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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第3話 2/2 - (2010/04/24 (土) 08:11:12) の1つ前との変更点

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&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】]] > 異形世界・[[正義の定義 ~英雄/十二使徒~]]} *正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第3話 1/2  「ふえぇ!さあかんねんしやがれこのぺてんしやろう!そのどてっぱらにかざあなあけられたくなければなぁ!」  演技がかった台詞を活き活きと喋るトエル。一度上げてしまったテンションというのはどうにも下げづらい。言わば暴走状態のカタルシスと言うヤツである。  男はよもや幻を見破られるとは思っていなかったようで、大量に吹き出る汗が彼の動揺を物語っていた。手品のタネはわかってしまえばただのネタ。 詐欺師がトリックを解かれたら、もうただの嘘つきでしかなくなる。  「くそ…私の秘密がバレてしまうとは…こうなったら…お前達全員…生かしては帰さないぞ!!」  ずぞぞぞ…、男の周りを黒い霧が覆う。男の姿が見えなくなったと思えば霧の中から黒龍の首が現れた!赤い瞳の黒龍は羽を広げ、霧を払う。 体長20mはあるかと言うその黒龍の強靭な全身が顕になった。男はこの龍に変身したとでも言うのか? … それにしても20mもの龍が室内に収まるのとかそういうツッコミはなしである。あれだよ!なんか幻でいろいろしているんだよ!そういうことにしといて!  英雄一行は、これには萎縮せざるを得なかった。スケールが違いすぎる。それでもトエルは腕を組み厳に構えていた。全く怯む様子もない。  「ふぇ!かんちがいしているみたいだけどあれはただのまぼろし!わたしにこけおどしはつうようしないというのに…おろかなり!ふぇ!」  「つみもないひとびとおそうあっきめ!このだいじゅうにばんえいゆうがちゅうさつしてくれるわ!ふぇ!」  先程まで素人だったとは思えない手際でチェンジコードをデバイスに入力するトエル。光を纏い駆ける。走り出した先には黒龍の頭が大きく口を開けて 構えている…が、トエルは全くスピードを落とそうとはしない。寧ろ加速する一方であった。黒龍との距離が近くなるとトエルはぴょんと飛び上がる。 変身が完了しチアコス姿のトエルが黒龍の眉間に急降下。かかと落としを叩き込んだ。  「ってまた格好変わってるし!」  そんな白石の指摘に官兵は、んっふと鼻息を鳴らし答える。  「だってコスチュームはたくさんあった方がいいでしょう!」  官兵の意味のないこだわり。無駄な努力に一同が冷めながらも、トエルが黒龍を圧倒する様を見ていた。黒龍はただの幻。その実はただの一異形に 過ぎない。当然ながらトエルが遅れを取るはずも無かった。先程の戦闘で既に力の使い方を学習したのか、トエルはこなれた手つきでコードを入力する。  「ぬぐぅ…」  『"ゲール""アーム"』  「ふぇ!ふえふえふえふえふえふえ!ふえぇぇぇぇぇぇ!ふえぇッ!!」  「うがッ…!」  拳の応酬。何十発も顔面にパンチを受ける黒龍。意識が朦朧としてきたところを、トエルのアッパーが止めを刺した。  ズシン。その巨体が地に沈む。するとどうだろう、黒龍が沈んだその場所にいたのはみずぼらしい餓鬼のような異形であった。トエルはその異形に引導 を渡すべく彼の前へと歩み寄った。  「さぁて…さいごにいいのこすことは?」  「待ってください!」  止めに入るトエルの耳に入る少女の声。声の主はサキだった。  