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&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[ボーイズラブ・やおい創作総合]] > [[ボーイズラブ・やおい創作総合 投下作品まとめページ]] > 2-142 「−MENS− 心の在処」} *「−MENS− 心の在処」 142 :−MENS− 心の在処:2011/05/21(土) 12:40:46.94 ID:mpv1crl0 [[》2-127>BL-2-127]]の続きを投下 青年×少年で、サイキックファンタジー風味 今回分だけでも一応、読めるようになっているはず… よろしかったらどうぞ 143 :−MENS− 心の在処:2011/05/21(土) 12:44:08.45 ID:mpv1crl0 窓から見える空が青い。 こんなに、雲ひとつ無く晴れ渡った日の朝だというのに、青年の隣で眠る淡い空色の柔らかな髪と 端正な顔立ちをした、その少年が目を覚ます気配は、一向に無かった。 そもそも、昨晩、少年が帰って来た時刻が真夜中過ぎではあったので、まあ、これはこれで、仕方な いか、などと思いながら、流れるようなプラチナブロンドと青銀の瞳の精悍な顔立ちをした青年は、 今日、何度目かの溜息をついた。 そうして、今、このベッドの上で、少し背中を丸めるような姿勢になりながら、相変わらず、穏やか な顔つきで眠り続けている少年の方へと改めて目を遣った。 これまで、この少年と付き合ってきた経験から察するに、少年は、今、このまま彼が起きれば、その 瞬間、ひどく不機嫌な表情をすること、この上ない格好で眠っている。 少年が、今、身に着けているのは、そもそも穿いていた少し細身のカーゴパンツと、申し訳程度にか かるブランケットのみだ。 この年頃の少年としては、見た目にもバランスがとれた柔らかな筋肉を兼ね備え、滑らかな線を描く 彫像のような美しさを見せているその上半身には、何も身につけてはいない。 まあ、それは、昨晩、少年自身が、上半身に何か着たまま眠るのは、鬱陶しいので、脱がせてくれと 言った所為なのだが。 更に、若干背中を丸めたような姿勢のままで眠っている、少年の背中には、彼が普通の人間と異なる 者であるということの最大の証となっている、四枚の透明な羽根が出現していた。 今、少年は、今、本来であれば、彼が滅多に見せることのない、生来の姿のままで、眠りに落ちてい たのだ。 朝の陽射しを受け、様々な色合いで淡い光を反射している透明な羽根を身に纏ったその少年の姿は、 昨日の真夜中に見ていた時よりも、より一層、その姿が何か現実離れした存在のようにも思えた。 また、それは、少年本人にとっては、少年自身が自分の存在を酷く否定しがちな要因をともなって いたが、他人から観賞されるという趣向を踏まえて創られた、人工生命体としての彼の端正な容姿 もあって、この殺風景で、決して広くはない部屋に対して、彼の存在が相当場違なものにも感じら れた。 「まあ、このままだと、昨日、何かあったのかと疑いたくなる光景にはあるかな……」 青年は、ベッドに片肘をつき、自らの上半身を少し起こしたその姿勢のまま、溜息をつきながら、小 さな声で独りごとを言った。 それでも、少年の方は、先程から、同じベッドの上で背中を丸めるようにして、眠り続けたまま、起 きる気配など全く無い。 「……にしても……本当に相当、疲れてたのかね? 無防備もいいところだと思うぞ、エル」 エルと呼んだその少年の反応が無いことを承知の上で、青年は小声のまま、続けてそう声をかけた。 そうなのだ、エルがいつもは自身の能力によって封じている羽根を晒した本来の姿のままで、こんな にも無防備な状態でいることは、極めて珍しい。いや、むしろここまでの状況は無かったといってい い。 