげで眩しくも何ともないはずである。
 
 長身の老婆はそれでも眩しさに眼を細めたまま、視線を元に戻した。

 周囲とミルコを交互に見やって、
「外のお客さんかい? どうも、あたしの子供たちが迷惑掛けちまったようだね」
 横たわる酔っぱらいたちを見回しながら。
 厚化粧の長身のババアは菩薩のような表情を浮かべていた。
 
「それなりに楽しかったけどね、このお祭りも終わりってことだね」
 しみじみと、ババアが高所からため息と声を落としてくる。
 そして、パン、と老人とは思えないほどの力強さで手を打った。

「さあ! 梅雨前に店の大掃除だよ!」
「カビが生えちまう前に、ほら、帰った帰った」
 死体のように転がる男たちを一人ずつ蹴り起こしていく。
 
 そして店の中にも、
「帰ったら店を開けるんだよ! 大黒天商店街、今日から営業再開だからね!」
 さつきママの声が店にこだまし、中で酒を飲んだり潰れたりしている男たちの耳と心に響いていた。

イベントマップ『大黒天商店街』をクリア!

クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを△△得た

五月という名の病

 大黒天商店街。その中にあって最も古い。
 『スナックさつき』はこの商店街の店主たち、彼ら全員にとっての癒しの場である。
 
 そして、『さつきママ』こそ彼ら全員にとってのアイドルである。
 そう――彼女はアイドルだったのだ。

「ほらほら。とっとと帰る帰る。奥さんも子供も、家で待ってるんだろ?」
 彼女の声に逆らえる者はこの商店街にはいない。
 彼女が帰れと言えば帰るしかない。店を開けろと言われればそうするしかない。
 それがこの商店街のルールであり、彼ら自身が望んでいることだった。
 
 一人ずつ、暗い顔で店から出てくる男たち。
 パズルゲームのように押し込まれていたのか。
 ゾロゾロと出てくるその人数は、とてもこの店に入りきっていたとは思えない数だった。

「あんたもだよ、会長さん」
 外に出してあった机に今もまだ一人突っ伏している男の肩を、さつきママが優しく叩く。
 男は頬と目を赤く染め、鼻をすすっていた。
 
「るっせえばかやろう」
 力のない小さな声で文句をたれる。
 彼は眼鏡屋の店主であり、この商店街の自治会長だった。

「元気出してよ、会長さん」
「あんたがしっかりしないとさ、みんなも力入んないからさ」
 へそを曲げた子供を諭すように。
 背中をさすりながら、優しく優しく声を掛ける。
 
「んでだよぉ…」
 やはり、力の全く入らない声で。しかもそれは震えた涙声だった。
「なんで……なんで結婚しちまうんだよぉ……」
 涙に潤んだ瞳でさつきママを見上げる。
 しかし、彼女には返す言葉は見いだせず、ただ黙って微笑みを返すのみだった。

「来月結婚すんの。ジューンブライド、ってやつ」
 少し照れながら。厚化粧長身老婆がぽっと頬を染める。
 それは自治会長たちのような酒によるものではないのは明らかだった。
 
「そしたらこの人、ショック受けちゃって」
 背中をさすられながら、自治会長はすんすんと鼻を鳴らしている。
「……俺だけじゃねえ。みんなだ。みんな落ちこんでんだ」
「ママが……誰かのものになっちまうなんて……」
 言いながら感情が盛り上がってきたのか、自治会長は再び嗚咽を漏らし始めていた。

「ねえ、会長さん。聞いて?」
 色気のある声を出しながら、自治会長の耳元に唇を寄せる。
「あたしゃね。はっぴ着て、はちまき巻いて、ハリセン持って、バナナ売ってる……」
 そして得意のガラガラ声で、
「あんたが好きだよ」
 
 赤ら顔の自治会長、その目に光が宿る。
 すっくと立ち上がり、さつきママに背を向けた。
「るせえ、ばかやろう」
 口癖のような捨て台詞を残して、歩き出す。その先には自分の店があった。

「あたしがマリッジブルーになりたいぐらいなのにさ、まったく」
 去っていく自治会長を見送りながら、さつきママが呟く。
「男ってのは、面倒なイキモノだねぇ、ホント」
 女の顔を作って男を語る。
 さつきママは今日も、いい女だった。

ミッション『五月という名の病』をクリア!

クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『さつきママのオムライス』を手に入れた

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『自治会長のキープボトル』を手に入れた

  • フェイズ5(探索可能)
  • フェイズ6(休息処理後に表示)
五月という名の病
今回のイベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました


ツール・ド・エスファーン

  • 発生(前回フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)
ツール・ド・エスファーン

 自転車の街エステファン。
 街の約半数が製造や販売などの自転車業に従事する、完全に供給過多の街である。
 
 ちなみに、この町の学校では『自転車』の授業が必修であり。
 三歳で補助輪を外し、五歳でパンク修理を覚え、十歳で曲乗りをマスターする。
 そして大人になり、その多くは自転車操業に就くことになる。

 この街一番のイベントは、やはり自転車にまつわるものである。
 ロードバイクによる、市街コースを使ったレース。
『ツール・ド・エステファン』
 北門から外周を一周し、そこから中心部へ向かい市庁舎前の広場がゴールとなる。
 
 ほとんど全ての街の人間、そして大勢の観光客たちが沿道に並び、声援を送る。
 そして、最速のロードレーサーが決まる。

 しかし、この大会の開催も、内側から見れば簡単な話ではない。
 運営には金がかかるし、道路の使用許可やら警備計画やらも必要になる。
 さまざまな障害を乗り越えて、今年もようやく開催へと辿り着いたのだ。
 
 無事に辿り着いた、例年ならばそう思えたはずだった。
 だが、そこに新たな邪魔が入る。
 
 ツール・ド・エステファンを運営する組織委員会に脅迫状が届いたのだ。

 脅迫状には署名があった。
 『冥流世死』。読み方は分からない。どういう組織かも分からない。
 だが、彼らに明確な悪意があることだけは、文面から読み解くことは容易だった。
 
 彼らが求めているのは開催中止である。
 それを引き替えにした強請りではない。
 
 ただの脅しと無視する案も組織委員会で出たが、次の日にはその案は取り下げられた。
 パンクを目的としたスパイクがばらまかれているのが、コース上で発見されたのだ。

 それらはすぐに、大会役員の手で全て撤去された。
 だが、それがただの脅しであることは明らかである。
 自分たちは本気だ、と言う意思表示。その証明だった。
 
 最初に届いた脅迫文には、最後、ある言葉が綴られている。
 もしもツール・ド・エステファンが開催された場合、の話である。

 もしも我々の言葉に従わず、当日大会が開催された場合。
 我々は断固たる意志と手段を持って、大会を阻止すべく行動するだろう。

 大会中止。
 その意志は組織委員会にはない。
 不撓不屈の精神こそ、自転車ロードレースの根源である。
 
 つまり、ツール・ド・エステファンは開催される。
 つまり、『冥流世死』はそれを中止に追い込むべく実効的な手段に出る。
 
 つまり、それを阻止すべく、誰かが動く必要がある。

『マップ:市庁舎前広場』を発見しました

  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
市庁舎前広場
 百台を超えるロードバイクが列をなし、高速を維持したままコーナーを曲がる。
 
 沿道を埋め尽くす、町の人間や観光客たちから大きな歓声が上がった。
 フェンスもネットも挟まない、すぐ目の前で起こる迫力ある光景に彼らは眼と心を奪われていた。

 天気は快晴。
 嫌味なほど青い空に、我が物顔で浮かぶ太陽。
 全力で北風の登場を待ちたくなる、陽気を通り越した熱気が街を包み込んでいた。
 
 熱は人を狂わせる。
 そしてそれは熱狂と呼ばれ、やがて渦を巻く。
 そうなればもう、その渦に巻き込まれたものは逃げられない。

 レースは中盤から終盤に差し掛かろうとしていた。
 街の北門をスタートし、外周にそってぐるりと一周り。
 客たちへのお披露目の意味を込めたその周回はもうすぐ終わり、隊列は街の中心部へと向かってくる。
 
 市庁舎前にある、インデペンディエンテ広場。
 このレースの終着地である。

  • フェイズ2(なし、探索可能)

  • フェイズ3
冥流世死の鳴き声
 市庁舎前広場から離れ、街を南北に貫く大通りを歓声から遠ざかるように、南側へ。
 歩くほど、声が小さくなっていく。
 熱が冷めていく。

 南門。すでに、ロードバイクの隊列が過ぎ去って久しい。
 彼らはそろそろスタートした北門につく頃だろうか。
 
 レーサーたちの過ぎ去ったあと、残る観客などいない。
 街中、すべての人は北門と中心部に集中していた。
 
 すべての人、レースを見たいすべての人である。
 だから今ここにいるのは、それに含まれない。
 こんな時に南門にいるのは、レースに興味が無い、あるいはレースを見たくもない。
 そんな連中と、それを探しているものだけである。

 爆音のようなエンジン音が響く。
 それはあるいは、北門にまで届いたかもしれない。
 ただし、それが彼らの歓声を妨げることができたかでいえば、それは無理だろう。
 ここからでは流石に、レースの邪魔をするには遠すぎた。
 
 南門から姿を見せた、その爆音の主はシルバーの光沢眩しい一台の高級車と。
 それを先頭とする、クルマの列だった。

 エンジン。ロードバイクにとって、それは自らの足である。
 足を回してペダルを漕ぐ。
 その時に出るエンジン音は、せいぜいフレームのきしむ音ぐらいのものである。
 
 銀色の高級車が奏でるエンジン音は、それとは真逆のものだった。
 雷神のかくイビキのような、そこから感じられる排気量は日常生活に必要なレベルをはるかに超えている。
 おそらくマフラーに改造は施されていない。
 生の、純粋なエンジンパワーがその轟音を生み出していた。

 銀色の車体。フロントエンブレムが怪しく光る。
 フルスモークでドライバーは見えないが、中からこちらを見る視線には悪意と殺意が感じられた。
 
 引き連れてきた他のクルマたちも、次々と南門を越えてくる。
 それらは別に、全てが高級車集団というわけではない。
 軽自動車からクラシックカー、ハタラククルマに二輪のオートバイまで。

 エンジン付きのクルマと名のつくものたちが、口々にエンジン音を叫びながら。
 南門から街の中心部へと向かおうとしていた。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
(敵)に遭遇した!