「なんだねアンダーソンくん」  「こいつの止めは…私に刺させてください」  そうして、サキは床に転がっていた助弐夷のナイフを手にとる。錆びた刀身に僅かに映る彼女の顔。その顔は酷く悲しみに満ちていた。 彼女の綺麗な藍色の瞳は黒ずんでいた。そして彼女の手は…心細そうに震えていた。  「ふぇ!いいですとも」  「ありがとう…」  異形を見下すようにして立つサキ。その手に握られたナイフがきらりと光る。  「お前が助弐夷を…」  「お前…あの男の知り合いか」  「…ッ!?」  気を失っていたはずの異形は突然その赤い眼を開き、サキに問いかけた。サキは答えない。  「答えんか…まあいい。知っているか?すべての原因は奴にある」  異形は語りだす。まだこの森が危険ではなかった頃の話を。  「私は当時、骨董品を盗む異形だった。珍しいモノが好きだったからだ。人を襲ったことはあったが、殺しはしなかった…」  「だがある日、奴は現れた。奇術使いであった奴は私をこの汚い小屋に封じ込め、二度とこの小屋から私を出れないようにした。外に出られなければ私は 餓死するのみだ。そこで私は考えた…珍しい建物になら、人間は興味を持ち小屋に入ってくるのではないか?」  「私はそれをすぐ実行した。私は幻を操る異形であった。獣に幻を見せても匂いで気づかれてしまうが人間は違った…そうして、私はやって来た人間を 喰らった」  「仕方ないだろう?これしか方法がなかったのだ。食わねば餓死する…何を隠そう、これの原因を作ったのはあの男だ。あの男が余計なことをしたから 私は人間を喰わねばなれらなくなったのだ。全ては奴が悪いのだ。私はただ生きたかっただけなのだから」  「それで…助弐夷はどうしたの?」  サキは異形の顔を見ないようにして言った。だってそこには、醜い笑顔のがあったから。狂っていたのだろう、この異形も。そしてサキも。  「…事を聞きつけた奴は再び私の前に現れたよ。だけどアイツ…妹の幻を見せたらさ、その…ころっと騙されやがってさ、あ、そう言えばお前昔何処かd」  ザシュッ  「だまれ…!」  異形の額に深々と刺さるナイフ。サキの手により異形は絶命した。傷口からドプドプと溢れる緑色の血が、サキの左手にかかった。  異形の死により、異形の幻が解除されたのか今まで真っ暗だった空間は打ち解けるように晴れていき、黒い靄が完全に消えるとそこはただの古びた 家屋であった。  「全部…あの異形の作り出した幻だったんだね…」  陰伊は先程とはまるで違う周りの光景を見て、そう呟いた。  「ていうかトエル!あーた最初からわかってたんなら教えてよ!騙されるとこだったべさ!」  「いや、みせばとかそうゆーのありますし、ふぇ!」  結果よければ全て良しで済まそうとするトエル。そうは許さんぞとガミガミ言う白石。そんな様子を官兵は微笑ましそうに盗撮するのであった。  「こらクソメガネ!かってにとるな!」   陰伊は辺りを見渡し、チラホラと倒れている人間を発見する。おそらく異形に捕まっていた人々だろう。呪縛が解けたように目を覚ます彼らを見て、 人々の無事を陰伊は確認した。しかし何か足りない気がする。サキだ。先程までそこにいたサキの姿はなく、異形の額からはナイフが抜き取られていた。  「ふえ!?」  「ごめんね、ちょっときて」  妙な胸騒ぎを覚えた陰伊はトエルを連れ、森の中を再び進んでいく。  「あれー?陰伊ちゃん?トエル?サキさーん?」  三人が消えてることに気がついた白石は三人の名前を呼んでみるも返事はない。トエルは陰伊が連れていった事は官兵の話によりわかったのだが。 となるとサキは一体どこへ行ってしまったのだろう?白石はやれやれと後頭部をポリポリと掻いた。  「あのー、私がどうかしましたか?」  ふと、保護した村人の一人が白石に話しかけてきた。育ちの良さそうな面構えの少女であった。きっと手塩にかけて育てられたんだろうなという事が ひしひしと伝わってくる彼女が何故自分に話しかけてきたのだろうか?