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***act.14                                「ふー、あんたにも苦手なものがあるのね。意外だったわ」 「フン」 エレは顔を背けると、席を立ちスタスタと歩いていってしまった。 (あーあ、あれは相当頭に来てるな。話しかけたら殺すオーラが出てるわよ) シアナはくすりと笑う。……いいことを聞いた。 これでこの先、エレをからかうタネが出来たと悪戯っ子のようにほくそえむ。 でもそれ以上に、奴の人間らしさが垣間見えたことが新鮮で。 それがなんだか――ほんの少しだけ、嬉しかった。 シアナも食事を済ませ、ウィナにご馳走様と告げると食堂を出る。 入り口付近で、誰かと肩がぶつかった。 「あ、ごめん――」 衝突した相手と顔が合う。 「これはこれは第三騎士隊のシアナ隊長ではありませんか」 大仰な仕草で一礼してみせると、その男――第二十四騎士隊隊長のファーガスは微笑する。 あまり話したことはないが、なんとなく、苦手意識を持っていた。 ねっとりと纏わり付くような喋り方、陰湿さを感じさせる性格、シアナとは正反対のタイプだ。 おまけに、よくない噂もしばしば聞かれる。訓練中の部下への暴力行為に賭博。 ただし一回も尻尾を掴ませたことがないので、罰を食らったことはない。何故隊長に収まっているのか不思議なくらいだった。 シアナは構えつつも、隊長の儀礼として挨拶をした。 「ファーガス……久しぶりね」 「ええ、全く。まあ私共は貴方様達のようなエリート集団と違って下級クラスですからね。 共闘することもなければ任務を共にすることもあってないようなものです……ヒヒ」 「……そうね」 遠まわしな嫌味には吐き気がする。付き合っている暇はない。軽く受け流すと、シアナはその場を足早に立ち去ろうとする。 その背に、ファーガスの言葉が注がれた。 「龍を倒したそうですねえ、シアナ隊長」 「……それが、何?」 後ろを顧みるシアナ。 ファーガスはニタニタと厭らしい笑みを張り付かせたまま、続けた。 「いやいや。立派なものです。龍を退治するなんて並大抵の騎士に出来ることじゃありませんからねえ。 聞けば隣国まで名声が轟いているという話。王も貴方様の活躍にさぞ喜ばれていることでしょう。 ……その一割の活躍でも私に出来たなら、と夢想してしまうほどに、ね」 「夢想?」 「ええ。夢想ですよ。私には到底無理なことですから。自分の身の丈より何倍もある龍を退けるなんて、ねえ。 で、何か秘密でもおありなんですか? 龍殺しをやすやすとやってのけるなんて、ほら、不思議じゃありませんか」 秘密。龍殺しの刻印の事はごく限られた者しか知らない。隊で知っているのは総長とエレ、リジュに第三騎士隊の者だけだ。 それも他言しないように言い含めてある。刻印は身に刻まれた呪いのようなもの。 忌まわしい証をほいほいと人に教える気もなかったし、信用出来ない人間に教えるなど尚更だ。 「私にその秘密をね、教えていただきたいんですよ」 こいつ、何故そんなことを気にする。 シアナの心に疑心が生まれた。訝しげなシアナの様子を感じ取り、ファーガスは手を摺り合わせる。 「あ、いやいや。変な理由じゃありません。私にも龍が倒せたらってねえ、そんなことを考えたものですから」 「教えた所で貴方に龍が倒せるようになるとは思えない……それに」 踵を返し、シアナは颯爽と立ち去る。ファーガスに背を向けながら言い放った。 「夢想しているうちは絶対に龍と渡り合えるようにはなれないわね。枕でも抱きしめて寝てれば?」 シアナが目の前から去ってしまうと、ファーガスは忌々しげに舌打ちし、壁を乱暴に殴りつけた。 憎しみの篭った瞳で、シアナが消えた方角を睨み付ける。 「……あのクソアマ。こっちがおだてりゃ調子に乗りやがって。今に見てろよ……なんか秘密があるはずなんだ。 何を隠してやがる。女ごときに龍が倒せるものか。俺がお前の秘密を暴いてやる。……ヒヒヒッ、ヒヒヒヒ」 ファーガスの狂笑が廊下に反響して、捩れていく。 ひとしきり気が済むまで笑うと、ふっと凍てついた表情を纏い、ファーガスは歩き出した。 男は仮面を被る。別の人格を張り付かせて、――彼は変貌した。 .

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