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*正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 B 3/3

 「それじゃまた明日!」
 「ふぇ。きがむいたらきてやりますし」


 散々遊び倒した私達。もう体中クタクタだ。空を見上げれば、カラスがかぁかぁ五月蝿く鳴いて、周りを見回せば、自
分の住処へと帰っていく小動物の姿が幾つか見受けられた。そういえば丁度、小腹も空いてくる時刻だと私は思った。
 「ふえ」
 「ん?」
 帰る筈のトエルが、私に話しかける。まだ何かようなのか?
 「きょおーは、なんかわたし、きにさわるようなことをしたみたいですね!」
 「え?」
 …無愛想な私のことを、気にかけていたのか…?でもそれは、トエルのせいじゃない。次にトエルは、こう言葉を続ける。
 「わたしは、ひととこういうせっしかたをしたことがないので、わかりませんでした、ふぇふぇ」
 …トエルは、私と一緒だったんだ。こういう笑い合える存在が、おそらく彼女にはいなかったのだろう。
 私は、昔の自分のことを見ているようで…ふっ、と笑いをこぼしてしまう。感傷深く思ったんだ。
 甦るあの日の記憶。タケゾー達と出会った、あの日。

 ――いいってそんな事気にすんなよぉ!俺達…友達だろー?

 タケゾーのその言葉があったから、私達は今も笑っていられる。私が彼女にかけるべき言葉は…

 「いいって、そんな事気にするな。私達は…友達でしょう?」
 「ふぇ…?」
 何のことか、理解していない様子のトエル。すると横から焔が一言、私の台詞に重ねるようにしていうのだ。
 「そうよトエルちゃん、また明日も遊びましょ?私達は…」

 「友達なんだから…!」

 「ふえ…いいけど!そっちがどうしてもっていうなら……えへへ…」
 トエルは、照れ隠しをするかのように強がっていたが、その顔は紛れも無い笑顔だった…筈…

 なのに…

・  ・  ・  ・ ・ ・・・・・・………………――

 「なんで…なんで…!」

――"えいゆう"です。12えいゆう…HR-500・トエル

 なんでお前は…私達の邪魔をするんだ!!
 敵であることは知らなかったとはいえ、あの日確かに私達は友という関係であったはずだろう…一日二日そこらの、
薄い友情かもしれないそれでも!あの時のお前の気持ちは…嘘だとは思えなかった!これで騙してたっていうなら名
演技だよ、主演女優賞ものだ。それなのにお前は、何の躊躇もなく私達に刃を向けた…私は…信じたくなかった。
お前がそういう奴だったなんて、しんじたくなかった!! 

 同じ…匂いのする奴だったんだ。

―ここで誰にも会わないで、二人だけで生きていこ…―

 そう言ったあの日の私と、同じ。人間とは何か相容れないと一線を置いていた、あの日の…ん…?

 まてよ…、今私は何を思った?人間とは…相容れない?それじゃ…まるで…トエルが…

 思考はそこで途切れた。何故なら、長い廊下が終り、屋上への…恐らく森喜久雄が待つ場所に続く階段へ辿り着い
たからだ。階段は二十段程度、私はそれを一段一段、呼吸を整えながら登っていく。高騰する感情。さっきまで考えて
いた事などはもう、頭にない。
 重厚な赤の扉。それが最後の戦場へとつながる最後の障害物。せっかくだから私はこの扉を…
 「ブッ倒していくぜ!!」

ガシャアァァァン…………!

