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&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[創発発のキャラクター総合]]} *創発の館に他の桃花が来ちゃったら② 作者:◆wHsYL8cZCc 投稿日:2010/08/21(土) 13:40:02 ---- 床が冷たかった。まっ平らで何の温かみも無い床だった。 ただ寒いからかも知れない。それで床も冷たいのだ。そう合理的な考えで一応納得した。あまりにも冷たく、しかも真っ暗だったので、まるで火が燈される前の宇宙のようだった。 彼女は目が覚めた。 無限桃花はぱっちりと目を開き、すっと立ち上がった。抱えていた村正は彼女の体温で温くなっていたが、外気にさらされるとすぐに金属的な冷たさとなった。 桃花は辺りを見回した。 なぜ此処に居るのか? なぜ眠っていたのか? 妹を救う為に死んだはずの自分が今、なぜ生きているのか? あらゆる自問は明確な解答こそ得られなかったが、幾つかは感覚で解った。目覚めるべく今、目覚めたのだ。 そして、室内の照明がひとりでに明るくなって行った。 ※ ※ ※ 「うおおおおおおお!!」 「殺るぞお前らぁー!」 「いてこましたるぁ!」 勇ましい雄叫びが廊下に響く。 過激派桃花達はもはや乙女という事をすっかり捨て去り、血と武勇を求める中世の戦士のように昂ぶっていた。相手が新たな仲間だという事をまだ知らなかったが故に。 過激派桃花の第一波は五十人程度の暴れ馬型桃花達であった。接近戦でズタズタに引き裂いてしまえ。そんな戦闘思考を持つ桃花達だった。 やがて、探知桃花が発見した「影糾」が居ると思われる一室の前へ到達する。そこは普段、ハルトシュラーがゲストを招く際に使用している部屋だった。 扉の前まで来た桃花達はそこで歩を止めた。躊躇っているのだ。 やはり戦闘に飢えた過激派と言えど、設定からくる恐怖は並では無かったのだ。本能で察知していた。扉の向こうに控えるは、彼女達にとって本質的な最強の敵なのである。 彼女達はお互い顔を見合わせ、逡巡した表情を一通り浮かべた後、遂に意を決した。 ※ ※ ※ 桃花は扉を見ていた。そこに何が居るか、瞬時に理解したのだ。 なぜならば、彼女はそう創られたから。 武道家としての設定が、彼女の気を練り上げて行く。扉の向こうから来る気配を察知し、機を読み研ぎ澄まして行く。 そこからの殺気は稲妻桃花(便宜上こう呼ぶ)が感じた中で、最も強い部類だった。 まるで、自分が寄生へと向けていたのと同様、妹が自分へ向けた物と同様、純然たる殺意。それが発せられていたのだ。 それも一つでは無かった。無数の殺意が扉の向こうへ集まっていた。 稲妻桃花は遂に身構えた。そして、村正の鞘は影となり消滅し、抜き身となった村正はちりちりと黒い稲妻を纏い始めた。そして、それを下段に構えた。 どのような攻撃をしてくるかは解らなかったが、桃花はそこまで読もうとはしなかった。機に発し感に敏なれ。つまりそれは、必要な時に必要な行動をとればよいという心持ち。 武道家としては既に、達観の域だった。達人とはこういう事なのだ。 扉の向こうは何やら騒がしい。 扉を破ろうとしているのかも知れない。それでも、まだ稲妻桃花は動かなかった。動かずとも、頭の中にあったのは「先の先」を取るという事。 武道では後の先や先の後という概念があるが、稲妻桃花はそれらを全て否定していた。 敵を前にして遅れを取るなど有り得ない。常に先手を取り、有無を言わさず捩伏せるのだ。それもまた、達人の思考だった。後の先の武術のはずの空手ですら、その道を極めた大山倍達は「先手必勝」と唱えた。 先の先以外、全て幻である。稲妻桃花はそう考えていた。 そして、桃花の気は極限にまで研ぎ澄まされた。感じたのだ。扉が開かれると。 機を読んだ桃花は扉へ走る。先ずは出鼻をくじこうと考えた。が、それはあっさり失敗する。達人の稲妻桃花ですら、敵の姿は困惑してしまう物だったのだ。 扉を破りなだれ込んだ過激派桃花も同様だった。 