サインでも欲しいのだろうかと白石は思った。  「私の名前呼んでましたよね?」  「あ、サキさん?いや、あなたじゃなくってねぇ、集落の長の娘さんの…」  「え…その集落の長の娘のサキですけど…」  「…はい?」 ―――…  「ふえー、きょうはもうつかれたです」  「もうちょっとだから…」  ネコミミmodeでサキの探索。日は傾きつつある。辺りは徐々に暗くなり始めた。小動物などは既に巣に帰っていることだろう。夜行性の動物は 丁度目を覚まし「たるいけど得物でも狩りに行くか」と重い体を起こしている頃だろう。日が落ちるにつれて気温も下がっていく。冷たい空気が森を徐々に 支配し始めたその時、トエルは立ち止まった。陰伊も足を止める。二人の目の前には人為的に作られたかのような野原が広がっていた。  「…やっぱり、追いかけてきたんですね」  そこに…サキはいた。いや、彼女はサキではないのだが…  「サキさん…一体…何で…?」  「私は…サキじゃないのです。私はただの名もなき異形です」  そう言って…サキ…ではなかった、異形の彼女はピョコンと今まで隠していたであろう獣の翼を出した。木の葉などに遮られながらも空から差し込む 光が彼女の姿を照らす。それはなぜだかとても儚く、幻想的だった。  「あなたは…どうしてそんな嘘を…?」  そっと尋ねる陰伊。思えばおかしいところはたくさんあった。ボロボロの服や幻を操る異形に対するおかしな言動。 それらが今、陰伊の中で繋がったのだ。  「私は…生まれた頃から独りでした」  すっと、木々から僅かに見える空を見上げ、歩き出す少女。彼女がその場から離れるとそこに見えたのは誰かのお墓であった。  「異形だから人々からは疎まれ、ただ一人、ずっとこの森で暮らしていたんです」  「そんな私の元に…ある日訪れた方々がいました」  「それが…助弐夷…さん?」  はい、と頷く少女。彼女はその時のことを、昨日の出来事のように思い出した… ………………  『あなた方は…?』  『俺達は住処をさがして流離う放浪の身。名前は助弐夷。んでこっちが我が妹!』  『よろしゅうございますー』  『あなた方は私の翼を見てなんとも思わないのですか?』  『?何でそんなもん気にする必要がある?なぁ妹』  『そーそー。かわいいやないですか!うらやましいわぁ』  『かわいい…?』  『おう、偉いべっぴんさんだぜ、アンタ』  『そんなことは…』  『よーし俺、ここに住んじゃおっかな~!アンタみたいに可愛い子もいるし!あ、俺強いから、なんか危ない目に遭ったらすぐに呼んでくれよ?』  『は…はぁ、』 ………………  「その方達は、しばらくして近くの集落に居を構えました。それからというもの…彼らは毎日のように私に会いに来てくださったのです」  「ずっと独りだった私は…彼らのぬくもりに触れて…初めて生を実感しました」  「私はあの時確かに、幸せだったと思うんです」  「幸せ…」  彼女は異形であった。英雄は異形を倒すもの。陰伊は機関でそう教えられてきた。しかし目の前の彼女はどうだろう?こんな純粋な思いを持つ 彼女が、果たして本当に国を脅かす存在なのだろうか?陰伊は常々機関の問答無用の体制には不満を持っていたが、異形の彼女を見ていると そのやり方に疑問が出てきてしまう。  「でも…幸せは長く続きませんでした…」 ………………  『ふふふ…アナタのその髪飾り、珍しい型をしていますねぇ…いただきます!』  『きゃあッ!』  『うっ…うっ…』  『唯一の私物である髪飾りを盗まれた!?そいつは許せねえ!オレがそいつを二度と悪いことできないようにしてやる!』 ………………  「あの時…べつに髪飾りに固執しなければ…こんな事には…ならなかったはず…」  「助弐夷さんが消えた後…悪い異形と繋がっていると勘違いされた妹さんは、何も悪いことなんてしていないのに…殺されたのです。 