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☆-3-002 - (2010/10/10 (日) 00:58:48) のソース

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* 投下作品まとめスレ3-2〔3-077~ 〕

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77 :創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 17:49:59 ID:s53y1xEw
【天国の控室】 

ここは通称「天国の控室」、正式名称は「国立終末介護医療センター」である。 
比較的裕福で身寄りの少ない重病患者が終の棲家として選択する医療機関だ。 
ただ、すでに危篤状態になっている患者はここに入院することは無い。 
なぜなら、寿命を全うするまでの期間たとえそれが数日であろうと、本人の意思で 
至福の時間を過ごす事を目的としているからだ。 
人によっては数年間の長期入院になる事もある。幸せな時間を1日でも多く 
過ごしたいという欲求がその命を永らえるのかもしれない。 
N氏もそんな患者の一人であった。 

「Yさん、ちょっとこちらへ来てくれないか」 
「はいN様」 
そう応えたのは、N氏が入院してからずっと付きっ切りで介護してきたY看護婦だった。 
「もうどれくらいになるかな…」 
「約4年7ヶ月になりますわ。正しくは4年6ヶ月と28日8時間46分…」 
「ははは、君はいつも正確無比だな」 
「恐れ入りますN様」 
「私にはもう近々お迎えが来る。君には本当に世話になった」 
「そんな気の弱いことをおっしゃってはいけませんわ」 
「いや、分かるんだよ自分の事は」 
「N様がそんな気持ちになってしまわれると、私が担当の先生に叱られます」 
「そんな医者、私が怒鳴りつけてやる!わっはっは」 
「うふふ…患者様から気を使われるなんて、看護婦失格ですわね」 

「ところで、私が死んでからの事なんだが…私にはこれまで苦労の末築いた財産がある 
 それを君に相続してもらうわけにはいかんだろうか?」 
「唐突なお話ですのね。しかし私には財産をいただく権利はございません。それに 
 N様もご存知のように…」 
「そう、君はロボットだ。だがロボットが相続してはいけない法律はないだろう」 
「いいえN様、法律の問題ではなくて、私にとってはその財産が無意味なのですわ」 
「そうなのか、私の財産は君には何の価値も無いということなのか…」 
「申し訳ございません、私には物の価値を認識するデータがプログラムされていないのです」 
「…確かにな、金や不動産や贅沢品は人の欲望が造り上げた物。君には無用か…」 
「ご好意には感謝いたします」 

「Yさん、今だから言えるが、私は起業には成功したが良い家庭は築けなかった。 
 家族ほったらかしで仕事に没頭し、愛想をつかした妻は一人息子を連れて家を出て行った」 
「そうだったのですか」 
「だが、今私はとても幸せだ。君のお陰で最高の死を迎えられそうだよ」 


その時、一人の男性が病室に入ってきた。 

「お、お前は…」 
「父さん、久しぶりです」 
「今更名乗りをあげても、お前達には財産はやらんぞ!」 
「父さん、母さんはもう5年前にここで亡くなりました。最期まで父さんを愛していましたよ」 
「そ…そんな人情話は通用せん!」 
「僕は財産が欲しくてここに来たんじゃありません。本当のことをお話しに来たのです」 
「何だと?」 
「母さんは家を出たあと、大変な苦労をして僕を育ててくれ、大学にまで入れてくれました。 
 お陰で僕は思う存分自分の好きなロボット工学の勉強をすることができました」 
「ロボット工学…」 
「そうです。実は、この施設の介護ロボットはすべて僕が開発したものなんです」 
「では、このYさんも…」 
「ええ、今まではロックがかかっていたのでお話できませんでした。申し訳ございません」 
「父さんは先程、彼女のお陰で幸せだと言っていましたね。どうしてだか分かりますか?」 
「ああ、彼女は親切でよく気が利いて私の好みも分かってくれていて、まるで…」 
「まるで?」 
「…かつての私の妻のように…!」 
「そうです、Yには僕の覚えている限りの母さんの性格やしぐさをプログラミングしてあります。 
 ただ、父さんの好みまでは僕は知りませんが」 
「そ…そうだったのか」 

「母さんは本当に最期まで父さんを愛していました。これを聞いてください」 

息子はY看護婦の耳たぶにそっと触れた。 

「お父さん、お久しぶりです。もう、お互いに昔の事になってしまいましたね。 
 あの時は突然出て行ってしまってごめんなさい。ご苦労されたでしょうね。」 

Y看護婦はN氏の妻の声で話し続ける。 

「お父さんのお仕事の邪魔になってはいけない。私達が出て行かなければいけないって 
 勝手に思い込んでしまって。でも大成功されたんですものこれで良かったんだと思います。 
 私が先に逝くことになってしまったけれど、本当に愛していました、さようなら…」 