 「!?な、何事だ!?」
 「なんなんだ一体?」
 「アレを見ろ…異形だ…異形が居るぞ!!」
 無駄に金の掛かっていそうなドアを蹴破り、私は屋上へと足を踏み入れた。そこに待ち受けていたのは三十人程度
の軽装な武装に身を固めた大人たちと…
 「な…なぜこんなところまで異形が来ている!!英雄の人間はどうした!?」
 中肉中背の、一際厳重に取り囲まれている上等な皮の衣服を着た男がいた…アイツが森喜久雄だ。御丁寧に派手
なカッコまでしてくれて…私が一番偉い人ですよと言っているようなものじゃないか。山を荒らそうと考えるのもわかる
…それによって引き起こされる厄災も予測出来ないほどのバカなんだ。
 「お前が…森喜久雄だな…」
 「ひ、ひぃ…!?」
 私は疲労する足腰を一歩、また一歩と自分を奮い立たせながら、進んでいく。武装した男たちが喜久雄の前に立ち
はだかる。
 「天誅だ…己の愚かさを恨め…」
 私は召喚符に手をかけ、異空召喚術を行おうとした…その時…

 「待って!!」

 「!?」
 頭上より舞い降りる羽を生やした少女。その声も、姿も、私のよく知るものだった。月明かりを背に舞い降りたその様
は、天使、いや、龍神のようだった。
 「…焔!!何でここに…!」
 騎龍焔。私の唯一の肉親で…私の大切な…
 「決まってるよ…皆を止めに来たの」
 「知ってたの…?」
 「知ってるよ。皆が私に隠れてコソコソなにかやっているんだもの」
 困った。焔には内緒で事を終えるつもりだったからなぁ…焔にだけは知られたくなかった。焔には、ただ笑っていて欲
しかった。
 「…こんな事された上で笑うことなんて出来ないよ?」
 本当に困った。焔に心が読まれている。
 「な、何だ貴様はぁ!!」
 喜久雄は突然空から現れた異形、焔に怯えるようにして問う。すると焔は静かに、そして悲しそうに話し始める。
 「人が、死にました」
 「…?」
 「沢山の人が、死にました。私は空から街の様子を見ながらここまでやってきました。街には、子供の悲鳴と、大人
の怒声と、沢山の血が流れていました。街全体が、悲しみに満ちていました」
 焔は決して感情的にはならず、ただハッキリと、自分の言葉を伝える。武器を持つ男たちもそれに黙って耳を傾けて
いた。奇異な静寂が場を支配し、焔の透き通った声だけが空気を伝っていた。
 


 「憎しみが渦巻いています。憎しみは憎しみを呼び、連鎖します」
 「悲しみが溢れています。悲しみは満ちることはありません。ずっと、溜まっていきます。寂寥に人々の心は飢えていきます」
 焔は言葉を続けていく。男たちは銃を向ける事なんてとっくに忘れて、各々の知る人、大切な人のことを思い、慚愧していた。
 「誰が、この戦いを望んだのでしょう?誰が、こんな結果を望んだのでしょう?」
 「…誰も、こんな事は望んではいない。ぞうでしょう?あなたも…」
 そう言って、焔は手を差し伸べる。その手の先にいたのは…この事件の原因の一端を担う、森喜久雄だ。
 「…当たり前だ!!こんな事…そうだ!貴様らが余計な真似をしなければ…!」
 「!!言わせておけば…!私達はだまって殺されろってことか!?」
 「だから逃がす猶予を与えてやっただろうが!それを反故にしてまで戦いを挑んできたのは、貴様達の方だ!」
 「何もわからないくせに!あの山を荒らせばどうなるか分かっているのか!?」