エルが自らの意思で背中の羽根を彼に見せてくれたのは、二人が研究所を出ることになったあの時だ けだったし、その後は、その場の状況に応じて仕方なく、というものばかりだった。 そういった時でさえ、羽根を封印しても差し支えない状況に戻れば、即座にそれを封じていたという のに。 これだけ深く眠っているとはいえ、こんな状況は今までに無かった。 青年は、そう思いながら、昨晩の真夜中にエルが帰って来た時の状況を思い返す。 まあ、いつもよりも無理強いが過ぎたのは認めるし、エル自身の反応もいつもより若干強かったとは 思うが……結局、あの後、ベッドまで運んで、上着を脱がせてやって、こうして添い寝までする破目 になっただけだ。 思い返したところで、結局、青年には、エルが無防備な状況のまま眠っている理由は、今のところ全 く思い当たらなかった。 青年は昨日のこと思い返しながら、それでもまだ、この状況の原因を探すように努力はしていたが、 不意に、あの時、自分自身がエルに対して、想いを告げた瞬間、それを受けた相手方の反応を思い 返すと、それだけで、少し笑ってしまいそうになる程、なんとも可笑しな気持ちになった。 あの時、エルは、「好きだ」と告げた、自分の言葉にとても驚いていた。 まあ、彼がこちら側の気持ちになんぞ、全く気付いていないというのは、十分理解しているつもりだ ったが、エル自身が、自分自身の気持ちの揺れに対しても、全く無自覚なのだということが解って、 今更ながら、それがなんだか余計に可笑しかった。 そんな風にして、いつもエル自身の方は、全く無自覚に振舞っているくせに、昨日、彼をベッドの上 へと運んでいった際には、自分の目の前で涙を零しながら、お願い……傍に居て……とか言うのだか ら、本当に性質が悪い。 おまけに、それ以前に、いつも自分に対して、あれだけ気があると言っているかのようにも受け取れ る素振りを素で見せているくせに、その本人が全く気付いていなかったなんて、無自覚が過ぎるだろ う。 ……それに、研究所を出る際に、俺の気持ちが変わる程に、力強く口説いてきてくれたのは、君の 方なのにね。 「……シオン! 俺は貴方のことが好きだよ! 俺にとって、貴方は必要な人で……大切な人だよ。  だから……これから先もずっと、貴方と一緒に居たい。……それじゃだめかな?」 青年は、あの時、生来の姿を晒すことも厭わず、自分の方へと手を差し伸べながら、真摯な眼差しを もってそう言った、エルの姿を思い出した。 その所為もあって、目の前で眠り続けている少年の姿を眺めたまま、自らの面ざしに浮かべていた微 笑みを一層強くしながら、笑い出しそうになるのを堪えた。 「……う……シオン?」 そんなシオンの様子に気付いたのか、隣で眠っていたエルがようやく目を覚ましたようで、片手で瞼 を擦りながら、青年の名を呼んだ。 「おや、おはよう、エル、そろそろ、目が覚めた?」 「……おはよう……」 エルの思考は、どこかまだぼんやりとしているようで、今、シオンが先程と同じように、その傍で間近 に様子を見ている限りでは、エルが昨晩深夜からこれまでの状況を把握できているとは言い難いようだ った。 シオンは、未だにベッドに横たわったままの自分と向きあうように、ゆっくりと顔を上げたエルの額へ と軽く口付けてから、相手の体調を気遣うようにして、再び声をかけた。 「エル、体の具合はどう? 先に言っておくけど、 あれから、特に手出しはしていないから、そういった意味では安心して良いと思う」 「えっ、あ……その、すまない! ……って、うあぁっ!!」 それを聞いたエルは、急に我に返ったようで、すぐに飛び起きるようにして身体を起こそうとした瞬間、 バランスを崩して、ベッドの上から落ちそうになった。 シオンは、そんな風にバランスを崩しかけたエルの片手を引き、それとほぼ同時に自らの身体を起こす ようにして、エルがベッドから落ちる前に抱き留めてやる。 