その後、幾日かしてN氏は天寿を全うしこの世を去った。 
病室には1通のメモ書きがサインを添えて残してあった。 

『遺言 私Nの全財産を Y看護婦の開発者に贈与する』 

終わり 

85 :創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 21:06:12 ID:5hTm5MZQ
    ショートショート  『鈍感な男』 

ああ、また今日も会社に行かなければならない。もういかなくては。 
テレビでは最近起こった殺人事件を頻繁にやっている。生まれたばかりの子供が 
殺された事件だ。「なんとも可哀相だ。生まれたばかりで殺されるなんて。」 
本当にそう思った。だが人間というものは鈍感な生き物だ。 
そのときはそう思ってもテレビから離れればそんなことは忘れてしまう。 
嫌なニュースを見て私はひとつ、ふたつ、せきをした。そういえば喉の調子が悪い。そりゃそうだ。 
先週まで38度の猛暑日の連続、今日は20度を切っている。 
夏にはクーラーでがんがんに部屋を冷やし、アイスキャンディーを食べながら 
ああはやく冬になればいいのにと嘆き 
冬にはこたつで温まりみかんをほおばりああ寒い、早く夏になればいいのにとわがままを言う。 
ひどく鈍感な生き物なのだ人間という生き物は。 
おっともうこんな時間だ。もう出なくては電車に遅れる。私は家を出た。 

ちょうど途中の駅まで電車がすぎたころだった。猛烈な腹の痛さが襲ってきた。 
もうこの世のものとは思えないほどの痛みだった。痛すぎる。 
駄目だ、この電車は特急だからあと20分は止まらない。やばい、これはもたない。 
となりのやつらがえらく幸せそうに見えた。ふざけるな。何で俺ばっかりこんな目に。 
だんだん脂汗が出てきた。神様すいませんでしたもう悪いことはしません。 
考えれば便所に行きたくなったら行きたい時に行って大をする。こんな当たり前のことが 
とてつもない幸せだったのだ。そうだ、そうなのだ。 
そのときになって苦しんでも遅いのだ。なんて私は鈍感な男だったんだ…。 
神様、これからは幸せをかみ締めながら大をします。大をしたならば 
必ず「ふぅー今日も大ができました。私は幸せでした」と唱えながらしますから。 

結局なんとか、トイレには間に合った。 

私は変なせきをして大好きなタバコを2本いつもより余計に味わって吸った。 
なにやら喉がイガイガするが「ああなんて上手いんだ。何気ないことがこんなに幸せだったんだ」 
そういいながら吸い終わったタバコを2本道端にポイ捨てして、歩き出した。 

88 :創る名無しに見る名無し:2010/10/08(金) 09:16:51 ID:/0JhTlUO
            『美女と野獣』 

暑い。しかし、暑い。外は35度を超えている。 
仕事帰りに拾った財布を交番に届けて帰って来た所だった。 
「普通100万も入った分厚い財布落とさないだろまったく…」 
お巡りさんにはこんなの届けるなんて 
あんた今時の若者にしては珍しいなと言われたが 
何が珍しいのか分からなかった。 

テレビをつけると、今日から始まる月9のドラマが始まっていた。 
ジャニーズ事務所の売れっ子超イケ面俳優と超美人女優の恋愛ものだ。 
おそらく視聴率は軒並み30%超えだろう。 
しばらくドラマを見ていると耳元で夏にはおなじみの嫌な羽音が聞こえてきた。 
私の血を吸おうとしている。「しょうがないなぁ… どうだ旨いか?俺の血は」 
たっぷり吸わせてやり、手で叩くのは可哀相だから窓から逃がしてやった。 
窓に誘導するのに10分近くかかってしまった。 

汗だくになった顔を洗おうと洗面所の前に立った。 
「しかし不細工だなぁ俺は。もうちょっとましな顔だったらもてたのになぁ」 
その時だった。誰かに後頭部をハンマーで打ち抜かれたような衝撃とともに 
私は意識を失った。数分で意識を取り戻したが、どこか悪いのだろうか。 

翌日何事もなかったように会社に行くために電車に乗った。 
なぜか今日は自分を見る周りの視線が多い気がする。特に女性からの。 
ふと女子高生の会話が耳に飛び込んできた。 
「てか見た?ゲツク。主役不細工すぎじゃない?ヒロインもやばいでしょあの顔は」 
『わかるわかる。あれはおかしい。もっと美男美女使うべきよ』 
この子たちは美的感覚がおかしいのか? 