  • フェイズ4
市庁舎前広場
 唸りを上げるエンジン。
 急ハンドルにタイヤが空転し、地面との摩擦で足元から白煙が激しく吹き出す。
 
 エンジンに火がついたように吐き出される白煙に包まれながら。
 『シルバーアロー』と呼ばれた銀色の車体は地面を滑り、頭から塀に突き刺さった。

 半分ほど潰れたボンネットの隙間から煙が上がる。
 今度は正真正銘、エンジンから上がる白煙が、白旗のように風に揺らめいていた。
 
 車体が歪み開かなくなったドアを内側から思い切り蹴りつけ、無理やりこじ開ける。
 そして、しばらくしてから男が這い出してきた。

 その男は学生なのか、真っ白なガクランを着ていた。

 色の時点ですでに奇抜だが、いわゆる普通の学生服とは違う。
 上着の裾を地面に引きずるほど伸ばし、ズボンの裾はムササビのように大きく広がっている。
 そしてのそのガクラン全体に、お経のように色々と字が書かれていた。
 
「おいテメエ。よくも俺の相棒をやってくれたな」
 戦艦を乗っけたような髪型の穂先をこちらに向け、車を降りた男がこちらを睨みつけてくる。
 胸ポケットから取り出したサングラスでその目を隠し。
 くるりと振り向きこちらに背を向け、その背中を見せつけていた。

 『爆走猿神・冥流世死』。
 その八文字が、男の背中に書かれていた文字である。
 そして彼は、その背負った八文字を誇らしげにこちらに見せつけていた。

イベントマップ『市庁舎前広場』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを△△得た

ツール・ド・エスファーン
 この当たりに住む人間には不幸極まりない話ではあるが。
 シルバーの高級車と同じように、いくつもの車がそこら中の壁に突っ込んでいた。
 
 何台かはスピンだけで大破は免れた車もあるようだったが。
 彼らのリーダーがこうして止まっている以上、彼をおいてゴール地点へ向かおうというメンバーはいないようだった。

 エンジン音が止まり、静かになった南門付近。
 遠くの方から歓声が響いている。そろそろ集団がゴールに雪崩れ込む頃合いだろう。
 その結果がどうあれ、レースは成功に終わった。
 彼らは、失敗に終わった。
 
 ドライバーたちがぞろぞろと車から降りて、リーダの元へと歩み寄る。
 老若男女、なんとも統一感のないメンバーである。
 それが未だ背中を向けて腰に手をおいたままのポーズで固まっているリーダーの後ろ、というか正面というか。
 こちらから見て、後ろ側にずらずらと並び立ち、そしてリーダーと同じポーズで背中を見せつけてきた。

 中にはリーダーと同じファッションのものもいるが、ほとんどは違う。
 当然それらの背中には何も書いておらず、見せつけるべき主張はない。もともとないが。
 ともあれ、重要なのは連帯感である。
 みんなで同じことをする。それ以上に大事なことなどない。
 
「俺達は『冥流世死』。公道はみんなのもんだ。やつらだけのものじゃねえ」
 彼らのリーダー。
 真っ白の長ランの男はポーズを決めたまま、意外とまともなことを言っていた。

「勝手に交通規制なんかさせるかよ。俺達は走りたいときに、走りたい道を走る」
「この街に生まれたからって、好き嫌いまで勝手に決められてたまるかよ」
 その目を一瞬だけ、自身の大破した車へ向け。
 すぐにそれへの思いを振り切るように、視線を前へ向けた。
 
 背を向けている、こちら側にではない。
 体の正面、市庁舎前広場に向けてだった。

「もうレースは終わっちまった。だが、俺達の走りは終わらねえ」
「レースの余韻に浸ってる奴らに、俺達の走りを見せてやろうぜ! 本当の、走りってやつを!」
 その言葉に、腕を振り上げ叫ぶメンバーたち。
 しかし彼らの車は壊れてしまっている。修理を終える頃には、市庁舎前は閑散としているはずである。

「行くぞお前ら! エンジン音を奏でろ! 魂を響かせろ!」
「ベーーーーンベンベンベン!」
『ベーンベンベン!』
 リーダーの声に呼応して、全員が自力でエンジン音を叫ぶ。
 あらゆる意味で、確かに彼らは暴走集団だった。

 すっと海が割れるように、人垣がリーダーの目の前で割れていく。その歩くべき道を作る。
 
「ベベンベンベンベンベーーーーンッ!」
『ベベンベン!』
 
 口々にうなり声を上げながら、歩き出す。
 いや、走りだす。歩いているように見えるが、走りだす。エンジン音を響かせながら。

 そう。
 これこそが後の世に、『徒歩暴走族』と呼ばれる集団、その記念すべき誕生の瞬間である。

ミッション『ツール・ド・エスファーン』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を600Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『サコッシュ』を手に入れた
  • フェイズ5
  • フェイズ6
ツール・ド・エスファーン
イベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『ヤンキー』が修得可能になった


消えたバニーガール

  • 発生(前回フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『時限ミッション:消えたバニーガール』を発見しました
今回のイベントミッションの開放期間は9/16(水)~10/3(土)までです
 
消えたバニーガール
 彼女たちの名前は『月下美人』。
 露出度の高い黒のドレスに身を包んだ、8人の女性によるダンスユニットである。
 
 ピンと立った長い耳のついたカチューシャと、白くて丸い尻尾という装飾品が目を引く。
 その特徴から、彼女たちはバニーガールズとも呼ばれていた。

 彼女たちダンサーが働いていたのは、とあるカジノである。
 それは巨大なカジノであり、同時に小さな町でもある。
 
 ディスティニーランドと名づけられた夢の国。
 その舞台で彼女たちは、夢へと誘うサキュバスのように踊って見せていた。
 
 しかし、その舞台を土足で踏みにじるものが現れる。

 彼らが根城としていたのは、北方にある山城である。
 昔に作られて放置されていたものを、間借りしている形になる。
 そこで彼らはいわゆる、山賊行為を行っていた。
 
 襲い、奪う。
 そしてその汚れた金を持って、デスティニーランドを訪れていた。
 目的はもちろん、ギャンブルである。

 カジノと山賊は、いわば共犯関係にあった。
 山賊たちの商売を知りながら、だがその儲けの大半はカジノへと流れてくる。
 その循環が成立していることで、彼らは互いの商売に口をだすことはなかった。
 
 だが、この日この瞬間、カジノ側と山賊たちとの蜜月は終わりを告げる。

 夜、ショーの時間を目前にして、『月下美人』のメンバーが誰一人出勤していなかった。
 彼女らは皆同じホテルの高層フロアを貸しきって暮らしており、直ぐに確認が行われる。
 そこでマネージャーが見たものは、壊れたドアと荒らされた無人の部屋だった。
 
 犯人はすぐに割れた。買収された警備担当の口から、末期の言葉として語られたのだ。
 山賊たちが押し入り、全員を奪い去ったのだ、と。
 
 そして話はさらにこじれる。
 連れ去られた『月下美人』のセンターを務める、アメリ・モンテスチアーノ
 彼女の父親は、このカジノのオーナーだった。

 それは山賊たちが意図したことかどうかは不明だが。
 この事件はダンサーの誘拐ではなく、オーナーの娘の誘拐ということになっていた。
 
 カジノ王、ゴンサーロ・レオン・モンテスチアーノの怒りが爆発する。
 彼の山賊殲滅の大号令により、山狩りが始まった。

 もちろん、最優先なのは誘拐された娘達の救出である。
 だが、それはそれとして。
 
 山賊どもを一人も逃がすな、というのがゴンサーロの厳命である。
『マップ:月夜の山賊城』を発見しました

  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
月夜の山賊城
 逃げ場なく、山をぐるりと取り囲まれる。
 籠城以外、山賊たちが取れる手段は最初からなかった。
 
 彼らは誘拐後、迷いなく城を捨てて逃げるべきだったのだ。
 いくら彼らの城だとしても。この山が、彼らの庭だとしても。
 
 勝敗はすでに決している。

 これはただのハンティングである。

 カジノオーナーであるゴンサーロの手下たちはトンプソンを手に、山の麓に散らばっていた。
 互いが見える距離、だが誤射の危険の少ない距離を保ちながら、山を登っていく。
 
 罠などもあったがどれも原始的なもので、足を止める効果は数分もない。
 時折銃声が響き、城から出てきた山賊が山を転げ落ちていく。
 ハンティングは効率よく行われていた。

 (PC名)もまた、その包囲網の一角にいた。
 幸いと言っていいのか山賊に出会うこともなく、何でもこの山にはクマがいるらしいがそれに出くわすこともなく。
 いたって順調に山を登っていた。