「大丈夫?」 互いにベッドの上で膝をつくような体勢になってはいるが、昨日と同じように、エルを自らの腕の中に 抱き留めたその体勢のまま、シオンは、エルに再び問いかけた。 それに対して、先程よりも更に相手に詫びるべき項目を増やす事態に陥ったエルは、目の前のこの事態 に、まだ少々、混乱しながらも、シオンに対して詫びる言葉を早々に口にした。 「えっ、ああっ、もう!! ……その……ごめん! 昨日は、本当にすまなかった、ごめん!!」 「ここに帰って来てからの件なら、エルの方が謝るようなことは何もないよ?」 「……いや、俺の方が……また色々と迷惑をかけた」 「こちらこそ、無理強いして済まなかった。  ……えーっと、それにしても、その背中……ていうか、そのままで大丈夫なのか?」 二人はどこか咬み合あわないような会話を続けていたが、エルが未だに、背中の羽根を封じていない上、 更に彼が上半身に何も身につけていなかったことに改めて気が付いたシオンは、それを気遣うように、 声をかけた。 エルの背中の羽根は、いつもなら、もう、とっくに彼自身が封じている筈の状態にあるものなので、 今までにこんな風に声をかけたことなど無かった。 おまけに、エル自身は、それ程、気にしていないらしく、機嫌を損ねたりしている訳ではないのだが、 こんな風にエル自身が平然とした状況で、なおかつ、衣服を身につけていない彼の背中の近くへ と、自らの掌が触れることなど、今までには無かったことなので、正直、シオンの方が、今、この状 態に在ることに驚いていた。 「……ああ、そういえば、このままだと、少し寒いかな……。  それから、これは、アンタが望むなら、それは、それで良いかなと思って。  これからは、封印しなくても済む状況の時は、なるべくそのままにしようかと思ってるんだ。  まあ、そのままにしとくと、色々と邪魔なんで、必要が無い時は、普段も封じるようにはするけど」 エル自身は、そのことを特段気に留める様子もなく、普段と同じように、シオンに微笑みながら、返 事を返した。 自分の心の内を素直に思えば、今も自分の背中に、この羽根があることについて、肯定的になりきれ ている訳では全くない。 それでも、シオンが重ねて好きだと言ってくれている、自分自身を構成する要素の一つだと思えば、 少しでも、これについて、嫌悪している自分の気持ちを和らげることができるような気がしたのだ。 だから、エルは、自分が唯一、信頼しているシオンがこの羽根を現すことを望んだ時にまで、敢えて 逆らうようにしないことを決めた。ただ、それだけのことだ。 ただ、それだけのことで、他に何が変わったという訳ではないが、エルは、自分自身の気持ちが、何 処か少しだけ軽くなったような気がした。 これからは、自分が人工生命体であるという事実から目を反らすことなく、何時も強い気持ちでいられ る自分で在りたい。 少しずつでも良いから、そんな自分自身の想いに自分を近づけていくようにしたい。 エルは、そんな想いを新たにしていた。 「えっ、それはちょっと……  要するに、これからは君が、ああいう表情をすることが、あんまり無くなるってことだよね」 シオンは、自分の腕に抱かれたままの状況にいながら、強い意思を宿す瞳で、こちらの方を見つめて いたエルに対して、ほんの少しだけ驚いたような表情をした。 「……っ、何だよ、シオン! それって、どういう……」 「いや、別に……そういうところも全部含めて、君が好きだってことだよ」 先程からエルを抱きしめたままでいたシオンは、自らの片方の手をエルの後頭部へと添えて、その額 に軽く口付けてから、小さな声でそう言うと、ようやく自らの腕を振りほどいた。 「えっ、あっ、それって……」 エルが驚いた表情のまま、その場で一瞬、固まったように、動くことを止めていた合間に、シオンは、 エルの身体からベッドの上へと落ちていたブランケットを自らの手元に手繰り寄せ、エルの前へと差 しだした。 