会社に着き、午前中の仕事を滞りなく終え昼休みに入った私の前に行列ができた。 
「これ食べてください。」 『お返しはいらないです…』  
今日はバレンタインだった。だがおかしい。おかしすぎる。 
私は生まれてこの方チョコレートをもらったことなんてない。 
周りを見ると毎年山のようにチョコレートをもらう同期のNには誰もあげていない。 
天地がひっくり返ったとしか思えない。 

…そ、そうか天地がひっくり返ったのだ。 
あの瞬間以来 世間の価値観がひっくり返ったのかもしれない。 
つまり「イケ面は不細工に見え、美人はブスに見える。」 
=俺はめちゃめちゃイケ面 ということになる。 

そして美人がブスに見えるということは…誰も美人に見向きもしなくなる! 

私はあこがれの超美人のMさんに告白し、成功。やがて結婚することになった。 
同僚、家族口々に皆こう言った。 
「こんな美人な嫁さんもらうなんてお前は幸せだな」 
【絵に書いたような美男美女カップル】周りはみんなそう言った。 
本当にその通りだ。本来不細工な俺がこんなに美人な奥さんを… 
あれ?Mさんは新しい価値観ではブスなはずだが…まぁそんなことはどうでもいい。 
やっぱり新しい価値観では私はイケ面なのだろう。 
Mさんは「あなたは本当にいい男ね」と言う。 

3年後のある日、洗面所に立つとまた後頭部を殴られたような衝撃とともに私は意識を失った。 
それ以来あれほど人気があった私には、誰も振り向かなくなった。 
イケ面イケ面ともてはやされることも全くなくなってしまった。 
そしていつしか私達夫婦は【世界有数の美女と野獣カップル】と呼ばれるようになった。 

一つだけ変わらないことがあった。 
それはMがいまだに私を「いい男」だと言っていることだ。 

             おわり。 

文章書くのムズ杉ワロタ・・・ 

93 :創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 09:59:26 ID:otgtLBRR
   『卒アルカメラマン』 

夕方、中学時代からの親友Nが家に遊びに来た。 
こいつとは何をするときも一緒だった。完全に腐れ縁だ。 
中学を卒業してもう何年が経つだろう。二人とも年を食った。 
ふと中学時代のアルバムを久しぶりに見てみようということになった。 
何もかも懐かしい。一枚一枚が記憶の片隅にあった風景を呼び覚ました。 
「懐かしいなぁ。しかし、卒業アルバムってのは運動会とか修学旅行とか 
 イベントの写真も多いけど授業中とか休み時間とか何気ない日常を取ってるのがいいな。 
 しかも取られてる側がカメラマンを意識してないからすごくいい写真が取れてる」 

『いや、実際バリバリに意識してたけどなー。でみんなカメラマンの方向に目向けちゃって 
 普通でいられなくなってんの。そんで見かねたカメラマンが 
 あー…私はいないものと思って普通にしててね 
 私目に入るとさ、いい写真とれないからさ、って』 

「そういやそうだったな。おーこれも懐かしい。昨日のことのように覚えてるなぁ。 
 こう考えると人生ってあっという間かもな。」 

『うーん、なんだかさみしいな。死ぬ時に神様が人生の卒業アルバムみたいなの 
 くれたらいいのにな。』 

こんな会話を交わしているうちに私はある一つの事実に気がついた。 
過去の記憶がふと思い出される時、なぜか決まって思い出されるのは毎回同じような場面が多いこと、 
そしてそれはなぜこんなことを覚えているのだろうというような、取り立てて特に印象深いことも起こらない 
本当に些細な日常の場面が多いことに。まるでだれかがその些細な日常の場面でシャッターを押しているかのように。 

「きっと、神様が卒アルカメラマンを派遣してんじゃない? 
 死ぬ時に見せるためにってさ。あーもうこんな時間だ、帰るわ」 

友人はおどけて帰っていった。 

外はすっかり暗くなってしまった。私は卒業アルバムを元の場所に戻し、 
部屋のカーテンを勢いよく引いた。 

その瞬間、カーテンを引く「シャーッ」という音と同じくらいのタイミングで 
かすかに【カシャッ】という音が聞こえた気がしたのだが、まぁ、気のせいだろう。 

【あー…私はいないものと思って普通にしててね 
 私目に入るとさ、いい写真とれないからさ】 

94 :創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 22:22:08 ID:d+ojtWDQ

前スレで例の薬を書いた人です。覚えてくれてると嬉しいんだぜ! 