 「やめて!!」

 言い争う私と喜久雄の間に割って入る焔。その目は潤んで、声は震えていた。

 「やめて…もう…こんな事…」
 「焔…」
 「もう…これ以上人が死ぬのは嫌…何でお互い、話合えないの?全て…全て話し合いで回避できたことなんだよ…?」

 「もうこれ以上…誰一人として死んで欲しくないの…皆には笑っていて欲しいの!!」

 「あ…」
 焔は、泣いていた。普段は決して見せない姉の、母が死んだあの日以来頑なに見せようとはしなかった、涙。

 「だから…やめましょう…こんな事…私達も、あなた達も…この戦いに争いを望む者なんて…最初からいないんだから…」
 そうだ。誰も争いなんて望んじゃいない。誰かを傷つけたくなんて、ないんだ。誰だってそうだ。皆動かされていたん
だ。見えない、大きな圧力に。気がつけば、周りの男達は皆、武器を置いていた。
 でも、一度始まってしまったこの争いを、果たして止めることなど出来るのだろうか?…焔なら、あるいは…
 「何を馬鹿な…!おいお前達!何をしている!?」
 「森さんや…もーやめましょうや…」
 喜久雄を護衛していた男のひとりが言う。
 「そうじゃ、あのこの言う通りだわい。こんな戦い…誰も望んじゃおらん」
 心改めたかのように、次々と戦闘破棄の意思を見せる者達。事は…徐々に収束するかのように思えた。
 「ふざけるなよ…今更、止められるものかァァァ!!」
 「…ッ!!」
 喜久雄は護衛が放棄した銃器を手にとり、私に照準を向ける。そして有無を言わせずに、それを放った。引き金を引
く音。銃声。火薬の匂い。

 打ち抜かれるはずの私の胴に銃痕は無く、代わりに私を庇うようにして覆いかぶさっている焔の姿があった。

 「え…?な…?」
 自身の顔が青ざめていくのがわかる。血が冷たくなって、震えが止まらなくなる。受け入れたくない、嫌だ。何でまた
…こんな事に…もう嫌だ。誰かを失うのは、もう嫌なのに、この心の叫びが届くことはない。
 「火燐…」
 鼻がくっついてしまいそうな距離に、焔の顔がある。私の名を呟き、焔は優しく私を抱きしめた。
 「ごめんね…」
 「なんであやまるんだ…やめてよ…」
 じわじわと、焔の背中に血が滲んでいくのがわかる。私達は体が強い異形じゃない。銃でだって、十分致命傷を与えられる。
 こうやって密着していると、焔の心臓の鼓動がよくわかる。今は、とても弱々しく、それでいて懸命に動いているのがわかった。でもその鼓動は、どんどん弱くなっていき…
 「火燐…私…」
 「死ぬな!死なないでよ!死んじゃ駄目だ!もうあんな思いは嫌だ!」
 「ごめんね…焔に悲しい思いさせて…」
 「そう思うなら逝くなよ!私を残して死ぬなよ!」
 「…私、ちゃんとお姉ちゃんできてた…?」
 「うん…!」
 「…私、ちゃんとお母さんとの約束、守れたかな…?」
 「うん…!」
 「そっか…じゃあ、私…胸を張ってあの世に行けるね…」 
 「やめてよ…」
 沢山言いたい事があった。沢山、聞きたい事があった。
 でも、私は…何も言えなかった。言葉が出てこなかった。何を言えばいいのか、何を言うべきなのか、何が正解なのか。
 分からない。何もかもが分からない。
 「…私…タケゾーやカナミちゃん達と会って、そんな皆と火燐と過ごして、幸せだった」
 「そうだよ…!まだ約束の明日を、迎えてないじゃないか!だから…」
 「気がついていないの…?タケゾーやトエルちゃんと一緒にあなた、あんなに笑い合っていたじゃない…」
 「あ…」
 「皆に受け入れられて、人と妖が笑い合える明日…まぁ、お母さんの理想には届かなかったかもしれないけど…私は満足しているわ…」
 「焔…!」
 「どんなに辛いことがあっても、火燐がいたから辛くなかった。火燐や、タケゾー達がいたから、私の人生は素晴らし
いものだって思えた」
 焔の心音はどんどん弱まっていく。私は焦燥し、叫んだ。
 「待って、まだいかないで!まだ…離れたくない!」
 追い詰められたかのように、私は言葉を吐き出す。
 「まだ話したい事が沢山あるの!まだ一緒に共有したい時間が沢山あるの!沢山笑って、沢山泣いて、喧嘩して、
それでも姉妹でよかったねって、そんな事言えるような…たくさんのたくさんの…」
 「ふふ…なんだか昔に戻ったみたいだね、火燐…」

 「まだ一緒に居たいの!……お姉ちゃん!!」

 「ありがと、火燐。そしてさよなら…私の大好きな…妹…」
 (ああ…お姉ちゃんって…よばれたの…何年ぶり…か…な…)
 「あ…あぁ…!」
 焔の腕の力が徐々に弱まる。瞼がゆっくりと閉じていって、すっかり大人しくなってしまったところで、焔の呼吸は止まった。
 