それから、ベッドの淵に手をついて立ち上がり、再び、エルが膝をついて座っていたままのベッドの 方へと振り向くと、普段の朝と変らない、いつもの笑顔で、エルに声をかける。 「さて、紅茶でも淹れてくるよ。ミルクティーでいい?」 「えっ、あ、うん」 そのまま、シオンの後ろ姿を見送ったエルは、ようやく少し落ち着いた気持ちを取り戻しながら、小さ く息をついた。 そうして、自らの背中の羽根を一瞬にして封じ、シオンから渡されたブランケットをふわりと羽織るよ うにして、肩にかけながら、これからのことに想いを馳せる。 昨晩、遭遇した追手は、そう遠くないうちに、この場所を特定するだろう。 それでも今は、それが少しでも遅れることを祈らずにはいられなかった。 いずれは、今のこの場所からも去らなければならないだろうし、いつもシオンの足手纏いになりがち な、自分のことを考えると、また、シオンとも、別れなければならない時がやってくるかもしれない。 「それでも、俺は、今は、ただ、シオンの傍に居たい。ただ、それだけが、俺の望みなんだ」 シオンが去っていった後、今は、ただ一人きりになった、この部屋のベッドに座ったまま、エルは小さ な声で、そう呟いた。 【END】 レスありがとうございました! ちなみに、エルには、普段からどちらかといえば、寝起きは良くない方…なんて設定があったりします 細かい設定を色々と考えるのも大好きなのですが、SSにあまり活きない裏設定の方が多くて困るw 以上、お目汚し失礼しました ---- &link_up(ページ最上部へ) ----
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無防備もいいところだと思うぞ、エル」 エルと呼んだその少年の反応が無いことを承知の上で、青年は小声のまま、続けてそう声をかけた。 そうなのだ、エルがいつもは自身の能力によって封じている羽根を晒した本来の姿のままで、こんな にも無防備な状態でいることは、極めて珍しい。いや、むしろここまでの状況は無かったといってい い。 エルが自らの意思で背中の羽根を彼に見せてくれたのは、二人が研究所を出ることになったあの時だ けだったし、その後は、その場の状況に応じて仕方なく、というものばかりだった。 そういった時でさえ、羽根を封印しても差し支えない状況に戻れば、即座にそれを封じていたという のに。 これだけ深く眠っているとはいえ、こんな状況は今までに無かった。 青年は、そう思いながら、昨晩の真夜中にエルが帰って来た時の状況を思い返す。 まあ、いつもよりも無理強いが過ぎたのは認めるし、エル自身の反応もいつもより若干強かったとは 思うが……結局、あの後、ベッドまで運んで、上着を脱がせてやって、こうして添い寝までする破目 になっただけだ。 思い返したところで、結局、青年には、エルが無防備な状況のまま眠っている理由は、今のところ全 く思い当たらなかった。 青年は昨日のこと思い返しながら、それでもまだ、この状況の原因を探すように努力はしていたが、 不意に、あの時、自分自身がエルに対して、想いを告げた瞬間、それを受けた相手方の反応を思い 返すと、それだけで、少し笑ってしまいそうになる程、なんとも可笑しな気持ちになった。 あの時、エルは、「好きだ」と告げた、自分の言葉にとても驚いていた。 まあ、彼がこちら側の気持ちになんぞ、全く気付いていないというのは、十分理解しているつもりだ ったが、エル自身が、自分自身の気持ちの揺れに対しても、全く無自覚なのだということが解って、 今更ながら、それがなんだか余計に可笑しかった。 そんな風にして、いつもエル自身の方は、全く無自覚に振舞っているくせに、昨日、彼をベッドの上 へと運んでいった際には、自分の目の前で涙を零しながら、お願い……傍に居て……とか言うのだか ら、本当に性質が悪い。 