これは妹さんのお墓」  少女は墓の方を見つめる。楽しかったあの日々を思い出すように、穏やかな表情で。  「私とこっそり会っていたから…そういう勘違いをされたのでしょう。そう…全部…全部私のせいなんです」  「私が彼らと会ってしまったから、触れ合ってしまったから」  「そんな…そんなのって、悲しすぎるよ」  陰伊は言葉を挟まずにはいられなかった。こんなに悲しい現実があってもいいのか?皆が皆、少しずつずれてできた歪がこんなにも酷いなんて。  助弐夷はただ彼女の悲しむ顔が見たくなかっただけだった。  幻を操る異形は人から物を奪ったり悪さはしたが人を食らう異形ではなかった。  村人は自分たちの村を守るためにやっただけだった。  どうしてこんなに狂ってしまったのだろう?  どこでここまで狂ってしまったのだろう?  「私は…存在してはいけなかったのです」  少女は自らを否定する。それがどんなに辛いことか。  陰伊は今すぐにでもそれは違うと言いたかった。だが言葉が出てこない。  「だからせめて…全てを終わらすべく…あの異形を退治出来る人を探していたのです。それが達成された今…私がこの世に存在する意味はありません」  「そんな事言わないで…!」  「私はあなた方には感謝しているのです。私のわがままに付き合ってくださって。どちらにせよ、私は永く生きすぎました。この体は何もせずとも… もうじきに消失します…だから言わせてくださいです…」  「ありがとうございました…」  そう言った少女の体は、もう既に半分透けていました。  「まって…そんなのだめだよ!死んじゃ駄目!」  「いいのです。この体だって魔素でだましだまし持たせていたのですから…ああ、もう時間のようです…」  「…願わくば二人のところへ行きたかったけど…無理でしょうね…私は二人と同じところに…行けるような者じゃないから…」  「そんなことないよっ…」  陰伊の瞳からは大粒の涙がこぼれていた。不思議そうにそれを見つめるトエル。よく分からないが自分も泣いておこうかとトエルは思ったが、 機械なので涙を流せなかった。  「ありがとう…まだ私のために泣いてくれる人がいたなんて…本当にありがと…そして…」 …さようなら。  陰伊は泣きじゃくってひどい顔を上げ、少女の方を見るもそこには何もなく、ただ日の光が差し込むだけだった。  ふと、墓の方を見てみるとそこには、錆びれたナイフとよく手入れのなされた髪飾りが置いてあった。  「ねえ…幸ちゃん」  一連の事件を片付け、集落の長の感謝もそこそこに集落を後にする一行。本部への帰路を走る車内で陰伊は白石に話しかける。何というわけでもなく ただ無性に陰伊は自分達の事について話したくなったのだ。  「何?」  「私達のやってることって…本当に正しいのかな?」  「どしたのいきなり」  白石はちょっといつもと様子が違う陰伊を心配する。  「だって…私達のしている事が原因でもし…もっと沢山の人が悲しむような事になったら…」  「しんぱいしょうだねぇ、陰伊ちゃんは。陰伊ちゃんは何も考えられないアニマルじゃないでしょ?」  「…うん」  「自分が正しいと判断したなら、それを突き通す!それが正義ってモンでしょや!」  陰伊を元気づけようと明るく振舞う白石。だが、陰伊の心が晴れることは無かった。  「自分の正しいと思う…正義…そんなの…わかんないよ… わかんない…!」  オレンジ色の夕日が彼らを乗せた車を照らす。今はそれが一行を優しく包み込んでくれた。嫌なことも苦しいことも全部…                                                  ―続く― ― 次回予告 ある街の要人が異形に狙われることになった!こいつはたいへんだ! 「大変だべさぁ~…」 依頼を受けた英雄達は要人の元へと急ぐが、その途中、異形に出くわす… 「全く、ちょっとくらい休ませて欲しいでしょや…」 その正体は!?彼らの運命は!次回は白石ちゃんお休みです! 「まじで!?」 次回「電子幼女は吸血鬼の夢をみるか?」に、乞うご期待!! #right(){&link_up()}
