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無限桃花の愉快な冒険12」を以下のとおり復元します。
「全ての創作物には創作者がいる。逆に言えば創作物には必ず創作者がいるのだから野良創作物はいないということになる。
 つまり全ての創作物は創作者の創作の中でしか動けない。というのが普通の考えになるわけ」
ここは海沿いの創発の館(仮)。の図書室内部。
梯子を用いないととても手に届かない高さにまで置かれた本たちがこの世界での地震の少なさを教えてくれている。
同じスペースでも高さがこうも変わると本の量も相当数変わるであろう。地震プレート爆発しろ。
地震プレートと本の量はさておきサムライポニーテール少女、無限桃花は眼鏡を掛けた桃花と会話をしていた。
あのおしゃべり桃花(先日怪我したが次の日に完治。医務室には化物がいる模様)が行かなそうな場所を選んだはずだが
まさかそんなところにこんな図書館の主がいるとは思わなかった。そういえば前に言った図書館にも紫な主がいたような気がする。
「創作者が右向けと言えば右を。左向けと言えば左を。私達創作物はそんな存在なのよ。でも実際のところは
 そんな束縛は感じない。むしろ自由なほど。そこがわからないのよね。あくまでも設定された中でしか動けないのは
 確かだけど設定すら守れば自由に動ける。いや、でももしかしたら私達の行動全てが創作者の掌の上なのかしら」
眼鏡の桃花はひたすら話し続ける。相手が聞いてもいなくても関係ないようだ。相手がいることが大事なのだろう。
とは言うもののなんとなく興味のある桃花はちゃんと話を聞いていた。
「しかしそんなこと考えても詮無いことじゃないか。創作者の意思なんて創作物はわからないだろう?」
「そうね。私達はわからないわ。最も第一次創作者というのかしら。あのハルトシュラーに聞いても
 どうせ素っ気無い答えしか返って来ませんし第二次創作者、私達に直接手を加えた創作者には会えない……。
 と言うよりも会う能力を持っていない、というべきね」
「ん? あるのか? 創作者に会う能力」
「あるわよ。確か……」
本棚の一点を指す。すると本が自分から本棚から出て、眼鏡桃花の手元に飛んで来た。
「それが君の能力か。便利そうだね」
「魔法を使う能力。まぁ便利ね。強いし……」
本にめり込むように見てはページを捲っている。眼鏡を掛けているのに見えないのだろうか。度はちゃんとあっているのか心配になる。
ちなみに眼鏡を掛けていると目が悪くなるという。ちょっと遠くのものが見えないなと思い始めたら眼鏡屋で度を変えてもらおう。
度が合っていないとさらに視力悪くなるという悪循環に陥ってしまう。

「あった。ハルケギニアという世界に生まれた桃花が創作者を召喚してるわね。ハルケギニア自体は既に違う創作者が創った世界
 みたいだから二次創作とかなのかしら。他にも数件報告されているわね。かなりレアな能力ね」
「すごいなその本……。全員載っているのか」
人が殴り殺せそうなほど分厚い桃色に染まった本を閉じる。すごいかもしれないがほしくはない。全く。
「いや、確認されているだけしか載ってないわ。能力上確認不能なんてのもいるみたいだしそもそも感知出来なければそれまでね」
「別世界まで感知しといて感知不能って一体……。で、何人乗っているんだ?」
「……3943人ね」
「えっ」
「どうかしたの? 別に無限にいるはずなんだから驚くことでもないでしょ。むしろ少ないくらいだわ。
 ある程度まではアンテナさんが感知してくれるみたいだけどどうしても遠い世界になると感知タイプの桃花しか出来ないわね。
 もっと力の強い感知タイプの桃花がいればいけそうなんだけど……。やってこないかしら」
既に桃花の理解を超えた話だがどうやら話しているというより独り言に近いようだ。本を開いて、ページを捲りながら呟く。
桃花はその様子を見て、ため息をつき周りを見渡す。図書館には表立って見えるものだけでも相当数のしかもかなりカラフルな本がある。
本来本の表紙というのはそんな奇抜な色にしないような気がするが眼の前に桃色の本がある以上はどうともいえない。
「ああ、そういえば枠を超えた桃花たちがいたわね」
本を捲る動きを止めて眼鏡桃花が言う。
「枠?」
「そう。創作物の枠。というよりも設定を乗り越えたって感じかしらね。例えば18歳でなかったりポニーテールじゃなかったり女じゃなかったり
 刀を持っていなかったり。今言ったやつはハルトシュラーが大前提として創った設定だから本来は破れないはずなの。例え第二次創作者が
 そこを変えたとしても必ずそこに戻る」
「髪型ぐらい変えられるだろう」
桃花はそういうと髪留めを外した。まとめられた黒い髪が背中に降り注ぐ。
当然のことながら風呂に入るなどの髪留めを外さなければいけないときはちゃんと外してはいるがこのように特に意味もなく外すことは決してない。
なぜならば設定されているからだ。『無限桃花ポニーテールである』と。
しばらくは涼しい顔をしていた桃花だったが次第に顔が赤くなって来て体を揺らしはじめた。艶かしい吐息をしながら髪を触っては離すを繰り返してる。
眼鏡の桃花はそれを紅茶を飲みながら見ている。特に驚く様子もない。既に試したことがあるのだろう。
「んっ……!」
驚くほど早いスピードで髪を束ねると瞬時に髪を留めた。結んだものの顔はまだ赤く短く早い呼吸をしている。
「はぁ……はぁ……なんだ、この気持ちは」
「体が火照って来るんでしょ? なにかしらね。外すと欲情でもするのかしら。そんな気分にならないけど」
そのものずばりを言う。それを聞いて桃花はまた顔を赤くする。
「私が、欲情など、そんな、ハレンチな」
「とりあえず息を整えなさい。つまりどうあがいても設定を乗り越えられない。屋上行ったことない? あの桃花は髪を切ってまで
 設定を乗り越えられるか試したのよ。どうあがいても今の私達には不可能だわ。でもね、越えることは出来るのよ。
 男の無限桃花は生憎知らないけどショートカットだったり刀を持ってなかったり年上だったりする桃花は確かに存在するわ。
 でもね、どうやってそうなったかはわからないの。本人たちさえもわからないみたいだしね。もしもその方法がわかれば。
 私達はそれこそ自由になれるのよ」
「ふぅ。しかし自由になってどうするんだ? ここいれば安全なのよ」
「ここにしかいれない。同じ設定上しか歩めない。自由でいて束縛された身。安全の代償には大きすぎるわ。
 それに私は……」
眼鏡の桃花は視線を落とし、消え入りそうな声で言う。
「創作者の気分次第で抹消されるような儚い存在なんていやだ……」
創作者にとって創作物は簡単に作ることも消すことも出来る。
ただそれは創作物にとってどんな出来事なのだろうか。
どっとはらい。

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