おまけに、それ以前に、いつも自分に対して、あれだけ気があると言っているかのようにも受け取れ る素振りを素で見せているくせに、その本人が全く気付いていなかったなんて、無自覚が過ぎるだろ う。 ……それに、研究所を出る際に、俺の気持ちが変わる程に、力強く口説いてきてくれたのは、君の 方なのにね。 「……シオン! 俺は貴方のことが好きだよ! 俺にとって、貴方は必要な人で……大切な人だよ。  だから……これから先もずっと、貴方と一緒に居たい。……それじゃだめかな?」 青年は、あの時、生来の姿を晒すことも厭わず、自分の方へと手を差し伸べながら、真摯な眼差しを もってそう言った、エルの姿を思い出した。 その所為もあって、目の前で眠り続けている少年の姿を眺めたまま、自らの面ざしに浮かべていた微 笑みを一層強くしながら、笑い出しそうになるのを堪えた。 「……う……シオン?」 そんなシオンの様子に気付いたのか、隣で眠っていたエルがようやく目を覚ましたようで、片手で瞼 を擦りながら、青年の名を呼んだ。 「おや、おはよう、エル、そろそろ、目が覚めた?」 「……おはよう……」 エルの思考は、どこかまだぼんやりとしているようで、今、シオンが先程と同じように、その傍で間近 に様子を見ている限りでは、エルが昨晩深夜からこれまでの状況を把握できているとは言い難いようだ った。 シオンは、未だにベッドに横たわったままの自分と向きあうように、ゆっくりと顔を上げたエルの額へ と軽く口付けてから、相手の体調を気遣うようにして、再び声をかけた。 「エル、体の具合はどう? 先に言っておくけど、 あれから、特に手出しはしていないから、そういった意味では安心して良いと思う」 「えっ、あ……その、すまない! ……って、うあぁっ!!」 それを聞いたエルは、急に我に返ったようで、すぐに飛び起きるようにして身体を起こそうとした瞬間、 バランスを崩して、ベッドの上から落ちそうになった。 シオンは、そんな風にバランスを崩しかけたエルの片手を引き、それとほぼ同時に自らの身体を起こす ようにして、エルがベッドから落ちる前に抱き留めてやる。 「大丈夫?」 互いにベッドの上で膝をつくような体勢になってはいるが、昨日と同じように、エルを自らの腕の中に 抱き留めたその体勢のまま、シオンは、エルに再び問いかけた。 それに対して、先程よりも更に相手に詫びるべき項目を増やす事態に陥ったエルは、目の前のこの事態 に、まだ少々、混乱しながらも、シオンに対して詫びる言葉を早々に口にした。 「えっ、ああっ、もう!! ……その……ごめん! 昨日は、本当にすまなかった、ごめん!!」 「ここに帰って来てからの件なら、エルの方が謝るようなことは何もないよ?」 「……いや、俺の方が……また色々と迷惑をかけた」 「こちらこそ、無理強いして済まなかった。  ……えーっと、それにしても、その背中……ていうか、そのままで大丈夫なのか?」 二人はどこか咬み合あわないような会話を続けていたが、エルが未だに、背中の羽根を封じていない上、 更に彼が上半身に何も身につけていなかったことに改めて気が付いたシオンは、それを気遣うように、 声をかけた。 エルの背中の羽根は、いつもなら、もう、とっくに彼自身が封じている筈の状態にあるものなので、 今までにこんな風に声をかけたことなど無かった。 おまけに、エル自身は、それ程、気にしていないらしく、機嫌を損ねたりしている訳ではないのだが、 こんな風にエル自身が平然とした状況で、なおかつ、衣服を身につけていない彼の背中の近くへ と、自らの掌が触れることなど、今までには無かったことなので、正直、シオンの方が、今、この状 態に在ることに驚いていた。 「……ああ、そういえば、このままだと、少し寒いかな……。  それから、これは、アンタが望むなら、それは、それで良いかなと思って。  