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すすめ!ハルトシュラーズ 第3話 - (2010/02/15 (月) 20:15:19) の編集履歴(バックアップ)


すすめ!ハルトシュラーズ 第3話


139 :すすめ!ハルトシュラーズ 第3話:2010/02/07(日) 21:30:13 ID:E2vs77tS
キョンは、その実績に見合う素晴らしいピッチングを見せていた。
曲者揃いのメッツ打線に、二塁を踏ませない。当然無失点だ。
桃花も、「これほど楽な守備は初めてだ」とまで思うほどだった。
だが、好投を見せているのはキョンだけではない。
メッツの先発投手は火浦健。昨シーズンの成績は15勝10敗。
キョンには及ばないが、充分に一流と言える結果を出している。
むしろチームの戦力差を考えれば、キョンに匹敵すると言ってもいいだろう。
そして彼も、今宵その実績に見合うピッチングを披露していた。
試合は投手戦となり、0対0のまま8回裏まで進行した。


8回裏、ハルトシュラーズの攻撃。
この回先頭のアジョ中が倒れ、ワンアウト。打順は、桃花へと回ってきた。
今日の桃花は、3打数ノーヒット2三振。
火浦の球に、まったくタイミングが合っていなかった。
今日の火浦のストレートは、平均して140キロ代中盤だ。プロの投手としては、「やや速い」というレベル。
だが高校を出たばかりの桃花たちにとって、それは「目にも止まらぬ剛速球」である。
むろん、ピッチングマシンが投げるもっと速いボールと対戦したことはある。
だが、人間の投げる球と機械が投げる球が同じはずがない。
物理的にだけではなく、心理的にもだ。
マシンが文字通り機械的に投げ込んでくる球と、一流のエースピッチャーが投げる球をどうして同じと思えるだろうか。
事実、桃花だけでなくハルトシュラーズの高卒ルーキー組は誰一人として火浦からヒットを打てていない。

(このまま終わりたくはないな……)

声には出さず、おのれの胸の中で桃花は呟く。
彼女は、それほどプライドの高い人間ではない。
それでも、このまま終わるのはいやだった。

この打席こそ、打つ。

静かな決意を胸に、桃花は打席に立った。
だが、決意だけで打てるほどプロ野球の世界は甘くない。
かする気配すらない空振り二回で、桃花はあっという間にツーストライクと追い込まれていた。

ふと、桃花はマウンド上の火浦の顔を見た。
火浦は、平然としていた。道ばたを歩いているときのような、ごく普通の表情だった。
試合の真っ最中だというのに、だ。

つまらない。

桃花は、そう言われているような気がした。
むろん、火浦が本当にそう思っていたのかは当人にしかわからない。
もともと、火浦は感情がさほど顔に出る人間ではないのだから。
だが、桃花はそう感じてしまった。それは、紛れもない事実だ。

舐めるな。

次の瞬間、桃花はボールを見るより先にバットを振っていた。

「え……?」

バットがボールをはじき返す音が、桃花の鼓膜を振るわせる。
一拍の間を置いて、彼女は自分が火浦の球を打ったのだと理解する。
すぐさま、桃花は走った。
桃花の一番の武器は、足の速さだ。
もともと高校通算打率四割という成績も、打撃技術というよりは足で稼いだ数字だ。
例え打撃がまだ通用しなくても、その自慢の俊足はプロでも十分に通用する。



140 :すすめ!ハルトシュラーズ 第3話:2010/02/07(日) 21:31:24 ID:E2vs77tS
「セーフ!」

記録は、ショートへの内野安打。無限桃花、プロ入り初ヒットであった。


ワンアウトランナー一塁となり、打順は九番のピッチャー・キョン。
監督はここで代打を出さず、キョンをそのまま打席に送る。

     ____
   /__.))ノヽ  
   .|ミ.l _ノ 、_i.)   そんなん当たり前やろ
  (^'ミ/.´・ .〈・ リ  得点圏にランナーがおるならともかく、
  .しi   r、_) |   この場面で完封目前のエースを交替させられるかいな
    |  (ニニ' / 
   ノ `ー―i´