&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】]] > 異形世界・[[正義の定義 ~英雄/十二使徒~]]} *正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第3話 1/2  「ふえぇ!さあかんねんしやがれこのぺてんしやろう!そのどてっぱらにかざあなあけられたくなければなぁ!」  演技がかった台詞を活き活きと喋るトエル。一度上げてしまったテンションというのはどうにも下げづらい。言わば暴走状態のカタルシスと言うヤツである。  男はよもや幻を見破られるとは思っていなかったようで、大量に吹き出る汗が彼の動揺を物語っていた。手品のタネはわかってしまえばただのネタ。 詐欺師がトリックを解かれたら、もうただの嘘つきでしかなくなる。  「くそ…私の秘密がバレてしまうとは…こうなったら…お前達全員…生かしては帰さないぞ!!」  ずぞぞぞ…、男の周りを黒い霧が覆う。男の姿が見えなくなったと思えば霧の中から黒龍の首が現れた!赤い瞳の黒龍は羽を広げ、霧を払う。 体長20mはあるかと言うその黒龍の強靭な全身が顕になった。男はこの龍に変身したとでも言うのか? … それにしても20mもの龍が室内に収まるのとかそういうツッコミはなしである。あれだよ!なんか幻でいろいろしているんだよ!そういうことにしといて!  英雄一行は、これには萎縮せざるを得なかった。スケールが違いすぎる。それでもトエルは腕を組み厳に構えていた。全く怯む様子もない。  「ふぇ!かんちがいしているみたいだけどあれはただのまぼろし!わたしにこけおどしはつうようしないというのに…おろかなり!ふぇ!」  「つみもないひとびとおそうあっきめ!このだいじゅうにばんえいゆうがちゅうさつしてくれるわ!ふぇ!」  先程まで素人だったとは思えない手際でチェンジコードをデバイスに入力するトエル。光を纏い駆ける。走り出した先には黒龍の頭が大きく口を開けて 構えている…が、トエルは全くスピードを落とそうとはしない。寧ろ加速する一方であった。黒龍との距離が近くなるとトエルはぴょんと飛び上がる。 変身が完了しチアコス姿のトエルが黒龍の眉間に急降下。かかと落としを叩き込んだ。  「ってまた格好変わってるし!」  そんな白石の指摘に官兵は、んっふと鼻息を鳴らし答える。  「だってコスチュームはたくさんあった方がいいでしょう!」  官兵の意味のないこだわり。無駄な努力に一同が冷めながらも、トエルが黒龍を圧倒する様を見ていた。黒龍はただの幻。その実はただの一異形に 過ぎない。当然ながらトエルが遅れを取るはずも無かった。先程の戦闘で既に力の使い方を学習したのか、トエルはこなれた手つきでコードを入力する。  「ぬぐぅ…」  『"ゲール""アーム"』  「ふぇ!ふえふえふえふえふえふえ!ふえぇぇぇぇぇぇ!ふえぇッ!!」  「うがッ…!」  拳の応酬。何十発も顔面にパンチを受ける黒龍。意識が朦朧としてきたところを、トエルのアッパーが止めを刺した。  ズシン。その巨体が地に沈む。するとどうだろう、黒龍が沈んだその場所にいたのはみずぼらしい餓鬼のような異形であった。トエルはその異形に引導 を渡すべく彼の前へと歩み寄った。  「さぁて…さいごにいいのこすことは?」  「待ってください!」  止めに入るトエルの耳に入る少女の声。声の主はサキだった。  「なんだねアンダーソンくん」  「こいつの止めは…私に刺させてください」  そうして、サキは床に転がっていた助弐夷のナイフを手にとる。錆びた刀身に僅かに映る彼女の顔。その顔は酷く悲しみに満ちていた。 彼女の綺麗な藍色の瞳は黒ずんでいた。そして彼女の手は…心細そうに震えていた。  