  • フェイズ2(なし、探索可能)

  • フェイズ3
白狼山の山賊たち
 火薬の匂いが風に乗って、あちこちから流れてくる。
 山賊狩りの銃弾は無遠慮に、山に鉄の雨を降らしていた。

 その山が白狼山と呼ばれるのは、白い狼の伝説に由来する。
 
 山を治めていた一頭の白い狼に男が戦いを挑み、見事に打ち勝った。
 敗れた白い狼は男に土地を明け渡し、守り神としてその土地で眠りについた。
 そして、狼が眠る上に男は城を築いたという。
 
 ちなみに、その男とこの山賊たちはなんの関係もない。
 男は死んで城は捨てられ、彼らはただの間借りである。

 その城の門の前に、(PC名)は立っていた。
 開けてくれるのを待っている、というわけではない。
 客ではないのだから、向こうから開けてくれることなどあるわけがない。
 
 だが、門は開いた。
 繰り返して言うが、こちらは客ではない。歓迎などはされない。
 だから、そのための開門ではない。
 受け入れるためのものではなく、迎え撃つためのものである。

 下部が槍のようになっている柵状の門。
 重たく強固な柵を落とし、地面に突き刺して固定するという単純な構造である。
 これまた単純にロープで地面から引き抜かれた門が、ゆっくりと上がっていく。
 
 城門を抜けたその向こう側、いかつい格好をした山賊たちがいかにも楽しげに。
 武器を持った手を高らかに掲げ、まるで勝どきのような声をあげていた。

 その中に、異質なものが目に入る。
 汚らしい男たちに混じって、黒いドレス姿の女性たちもそこに立っていた。
 
 『月下美人』と呼ばれる、美しく妖艶な女性たち。
 拘束などはされていないが、みな不安げな顔を浮かべている。
 
 彼女たちの表情を曇らせる、野蛮な山賊ども。それを蹴散らすは、今である。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
白狼山の山賊団に遭遇した!

  • フェイズ4
  • フェイズ5
  • フェイズ6
月夜の山賊城
 夜空に浮かぶ満月。
 昼間のように明るい、というのは流石に言い過ぎか。
 だが、他に明かりを必要としない程度には充分な光が城全体を照らしていた。
 
 黄金色に輝く城に、カジノオーナーの部下たちが雪崩れ込んでいく。
 もはやそれを止めるもの、城門を閉じるものはいない。
 すでに、城内では蹂躙が始まっていた。

「アメリはどこだ! 連れて来い!」
 男たちに少し遅れて中へと入ってきた、老人の声が響く。
 
 高級スーツにトレンチコート。
 首にかけただけのマフラーは、両端を地面に引きずったまま歩いている。
 黒光りする革靴は汚れ無く、とても山を一つ登ってきた後には見えなかった。

 老人の名はゴンサーロ・レオン・モンテスチアーノ。
 巨大カジノのオーナーであり、このファミリーのボスである。
 
 城内はいまだ混沌の中にあったが、この老人の周囲だけはひどく落ち着いていた。
 落ち着いているというよりも、張り詰めている。
 小さな老人が放つ威圧感には特別なものがあった。

「連れて来やした!」
 部下の一人が、女性を連れて老人の前まで走ってくる。
 
 城の中で山賊たちといたバニーガールズの女性たちは混乱の中で逃げてしまっていた。
 ばらばらに走り去った彼女たちを探して連れてくるのが、彼らの今の仕事のようだった。
 
「井戸の中に上半身突っ込んで足ブラブラさせてるところを見つけやした」
 黒服の男が小脇に抱えて連れてきた女性は、今も浮かした足をプラプラさせていた。

 ゴンサーロがわずかに腰をかがめ、バニーガールの女性に顔を近づける。
 若く端正な顔つきで、親子というよりは孫娘といった年齢差である。
 
 しばらく、じっくりと眺めたあと、
「アメリ? アメリってこんな顔だったか?」
 娘の顔を、やや疑いを持って見つめ続けていた。

「へい。お嬢さんで間違いねえです。世話係のあっしが言うんですから」
 側近とも言える部下の言葉に、それでも首をひねるゴンサーロ。
「おい。お前、本当にアメリなんだな?」
 父親からの、不思議な確認の言葉に、
 
「わたしアメリ。仲良くしてね」
 人形のような表情と大根のような棒読みで、女はそのセリフを言い放っていた。

イベントマップ『月夜の山賊城』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを△△得た

消えたバニーガール
 スロットからコインが吐き出される音が、無人のフロアにやかましく響き渡る。
 吐き出させたものにとっては、それはとてもここちの良い音なのだろうが。
 カジノ側からすれば、それは悲鳴以外の何ものでもなかった。

 ディスティニーランド。その出会いはまさに、運命だった。
 いつものように、稼ぎのすべてを吐き出しに来たカジノ。
 資金洗浄でも何でもない。ただただ、ポケットが空になるまで使うだけである。
 
 そこで、女は彼に出会った。
 父親が連れてきた政治家やら実業家やら軍人やらにはまるで興味が持てなかったが。
 彼女はそれを運命だと感じた。そして今、彼女と彼はここでこうしている。

「リックとサンディ、うまくやってるかしら」
 スロットマシンの前に座って、女があまり興味なさげに呟く。
 
 黒ドレスに耳と尻尾を付けた、いつものバニーガールの姿ではなく。
 今日の彼女は化粧っ気もなく、地味な色のワンピースに身を包んでいた。
 
 彼女の名前はアメリ・モンテスチアーノ。
 この、今は無人のカジノのオーナーである、ゴンサーロの一人娘である。

 その隣、コインを吐き出し続けているスロットの前には男が座っていた。
 四十代前半の屈強な男で、白い狼の毛皮をマントのように背負っている。
 その姿はまさに、野蛮な山賊といった感じだった。
 
 男の名はゴズトゥフ。山賊団のボスを、数時間前まで務めていた男である。

「ボスと長老組以外の取りまとめは出来てんだろ? なら、問題無しだ」
「なんかあっても、全員やっちまえば片付くしな」
 設定の狂ったスロットマシンから、際限なく垂れ流し続ける金貨の音をBGMに。
 男と女は、他人事のように気の入らない会話を続けていた。
 
「お前とあの女の入れ替わりがバレなきゃ穏便に。バレたら乱暴に」
「ま、結末はどうせ同じだし、後はあいつら次第じゃないか」
 金貨の出が悪くなり始める。
 そろそろ、金の切れ目というやつが近づいていた。

「あなたはいいの?」
 自分のことはとりあえず脇において、問いかける。
「子分どもはカザンにくれてやった。あとはあいつの好きにすればいいさ」
「女どもを返そうが、心中しようが、玉砕しようがな。俺にはもう、関係のない話だよ」
 何事においても客観的に、あるいは無責任に。
 
「悪い人ね」
「山賊だからな」
 言いながら、女は自慢気に微笑んでいた。

 カシャン。と、最後の金貨が口から飛び出す。
 すべての金貨は床に置かれた麻袋の中に収まっており、男はすぐにその口をキュッと紐で閉じた。
 腰を入れてそれを背負いながら、椅子から立ち上がる。
 
「どうするの、これから」
 それを見ながら自らも立ち上がり、声をかけるアメリ。
 男と女は二人並び、歩き出そうとしていた。

「軍資金はたんまり入ったからな。とりあえず、旅行だな」
「ハネムーン?」
「おうよ。またどっかで家見つけて、子分探して、山賊業の再開だ」
「子分もいいけど、子供もね」
「家族で山賊ってのも、悪くないかもな」
 楽しげな話し声が、静かになった無人のカジノに小さく響く。

 ゴンサーロとその部下たちは皆、完全にカジノを出払って山賊たちの城にいる。
 ここに戻ってくるのはおそらく朝になるだろう。
 
 その時にあの若頭と女がどうなっているのか。
 そのことにはやはり、元山賊も女もまるで興味はないようだった。

ミッション『消えたバニーガール』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『月のたけのこ』を手に入れた

特別ボーナス
(PC名)は魂片:『月下美人』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
消えたバニーガール
イベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました


大酉の市の大捕り物

  • 発生(前回フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)
大酉の市の大捕り物
 白鷺神社。
 それはとても由緒正しき神社である。

 この神社では、熊の手がご神体として祀られている。
 それはただの熊ではなく、この地を支配していた熊神クマノタケルノミコト。
 の、ものだと言われている。
 
 普段それを見ることはできないが、見れば確かに普通の熊のものにしては巨大であり。
 どこか、神々しいい感じを受けなくも、ない。

 ともあれ、そのご神体である熊の手を見ることができる唯一の機会が、白鷺神社で年に一度行われるお祭りだった。
 年に一回と言っても、一ヶ月ほど続く巨大なお祭りである。
 
 『酉の市』と呼ばれるこのお祭りは、元々は白鷺神社の境内で行われていた。
 しかし近代巨大化しており、現在では村のおよそ半分。
 近いうちに、村そのものが祭り場と化すだろうとも言われている。

 文字通りこのお祭りでは市が立ち、それがメインとなる。
 綿あめや射的など普通の祭りでも見かける屋台も多いが、この神社にちなんだものもまた多い。
 
 つまり、『熊』関係である。

 売り物として一番人気は当然、ご神体でもある『熊の手』を模した熊手の飾り物である。
 商売繁盛の縁起物とされ、主に商売人が買っていく。
 また、熊手ステーキや熊手カレー、熊手と豚足のキメラ煮なる珍味も好まれている。
 とにもかくにも、熊手熊手、である。
 
