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&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[ファンタジーっぽい作品を創作するスレ]] > 1-375 炭鉱の朝} *炭鉱の朝 375 : ◆91wbDksrrE :2009/02/09(月) 00:23:11 ID:QgO6Ls1w  炭鉱の朝は早い。  地下に潜り、夜目が効くドワーフ達には夜だろうと昼だろうと関係なくとも、 掘り出した鉱物を運ぶにあたっては、ドワーフ達だけでは手に余る。そこは 人間や馬の手を、足を借りなければならない。  故に、炭鉱の朝は早いのだ。 「おお、マウナス、今日も取材か? 精が出るな」 「ええ、ご迷惑をおかけしますが……」 「迷惑だなんてとんでもないわい! ワシらの仕事を世間に伝えてもらえば、  ワシらの仕事はもっと楽になるんじゃからのう! グワッハッハ!」  誰も彼もが髭もじゃで、人間には一見して区別がつかないような似通った 顔をしているドワーフ達。その性格もまた、誰も彼も豪放で、遠慮がない。 私が挨拶をする度に誰も彼もバシバシと背中を叩きながら挨拶を返してくる のにも、もう流石に慣れた。……未だにちょっと痛くはあるが。  親方さん――セグムという名の、この現場における責任者であるドワーフは、 今日掘り進める予定となっている坑道の見取り図を眺めながら、髭を弄っている。  私は、そんな親方さんの姿を見ていて、ふと思い立った疑問を口にした。 「親方さん」 「ん、なんじゃ?」 「この仕事をするにあたって、甲斐みたいなものって、ありますか? 「おお、取材じゃの。はて、甲斐……やり甲斐か……そんな事、考えた事も  なかったの……はてさて……」  親方さんは、思案するような表情を見せた後、私に逆に尋ねた。 「時にマウナスよ、お主は何をやり甲斐として、こんな汗と土の匂いばかりの、  鉱山になぞやって来て、ワシらの生活を取材しとるんじゃ?」 「……それは……返答に困る質問ですね」  思わぬ反問だった。言われてみれば、私は一体何を成し遂げようと思って この地にやってきたのだろうか。そう命じられて、ではあるのだが……別にそれを 嫌と思った事は無い。という事は、私は何かこの仕事に甲斐を感じているという 事にはならないか。 「……うぅん」 「わからんか?」 「いえ、何となく、ですが……そういうのはありますよ」  ドワーフの生態、生活の様は、伝聞としては知識にある。書物に記されている のも、そういった伝聞と、ドワーフ自身の自己申告を下にした情報だ。  逆に言えば、だ……ドワーフの実態を具に調べ、それを事実として記した書物 は、今はまだこの世界に存在しないという事になる。  私が書こうとしているのは、その、まだこの世界に存在しない書物だ。それを 書き、残す事で、同時に私の名前も世界に遺る。 「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。こんな諺があるんですがね」 「なるほどのう。名を残す……お前さんのやりがいはそれか」 「多分、そうだと思います。今思いついたんですけど」 「ま、そんなもんは深くは考えんもんじゃからの。今思いついたという事は、  それがお前さんの真情かもしれんな」 「そうですね」  ニヤリと笑みを浮かべる親方さんに釣られて、私も笑った。 「では、親方さんの場合はどうなんでしょうか? 聞かせてもらえますか」 「ほほ、ワシの場合か……ま、ワシらの場合はな、そんな甲斐など、ありゃせんよ」 「……やり甲斐が、無い?」 「ワシらドワーフは、穴を掘って鉄を造り、それを打って作品を創る……それが  本能みたいなもんじゃからの。やり甲斐以前に、そうしていないと、生きとる  実感が無いわい」 「……なるほど」  種族的本能か……確かに、人とドワーフとは、種族自体が異なる。伝承に ある通りだとすれば、その生まれた所以も何もかも、種族ごとに違うのだ。  であるならば、当然本能の部分も異なって当然。人が本能的に衣食住を 求めるのと同じように、本能的に穴を掘り、本能的に鉄を打ち、本能的に 作品を創るのだとしても、何も不思議は無い。 「ありがとうございます、親方さん。また書に記す話が一つ増えましたよ」 「ほっほっほ、この程度お安い御用じゃ。さて、現場に出るとするかい。  今日は深く潜るからのう。鳥籠を忘れずに持っていくんじゃぞ」 「はい」  そういいながら、親方さんは鉢巻――東方の習慣で、額から落ちる汗が目に 入るのを防ぐ為にするものらしいと聞いた――を巻き、頬をはたくと、商売道具 であるつるはしをその肩に担いだ。  その姿に、私は何故か美を感じる。こういうのも、機能美と言うのだろうか。  持ち前の怪力と、休むことを知らない体力で、数人のドワーフによって掘り 出される鉱物の量は、同じ数の人間が五倍の時間かけて掘り出すのと等しい。  そうする為に生まれたからこそ、それがきる――ドワーフが鉱山で働く理由は、 やはりそういう事なのだろう。 「おい、何しとるマウナス。置いていくぞ」 「はい、今行きます!」  今日も一つ発見があった。まだまだ、私がここで見つけられることは多そうだ。                                             終わり #right(){&link_up()}
