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無限桃花~FallenSky~ - (2010/03/22 (月) 00:34:07) の編集履歴(バックアップ)


無限桃花~FallenSky~


 桃花は彼方を抱きしめる。捨てた村正は影となり消えた。

「何をしている?自ら死に臨む事がお前の意思か。我が刃を自らその身に受けたとて、それでどうなる?」

 桃花は彼方に寄り掛かり、彼方共々その場に膝を付いた。彼方を抱く腕のみに力が入る。
 身体を貫く刃からは今だ血が流れる。

「‥‥彼方。もう逃がさない。どこにも‥‥連れて行かせない」
「何を言っている?今にも死にそうな身体で何が出来る?何を考えている‥‥‥?姉さん?」
「死なないと‥‥‥出来ない。後は‥‥‥悠斗がやってくれる‥‥‥」
「悠斗が?何だ?何を考えている!?」
「じゃあ悠斗‥‥‥後は‥‥お願‥‥‥い‥‥‥。彼方を‥‥‥助けて」

 桃花はズルズルと彼方の身体を滑る。その腕だけはまだ力が入ったままだった。膝を付いた彼方はそれにつられ、地面に完全に座り込んだ。

「姉さん?」
(行くで道真。これが桃花の決断や。千年前みたいには行かんぞ)
「悠斗!?姉さんは‥‥桃花はどうした!?」(見て解らんか?‥‥桃花は、お前の刃で死んだ。そうしないと出来ないから)
「なんだと?どうするつもりだ!」
(千年前‥‥、アンタは私に取り憑いた。今度は私達の番や。彼方の魂のアンタと、桃花の魂の私の部分‥‥。それを取り替えたる)
「何?‥‥まさか!」
(そうやで?アンタは桃花と一緒に地獄へ堕ちる。それが桃花の決断。アンタを永遠に地獄に縛り付ける為に、アンタに殺された。彼方に生きて貰う為に)
「‥‥なんて事を‥‥!」
(アンタ人の事言えるかい。さて、覚悟はいいか?道真?桃花の死に行く肉体に入って貰うで?)
「‥‥やめろ!」
(何がや?どうせ元々そこの住人やろがい。帰るだけやろ?)
「やめろ!!」
(往生際悪いな‥‥‥‥)

 桃花の肉体から離れた魂は彼方へ取り憑く。
 抜け殻となった桃花の肉体はどっしりと彼方の膝の上に落ちていた。


 彼方はそれを見つめている。村正からは影が溢れていた。ゆっくりと影に解け、空へと混じって行った。そして‥‥‥。

「姉さん‥‥‥?」
(彼方。桃花は命を懸けてお前を自由にしようとしたんやで。お前を殺すという宿命に逆らって、己の命すら捨てて‥‥)
「悠斗‥‥!なんで‥‥‥!なんで止めなかったの!」
(‥‥‥桃花がそう決めたからや。私に何が言える?桃花は桃花や)
「そんな‥‥。姉さん‥‥‥」
(まぁ待て。私とてそのままやるんは酷や思う。少しだけ、桃花に逆らわせてもらうわ)
「何をするの‥‥?」
(お前達にはホンマ苦労かけた。私達が悪い。地獄に行くのはアイツと私)
「どういう事?」
(彼方、今、桃花は眠っている。目ぇ覚ます事は無いやろうけど、仲良くな。お前の魂の欠けた部分、そこに桃花はいつも居る。忘れるな)
「悠斗?どういう事なの?」
(桃花と違ってニブイ娘やな。どっちかってば私に似てるわ。まぁええ。そろそろお別れやな。16年、ホンマ苦労かけた。桃花にも謝っといてな)
「悠斗‥‥!姉さん!」
(アイツはもう桃花の身体や。じゃあ私も行くわ。ほんじゃ、さよなら)

 紅い雲は少しずつ晴れて行く。
 そこに浮かぶ荒野に座り込み、彼方は桃花の身体を抱いていた。もう抜け殻に過ぎない身体。しかし、その表情はうっすら笑っているように見える。血まみれの汚れた顔はなぜかとても安らかで、美しく見えた。
 雲は晴れる。闇の天神の呪いは消えかけていた。彼方の自由と引き換えに。
 地上には太陽の光が届き始めている。そこへ居た黒丸達も状況の変化を感じている。

