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&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】]] > [[異形世界・「白狐と青年」>白狐と青年]] > 第26話} *行政区             ●  和泉から数日の旅程を経てたどりついた行政区は、巨大なビル群の偉容をもって匠たちを出迎えた。  大阪圏行政区、街の真ん中の鎮座する元製薬会社のものだという研究室まで備えた鉄筋製の巨大ビルを改造した庁舎を中心に築かれた街で、街全体は重要な会議などが開かれる庁舎の正面入り口前を東西に走る道路によって南北に大まかに分かれていた。  南側は一般の住宅や商店、教育機関などがある生活用の地区。対して北側は研究施設やようやく改変されて立て直されつつある司法関係の建物、資料館など、大阪圏の運営に関わる、行政区の名称の由縁たる施設がひしめいていた。  異形排斥派が行政区の思考の中枢を占めてきた事もあり、異形に対しての風当たりが強い性質のあるこの街の中で、匠たちが呼び出されたのは北側にある施設の一つ、裁判所だった。  行政区に着いて略式の手続きを終えた直後にいきなり通された法廷内で、匠とクズハは行政区の者たちを前にしていた。  法壇の上から見下ろしてくる元武装隊所属の審問官以外の出席者は、全て行政区の官僚たちだ。  一応異形排斥派と擁護・共存派で検察と弁護の席に座っている者たちは別れているようだが、始終質問をされるだけのこの場においてはどちらも匠たちにとっては煩わしいだけだ。  ……ものものしい。  隠れるようにしてため息をついている間にも審問は続く。挙手の後に質問を発するのは異形排斥派の一人だ。  行政区へと向かう道すがら長衣の中に隠されていたクズハが異形であるとささやかに主張する白銀の和毛に覆われた耳や尻尾は、審問に臨むにあたって露わにされている。彼はそれを好奇の視線で眺めながら言葉を発した。 「和泉における異形の襲撃、それはそこの子狐、あるいは信太主の手引きではないのかね?」  クズハを見下しての発言に内心苛立ちを感じながら、匠は努めて無感情に答えていく。 「それはありえません。信太主もクズハも、それに信太の森の者たちも今回の戦闘で番兵――武装隊に加勢して大きな戦果をあげています。それは貴方がたも既にご存知でしょう?」 「しかし、信太の森の中から異形が現れていたという報告も上がってきているではないか」 「確かに異形のうちの幾体かは信太の森の中から現れていましたが、あの異形達はあの森をたまたま通路にしていたにすぎません。  森の中という事で姿を隠す事もでき、加えて信太の森は第二次掃討作戦で封印指定地区に指定になる程異形が生息していた地区です。彼等としても普通の道を通過してくるよりもが具合が良かったのでしょう」  匠の答えに対して審問官が問いを投げて来る。 「そのような大量の異形の侵入を許してしまって信太の森の封印は大丈夫なんだろうな?」 「その点も含めて門谷隊長が送った報告書に記されていることと思いますが――」  そう前置きして匠は答える。 「森の異形たちにとっても封印の解除は自分たちの生活が脅かされる事に繋がります。今回の和泉襲撃の際に信太の森の異形とは友好的な交流が持てました。以後はこれまで以上に強固に封印は守られていくことになるでしょう」  ……既に報告されて分かっている事を何度も訊いてくる……本命はまだということか?  単なる事実確認に終始してこのまま解放してくれるのならそれでいいが、と思いながら匠は重ねられる問いに答えていく。  一時間も問答を続けた後、審問官が全体の流れを一度区切るようにそうか、と頷いた。 「坂上匠。君の言い分を聞いているとどうも異形側を擁護する、偏った意見が多いように思うが」  ――来たか。  相手の言葉に踏み込んでくる気配を察して内心で身構える匠。審問官はクズハを示しながら言葉を重ねた。 「そういえば坂上匠、君はそこの異形、クズハを第二次掃討作戦の時に拾ったのだったな。そしてその存在を隠して数年の間研究区の者以外に対して隠匿していた」 「武装隊を辞める直前にもその件の申し開きはしたはずですね。クズハを拾った当時の世相は異形は敵とする見方がどうしても優勢だった。加えてクズハを拾った場所は討伐対象となっていた当時の信太主の領域だったため、クズハの扱いについては慎重にならざるを得ませんでした。  幼く衰弱していたクズハを信太の森で見つけた狐の異形だからと、それだけの理由で処分するのは俺としても気持ちのいいものではありませんでしたので」 「ふむ、その信太主、彼の大狐もクズハの事は気にかけているようだな。和泉での戦闘にわざわざ隠していた正体を明かしてまで介入したというのだからな」 「クズハも一応彼女の眷族の一人ですから。