「ふぇ!いいですとも」  「ありがとう…」  異形を見下すようにして立つサキ。その手に握られたナイフがきらりと光る。  「お前が助弐夷を…」  「お前…あの男の知り合いか」  「…ッ!?」  気を失っていたはずの異形は突然その赤い眼を開き、サキに問いかけた。サキは答えない。  「答えんか…まあいい。知っているか?すべての原因は奴にある」  異形は語りだす。まだこの森が危険ではなかった頃の話を。  「私は当時、骨董品を盗む異形だった。珍しいモノが好きだったからだ。人を襲ったことはあったが、殺しはしなかった…」  「だがある日、奴は現れた。奇術使いであった奴は私をこの汚い小屋に封じ込め、二度とこの小屋から私を出れないようにした。外に出られなければ私は 餓死するのみだ。そこで私は考えた…珍しい建物になら、人間は興味を持ち小屋に入ってくるのではないか?」  「私はそれをすぐ実行した。私は幻を操る異形であった。獣に幻を見せても匂いで気づかれてしまうが人間は違った…そうして、私はやって来た人間を 喰らった」  「仕方ないだろう?これしか方法がなかったのだ。食わねば餓死する…何を隠そう、これの原因を作ったのはあの男だ。あの男が余計なことをしたから 私は人間を喰わねばなれらなくなったのだ。全ては奴が悪いのだ。私はただ生きたかっただけなのだから」  「それで…助弐夷はどうしたの?」  サキは異形の顔を見ないようにして言った。だってそこには、醜い笑顔のがあったから。狂っていたのだろう、この異形も。そしてサキも。  「…事を聞きつけた奴は再び私の前に現れたよ。だけどアイツ…妹の幻を見せたらさ、その…ころっと騙されやがってさ、あ、そう言えばお前昔何処かd」  ザシュッ  「だまれ…!」  異形の額に深々と刺さるナイフ。サキの手により異形は絶命した。傷口からドプドプと溢れる緑色の血が、サキの左手にかかった。  異形の死により、異形の幻が解除されたのか今まで真っ暗だった空間は打ち解けるように晴れていき、黒い靄が完全に消えるとそこはただの古びた 家屋であった。  「全部…あの異形の作り出した幻だったんだね…」  陰伊は先程とはまるで違う周りの光景を見て、そう呟いた。  「ていうかトエル!あーた最初からわかってたんなら教えてよ!騙されるとこだったべさ!」  「いや、みせばとかそうゆーのありますし、ふぇ!」  結果よければ全て良しで済まそうとするトエル。そうは許さんぞとガミガミ言う白石。そんな様子を官兵は微笑ましそうに盗撮するのであった。  「こらクソメガネ!かってにとるな!」   陰伊は辺りを見渡し、チラホラと倒れている人間を発見する。おそらく異形に捕まっていた人々だろう。呪縛が解けたように目を覚ます彼らを見て、 人々の無事を陰伊は確認した。しかし何か足りない気がする。サキだ。先程までそこにいたサキの姿はなく、異形の額からはナイフが抜き取られていた。  「ふえ!?」  「ごめんね、ちょっときて」  妙な胸騒ぎを覚えた陰伊はトエルを連れ、森の中を再び進んでいく。  「あれー?陰伊ちゃん?トエル?サキさーん?」  三人が消えてることに気がついた白石は三人の名前を呼んでみるも返事はない。トエルは陰伊が連れていった事は官兵の話によりわかったのだが。 となるとサキは一体どこへ行ってしまったのだろう?白石はやれやれと後頭部をポリポリと掻いた。  「あのー、私がどうかしましたか?」  ふと、保護した村人の一人が白石に話しかけてきた。育ちの良さそうな面構えの少女であった。きっと手塩にかけて育てられたんだろうなという事が ひしひしと伝わってくる彼女が何故自分に話しかけてきたのだろうか?サインでも欲しいのだろうかと白石は思った。  「私の名前呼んでましたよね?」  「あ、サキさん?いや、あなたじゃなくってねぇ、集落の長の娘さんの…」  「え…その集落の長の娘のサキですけど…」  「…はい?」 ―――…  「ふえー、きょうはもうつかれたです」  「もうちょっとだから…」  ネコミミmodeでサキの探索。日は傾きつつある。辺りは徐々に暗くなり始めた。小動物などは既に巣に帰っていることだろう。夜行性の動物は 丁度目を覚まし「たるいけど得物でも狩りに行くか」と重い体を起こしている頃だろう。日が落ちるにつれて気温も下がっていく。冷たい空気が森を徐々に 支配し始めたその時、トエルは立ち止まった。陰伊も足を止める。二人の目の前には人為的に作られたかのような野原が広がっていた。  「…やっぱり、追いかけてきたんですね」  そこに…サキはいた。いや、彼女はサキではないのだが…  「サキさん…一体…何で…?」  「私は…サキじゃないのです。私はただの名もなき異形です」  そう言って…サキ…ではなかった、異形の彼女はピョコンと今まで隠していたであろう獣の翼を出した。木の葉などに遮られながらも空から差し込む 光が彼女の姿を照らす。それはなぜだかとても儚く、幻想的だった。  「あなたは…どうしてそんな嘘を…?」  そっと尋ねる陰伊。思えばおかしいところはたくさんあった。ボロボロの服や幻を操る異形に対するおかしな言動。 それらが今、陰伊の中で繋がったのだ。  「私は…生まれた頃から独りでした」  すっと、木々から僅かに見える空を見上げ、歩き出す少女。彼女がその場から離れるとそこに見えたのは誰かのお墓であった。  「異形だから人々からは疎まれ、ただ一人、ずっとこの森で暮らしていたんです」  「そんな私の元に…ある日訪れた方々がいました」  「それが…助弐夷…さん?」  はい、と頷く少女。彼女はその時のことを、昨日の出来事のように思い出した… ………………  『あなた方は…?』  『俺達は住処をさがして流離う放浪の身。名前は助弐夷。んでこっちが我が妹!』  『よろしゅうございますー』  『あなた方は私の翼を見てなんとも思わないのですか?』  『?何でそんなもん気にする必要がある?なぁ妹』  『そーそー。かわいいやないですか!うらやましいわぁ』  『かわいい…?』  『おう、偉いべっぴんさんだぜ、アンタ』  『そんなことは…』  『よーし俺、ここに住んじゃおっかな~!アンタみたいに可愛い子もいるし!あ、俺強いから、なんか危ない目に遭ったらすぐに呼んでくれよ?』  『は…はぁ、』 ………………  「その方達は、しばらくして近くの集落に居を構えました。それからというもの…彼らは毎日のように私に会いに来てくださったのです」  「ずっと独りだった私は…彼らのぬくもりに触れて…初めて生を実感しました」  「私はあの時確かに、幸せだったと思うんです」  「幸せ…」  彼女は異形であった。英雄は異形を倒すもの。陰伊は機関でそう教えられてきた。しかし目の前の彼女はどうだろう?こんな純粋な思いを持つ 彼女が、果たして本当に国を脅かす存在なのだろうか?陰伊は常々機関の問答無用の体制には不満を持っていたが、異形の彼女を見ていると そのやり方に疑問が出てきてしまう。  「でも…幸せは長く続きませんでした…」 ………………  『ふふふ…アナタのその髪飾り、珍しい型をしていますねぇ…いただきます!』  『きゃあッ!』  『うっ…うっ…』  『唯一の私物である髪飾りを盗まれた!?そいつは許せねえ!オレがそいつを二度と悪いことできないようにしてやる!』 ………………  「あの時…べつに髪飾りに固執しなければ…こんな事には…ならなかったはず…」  「助弐夷さんが消えた後…悪い異形と繋がっていると勘違いされた妹さんは、何も悪いことなんてしていないのに…殺されたのです。 これは妹さんのお墓」  少女は墓の方を見つめる。楽しかったあの日々を思い出すように、穏やかな表情で。  「私とこっそり会っていたから…そういう勘違いをされたのでしょう。そう…全部…全部私のせいなんです」  「私が彼らと会ってしまったから、触れ合ってしまったから」  「そんな…そんなのって、悲しすぎるよ」  陰伊は言葉を挟まずにはいられなかった。