「先輩!雲が‥‥!」
「晴れてきたな。終わったみたいだ」
「寄生達‥‥‥。動かないですかね?」
「さぁな。動いたとしたら殺せばいい」
「どうやって?」
「さぁな?」
「あのな‥‥‥‥」

 黒丸達は事が終わったと感じていた。空の上で何があったかは知らなかったが。

 突如、黒丸の持つ無線から声がする。田父神航空幕僚長の声だ。

『黒丸!聞こえるか黒丸!!』
「聞こえてます幕僚長。こっちは‥‥‥終わったようです」
『そいつは何よりだ。だがそれどころじゃない!今すぐそこを離れろ!』
「どうしたんですか?」
『先ほど三沢からF2が離陸した。米空軍のC130もだ。そこの寄生もろとも例の岩山を破壊する作戦だ』
「ちょっと待って下さい‥‥!?誰が命令を!?」
『総理だ。雲が晴れて来たら即座に破壊せよと予め命令が下っていた。少しでも寄生の情報を外に出す訳には行かないらしい』
「そんな‥‥!まだ上には桃花さんが!!」
『‥‥もう間に合わない。諦めろ。サイロバスターなら岩山を簡単に貫通する。そのあとMOABで辺りを吹っ飛ばすつもりだ。早く逃げろ‥!』
「ちょっと待って下さ‥‥‥うおっぉ!!」

 黒丸は上空からの爆音と突風に身を屈める。見上げた先には四つの黒い影が見えた。来たようだ。

「さすがに速いな。それも四機も」
「先輩!速く逃げないと!」
「しかし桃花さんが‥‥!」
「何にも出来ないでしょ!今は逃げるの!」

 黒丸は空を見上げる。同時に四つの白い雲が伸びている。
 それは岩山の中腹にぶつかり、爆炎を上げた。辺りには破片が降り注ぐ。

「ホラ!早くしないと巻き込まれちゃいます!」
「だが‥‥!」
「グチグチ言うな馬鹿!いつもの決断力はどこ行った!今は逃げるの!逃げて生きるの!」
「‥‥クソ。桃花さん‥‥‥!」

 四機のF2は旋回し、再びサイロバスターを発射する。岩山は大きくえぐれ、中腹から自らの重みで崩れそうだった。
 その上では、彼方が桃花の遺体を抱いて座っていた。

「姉さん‥‥」

 座り込んだ地面は激しく震えていた。天神の細道は崩壊する。闇の軍団が通るはずの道はその役目が来る前に消え去るだろう。
 彼方もまた、そうなる寸前だった。

 声が聞こえる。いつかどこかで聞いた声。それは近づいて来る。

「間に合わなかったようだな」
「貴方は‥‥‥。なぜここへ?」
「お前達がこの霊域へ入った時から見ていた。‥‥‥桃花も来ると思っていたからだ」
「そうなんだ‥‥」
「私もお前同様、あの娘に救われた。‥‥‥自由になれた」
「悪世巣‥‥‥。ごめんなさい」
「私はもう気にしてはいない。桃花に再び会えぬ事だけ心残りだが‥‥」
「姉さんに‥‥‥?なんで?」
「フ‥‥‥。婆盆がお前に付き従うのと同じ理由だ。惚れただけだ。その魂に」
「姉さんに‥‥?」
「もう時間が無い。もはやここは無くなる。お前の助けも来たようだ」
「助け‥‥?誰が?」
「忘れたのか?奴はずっと見ていたはずだ。お前をな」

 悪世巣の見上げる先、そこには黒い翼を持つ何者かが居た。遥か天空から、それは近づいてくる。

「婆盆‥‥‥‥‥」
「さぁ行け。桃花の魂、下まで持って行け」

 地面は崩れ始める。天神の細道の中腹はすでにサイロバスターで破壊された。あとは放っておいても崩壊するだろう。

「悪世巣‥‥」
「その名はお前に返そう。今の私は天からこぼれた一匹の狐に過ぎん。では、また会おう。彼方」

 悪世巣は天空の荒野から飛び降りる。婆盆の影はもうすぐそこまで来ている。
 今度は違う声が聞こえる。もう聞く事は無いと思っていた声。
 幻聴かも知れない。でもそれは確かに一言、はっきりと聞こえた。桃花の声で。


 私は生きていたよ、と。


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