 年々大きくなる祭りの規模。
 そして起こる当然の問題。熊の手不足である。

 熊祖山はそもそも、熊が数多く生息する山である。
 熊をテーマとする伝説逸話は数多あり、熊の数には事欠かない。
 いずれ、その根本的な問題にもぶち当たるだろうが、それはとりあえず今ではない。
 
 現状、生息する熊の数は足りている。
 今足りないものは、熊の手を狩る人の手だった。

 熊祖山へ行けば、熊はいる。
 山狩りだ何だと大げさなことは必要ない。
 道を歩けば熊に当たる。ここはそういう山である。
 
 熊の手を狩り、白鷺神社へ届けてもらえないだろうか。
『マップ:熊祖山』を発見しました
  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
熊祖山
 かつて、この熊祖山を支配していたのは熊神クマノタケルノミコトだった。
 その怒りを鎮めるため、村人たちは蜂蜜まみれの美女を生け贄として捧げる。
 そうやって、日々をなんとかやり過ごしていた。
 
 そんなある日、旅人オオトリノヨイチが白鷺神社を訪れた。
 それはまさに、生け贄に捧げられる美女が蜂蜜まみれにされているところだった。

 男は怒りに打ち震えながら、美女が蜂蜜まみれになっていく様子を見ていた。
 けしからんけしからん、まったくけしからんとまくし立てながら、最後まで眺め続けたという。
 
 たっぷり見終わった後、彼は彼女に言った。お嬢さんお待ちなさい、と。
 そして一人山ヘと入り、見事にクマノタケルノミコトを打ち倒したのだ。
 その後、男は蜂蜜まみれの美女と夫婦となり、白鷺神社の宮司として村に残った。

 という伝説があるが、真偽の程は定かではない。
 証拠として、彼が持ち帰ったという『熊の手』が神社に残されているが、それを証拠と取るかは人それぞれだろう。
 
 とは言え、概ね逸話や伝説というものは、全て真実ではないが全くのデタラメでもない。
 元ネタとしての事実があり、それに尾ひれがついたりしたものがほとんどである。
 
 ともあれ。
 夫婦となったオオトリノヨイチと蜂蜜まみれの美女。
 その子孫であるオオトリ・ヨシヒコが、現在の白鷺神社の宮司である。

「熊手狩りじゃー!」
 農具としての熊手を掲げ、雄叫びを上げる宮司オオトリ・ヨシヒコ。
 その彼を先頭に、熊手集めのために関係者たちが山へと入っていく。
 
 神社の人間、村人、屋台のおっさん。
 それぞれにそれぞれの思いがあるが、目的は一つ。
 熊手、それだけである。

  • フェイズ2(なし、探索可能)

  • フェイズ3
大熊捕物帳
 オオトリノヨイチが熊神を退治した際に持ち帰ったという『熊の手』。
 白鷺神社に祀られ崇められ、ご神体として今でもこの地を支配し続けている。
 
 山に響く奇声と悲鳴。
 それぞれが、何を意味した声かは分からない。
 分かるのはそれが一つではなく、そこら中から聞こえてくるということだった。

 熊手狩り隊、総勢四十人強。
 追加部隊も準備中であり、今の部隊は先遣隊の意味合いも強い。
 
 とはいえ、偵察や様子見が目的ではさらさらない。
 ましてや物見遊山などでは全く無い。
 あくまでも、熊手を狩り持ち帰ることが彼ら全員の仕事である。

 銃声。雄叫び。爆音。断末魔。悲鳴。助けてー。食われるー。おかーさーん。
 それは、各地での戦闘が激しくなっているのを物語る。
 
 (PC名)もまた同様に、熊祖山のけもの道を山奥へと向かって歩いていた。
 通称、くまの道。
 熊が作り、熊が歩く。そのための道である。

 いつものように、悲鳴が響く。
 だが、それは意外と近かった。
 声を追って、道をそれて数メートルほど森のなかへと分け入る。
 
 そこに、声のぬしはいた。
 
 腰を抜かして倒れこみ、悲鳴を上げるだけの宮司と。
 その男に今にも襲いかかろうとしている、立派な熊手を持つクマだった。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
熊に遭遇した!

  • フェイズ4
熊祖山
 倒れる熊。
 その体が砕け、塵へと帰っていく。
 
 それはこの世界における自然の摂理である。
 抗えないし、抗う必要もない。

「と、ちょっと待って待って」
 その流れを遮る無粋な声。
 尻餅をついていた宮司の男が慌てて起き上がり、消えかけている熊に駆け寄った。
 
 懐から細い麻縄を取り出し、熊の腕に2、3重に巻きつけていく。
「これはね、うちに代々伝わる、熊手づくりの、儀式なんだけど、ね」
 途切れ途切れに話しながら。
 その言葉の隙間で力を込め、熊の前腕の真ん中辺りをギュッと縛っていった。

 だが、それには拘束の意味合いはほぼないと言っていい。
 強めに縛ってはいるが、それによって動きを封じるとかそういったものではなかった。
 彼の言うように、儀式というのがとても正しいように思えた。
 
「初代様はご神体の熊手を、刀でスパっと両断したそうだけど」
 紐で縛った所の少し上、体側の方に今度はピアノ線を一周させる。
「そんな芸当は、初代様にしかできないからね。僕らは地味に確実に、ね」
 その両端は結ぶことなく、革手袋をはめた両手でそれぞれ固く握りしめた。

 地味に、確実に、力を込めてピアノ線を引く。
 外皮と骨と、2つの抵抗を物ともせず、宮司であるオオトリ・ヨシヒコは熊の腕を両断した。
 
「初代様が熊神クマノタケルノミコトを討ち取り、その手を持ち帰ったわけだけど」
「その熊の手と一緒に御神刀が伝わってないから、一刀両断ってのは眉唾なんだけどね」
 力技ではあるが、けして地味とは言いがたい方法で。
 宮司はまずは一つ、熊手を手に入れた。

 時が経ち、山に散らばっていた悲鳴も落ち着き、日も落ちようとしている。
 
 宮司が背負った籠には熊の手が溢れていた。
 彼以外にも多くの者が、同じように熊の手を山から持ち帰っているようである。
 
 だが、持ち帰ることができなかった者、帰ることができなかった者。
 様々なものがいたわけだが、少なくとも帰ってきたものに関して言えば。
 
 彼ら全員を等しく待ち構えるのは、あらゆる労をねぎらってくれるお祭りだった。

イベントマップ『熊祖山』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを△△得た

大酉の市の大捕り物
 酉の市。
 オオトリノヨイチに由来する名称だが、実態はほとんど『熊の市』である。

 白鷺神社の境内から参道を通り、村中に至るまで。
 ずらっと、様々な種類の屋台が並んでいた。
 村外からの参拝客も多く、どの屋台も繁盛しているように見える。
 
「おかげさまで、ほとんどの屋台に熊手を引き渡すことができました」
 山に入るために軽装に着替えていた宮司が、それらしい格好に着替えて村を案内してくれていた。
「改めてお礼を申し上げます」
 服装が変わっただけだが、口調も丁寧になりなんとなく雰囲気までもが変わっていた。

 熊手入りクマテールスープが煮えたぎる強い匂いが支配するエリアを抜けて。
 熊手カラアゲや熊手テリヤキなどのいい匂いに気持ちをさらわれつつ。
 
 宮司の案内で村を通りぬけ、白鷺神社の長い階段を登って境内へと上がってくる。
 そこでは、村の中のような熊手料理の屋台は見当たらず、比較的普通の、縁日などでよく見かける屋台が並んでいた。

「この神社では、熊の手がご神体ですからね」
「食べるということに関しては、ご遠慮していただいています」
 階段を降りたすぐ先では、ありとあらゆる方法で料理されているわけだが。
 この辺りが一応、ギリギリの線引ということなのだろう。
 
 臭いに関してはここまで余裕で届いているのは、言わぬが花というやつである。
 ちなみにだが、鳥料理は普通にこの境内でも売っていた。

 境内に上がって、左奥に社務所がある。
 そこではお守りやおみくじなどが売っており、神社への寄付も受け付けています。
 というのは、宮司の宣伝台詞である。
 
「こちらが、この神社の名産品、熊手守りです」
 社務所の前まで行って、そちらに手をかざしながら。
 他の売り物よりも圧倒的に多くのスペースを割いて、社務所の奥に熊手が飾られていた。

 黒光りするツヤツヤの熊の手を中心に、金銀紅白様々な色彩の装飾品が飾り付けられている。
 印象としては、とにかくめでたい、ということだった。
 
 小さいものはうちわぐらいの大きさだが、一番巨大なものは一メートルをゆうに超える。
 その中央で黒く光る熊手は、一体誰がどんなクマを狩ったというのか。
 知りたいところだが、知りたくない気もしなくもなかった。
 
 それには金銀宝石、めでたいを通り越していやらしいぐらいにそれらが散りばめられている。
 一目見て高そうなその熊手にはやたら横長の値札がついており。
 そこには実に、8を筆頭に0が八個も並んでいた。

「大きさでご利益が変わる、というわけではないですから」
 ずらりと並んだ熊手、その一番左端の巨大なもの、より正確にはその値札を見ている視線に気づいたのか。
 宮司が優しそうな口調で言ってくる。
 
「あれは一度だけ売れたことがあるのですが、その方は結局身を滅ぼしました」
「熊手でもなんでも、その身にあった程度というものがあるのでしょう」
 もはや冗談か悪ふざけにしか見えない熊手を、おそらく作った本人が見つめながら。