――素敵な、一生でした…


 姉は今、その生を終えた。何をしようとも、覆らぬ事実。私は知っている。死んだ者は生き返らない。なくしたものは
戻ってこない。それが現実。
 「い、やだ…」
 現実は悲しすぎる。未来は涙でもう見えない。過去は何もかもなくしてしまった。
 「やだ…やだ…そんなの…」
 私にはもう…何も残っていない。私が…何をしたと言うのだろうか。私は、ただ、生きたかっただけなのに。
 「…タケゾー…カナミ…誰か…誰か助けて…」 
 いない人間に、何を求めているんだ。そうやって他人に頼っていたから、焔を助けられなかったんじゃないのか?

 …どうでもいい。もう終わったんだ。何もかも。どうにでもなれ。

 私は、焔の体をどけて自分の体を起こすと、タケゾーからこっそり頂戴していた、異形になる薬を懐から取り出した。
異形が異形になる薬を使ったら、どうなるかなんて分からない。でも、そんなこと関係ない。壊れてしまえばいいんだ、
この私なんて。

 「この世界なんて、どうにでもなってしまえ」

 私は注射器を腕に注射する。瞬間、狂気に似た感覚が体中を這いずり回る。意識が、異形に侵食されていく。

………………………

 「…あが…ん…」
 気がつけば、"私"の大きな手は喜久雄を踏みつぶしていた。肉の潰れた感触が手に残る。気持ち悪い。
 こいつのせいでこの争いが起きた。こいつのせいで焔は死んだ。全部全部こいつのせい。そうに決まってる。
 …でもこいつを殺しても、何一つ元には戻らない。焔も帰ってこない。もとに戻らないのはこの世界のせいだ。
 みんな、みんな、死んでしまえばいい。 

 "私"は、その大きく黒い尻尾を振り回し、動く肉を潰した。何匹も、何匹も。私の目線は、随分高くなったので、ゴキブリを潰しているような気分だった。そうして、動く肉が、すべてただの肉塊になったところで…あいつは現れた。

 「ふぇ…これはひどい…」
 『お前は…!』
 見間違えるはずも無い、金髪ツインテールの…小さな体…
 「ふぇ…あなたはまさか、かりん?…ずいぶんおっきくなったね!」
 『お前…タケゾーとカナミはどうした…?』
 「ふえぇ…わたしもそうするつもりはなかったけど、いぎょーセンサーがはんのうしちゃってその…しにました、ふぇふぇ」
 『き…き…貴様アァッァァァアッァァアァアアアアアアッッ!!!」
 「ふぇ!しかしながらこれほどのにんげんをあやめたいぎょーをのばなしにするわけにはいきませんし!」

 「だい12えいゆートエル!こうせいなるちつじょのもとに、おまえをとーばつします!」
 『"ジャンクション""デスサイズ"』

 大身の鎌がトエルの頭上に現れる。そしてそれをトエルは難なく手にとり、三回転振り回した後、刃を私に向けた。

 『みんな死んでしまえばいい!!トエル!お前もな!!』 

 憎しみは憎しみを呼ぶ。

 悲しみは、止め処なく溜まっていく。

 『があああああああああああああッッ!!』

―龍は哭いた。全てを失い、取り残された自分の運命を呪うように。
―龍は鳴いた。もう届かぬ友に向かって。もう帰らぬ姉に向かって。
―龍は泣いた。救いなど一切存在しない、自分の世界に絶望して。

誰も望まぬ戦いは、誰も望まぬ結果となって、誰も望まぬ黒龍を作った。
死の連鎖は、一体どこまで続くのか?屍積もる、この場所で…

願わくば、死んだ者達には安寧の時を、彼女には約束の明日を。 



―次回予告。

第六話
 「テロリストのウォーゲーム」#last

 「機械に主観は無い。故に」
乞うご期待ください…。 

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