敵は最強の寄生、影糾のはずだ。しかし、目の前に居たのはなんと桃花だったのである。困惑せざるを得なかった。彼女達の脳内には一斉に「あれ?」という文字が浮かび上がった。 稲妻桃花の困惑ぶりは過激派達のそれと比ではなかった。 何しろバリバリ殺気立った「自分」が一斉に、それも無数に襲い掛かって来たのだ! 彼女の脳内では「!!!!???!!!??!?」という文字が浮かび上がった。 幸いにもゾーンに入っていた桃花は敵を良く見渡す。 確かに自分である。刀を持ち、ポニーテールで……。と、頭の中で反芻する。 何しろ目の前に居るのは桃花桃花桃花桃花桃花桃花………。 どう考えても一生涯目にする事が無いはずの光景なのだ。 しかしながら、どうやら少しずつ特徴がある事にも気付いた。 ポニーテールだが少し位置が違ったり、長かったり短かったり。刀もよく見ると、それぞれ違った。双刀や、両刃の剣。さらには弓矢だったりこん棒だったり。 中にはホッケーマスクにチェーンソーというアレなスタイルの桃花まで居る有様だった。 「何がどうなって!!??」 稲妻桃花は頭の中でその言葉を繰り返した。 不幸なのは過激派桃花達である。 この時、稲妻桃花は混乱の極みと言った精神状態だったが、身体に染み付いた武術はそう簡単には抜けなかった。 そして、困惑しつつも一対多数という状況下に置いて、稲妻桃花が放つべき攻撃は一つ。混乱していた為か手加減が全く無かった。 「ききき来たれ龍!?」 稲妻桃花は叫んだ、そしてそれは現れた、探知桃花の地図の上を暴れ回ったように、黒い稲妻の龍は過激派桃花を飲み込み、勢い余って館の外まで貫いて上空を飛び回った。 それは空気を引き裂き、それこそ龍が叫んだような轟音を轟かせ、そして爆発と共に消えて行った。 残ったのは、黒焦げの過激派桃花達と、膝をついて状況を理解しようとする稲妻桃花。 「どーなってるの!?」 当然の発言だった。そして、同時に桃花は自分のした事を理解し始める。 焼き払われた過激派桃花達は煙りを上げ、ぶすぶすと鳴きながら人が焼け焦げる臭いを発していた。 身体は消えなかった。それは、相手が寄生では無いという事である。 稲妻桃花は理解した。「自分は寄生以外の人間を殺した」と。 黒焦げの桃花達は全滅した訳では無かった。 一部は半身を焼かれながら、まだ生きながらえていた。当然ながら、その苦痛は想像を絶するに余りある。 稲妻桃花は駆け寄った。確かめる為に。 「……ああ、そんな……!」 一人の身体を見た。凄惨な有様だった。 その桃花は死にかけだった。 その顔は苦痛と恐怖に歪んでいた。そして、おぞましいまでの憎悪が見て取れた。 稲妻桃花は震えた。その表情に見覚えがあったから。 かつて自分も、その表情をした事があるのだ。あの忌むべき存在に対して。寄生に。影糾に対してだ。 その桃花は言った。お前は誰なんだと。 「私は……。私は……桃花。……あなたは……?」 その桃花は最後に、言語を絶するような表情をした。そして、そのまま固まった。それは凄まじいまでの憎悪と、困惑と、恐怖が入り混じった表情だった。 人間はこれほど恐ろしい顔になれるのか。そう思わせた。 そして、辺り一面からうめき声が上がっているのに気付く。 稲妻桃花は思い出す。「自分が殺そうとした桃花」は一人では無いのだ。 「そんな……。嫌、嫌!」 叫んだ。 だが、それに答えるのは苦痛の声だけだった。後ずさった。後ずさって、壁に背を預けた。そして、辺りを改めて見て、思い知った。 自分はなんて事をしてしまったのだ! と。 涙が出た。口を両手で多い、ずるずると壁に背を預けたまま座り込んだ。 嗚咽が出る。啜り泣く声が出る。それらはうめき声と一緒に部屋の空気に混じった。 眼前はさながら地獄だった。人々が生きなが焼かれ、苦痛の内に死ぬのだ。それを生み出したのは自分なのだ。 そう思ったら、さらに涙がでた。 なんて事をしたのだ。自分は、自分達を稲妻で焼き殺したのだ! 「嘘……。嘘よ……!」 へたり込んだ。背中を丸めて床へ突っ伏した。見るに堪えなかったのだ。 自分がなぜここに居たのかを考えた。そして、なぜ生き返ったのかをも考えた。 