「ご自分の器にあったものを、お買い求めいただくとよろしいかと思います」
 買う、という前提でどれがいいかの話を言って来たので。
 
 (PC名)はもちろん、さらっと聞き流した。

ミッション『大酉の市の大捕り物』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『熊の手』を手に入れた

  • フェイズ5
  • フェイズ6
大酉の市の大捕り物
イベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『クマ』が修得可能になった

猿羊合戦~逝く羊来る猿~(ヒツジ軍団所属、vsサル)

  • 発生(前回フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『時限ミッション:猿羊合戦~逝く羊来る猿~』を発見しました
今回のイベントミッションの開放期間は12/23(水)~1/9(土)までです
猿羊合戦~逝く羊来る猿~

 犬猿の仲、ということわざがある。
 両者の仲の悪さを言い表したものであり、その代名詞として使われる程度には、実際に犬と猿は仲が悪い。
 
 とはいえ、それは単に喧嘩をするようなもので、因縁めいたものではない。
 別種の動物としては、ごく自然な関係であるとも言えた。
 本当の意味で壊れた関係というものは、言葉にはのぼらない。

 触れられない。喩え話にも、笑い話にもなりはしない。
 羊と猿の間柄というのは、そういった、笑えない関係の一つである。
 
 目が合えばすぐさま命の取り合い。
 すれ違いざま肩でも触れれば一族郎党殺し合い。
 もしも餌や女を奪い合うことにでもなれば、血の雨が降って血の海ができ。
 その海で、憎しみの権化のような新たな生命が生まれるとさえ言われている。

 もちろん、本当にそんなことになった記録はない。
 全ては噂であり、伝説である。
 
 しかし、そこに集まった面々を見て、人々は理解した。
 伝説。それはこれから始まるのだ、ということを。

 ラムサルフォール戦場ヶ原。
 広大な湿原地帯ではあるが、小さな湖が点在する他は水は比較的少ない。
 ぬかるみに足を取られるようなこともなく、靴を汚すこともなさそうだった。
 
 戦場ヶ原の中央にある大きな湖。
 それを挟んで、西には羊の大群、東には猿の大群が詰めかけ、両者は睨み合いを続けていた。
 突撃を始めるための、なにか些細なきっかけを探しているような状態だった。

 こうなった理由はわからない。
 だが、両群の将は揃って同じことを口にしていた。衝突は不可避である、と。
 
 戦場ヶ原の西部を陣取った、美羊帝ことレッドフォート率いるヒツジ軍団。
 その正面、東部に陣取るのは、猿鬼童ことサルマル率いるサル軍団である。
 
 両軍のにらみ合いは、じき終わろうとしていた。

 両軍を構成しているのは、ほとんどがサルとヒツジである。
 つまり、全てではない。
 
 立身出世のために仕官したゴリラやヤギ。
 傭兵として参加しているイエティなどの姿もあった。
 
 両軍は戦いが始まろうとしている、今この時でさえ傭兵の飛び入り参加を募っている。

 おめざめTVの戦術予想士ガラオンの分析では、サル軍団有利と出ている。
 ヒツジ軍は数では勝るものの、サル軍団の配備している最新兵器には対抗できないだろう、と。
 
 傭兵は両軍ともに募集中である。
 その勝敗はサル軍有利と出ているが、果たして結果はやってみなければ分からない。
 
 どちらの軍に与するか。
 その選択は委ねられている。もちろん、戦争には参加しないという選択肢も、ある。

クリスマスプレゼント
 クリスマスプレゼントはトナカイ一頭です。
 日頃の感謝を込めて、皆様に一頭ずつ、送らせていただきます。
 トナカイの使い道は色々ありますが。
 今回、我々は服飾品の製作をご提案させていただいております。
 
 軽くて暖かくて毛むくじゃら。
 そんなトナカイコーデはいかがでしょう。
 加工はぜひとも、我々トナカイ屋で。
 『登録フォーム』の上部にて、オーダーをお待ちしております。
 
 なお、加工後に余ったモノは、耳を揃えてお返しいたします。
 安全安心、信頼と実績のトナカイ屋まで。
 オーダー、待っております。

  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
ラムサルフォール戦場ヶ原

 ラムサルフォール戦場ヶ原。
 自然にあふれた、素晴らしい景色である。
 とても、戦場ヶ原などと物騒な名前で呼ばれる理由は思いつかない。
 
 しかし、この美しい土地は戦場になる。
 その時間は刻一刻と迫っていた。

 西側陣営、ヒツジ軍団。
 東側陣営、サル軍団。
 
 両軍ともに両翼はいっぱいに広がり、その端から端までの距離は両軍の対している距離より遠い。
 戦場ヶ原の端から端まで、という訳にはいかないが。
 この両軍が前進を始め衝突すれば、この大湿原のほとんど全域が戦場になるのは必至だった。

 両軍は何かを待っている。
 和睦の使者を待っているわけでも、その帰りを待っているわけでもない。
 
 すでにスタート地点に立ち、構え、待つのは号砲と決まっている。
 その瞬間のために集中力を高めていた。
 一瞬でも立ち後れないように。横に並ぶ誰よりも頭一つ抜きん出るため。
 
 そにために、高まっている。
 機運、熱気、気勢。高まり、熟する。
 その時にはまだ、少しかかる。

  • フェイズ2(なし、探索可能)

  • フェイズ3
ヒツジ軍団陣営
「め~め~」
「め~め~め~」
 二匹の羊が会話を交している。
 
 たぶん、会話だろう。
 顔を突き合わせて鳴きあっているのだから、おそらくはそのはずである。

 戦場ヶ原の西部、横いっぱいに広がったヒツジの群れ。
 その壁から少し下がった辺りに、この群のリーダーである美羊帝レッドフォートの姿はあった。
 
 美羊帝というだけあって、その毛並みは美しかった。
 なんといってもキューティクルが素晴らしい。
 天然パーマばかりの他のヒツジ達と違い、さらさらツヤツヤのテッカテカである。
 まさに貴族、育ちの良さと血統の良さが際立っていた。

 美羊帝の前で、両前足を折り曲げて頭を垂れる二頭のヒツジ。
 地面のすぐ上で行われていた二頭の会話を、別の羊の声が遮った。
 
「めぅ~めぅ~」
 何やらその声さえ美しく聞こえてくる。
 美羊帝の喉から発せられた音は、二頭だけでなくこの辺りすべてに静寂をもたらした。
 
 風の音さえ聞こえない。その中で。
「めぅめぅ~めぅ~~」
 美羊帝レッドフォートの気品に満ちた声が響き渡っていた。

 その声の意味、それはヒツジにしか分からない。
 それによってもたらされる結果、そこから類推するしかなかった。
 
 目の前で聞いていたうちの一頭が立ち上がり、決意を込めた目で振り返る。
 王に尾を向け、敵に鼻先を向け。
 壁を作っていたヒツジの群れが彼の前だけすっと割れて、道を作り出した。
 
 敵陣へ向かう、彼の道である。

「めぅ~~~~~~~~」
 王の声に送り出され、一頭のヒツジが長細い尻尾をピンと立てて自陣を出る。
 
 先っぽだけがふさふさの白い毛に覆われた尻尾。
 それを高く上げていると、まるで白旗を掲げて歩いているように見えた。

 そのヒツジが自陣から出て十数歩ほど歩いたところで、(PC名)にはそれが視界に入った。
 かなりの高度を真正面から飛んで来る一匹の鳥。
 鳥は他にもいくらでも飛んでいる。だが、その鳥は妙に目に止まった。
 
 シルエットが不自然だったのだ。
 翼を大きく広げ、滑空してくる。その体から何か、巨大な黒い塊が垂れ下がっていた。
 
 その何かが投下される。
 それは一直線に、そのヒツジめがけて落とされた砲弾だった。

 ここからではどうすることもできない。本人は気づいてさえいない。
 砲弾とヒツジが交錯する。その刹那、生まれた大爆発によってヒツジの姿は炎の中に飲み込まれた。
 
「めぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 王の悲鳴がこだまする。
 他のヒツジは声さえ出ない。
 呆然と、仲間を包み込んだ巨大な炎を見つめていた。

「めぅ!!!!!」
 悲鳴が怒号に変わる。
 王の怒り。それは一瞬にして群れ全体に伝わった。
 
 そして一斉に、群れが動き出す。
 その目的は、王の声が理解できずとも分かった。
 
 それは開戦の報せだった。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
サル軍団に遭遇した!