こんなに悲しい現実があってもいいのか?皆が皆、少しずつずれてできた歪がこんなにも酷いなんて。  助弐夷はただ彼女の悲しむ顔が見たくなかっただけだった。  幻を操る異形は人から物を奪ったり悪さはしたが人を食らう異形ではなかった。  村人は自分たちの村を守るためにやっただけだった。  どうしてこんなに狂ってしまったのだろう?  どこでここまで狂ってしまったのだろう?  「私は…存在してはいけなかったのです」  少女は自らを否定する。それがどんなに辛いことか。  陰伊は今すぐにでもそれは違うと言いたかった。だが言葉が出てこない。  「だからせめて…全てを終わらすべく…あの異形を退治出来る人を探していたのです。それが達成された今…私がこの世に存在する意味はありません」  「そんな事言わないで…!」  「私はあなた方には感謝しているのです。私のわがままに付き合ってくださって。どちらにせよ、私は永く生きすぎました。この体は何もせずとも… もうじきに消失します…だから言わせてくださいです…」  「ありがとうございました…」  そう言った少女の体は、もう既に半分透けていました。  「まって…そんなのだめだよ!死んじゃ駄目!」  「いいのです。この体だって魔素でだましだまし持たせていたのですから…ああ、もう時間のようです…」  「…願わくば二人のところへ行きたかったけど…無理でしょうね…私は二人と同じところに…行けるような者じゃないから…」  「そんなことないよっ…」  陰伊の瞳からは大粒の涙がこぼれていた。不思議そうにそれを見つめるトエル。よく分からないが自分も泣いておこうかとトエルは思ったが、 機械なので涙を流せなかった。  「ありがとう…まだ私のために泣いてくれる人がいたなんて…本当にありがと…そして…」 …さようなら。  陰伊は泣きじゃくってひどい顔を上げ、少女の方を見るもそこには何もなく、ただ日の光が差し込むだけだった。  ふと、墓の方を見てみるとそこには、錆びれたナイフとよく手入れのなされた髪飾りが置いてあった。  「ねえ…幸ちゃん」  一連の事件を片付け、集落の長の感謝もそこそこに集落を後にする一行。本部への帰路を走る車内で陰伊は白石に話しかける。何というわけでもなく ただ無性に陰伊は自分達の事について話したくなったのだ。  「何?」  「私達のやってることって…本当に正しいのかな?」  「どしたのいきなり」  白石はちょっといつもと様子が違う陰伊を心配する。  「だって…私達のしている事が原因でもし…もっと沢山の人が悲しむような事になったら…」  「しんぱいしょうだねぇ、陰伊ちゃんは。陰伊ちゃんは何も考えられないアニマルじゃないでしょ?」  「…うん」  「自分が正しいと判断したなら、それを突き通す!それが正義ってモンでしょや!」  陰伊を元気づけようと明るく振舞う白石。だが、陰伊の心が晴れることは無かった。  「自分の正しいと思う…正義…そんなの…わかんないよ… わかんない…!」  オレンジ色の夕日が彼らを乗せた車を照らす。今はそれが一行を優しく包み込んでくれた。嫌なことも苦しいことも全部…                                                  ―続く― ---- ― 次回予告 ある街の要人が異形に狙われることになった!こいつはたいへんだ! 「大変だべさぁ~…」 依頼を受けた英雄達は要人の元へと急ぐが、その途中、異形に出くわす… 「全く、ちょっとくらい休ませて欲しいでしょや…」 その正体は!?彼らの運命は!次回は白石ちゃんお休みです! 「まじで!?」 次回「電子幼女は吸血鬼の夢をみるか?」に、乞うご期待!! #right(){&link_up()}

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