&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[ファンタジーっぽい作品を創作するスレ]] > [[スレ1>ファンタジーっぽいスレ 1 投下作品まとめページ]]> 1-375 炭鉱の朝} *炭鉱の朝 375 : ◆91wbDksrrE :2009/02/09(月) 00:23:11 ID:QgO6Ls1w  炭鉱の朝は早い。  地下に潜り、夜目が効くドワーフ達には夜だろうと昼だろうと関係なくとも、 掘り出した鉱物を運ぶにあたっては、ドワーフ達だけでは手に余る。そこは 人間や馬の手を、足を借りなければならない。  故に、炭鉱の朝は早いのだ。 「おお、マウナス、今日も取材か? 精が出るな」 「ええ、ご迷惑をおかけしますが……」 「迷惑だなんてとんでもないわい! ワシらの仕事を世間に伝えてもらえば、  ワシらの仕事はもっと楽になるんじゃからのう! グワッハッハ!」  誰も彼もが髭もじゃで、人間には一見して区別がつかないような似通った 顔をしているドワーフ達。その性格もまた、誰も彼も豪放で、遠慮がない。 私が挨拶をする度に誰も彼もバシバシと背中を叩きながら挨拶を返してくる のにも、もう流石に慣れた。……未だにちょっと痛くはあるが。  親方さん――セグムという名の、この現場における責任者であるドワーフは、 今日掘り進める予定となっている坑道の見取り図を眺めながら、髭を弄っている。  私は、そんな親方さんの姿を見ていて、ふと思い立った疑問を口にした。 「親方さん」 「ん、なんじゃ?」 「この仕事をするにあたって、甲斐みたいなものって、ありますか? 「おお、取材じゃの。はて、甲斐……やり甲斐か……そんな事、考えた事も  なかったの……はてさて……」  親方さんは、思案するような表情を見せた後、私に逆に尋ねた。 「時にマウナスよ、お主は何をやり甲斐として、こんな汗と土の匂いばかりの、  鉱山になぞやって来て、ワシらの生活を取材しとるんじゃ?」 「……それは……返答に困る質問ですね」  思わぬ反問だった。言われてみれば、私は一体何を成し遂げようと思って この地にやってきたのだろうか。そう命じられて、ではあるのだが……別にそれを 嫌と思った事は無い。という事は、私は何かこの仕事に甲斐を感じているという 事にはならないか。 「……うぅん」 「わからんか?」 「いえ、何となく、ですが……そういうのはありますよ」  ドワーフの生態、生活の様は、伝聞としては知識にある。書物に記されている のも、そういった伝聞と、ドワーフ自身の自己申告を下にした情報だ。  逆に言えば、だ……ドワーフの実態を具に調べ、それを事実として記した書物 は、今はまだこの世界に存在しないという事になる。  私が書こうとしているのは、その、まだこの世界に存在しない書物だ。それを 書き、残す事で、同時に私の名前も世界に遺る。 「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。こんな諺があるんですがね」 「なるほどのう。名を残す……お前さんのやりがいはそれか」 「多分、そうだと思います。今思いついたんですけど」 「ま、そんなもんは深くは考えんもんじゃからの。今思いついたという事は、  それがお前さんの真情かもしれんな」 「そうですね」  ニヤリと笑みを浮かべる親方さんに釣られて、私も笑った。 「では、親方さんの場合はどうなんでしょうか? 聞かせてもらえますか」 「ほほ、ワシの場合か……ま、ワシらの場合はな、そんな甲斐など、ありゃせんよ」 「……やり甲斐が、無い?」 「ワシらドワーフは、穴を掘って鉄を造り、それを打って作品を創る……それが  本能みたいなもんじゃからの。やり甲斐以前に、そうしていないと、生きとる  実感が無いわい」 「……なるほど」  種族的本能か……確かに、人とドワーフとは、種族自体が異なる。伝承に ある通りだとすれば、その生まれた所以も何もかも、種族ごとに違うのだ。  であるならば、当然本能の部分も異なって当然。人が本能的に衣食住を 求めるのと同じように、本能的に穴を掘り、本能的に鉄を打ち、本能的に 作品を創るのだとしても、何も不思議は無い。 「ありがとうございます、親方さん。また書に記す話が一つ増えましたよ」 「ほっほっほ、この程度お安い御用じゃ。さて、現場に出るとするかい。  今日は深く潜るからのう。鳥籠を忘れずに持っていくんじゃぞ」 「はい」  そういいながら、親方さんは鉢巻――東方の習慣で、額から落ちる汗が目に 入るのを防ぐ為にするものらしいと聞いた――を巻き、頬をはたくと、商売道具 であるつるはしをその肩に担いだ。  その姿に、私は何故か美を感じる。こういうのも、機能美と言うのだろうか。  持ち前の怪力と、休むことを知らない体力で、数人のドワーフによって掘り 出される鉱物の量は、同じ数の人間が五倍の時間かけて掘り出すのと等しい。  そうする為に生まれたからこそ、それがきる――ドワーフが鉱山で働く理由は、 やはりそういう事なのだろう。 「おい、何しとるマウナス。置いていくぞ」 「はい、今行きます!」  今日も一つ発見があった。まだまだ、私がここで見つけられることは多そうだ。                                             終わり #right(){&link_up()}

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