  • フェイズ4
ラムサルフォール戦場ヶ原
 サルとヒツジの大激突。
 ラムサルフォール戦場ヶ原はその名の通り、戦場と化していた。 

 先に動いたのはヒツジの群れだった。
 それを受ける形で、サルの群れが前進を始める。
 
 戦場の中央に広がる大きな湖。
 縁を沿うように避けながら戦列は左右に広がり、湖の両岸でそれぞれ衝突した。

 戦場ヶ原の真ん中、ほぼ同時刻に起こった二つの開幕戦。
 それを起点として、いよいよ戦争の火蓋は切って落とされていた。

 (PC名)も加わっての戦闘は、一進一退だった。
 数で勝るヒツジ軍、兵器や練度で勝るサル軍。
 その勝負は拮抗していた。
 
 数匹のヒツジがひとかたまりとなって突進し、サルの一団を跳ね飛ばす。
 そのうちの何匹かは空中でくるりと反転し、そのまま銃を構えて引き金を引いた。
 白い毛玉が蜂の巣にされ、バタバタと地面に倒れていく。
 
 その空中にいるサルに向けて、また別のヒツジたちが角を丸めて突っ込んだ。
 無防備で軽い体が弾け飛んで行く。

 火器類を装備したサルたちに対して、体当たりで対応するヒツジ。
 初めの衝突は確かに五分だったが、それも長くは続かなかった。
 
 カオス状態に近かった前線の状況は次第に落ち着き。
 そうなれば、冷静に状況を対処し始めたサルたちに戦況は一方的に傾き始める。
 
 重武装ボノボ部隊、通称『エクリプス』。
 満を持しての彼らの投入により、勝敗は決した。

 サルマル率いるサル軍団。
 彼らの勝利である。

イベントマップ『ラムサルフォール戦場ヶ原』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを5得た
猿羊合戦~逝く羊来る猿~
 戦場をエクリプス部隊が蹂躙していく。
 やたらといかつい機械のような鎧を身に纏い、戦場を駆け抜けていくボノボ。
 
 フルアーマーボノボ。
 もはやヒツジ軍に、それに対抗する手段はなかった。

「めぅ……」
 敗軍の将が、消え入りそうな声で鳴く。
 そこに悲しみや、悔しさのようなものは感じない。
 弱々しくはあったが、何らかの決意が含まれているのは確かだった。
 
 すでに勝敗は決した。
 彼にできることは、自軍を勝たせることではない。それはもう不可能である。
 
 できることは一つ。
 この戦いを終わらせることだった。

 すでに崩壊した戦線を、毛艶のいいストレートヘアーのヒツジが優雅に歩いて行く。
 その歩みはまさに王侯貴族。
 何人たりとも近寄りがたい。そのようなオーラを放っていた。
 
 しかし、オーラで銃弾は防げない。
 総大将の敗北。
 それがこの戦いの帰結である。

 敵軍の総大将を討ったとの報告が、サル軍団の総大将であるサルマルの耳へと届く。
 程なくして、ボノボのエクリプス部隊を始めとしたサル軍団の進行は止まった。
 
 頭を失い、残されたヒツジ軍は散り散りに敗走していく。
 なお、それらを追うものはおらず、ヒツジたちはそのまま逃げ果せた。
 
 どれだけのヒツジが残ったのか。
 半分か、それ以下か。
 いずれにせよ、しばらくは戦いから遠ざかることになるだろう。

 ラムサルフォール戦場ヶ原の支配権は、これで完全にヒツジたちの手を離れることになった。
 この地の王はサルマル。支配種族はサル軍団。
 あらゆる恵みは彼らのものである。
 
 散り散りになったヒツジたちは、次の機会を息を潜めて待つことになる。
 じっくりと力を蓄え、また支配権を奪うに足る力を身につける、その時まで。

 その時、果たしてまだこのサルたちが王者を名乗り続けているかどうか。
 
 空を見上げれば、無数の鳥たちが飛びかっている。
 遠くの方には、戦況を眺めている別の獣の姿も見える。

 サルたちの支配も、当分安泰というわけにはいかなさそうだった。

ミッション『猿羊合戦~逝く羊来る猿~』をクリア!

クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『羊羹』を手に入れた
  • フェイズ5
  • フェイズ6
  • 当日夜(休息処理後に表示)
猿羊合戦~逝く羊来る猿~
イベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『ヒツジ』が修得可能になった

猿羊合戦~逝く羊来る猿~(サル軍団所属、vsヒツジ)

  • 発生(前回フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)

イベントスタート
『時限ミッション:猿羊合戦~逝く羊来る猿~』を発見しました
今回のイベントミッションの開放期間は12/23(水)~1/9(土)までです
猿羊合戦~逝く羊来る猿~

 犬猿の仲、ということわざがある。
 両者の仲の悪さを言い表したものであり、その代名詞として使われる程度には、実際に犬と猿は仲が悪い。
 
 とはいえ、それは単に喧嘩をするようなもので、因縁めいたものではない。
 別種の動物としては、ごく自然な関係であるとも言えた。
 本当の意味で壊れた関係というものは、言葉にはのぼらない。

 触れられない。喩え話にも、笑い話にもなりはしない。
 羊と猿の間柄というのは、そういった、笑えない関係の一つである。
 
 目が合えばすぐさま命の取り合い。
 すれ違いざま肩でも触れれば一族郎党殺し合い。
 もしも餌や女を奪い合うことにでもなれば、血の雨が降って血の海ができ。
 その海で、憎しみの権化のような新たな生命が生まれるとさえ言われている。

 もちろん、本当にそんなことになった記録はない。
 全ては噂であり、伝説である。
 
 しかし、そこに集まった面々を見て、人々は理解した。
 伝説。それはこれから始まるのだ、ということを。

 ラムサルフォール戦場ヶ原。
 広大な湿原地帯ではあるが、小さな湖が点在する他は水は比較的少ない。
 ぬかるみに足を取られるようなこともなく、靴を汚すこともなさそうだった。
 
 戦場ヶ原の中央にある大きな湖。
 それを挟んで、西には羊の大群、東には猿の大群が詰めかけ、両者は睨み合いを続けていた。
 突撃を始めるための、なにか些細なきっかけを探しているような状態だった。

 こうなった理由はわからない。
 だが、両群の将は揃って同じことを口にしていた。衝突は不可避である、と。
 
 戦場ヶ原の西部を陣取った、美羊帝ことレッドフォート率いるヒツジ軍団。
 その正面、東部に陣取るのは、猿鬼童ことサルマル率いるサル軍団である。
 
 両軍のにらみ合いは、じき終わろうとしていた。

 両軍を構成しているのは、ほとんどがサルとヒツジである。
 つまり、全てではない。
 
 立身出世のために仕官したゴリラやヤギ。
 傭兵として参加しているイエティなどの姿もあった。
 
 両軍は戦いが始まろうとしている、今この時でさえ傭兵の飛び入り参加を募っている。

 おめざめTVの戦術予想士ガラオンの分析では、サル軍団有利と出ている。
 ヒツジ軍は数では勝るものの、サル軍団の配備している最新兵器には対抗できないだろう、と。
 
 傭兵は両軍ともに募集中である。
 その勝敗はサル軍有利と出ているが、果たして結果はやってみなければ分からない。
 
 どちらの軍に与するか。
 その選択は委ねられている。もちろん、戦争には参加しないという選択肢も、ある。

クリスマスプレゼント
 クリスマスプレゼントはトナカイ一頭です。
 日頃の感謝を込めて、皆様に一頭ずつ、送らせていただきます。
 トナカイの使い道は色々ありますが。
 今回、我々は服飾品の製作をご提案させていただいております。
 
 軽くて暖かくて毛むくじゃら。
 そんなトナカイコーデはいかがでしょう。
 加工はぜひとも、我々トナカイ屋で。
 『登録フォーム』の上部にて、オーダーをお待ちしております。
 
 なお、加工後に余ったモノは、耳を揃えてお返しいたします。
 安全安心、信頼と実績のトナカイ屋まで。
 オーダー、待っております。

  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
ラムサルフォール戦場ヶ原

 ラムサルフォール戦場ヶ原。
 自然にあふれた、素晴らしい景色である。
 とても、戦場ヶ原などと物騒な名前で呼ばれる理由は思いつかない。
 
 しかし、この美しい土地は戦場になる。
 その時間は刻一刻と迫っていた。

 西側陣営、ヒツジ軍団。
 東側陣営、サル軍団。
 
 両軍ともに両翼はいっぱいに広がり、その端から端までの距離は両軍の対している距離より遠い。
 戦場ヶ原の端から端まで、という訳にはいかないが。
 この両軍が前進を始め衝突すれば、この大湿原のほとんど全域が戦場になるのは必至だった。

 両軍は何かを待っている。
 和睦の使者を待っているわけでも、その帰りを待っているわけでもない。
 
 すでにスタート地点に立ち、構え、待つのは号砲と決まっている。
 その瞬間のために集中力を高めていた。
 一瞬でも立ち後れないように。横に並ぶ誰よりも頭一つ抜きん出るため。
 
 そにために、高まっている。
 機運、熱気、気勢。高まり、熟する。
 その時にはまだ、少しかかる。

  • フェイズ2(なし、探索可能)

  • フェイズ3
サル軍団陣営

 戦場ヶ原の東部。
 サルたちが群れを作り、もう何時間もヒツジと睨み合っていた。

 その前線の僅か後方に、この軍の大将が陣取っていた。
 白黒の陣幕が張られ、その陣内には三つ葉の描かれた旗が何本も立てられている。
 
 中央に置かれたちいさな椅子にちょこんと正座をして座る。
 それこそが大将、猿鬼童サルマル、その猿だった。

 陣幕は前方には張られておらず、サルたちの群れを挟んで敵陣が見える。
 サルマルは椅子に正座したまま、その方向をじっと、ずっと見ていた。
 
 身につけた陣羽織には皺1つない。
 細やかで美しい模様が全く損なわれることなく、サルマルの身を包んでいた。
 
 周りのサル達はみな顔を伏せて、彼同様黙って膝を付いている。
 そして大将の様子をうかがいながら、他のサルたちにチラチラと視線を送り合っていた。

 意志の交換は視線でしかできなかったが、もうかなりの時間彼らはそうしている。
 いい加減、アイコンタクトだけでさえその意志は統一できていた。
 
 いつまでこうしているのか、だ。
 
 猿鬼童の名は伊達ではない。
 けして潔癖な平和主義というわけではなく、戦いにおいてはまさに鬼神と化すのだ。

 その大将が動かない。
 たしかに、もともとこの戦には乗り気ではないと聞いてはいたが、ここまで来て怖気づく猿ではない。
 そう思って任せていたが、大将は一向に動かない。
 しびれを切らした部下たちは、その視線を参謀長へと一斉に向けていた。
 