自分は死んだはずなのだ。なのになぜ? 自分はまさか、この地獄を創る為に生き返ったのか? もしくは、ここが地獄なのか。 嗚咽した。胃の中身を吐き出そうとしたが、出てくるのは胃液だけだった。 そして、この状況を呪った。自分を。そして自分を此処へ導いた者を。考えつく限りの罵声と呪いの言葉を浴びせかけ、そして、言葉を失った。 もう何を言っても、これ以上の悪意の言葉が思い付かなかった。 稲妻桃花はうずくまったまま、しばらく思考を止めた。考えたく無かったのだ。現実逃避し始めたのだ。 まず、複数の桃花が居るという事事態がおかしいが、稲妻桃花にとっては瑣末な事だった。「自分を殺した」それが恐ろしかった。 おかげで、新たに現れた足音に気付く迄に相当時間がかかった。 それらは既に部屋の中へ入り、何やら話しあって居た。 「……ひっどいわね。これは予想以上だわ」 誰だろう? 稲妻桃花はそう思った。 「まだ生きてるのは……。なんかうるさいから一旦トドメ刺してから治療ね。……ほらよッ!」 ぐしゃっと音がした。何かが潰れる音だった。 「あれ? あそこに寝てるのが、例の桃花じゃないか?」 「うん? あら。そういえば見たことない娘ね。無傷なのも一人だし」 それは自分の事だろうか? 稲妻桃花は考えた。出来れば今は放っておいて貰いたかったので、少しイヤな気になった。 「……じゃ、私は館の修繕に行くから。治療は医者桃花に任せておいて……。あなたはあの娘をお願いね」 「分かった」 誰かが近付いてきた。それは明らかに、自分へ用があってこっちへ来る。 イヤだ。来るな。……来ないで。そう考えたが、それはあっという間に目の前まで来た。 「……大丈夫か?」 「……」 「その……あの……。どこか痛むとか、具合が悪いとか?」 「私は……」 「解ってる。お前も桃花だろう? 私もだ」 「……? あなたも?」 「そうだ。ほら、突っ伏してないで。こんな冷たい床じゃ風邪引いてしまうぞ」 その桃花はそっと稲妻桃花の肩へ手を置いた。温かかった。それが信じられなかった。なぜなら、さっき自分は―― 「あー……。ケガ人なら気にしなくていい。医者桃花に任せておけば。ほら、まずは顔をあげてくれ」 優しい声だった。自分の声だ。口調は違うが、明らかに自分だった。 そして、稲妻桃花はそっと顔を上げてみた。 「……?」 「初めまして。私は桃花」 「私は……」 「名乗るのも変だな。ここに居るのは皆桃花だ」 稲妻桃花はその桃花を見た。 セーラー服を着た、ポニーテールで刀を持つ桃花がそこに居た。 「私は……」 「ようこそ創発の館へ。歓迎するぞ。最強の桃花」 セーラー桃花は言った。歓迎すると。 そして、稲妻桃花はやっと、再び辺りを見回した。 ハンマーを持った白衣の自分が居た。見ると、自分が殺したはずの桃花が次々と生き返っていた。なんか一旦殺してから治療してるようにも見えた。 「ほら、どうした?」 「あ……。あの……?」 「なんだ?」 「ここは……?」 「うーん……。まぁ詳しい事はおいおい説明しよう。まずは、来た事を歓迎するよ。桃花」 名前を呼ばれた。なぜ名前を知っているのかと思ったが、よく考えれば向こうも桃花なのだ。 「私は……」 「うん?」 「私の名前は……。桃花。……無限桃花」 「初めまして。桃花」 「……は、初めまして」 セーラー桃花と稲妻桃花は、遂に出会ってしまった。 およそ二人のキャラクターが出会えば、そこには自然と物語が生まれる。この瞬間、二人の物語も始まり、そして他の桃花達によってそれはさらに彩られるであろう。 それが語られるか、もしくは封印されるかは解らない。だが、どんな些細な事であれ、それは立派な物語なのだ。 今ここで、それが生まれようとしていた。ハルトシュラーはきっと微笑んだであろう。 ---- #left(){[[創発の館に他の桃花が来ちゃったら1]]}#right(){[[創発の館に他の桃花が来ちゃったら3]]} ---- [[目次に戻る>もし創発の館に他の桃花が来ちゃったら]]
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