 その部屋には、一人の男が一日中酒を飲んで過ごしていた。 
 とは言っても、今日は休日ではない。男はかなり前から会社には行っていなかった。 
 普通は、すぐにお金に困るはずだが、男はそうならなかった。 
 彼は鞄を持っていた。それは少し大きめでの色あせた、時代を感じさせる鞄だった。 

 もう一年ほど前になるだろうか。男がまだ会社にきちんと勤めていた頃。 
 彼はとても真面目な人物だった。真面目に働き、誤魔化しをしない。嫌がられている仕事を進んでやる。良い人の良い所ばかりを集めたような人物だった。 
 その人の良さが認められて、男は異例の昇進をした。もちろん、昇進してもきちんと働いた。 
 むしろ責任のある地位ということで、仕事にかける熱心さはさらに強くなった。 
 それからしばらくした頃である。男がベッドで寝ていると、夢の中で声を聞いた。 
「君は真面目でしっかりした人物だ。そんな君にちょっとしたプレゼントをあげよう」 
「あなたは一体……」 
「うむ。名乗っても分かるまいが、強いて言えばお前たちの言うところの神だ」 
「か、神様ですって」 
「そうだ。そしてプレゼントというのは、この鞄だ」 
「鞄ですか……」 
「もちろんただの鞄ではない。なんでも取り出せる鞄だ」 
「と、言うと」 
「欲しいと思ったものを思い浮かべながら手を入れると、なんでも出てくるのだ。忙しいお前さんにはちょうどいいだろう」 
「なんというすばらしい鞄でしょう」 
「うむ。ただし一つ注意してくれよ。その鞄は……」 
 その時、ベッドから転がり落ちて、男は目が覚めた。 
「なんだ、夢か。しかしあんな鞄が本当にあったら便利だろうな……」 
 しかし、男はそこで言葉を詰まらせた。 
 部屋の中で先ほど神様が言っていたらしい鞄があったのだ。 
「や、するとさっきのは本当のことだったのか」 
 彼はおそるおそる鞄に手を入れた。酒を思い浮かべながら。 
 最初は何もなかったはずの鞄に、手ごたえがあった。 
 引き抜いてみると、まさしく酒が出てきた。しかも、思い浮べた通りの高級品だった。 
 それを飲む。確かに本物だ。ということは、この鞄も本物ということになる。 
 かくして、男は会社に行かなくなった。 
 いつでも好きな物が好きなだけ手に入るのだ。働いてなんになる。 
「まさか遊んで暮らすのがこんなにおもしろいとはなあ。今まで忙しく働いてきたのがばからしくなってきたぞ」 
 最初こそ、同僚やら社長やらが男の家に訪ねてきたものの、彼が会社を辞めると言ってからは全く来なくなった。 
 もちろん鞄のことは誰にも言わなかったし、誰にも見せなかった。 
「そういえば神様が何か注意しようとしていたけど、なんのことだったのだろう。きっとこの鞄を自慢するなと言いたかったんだろう。誰も欲しいと言うに決まっている」 
 腹が空けば鞄からあらゆる料理を取りだして食べる。暇になれば鞄はあらゆる娯楽を提供してくれた。 
 まさに至れり尽くせりの生活だった。 
 今ではこの部屋に来るのは、部屋代を取りに来る大家くらいのものだった。そんなときも鞄からお金を出せばいい。 
 男は完全に働く気が失せていた。 
 そんな生活が続いていたある日。 
 ノックの音がした。今日は部屋代の日だったかなと思いながら、男は鞄からお金を取り出そうとした。 
 蓄えなどあるはずがない。いつでも何でも手に入るのだから。 
 しかし、紙は紙でも紙幣ではなく、ただの紙が一枚だけ出てきた。 
 よく見ると、このような文章が書かれていた。 
 毎度ながら、ご利用ありがとうございます。初使用から一年が経ちましたので、本日を決算日とさせていただきます。 
 あなたは支出と収入のバランスが悪く、すでに貯金は底をついております。 
 それでも使用されたため、多額の借金が発生しております。次回の使用は借金を片付けてから…… 
 そしてその下には、信じられない額の数字が書き込まれていた。 
「や、この鞄はなんでも無限に出せる鞄ではなく、神様の買い物道具だったのだな」 
 借金を返さないといけないからか、もはや鞄に手を入れても、何も出てこなかった。 

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