 進言を、と。その視線に押された参謀長が動く。
 その頃、自陣で小さな騒ぎが起こっていた。

 それは北側に配した部隊、あるサルが弁当を食っていた。
 
 緊張感なく気を抜いていた、そこへと襲いかかったのは黒い影だった。
 空から来襲したそれはサルの手から弁当を奪い、また一気に空へと舞い上がる。
 
 それは鳥。鷲か鷹か。猛禽類の一種だった。

 驚きと、それに少し遅れた怒り。そんな叫び声を、弁当を奪われたサルが上げた。
 
 他のサルたちの視線が一斉にその声に集中する。
 意識もまた、そこへと向けられる。その刹那、別の鳥が、また別の獲物を狙っていた。
 
 大砲の横に積んであった砲弾の一つ。
 軽く数キロはあるであろうそれをその鳥は掴み、物音一つ立てずなんなく飛び去った。

 誰一匹、それに気づかない。
 弁当を奪われたサルと、奪い去っていった鳥に目を奪われている。
 
 それからしばらくして、敵陣に動きがあった。
 爆発音がして、狼煙が上がる。
 そして、たくさんのヒツジの鳴き声を合図に、敵軍が行進を開始していた。

 その様子は、陣幕の中からも見えていた。
 砂煙を上げて、ヒツジたちの群れが動き出している。
 その様子は明らかに、友好的なものとは違っていた。
 
 サルマルは目を伏せ、頭を振った。
 息をついて、目を開く。その目にはもう、先ほどまでとは別の光が宿っていた。
 
 それは鬼神、猿鬼童の瞳だった。

「うきいいいいいいいいい!!!!!」
 大将が立ち上がると同時、それを待っていたかのように参謀長が叫ぶ。
 
 続いて他の部下たちが。雄叫びは部隊全体へと広がっていった。
 黙って歩き始めたサルマル。腰に下げていた刀を抜き、高らかと掲げた。

 刀を振り下ろす。その切っ先がヒツジ軍団へと向けられた。

 迎え撃つ。
 口火はすでに切られていた。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
ヒツジ軍団に遭遇した!

  • フェイズ4
ラムサルフォール戦場ヶ原
 サルとヒツジの大激突。
 ラムサルフォール戦場ヶ原はその名の通り、戦場と化していた。

 先に動いたのはヒツジの群れだった。
 それを受ける形で、サルの群れが前進を始める。
 
 戦場の中央に広がる大きな湖。
 縁を沿うように避けながら戦列は左右に広がり、湖の両岸でそれぞれ衝突した。
 
 戦場ヶ原の真ん中、ほぼ同時刻に起こった二つの開幕戦。
 それを起点として、いよいよ戦争の火蓋は切って落とされていた。

 (PC名)も加わっての戦闘は、一進一退だった。
 数で勝るヒツジ軍、兵器や練度で勝るサル軍。
 その勝負は拮抗していた。
 
 数匹のヒツジがひとかたまりとなって突進し、サルの一団を跳ね飛ばす。
 そのうちの何匹かは空中でくるりと反転し、そのまま銃を構えて引き金を引いた。
 白い毛玉が蜂の巣にされ、バタバタと地面に倒れていく。
 
 その空中にいるサルに向けて、また別のヒツジたちが角を丸めて突っ込んだ。
 無防備で軽い体が弾け飛んで行く。

 火器類を装備したサルたちに対して、体当たりで対応するヒツジ。
 初めの衝突は確かに五分だったが、それも長くは続かなかった。
 
 カオス状態に近かった前線の状況は次第に落ち着き。
 そうなれば、冷静に状況を対処し始めたサルたちに戦況は一方的に傾き始める。
 
 重武装ボノボ部隊、通称『エクリプス』。
 満を持しての彼らの投入により、勝敗は決した。

 サルマル率いるサル軍団。
 彼らの勝利である。

イベントマップ『ラムサルフォール戦場ヶ原』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを△△得た

猿羊合戦~逝く羊来る猿~
 戦場をエクリプス部隊が蹂躙していく。
 やたらといかつい機械のような鎧を身に纏い、戦場を駆け抜けていくボノボ。
 
 フルアーマーボノボ。
 もはやヒツジ軍に、それに対抗する手段はなかった。

「…………………………」
 猿鬼童サルマルは終始無言で、戦場を見つめていた。
 こうなることは分かっていた。そんな表情だった。
 
 この戦争は、ただの確認作業にすぎない。
 だからこそ、避けたかった。
 融和の道はないかと模索したが、結局のところこうなってしまった。
 
 はじめから勝負になどなっていない。
 サルマルにとっては、なんだか負けたような気分だった。

 敵軍の将、美羊帝レッドフォートの戦死が告げられた。
 その毛の一部がサルマルの手に届く。
 
 美羊帝というだけあって、ツヤツヤのテカテカ。
 ただのヒツジのものとはとても思えない、美しいサラサラヘアーだった。
 
 それを握りしめたまま、サルマルは部下に停戦を命じた。
 武器を収め、逃げるものは追うな、と。
 そして、速やかなる帰投を。戦いは終わったのだ。

 レッドフォートの敗北はすでに、ヒツジの群れ全体に伝わっていた。
 
 弔い合戦、それを叫ぶものはほとんどいなかった。
 戦力差は圧倒的で、それは弔い合戦などではなく、ただの後追いにしかならない。
 
 弔い合戦をするにしても、今ではない。
 雌伏の時。その時間を得るために、生き抜くことが重要だった。

 サルマルの命令にすべてのサルたちは従い。
 いくらかの向かってきたものを除き、敗走していくヒツジたちを背中から撃つものはいなかった。
 
 いずれまた、彼らは敵になる。
 その確信はあったが、王の言葉は絶対である。
 逆らうサルはただの一匹もいなかった。

 この戦いはこちらの勝利に終わったが、サル軍団の被害もけして少なくはない。
 燃費の悪いエクリプス部隊の投入は時間を遅らさざるを得ず、そのため前線に被害が出てしまった。
 
 立て直しには、それなりの時間が必要となるだろう。
 その時間、猶予がどのくらいあるのか。
 
 考えながら、サルマルは空を見上げていた。
 多くの鳥たちが空を旋回しながら、アーアーと鳴き声を交換しあっている。
 
 戦場すべてを俯瞰で見れる彼らは、ここで起こったすべてを把握しているだろう。
 こちらの戦力も、その被害も全て。
 すべてを見られている。それは全く、気持ちのいいものではなかった。

 今回の勝利で、このラムサルフォール戦場ヶ原の支配権はサルたちのものとなった。
 晴れて、この地の王となったわけである。
 
 だが、それは、次の敗北までの暫定的なものにすぎない。
 一つの勝利から、一つの敗北まで。その間だけの、仮初の王冠である。
 
 だが、それでもけして軽くはないその王冠をかぶったサルマルは。
 しばらく空を見つめ続けながら、首の重さにため息をついていた。

ミッション『猿羊合戦~逝く羊来る猿~』をクリア!

クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『申餅』を手に入れた

  • フェイズ5
  • フェイズ6
  • 当日夜(休息処理後に表示)
猿羊合戦~逝く羊来る猿~
イベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました
イベント挑戦ボーナス
(PC名)はコスチューム『サル』が修得可能になった

バレンタイン甘味争奪戦

  • 発生(前回フェイズ6、強制イベントおよび休息処理後)
イベントスタート
『時限ミッション:バレンタイン甘味争奪戦』を発見しました
今回のイベントミッションの開放期間は2/10(水)~2/27(土)までです
バレンタイン甘味争奪戦
 その街は、いつどこにいても甘い匂いに満ちている。
 
 郊外に作られたカカオ農園、そこで収穫されたカカオ豆を加工するためのチョコレート工場が街中に点在している。
 工場の煙突から立ち上る煙には茶色いススを帯び。
 その煙にあてられた鳥たちが、恍惚とした表情を浮かべながら地面に落ちていくのは日常の光景だった。

 カカオの山、チョコの里、バレンタイン伯爵の実家。
 様々な二つ名を持つ、その街の本当の名前はヴェレンスルヴである。
 
 だが、外の人間からその名で呼ばれることは少ない。
 大体の場合は、『チョコレートの町』などとストレートな呼ばれ方をするのが通常だった。

 聖バレンタインデーに向けて、街はなお一層の活気の中にあった。
 その記念日の説明は必要ないだろう。
 若い男女がチョコレートまみれで組んず解れつする日のことである。
 
 この日のために保存していたカカオの実をすべて倉庫から引っ張りだし。
 すべてのチョコレート工場の機械群が、全力で稼働し始めていた。

 しかし、街ではある集団の到来がまことしやかに噂されている。
 
 過去、数度に渡り街はそれらに襲われ、甚大な被害を出してきた。
 最後の襲撃は二十年前、記録によれば雪の多かった年である。
 
 街中のカフェというカフェを襲ってチョコレートを食い尽くし、ココアを飲み干した。
 それだけでは飽きたらずにチョコレート工場を襲い、未加工のカカオの実を噛み砕いた。
 さらにカカオ農園に行き、カカオの木に齧りついていたという。

 甘露を求めてさまよい歩く、その集団の名はジョシカイ。
 伝説の戦闘民族アマゾネスとも並び称される、純血戦争種ジョシカイである。
 
 ジョシカイは主にメスにより構成される。
 稀にオスも混じるが、それらはペットあるいは奴隷である。
 そういったオスはソウショクケイと呼ばれ、彼女らと同列に扱われることはない。
 
