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無限桃花~Gods of thunder

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eroticman

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無限桃花~Gods of thunder


 二匹の龍はぶつかり合い、閃光と爆音に変わる。衝撃波が辺りに広がり、紅い雲海は大きく波立つ。

 彼方は猛然と桃花へ斬りかかる。有り得ない程の速さで。
 神速の体術を修めた桃花ですら受けきるのは至難の業だった。振られる剣は桃花が知る技では無い。恐らくもっと昔の、古の剣術。
 道真の記憶と婆盆による指南が、彼方にそれを与えた。
 桃花とて受けるばかりではない。機を狙い必殺の一撃を放つ。
 彼方は村正でそれを受ける。
 二本の村正がぶつかる度に、黒い稲妻が紅い雲の間に走り、地上に落ちる。
 さながら地獄のような光景だった。

「クスクスクス‥‥‥はははははは!」

 彼方は笑う。現代に蘇った道真として。

「彼方‥‥」
「その名で呼ぶなと言っただろう無限の天神よ。妹とは言え千年の仇。手心加えては私を斬れぬと心得よ。姉さん?‥‥クスクスクス」
「そのつもりは無いわ」

 彼方は腰貯めに構えた刀を真横に振る。桃花は袈裟斬りでそれを払い、回転を殺す事なく必殺の二撃目を放つ。だが。
 彼方も同時に身を回し、払われた剣を再び桃花へ向け放つ。
 剣は衝突し、地上にはまた地獄の稲妻が降り注いだ。

「それが無限一族の剣か姉さん。父によく扱かれてたな。京都に移ってさらに技を磨いたらしい。私はついに教わる事は無かったが‥‥‥。
代わりに婆盆が私に剣を教えてくれた。我が師の剣はどうだ?姉さん」

 彼方の村正は稲妻を纏う。そして村正の刀身そのものが黒い稲妻へと変化し、彼方はそれをトンボに構える。

「迷わず逝け姉さん。この一撃で」

 彼方は稲妻の剣を一気に振り下ろす。それは天空に造られた荒野を砕き、雲が割れるほどの一撃。閃光と爆音が辺りを支配する。

「‥‥‥逃れたか。しかし避けきれなかったと見える」
「ぐッ‥‥‥‥‥」

 桃花の左腕は斬り落とされ、傷口からは黒い影と鮮血が流れていた。

「片腕失い惨めな様だな姉さん?クスクスクス‥‥‥‥」
「‥‥‥」
「もはや口を聞くつもりも無いか?いいだろう。それでこそ我が仇。もはや姉さんとは呼ばぬ。さてと、隻腕でどれほどの技が振るえるか、見せてもらおう。悠斗よ」
「‥‥彼方、私は‥‥‥」

 桃花は何か言おうした。だがその隙を与えず彼方は再び斬りかかる。稲妻の速さで。
 桃花の出血は既に止まっていた。だが、片腕では満足に剣を振るえるはずも無かった。

「惨めなり悠斗よ。もはや受けも攻めも満足に出来ない。このまま争っても、私に刃を届かせる事は出来ない」
「違う彼方‥‥‥‥。私は‥‥‥」
「先ほどから何だ?今際の言葉でも言いたいか」
「彼方‥‥‥。私は‥‥‥」
「フッ‥‥‥。まだその名で呼ぶか。まぁ良い。言ってみろ。姉さん?クスクスクス‥‥」
「私は‥‥‥桃花。悠斗じゃない。あなたも‥‥‥。菅原道真なんかじゃない。あなたは、彼方。道真なんかじゃない!」
「はははは!愚かなり無限の天神!今だ理解出来ないか?」
「出て行け‥‥‥」
「何だと?」
「彼方から出て行け!」
「‥‥‥まだ解らぬか。私が彼方だ。道真の魂、それが今、彼方として存在している。お前もそうだろう悠斗?」
「違う‥‥‥」
「何が違うというのだ。お前は千年の時を超え、私を殺す為にこの世へ来た。それが宿命よ。それこそ千年前、悠斗が望んだ事。
お前はその為に今ここに居るのでは無いのか?その意思は、悠斗の物では無いと言うのか?お前自信が、妹を殺す事を選んだと?」
「違う‥‥違う‥‥!」
「何が違うと言うのだ!」
(いい加減目醒ましたらどうや道真)
「その声‥‥。悠斗か」
(お前は彼方にいらん事吹き込んだだけや。実際彼方は桃花をどうしようとした?何も知らんまま、普通の人間として生きる事を望んだハズや)
「その思いは踏みにじられたではないか悠斗よ。お前は戦う事を選び、そしてここに来た。私を殺す為に」
(そこが間違いや)

(私はただついて来ただけ。ここへ来る事を望んだんはあくまで桃花自信や。
まだ解らんか?お前も私も、この世に居てはイカン。本来は桃花と彼方、二人が全て決めるべき事。お前は彼方の意思を殺し、千年前の道真そのものになりたいだけや)
「それで何が悪い?彼方は私であり、私は彼方だ。輪廻転生には逆らえぬ。私は千年続く魂の決意の元に行動するまで」
(阿呆め。その輪廻転生に逆らう者が、今目の前に居るではないか)
「お前が?笑止。ではなぜ転生した。なぜ今ここに居る!?私を斬る為だろう!?」
(私や無い。桃花や。ここに来る事、お前を消し、彼方を取り戻す事。全部桃花が決めた。その娘は宿命なんぞ全部否定してくれたわ。お前なんかと違って‥‥随分強い娘や)
「何だと?」
(まだ気づかないか。彼方がそう望んだように、桃花も彼方が普通に生きる事を望んだんや。私はその手助けしたまで。桃花がそう望んだんなら千年前の化石は黙って見ているだけ)
「何ぃ?何を考えている?」
「今に解るわ‥‥‥。彼方。」

 隻腕の桃花は村正をだらりと構える。もう腕に力は入らない。血は止まったが最初に大量に流れた。意識は朦朧とする。痛みはほとんど無かった。
 むしろ奇妙なほど、心地良い気分だった。
 桃花はじりじりと道真に詰め寄る。切っ先は地面を擦り、カラカラと音を立てている。
 剣を振る気配は無かった。 

「何が望みだ‥‥。悠斗」
「私は悠斗じゃない」
「何をしようとしている?」
「彼方を‥‥返して貰う」
「無駄だ。私こそ彼方。もう解っているだろう。お前が望む事は出来ない」
「‥‥出来るわ」

 桃花は互いの剣が届く場所まで近づいた。刹那、彼方は村正を桃の胸へと目掛け突き立てる。

 一方の桃花は‥‥‥。剣を捨てた。

 立ち尽くす桃花。その胸を、彼方の村正が貫いた。黒い刀身には紅い雫がたれ、背中の傷口と村正の鍔に貯まる。桃花はそこから一歩踏み出し、剣はさらに深く刺さる。
 そして彼方の身体に寄り掛かり、残る右手を背中に回し抱擁した。

「もう‥‥放さないよ。彼方‥‥」



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