そのキョンは無難にバントを決め、桃花を二塁に進める。

          /      .: .: :. :. :. :. :. :. :. :. :. :. ヽ、ヽ,
        / .: .: :. :. :. :. :. :. :. :. :. : i:. :. :. :. :. :. :ヽヽ
       ,' .: ,: .:. :. :. :. ;. :. :./l:. :. /l:. ;. :. :. :. :. :. l
       l .i :.l.: :. :.,.i:.., 'l:. :./ l:. / l:..lヽ;.. ;、:. :. :l
       l :l:. :l :. :.l l/ l/  l/  l/  l:/ l:. :. :,,!
         レl:.r.i :. :. l.  ̄`'ー_ 、 ,   ,._ ' ´^ !:. :./
         !l.'´!:. : l  ''!ニブ      '!ニフ` !:.,i/
        ヽーl:. :l'                ,':./'
          レヽl: l u      i     l:./
           〉N         '      ,i/
           /l l ヽ             , '
         ,.イ .:.:.! l  ヽ、 c. ニ っ ,イ.. ヽ、   (公式戦でバントなんて5年ぶりだから、
    ,.. ' ´. l.:.:.:.:.l.  l   ヽ、 ´ /. !.:.:.l..`ヽ、  上手くいくかヒヤヒヤしたぜ……)
,.  '´ ...:.:.: .:!.:.:.:.:.:l  ヽ     ー './,'   !.:.:.:.!.:.:... `ヽ、
 ....:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:.:l   ヽ、      /   !.:.:.:.:.!.:.:.:.:.:.:.....`ヽ、
.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:li    , 'ト 、_ ,. 'ヽ  l.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..ヽ,
.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:.:.:.:..!!  /ヽ l O !! ' >':;ヽ !.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l.!
.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.l l /`' 、>ー'-.く/ ヽl.:.:.:.:.:.:.:l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:l

場面はツーアウトランナー二塁と変わり、続く打者は一番のルパン。
彼はわずかに甘くなった変化球を見逃さず、打球をライト前に運ぶ。
桃花は全力で、三塁まで走った。ベースコーチャーが腕を回しているのを確認すると、迷わず三塁を蹴ってホームへ向かう。
ボールの位置を確認する余裕など、今の彼女にはない。
ただ、駆け抜けるのみ。

ハルトシュラーズに、待望の1点が入った。


「ナイスラン」

ベンチに戻ってきた桃花に、穏やかな表情のキョンが声をかける。

「あ……ざ……ます……」

それに応えようとする桃花だったが、全力疾走の直後で満足にしゃべれない。
キョンはそんな彼女の様子に微笑を浮かべながら、その肩を叩く。

「あとは、俺に任せろ」



141 :すすめ!ハルトシュラーズ 第3話:2010/02/07(日) 21:32:31 ID:E2vs77tS

◇ ◇ ◇


九回表、マウンドに立つエースの姿を、ブルペンのモニター越しに見つめる二人の選手がいた。
ハルトシュラーズのリリーフピッチャー、霧崎鋏美とリュウタロス(本名:シン・アスカ)である。

  , '  ̄ ヽ
  ! ノ、ヽ, _!
  !i _.゚ヮ゚ノi ミ  どうやら、今日は我々の出番はないようですね
 ((!´ ヽ¨ノ ̄]つ
 `凵  o 厂
  ∪ ノiiヽヽ
  レ ||∥,ヽ!
.   ヽ|| |ノ

            _...,,_  _...,,_
              ‐=ァ´:::::::::::`' ......::`''=-
               /:::: : .::::::::::::::::::::::'::;'、
              /:::: ::::..::.::::::::::::;;;;:::::;;;;:ヾ`
             //. :::::::::::::::;;;::;;;;:;;;;;;;;;;;;;;ト'、
             /イ::::::r'、;;;;;;::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;}`
              /;::;::::', l;;;;;;;;;;;;:=''" ̄ ̄`ヽ     どうでもいいよ
             ´ |;ハ::::ヾlハ''"_,,,...-―''"´`'''-..__ 俺リュウタロスだし
              ,.-'‐'"´ ̄_;;;:::-―- 、:::::::::::r―-、`ー、
               !ヽ:::::::; '´       `ヽ、/    `ヽ::'、
              ,':::::ヽ/                 ゙r;',
              lラシ:/ ,                  }`丶
             _{/‐''´                  |   ',
======:、   f'_,.‐''´    ノ/             }    ヽ
___|_|___|_)  /      /'´                 !    ヽ
         ゙!‐ ┴―――‐''―-...,,,_            |       }
―――――― '              `'''ー ‐-...,,,__    {`    ノ

わけのわからない理由でふてくされるリュウタロスに、鋏美は苦笑いを浮かべるしかない。
そうこうしているうちにも、キョンはアウトカウントを重ねていた。
二者連続三振で、危なげなくツーアウト。
メッツはここで代打の切り札、「スラッガー10番」こと富樫平八郎を送り出す。
だが彼とて、今日のキョンを止められない。
結果はセンターフライ。ルパンのグラブに打球が収まった瞬間、試合終了が告げられる。
創発ハルトシュラーズは、チーム最初の試合を白星で飾った。



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