 この集団は闘争と甘露のみを欲し、定住地を持たない流浪の集団である。

 それがこの街に、チョコレートを求めてやってくる。
 お金を持って買いに来るのであれば、歓迎もしよう。
 
 だが、彼女らが求めるものは甘露だけではない。
 血と狂騒。戦争もまた、甘露のお供に欲するところである。
 
 反撃を熱烈に歓迎する略奪行為。そしてひと暴れした後のアフタースウィート。
 そんな迷惑極まりないものがジョシカイの目的だった。

 前回の完全破壊から二十年。
 また全て奪われるわけにはいかない。
 カカオ一欠とて、彼女らの口に入れてやるわけには行かないのだ。
 
 どうかこの街を、チョコレートを、カカオを。
 聖なるバレンタインをジョシカイの手から守ってはくれないだろうか。

『マップ:チョコレートの町』を発見しました

  • フェイズ1(食事およびマップ移動処理後)
チョコレートの町
 ヴェレンスルヴ。この街に住むものにさえ、その名前は浸透していない。
 
 チョコレートタウンとか、カカオタウンとか。
 そういった名前への改名も、何度か議会で議論されたこともある。
 だが、保守派の抵抗などもあって、改名には至っていない。
 
 一つの産業に傾倒するのはあまりに危険だと言うのが彼らの意見であるが。
 実際のところ、すでに傾倒しきっているのでこの街の未来は明るいようで暗いのかもしれなかった。

 だが今は、ひたすらに街は明るい。
 理由もなくやたらチョコが売れる日、バレンタインデーはこの街においては街一番のお祭りと言っても過言ではない。
 
 街にはチョコレートを扱う店ばかりで、普段はすべてが競合し客の奪い合いである。
 しかし、この日だけは違う。
 奪い合う必要もないほど、街中が客で溢れかえるのだ。
 
 まさしくそれは、祭りである。

 聖なるバレンタインデーを前に、街では祭りの準備がせっせと行われていた。
 
 カカオ畑からありったけのカカオの実を収穫し、倉庫の中身を空にして。
 すべてを、この街の何もかもをチョコレートへと変える。注ぎこむ。
 
 そして店頭へと並べられたチョコレートたち。

 顎がおかしくなるぐらい甘い。
 ビターな味わい。
 苦虫を噛み潰したような苦さ。
 ほんのり甘い。
 にがあまい。あまにがい。

 一つ一つ、それぞれがそれぞれの味わいを持って。
 味わいに想いを乗せて、送られる。
 
 年に一度のバレンタイン。
 その日は近い。

  • フェイズ2(なし、探索可能)

  • フェイズ3
ジョシカイ開催
 ショコラトール通りはこの街におけるメインストリートである。
 道沿いにはズラッとチョコレート専門店が立ち並び、他の店など挟む余地はない。
 
 これだけ同じものが売られていれば、他の商品にも需要がありそうなものだが。
 意地か矜持か、どの店もチョコレートのみで勝負していた。

 本番のバレンタインデーはまだとはいえ、すでに人通りは多い。
 その日のためにと前もって買っていく客たちである。
 
 その人通りが、ふっと途切れる。
 パラパラと少なくなっていったわけではなく、あるとき突然にである。
 
 それは予兆なく、いきなり訪れた。

 びゅぅと風が吹いた。
 人通りの途切れたメインストリートを、砂埃を薄っすらと巻き上げながら風が通り抜ける。
 その風音で、店の人達もようやく気づいたようだった。
 風の音が聞こえるほどに、街が静まり返っていることに。
 
 西から東へと流れていく人と風。
 風が人を、その喧騒ごと運び去っていく。

 そして誰もいなくなったメインストリートに、それらはついに現れた。
 
 もしかすると、彼女らが風を生んでいたのかもしれない。
 長い髪がたなびいて、スカートが翻り、舞い上がった砂埃はマスクでガード。
 
 純血戦争種、チームジョシカイ。
 甘味を求めて、颯爽と登場である。

 風とともにやってきた彼女らは、あらゆる種がないまぜになっていた。
 人だけではない。動物、鳥、虫、そのパーティはなんともバラエティに飛んでいた。
 
 だが共通点はある。
 それはもちろん、女性であるということだった。

(PT名)は何もしませんでした (行動ポイント残り1ポイント)

戦闘予告
ジョシカイに遭遇した!

  • フェイズ4
  • フェイズ5
  • フェイズ6
チョコレートの町
 甘味とは癒やしである。
 甘露とは希望である。
 
 なくては人生が成り立たない。
 無味乾燥とした、なんとも味気ないものになってしまうだろう。
 そんなものに意味などない。価値もない。
 
 だから彼女たちは闘うのだ。
 甘みを甘受する、その瞬間のために。

 街のメインストリートを、西から東へと押し通るジョシカイメンバー。
 その目が捉えるものは店に並んだチョコレートをはじめとする、甘さだけである。
 甘くないものは正しく目に映らない。
 アイラの姿は、壁などの障害物としてしか見えていないようだった。
 
 しかし、その壁にぶつかり、それ以上先へは進むことを許されず。
 ジョシカイの進撃はすでに止まっていた。

 手前の店、つまり襲われた店のチョコレートは完全に食い尽くされていた。
 床には破り捨てられたパッケージ等が散乱している。
 
 そこには、高級チョコレートもワンコインチョコレートも見境ない。
 売り物ではない試食用のものから、奥の控室に置いてある鞄の中にあった売り子さんの私物の手作りチョコレートに至るまで。
 ありとあらゆる甘味が食われてしまっていた。

 売り子さんは泣いていた。
 
 ハートマークの散りばめられた包装紙、ビリビリに破かれたその紙を胸に抱き。
 
 売り子さんは泣いていた。

イベントマップ『チョコレートの町』をクリア!
クリアボーナス
(PC名)はステータスボーナスを△△得た

バレンタイン甘味争奪戦
 すでに満足したものも、まだ一口もチョコレートを口にしていないものもいたが。
 彼女らが進むことができたのはここまでで、ここに至るまでのお店にはもう何も残っていなかった。
 
 なんとかしようと突破を試みるものもいたが、一人倒れ二人倒れ。
 ただの一人の突破者も出せないうちに、彼女たちも諦めたようだった。
 
 襲った店の中にまだ残っていないかと、それは諦めきれないものもいたようだったが。
 それもすぐに現実を知り、トボトボと来た道を戻っていった。

 倒れこんでいた者たちも一人ずつ起き上がり、こちらを背に去っていく。
 ジョシカイは解散の時を迎えていた。
 
 その背中に、彼女らを追い立てるようにビュウと冷たい風が吹き付ける。
 風はストリートの東側から、先ほどまでとは真逆の方向に吹く風だった。

 ジョシカイの登場シーンと同様に。風を伴い、その男は姿を見せた。
 
 スラリとした長身を白いタキシードで着飾り、これまた白い前掛けエプロンを腰に巻いている。
 白いエナメルの靴で踵を鳴らし、男は優雅に道を歩いてきていた。
 
「ゴメンよ、レディーたち。僕のショコラを食べに来てくれたんだね」
 キザに言って、前髪をふふぁさーとかきあげる。
 イケメン様の登場である。

 街一番のイケメンにして、腕はそこそこのショコラティエ。
 ショコラ工房エリオキッチンのオーナー、エリオット・ファストウォータである。
 
 男はきつい香水の匂いを撒き散らせながらアイラの横をすり抜け、未だ倒れこんでいるジョシカイメンバーの元へと歩み寄った。
 そのうちの一人の前で膝をつき、抱き起こす。
「こんなところで寝ていてはダメだよ、スウィート」
「眠り姫を見つけてしまったら、キスしてしまいそうだよ。王子様としては、さ」
 その言葉を受けて、メスゴリラはぽっと頬を染めていた。

「さあ、お食べ。僕の手作りショコラだよ」
 そっとゴリラの耳元で甘言を囁いて、自身の右腕を高く掲げた。
 その高さから、指先でつまんだチョコレートを落とす。
 
 ゴリラの鼻にワンバウンドして、転がるように口へ。
 宇宙まで飛び上がりそうなほどうっとりした表情を浮かべ、甘美なる味わいにゴリラは全身がとろけていた。

「これを食べて、おとなしく帰るんだ」
「そして可愛い子を君以外に5人集めて、駅に集合。いいね?」
 必殺のショコラティエスマイルで、白い歯をキラリと光らせる。
 
 瞳をハートマークに変えたゴリラはこくこくと何度も頷き返し。
 すでにチョコレートは溶けて何もなくなった口を、甘みを探してモゴモゴさせていた。

 ジョシカイは解散の時を迎えた。
 
 しかしそのメンバーの一部は再編され、6名の新たなチームが発足となる。
 混血対戦種、チームゴウコン。
 
 その名が恐怖とともに世界に轟くには、まだもう少しの時が必要である。
 そしてエリオットの名が世界に轟く未来は、いつまで待っても訪れることはなかった。

ミッション『バレンタイン甘味争奪戦』をクリア!

クリアボーナス
(PC名)は魂塵を△△Ash得た
(PC名)はSPを1得た
(PC名)は『エリオキッチンのショコラ』を手に入れた
特別ボーナス
(PC名)は魂片:『カカオポッド』を手に入れた

  • 当日夜(休息処理後に表示)
バレンタイン甘味争奪戦
今回のイベントは終了しました
現在位置、HP、疲労度がイベント開始前の状態に戻りました

最終更新:2016年02月15日 19:05