これからは、封印しなくても済む状況の時は、なるべくそのままにしようかと思ってるんだ。  まあ、そのままにしとくと、色々と邪魔なんで、必要が無い時は、普段も封じるようにはするけど」 エル自身は、そのことを特段気に留める様子もなく、普段と同じように、シオンに微笑みながら、返 事を返した。 自分の心の内を素直に思えば、今も自分の背中に、この羽根があることについて、肯定的になりきれ ている訳では全くない。 それでも、シオンが重ねて好きだと言ってくれている、自分自身を構成する要素の一つだと思えば、 少しでも、これについて、嫌悪している自分の気持ちを和らげることができるような気がしたのだ。 だから、エルは、自分が唯一、信頼しているシオンがこの羽根を現すことを望んだ時にまで、敢えて 逆らうようにしないことを決めた。ただ、それだけのことだ。 ただ、それだけのことで、他に何が変わったという訳ではないが、エルは、自分自身の気持ちが、何 処か少しだけ軽くなったような気がした。 これからは、自分が人工生命体であるという事実から目を反らすことなく、何時も強い気持ちでいられ る自分で在りたい。 少しずつでも良いから、そんな自分自身の想いに自分を近づけていくようにしたい。 エルは、そんな想いを新たにしていた。 「えっ、それはちょっと……  要するに、これからは君が、ああいう表情をすることが、あんまり無くなるってことだよね」 シオンは、自分の腕に抱かれたままの状況にいながら、強い意思を宿す瞳で、こちらの方を見つめて いたエルに対して、ほんの少しだけ驚いたような表情をした。 「……っ、何だよ、シオン! それって、どういう……」 「いや、別に……そういうところも全部含めて、君が好きだってことだよ」 先程からエルを抱きしめたままでいたシオンは、自らの片方の手をエルの後頭部へと添えて、その額 に軽く口付けてから、小さな声でそう言うと、ようやく自らの腕を振りほどいた。 「えっ、あっ、それって……」 エルが驚いた表情のまま、その場で一瞬、固まったように、動くことを止めていた合間に、シオンは、 エルの身体からベッドの上へと落ちていたブランケットを自らの手元に手繰り寄せ、エルの前へと差 しだした。 それから、ベッドの淵に手をついて立ち上がり、再び、エルが膝をついて座っていたままのベッドの 方へと振り向くと、普段の朝と変らない、いつもの笑顔で、エルに声をかける。 「さて、紅茶でも淹れてくるよ。ミルクティーでいい?」 「えっ、あ、うん」 そのまま、シオンの後ろ姿を見送ったエルは、ようやく少し落ち着いた気持ちを取り戻しながら、小さ く息をついた。 そうして、自らの背中の羽根を一瞬にして封じ、シオンから渡されたブランケットをふわりと羽織るよ うに、肩にかけながら、これからのことに想いを馳せる。 昨晩、遭遇した追手は、そう遠くないうちに、この場所を特定するだろう。 それでも今は、それが少しでも遅れることを祈らずにはいられなかった。 いずれは、今のこの場所からも去らなければならないだろうし、いつもシオンの足手纏いになりがち な、自分のことを考えると、また、シオンとも、別れなければならない時がやってくるかもしれない。 「それでも、俺は、今は、ただ、シオンの傍に居たい。ただ、それだけが、俺の望みなんだ」 シオンが去っていった後、今は、ただ一人きりになった、この部屋のベッドに座ったまま、エルは小さ な声で、そう呟いた。 【END】 レスありがとうございました! ちなみに、エルには、普段からどちらかといえば、寝起きは良くない方…なんて設定があったりします 細かい設定を色々と考えるのも大好きなのですが、SSにあまり活きない裏設定の方が多くて困るw 以上、お目汚し失礼しました ---- &link_up(ページ最上部へ) ----

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