彼女が人の手に渡って人の間で生活していたとなれば、同じく人の社会を数年見てきたという彼女としてはクズハは特に気にかけるに足る存在だったのではないでしょうか」 「なるほど、長寿を誇る信太主から見た人間と幼いクズハの見た人間、その所感を突き合わせるのは彼女らにとっては様々な意味で重要なことかもしれないな」  審問官の言葉には特に攻撃的な調子は見られない。クズハを見る視線にも特に含む所を持たないように思える。公正を期そうとしてくれているようだ。  元武装隊として異形と戦った彼なりの匠やクズハに対する理解か、現在の審問官という立場上の職業倫理か、ともかくありがたい。そう匠が思っていると、異形排斥派の者が挙手した。指名された瞬間に彼は立ちあがって口早に放言する。 「待て審問官。坂上匠はどうやら信太主ともクズハとも親密な様子。古来より狐は人を誑かすとも言うし、彼の言葉はどこをどう取っても異形寄りだ。坂上匠が信太主たちと組んで何かよからぬ事をたくらんでいる可能性もあるのではないのかね?」 「ありえません。少なくとも、俺は一度は信太の森の異形たちと敵対して第二次掃討作戦の時には殺し合った仲でもあります。俺は人に害為すような事をしはしない」 「しかしその殺し合いの後にその子狐を連れてきたというのも妙な話、もしや信太主に敗北して間者にでもされたのではないかと危惧するのは当然の事だろう?  そう、もしかしたら今信太主やその眷族が自治都市内に居るのは彼女等が内から私達を崩そうとしているのではないのかとね」  興奮した面持ちで突きつけられる言葉に、これまで黙っていたクズハが血相を変えて叫んだ。 「そんな――ッ、訓練を積んだ武装隊は皆在る程度≪魔素≫の動きで幻術を見抜く技術を習得しています。それに匠さんはキ――信太主に敗れていません! 私たちも、害意なんて……っ」 「それを証明する手立てが無いではないか。記録には坂上匠が森の中からクズハを抱えて現れたと、それだけが記されているだけなのだからな」  ……そういう筋立てできたか。  言葉に詰まったクズハを軽く手で制して、まいった、と匠は内心苦り切る。  ……とりあえず俺たちを怪しい、という事にして動きを封じるつもりか?  匠やクズハを拘束する事ができればキッコは無理でも平賀を牽制する材料にはなるだろう。  ……それをして得なのは異形との共存路線の旗頭を失わせる事ができる異形排斥派……。とはいってもこの審問、和泉の件とは全く無関係な、大阪圏の異形擁護派と異形排斥派のパワーゲームの可能性も高い。イコール排斥派が黒幕だっていう事にはならねえんだよな。  ともかく、相手のペースにこのまま乗せられてしまえばなし崩し的に自分たちは拘束なりなんなりのペナルティーを負う事になるだろう。どうやら異形擁護派も審問官も積極的に匠たちを助けてくれそうにはない。  どうしたものか、思わず宿に置いて来た墓標を懐かしく思っていると、突然法廷の扉が開かれる音が響いた。 「筋書きに無理矢理沿わせようという論法は好みませんね、貴方がたがどういう意図で彼等を囲んでいるのかは分からないが、即刻このような茶番はやめてもらいたい」  その言葉と共に法廷内を進んでくる人物に匠は安堵の息を吐いた。 「明日名さん……」  明日名は目だけで匠に応じて横に並び立ち、正面、審問官に向けて言葉を続ける。 「それに信太の森の異形たちについては過去、討伐対象に指定していた事それ自体も含めて今その妥当性が議論されています。彼女を単純に人に害為す存在と決めつける発言はいささか偏狭に過ぎませんか?」  明日名の入室をもって法廷内がざわめいた。それらを制して審問官が問い質す。 「平賀博士の代理として会議に出席している安倍明日名だな。今は審問中だ。いったい誰の許可があって入室したのだ?」 「平賀博士、そして登藤通光、――異形との共存と排斥を主張する派閥双方の長から許可はいただいています。今回の審問の内容からしてこの二人の許しがあれば十分でしょう」  明日名を窺うクズハに心強く頷いて、明日名は審問官に言う。 「少しの間聞かせていただきましたが先程までの審問、囲んでいる者の顔ぶれも含めて、少々公平さに欠ける点があると思いますが、どうでしょう?」  審問官はしばらく考え込むようにした後、確かに、と頷いた。 「概要は理に適っていたものと私は思うが、内容は少々焦っていたのやもしれないな」 「待て――」  何かを言おうとした異形排斥派の人間を一瞥して黙らせ、彼は続ける。 「――しかし、なにぶん人々の安全が絡んでいる案件故、多少焦りが出てしまう点は許していただきたいものだ。信太主の式契約者」  そして告げた。 「焦りがあってはよろしくない。今回は一旦審問を閉じよう。――別命あるまで坂上匠、クズハの両名には行政区内で待機していてもらう」  その一言をもってこの場は決着となった。 ---- #center{[[前ページ>白狐と青年 第25話「呼び出しの書状」]]   /   [[表紙へ戻る>白狐と青年]]   /   [[次ページ>]]} ---- &link_up(ページ最上部へ)
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