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キャラスレバックヤード。花より魔王

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eroticman

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キャラスレバックヤード。花より魔王

投稿日時:2011/04/13(水) 15:31:29


 ちょっぴり風が強かった。今日ばかりはお天道様も空気を読んで春風を控えめにしてくれたのか、そよ風程度の優しい春風。すかっとした空に雲がぽんぽんと浮かんでいる。
 そんな空の下に映えるのは、日本人なら誰もが愛するピンクの景色。

「うわー。花びら凄い舞ってる」
「ちょうど満開手前ですー」

 ここは不思議な世界の狭間。
 季節は春。
 世界の狭間の桜並木を前にして、いつものダラダラ四人組とおまけの連中。
 辺り一面ピンクの花びらが舞っている。決して桃花が散った訳では無く桜の花である。
 外の世界が春ならば、この世界も春になる。外の世界での年中行事があれば、この世界でも行われる。
 春。桜。
 これに日本人が行う行事と言えば当然。

「お花見よねー」
「ですー」

 と、日本人どころかそもそも人じゃない女神二人組。

「酒じゃー!」
「飲みすぎないでよ」

 と、どう見ても日本人の姉妹一組。

「くんかくんかくんかくんか……。土の匂いくんかくんか……」

 本能丸出しの化け狐一匹。
 ひらりひらりと花びら一枚落ちてきて、化け狐の目の前をすーっと横切る。それを追って走るバカ……じゃない化け狐。さらに追う桃花。
 それをしり目にさっさとブルーシートを広げる発子にお手製のお重の風呂敷を開くひなの。何故かひなのが料理する人担当になりつつあるが仕方ない。発子公認の腕前なのだから。
 すでに手伝う気が無い彼方は草むらの上にお構いなしに寝そべって、なぜか持参の鉢植えとにらめっこ。
 それぞれ思うままにグダグダした後、ブルーシートの上に酒と肴が広げられて、宴会の準備完了。
 この手の集まりの際の主催はいつもの通り発子である。

「はーい。というわけで後発組のお花見はじめまーす!」

 その一声と同時にひなのは紙コップを四つと深皿の紙皿五つ。一つ多いのはバカ狐用である。
 彼方が体についた草を払ってシートの上に座り、遠くから狐を抱えた桃花が軽く息を切らしながらやってくる。

「もう手間かけさせてこの子は!」
「土! 草! 虫! くんかくんか……」

 外でテンション上がりっ放しの悪世巣を抱きかかえてなだめつつ、シートの上に正座して座る桃花。すると悪世巣はごろりとひっくり返って手足を伸ばす。急所が集中するはずの腹部をお天道様にさらしてごろごろ。
 もうわけわからん精神状態。

「落ち着きなさいよ!」
「それは無理な相談だ」

 だそうです。
 ひなのが紙皿を手渡して、桃花はそれに日本酒を注ぐ。ちなみに悪世巣用にお浄めしたお神酒である。
 一応の補足を入れると、悪世巣というバカ狐は元ネタは偉い神様。神社でお馴染みお稲荷さん。お神酒は当然お供えとして慣れ親しんでいる。

「くんかくんかくんかくんか……」
「いい子にする?」
「お神酒! お神酒!」
「まだダメ」
「えー」
「おあずけ!」
「なぜイジワルする?」
「ちゃんとおとなしく座ってる?」
「せっかくの外なのに」
「油揚げもあるけどあげないぞ」
「そんな殺生な」
「じゃ、言う事聞きなさい」
「……うん」
「いい子にしますか?」
「うん」
「じゃ、よし」
「なんか犬になりかけている気もするが大丈夫か?」
「イヌ科じゃない」
「そーだけど」

 心なし納得がいかない様子ではあるが目の前の食い物優先とばかりにお神酒をぺろぺろ舐めだす。
 とりあえずおとなしくはなってくれる。
 紙コップを手にして飲み物を注いで、発子を見る。
 ようやく乾杯の音頭である。

「はーい! かんぱぁーい!」

 それに続きそれぞれ「かんぱい」と続いて、ぐいっと紙コップの中身を飲み干す。
 ちなみに桃花は年齢制限があるのでお茶である。ひなのは今のところ年齢不詳だが飲んでる描写も無かったのでとりあえず桃花と同じくお茶。
 彼方と発子はそうではない。
 二人とも缶を持っている。ビール、ならいいが、残念ながら庶民派の発子はそんなの用意してこない。第三のビールと呼ばれるその他醸造酒をぐびぐび喉を鳴らして飲み下す。
 一気に半分ほど缶の量を減らしていう言葉は世界を飛び越え共通の一言。

「ぷはーッ」
「姉さんなんでPV系の安物なんですかー」
「あたりまえじゃない! 安いのよ!? 安いのよ!?」
「知ってますー。一缶百円もザラですー」
「それにね、最近は結構出来がいいじゃない! 昔は『どーせPVだろ、プ』くらいだったのが今じゃいっぱしの売れ筋商品なのよ!?」
「なんでそんな事知ってるんですかー」
「バイト先の近くのスーパーに視察に行ったらいっぱいあったから」
「バイト先のライバルに貢献してきたんですかー」
「だってね! 消費者としてはやっぱりお値段って重要よね。だとしたらさ、コンビニってやっぱり高いのよ! 補充も弱いし!」
「女神じゃなく一般の人視点ですー」
「いいじゃない! どうせ安アパート暮らしの時点でかなり庶民だし!」

 彼女はいきなりテンション高いが酔っているわけではない。これが素である。しかしながら甘酒で酔うほどの発子。アルコールは次第に彼女の思考を蝕んでいくのだ。
 ちなみにウィスキーボンボンでべろべろになったのは割と最近の話である。バレンタインデーだったかの。

「……というわけでね、やはりコンビニってのはスーパーに無い強みがたくさんあるから生き残ってるのだと思うの!」
「なんの話ですかー」
「こないだ佐藤さんと話てたらホットコーナーの話になってー、やっぱファミチキ一番だなーとか一回Lチキに浮気したけどやっぱこっちだなーとか」
「好きな食べ物の話になってますー」
「そう! それよ! 好きな食べ物! ファミチキという設定! そういえば日村が好きって事ほとんどイジられてないじゃない!」
「誤爆が拾われたきりですねー」
「ほとんどの人に忘れられてるのよ! 貴重なネタが一個忘却の彼方に行ってしまうところよ!」
「人形持ってるくらいですからねー姉さん」
「それよそれ! あのやたらリアルな日村人形! wiki見直すまでまったく存在忘れてたりしてたらら!」
「メタ発言にも程がありますー」
「だからね、私はもっと掘り起こせるネタがいっぱい埋まってるって事なのよ! 例えば今平気でお酒飲んでるけど当時は十五、六歳に見える、って話だったじゃ……ゲプッ……じゃない!」
「合間にキタナイ音はさまないでくださいー」
「宣言させていただく! 私はもっともっと可能性があるはずだと!」
「承知してますー」
「そうよ! 投票だって常に二位をキープしてるし、いつかあの魔王にだって……バタッ」
「テンプレな酔いつぶれ乙ですー」

 テンプレかどうかはさておいて、発子はばたっと倒れて寝息を立て始める。
 頬をほんのり紅潮させて幸せそうにぐーぐー眠る。甘酒で酔う奴がまともに酒をかっ食らうとこうなるらしい。急性アルコール中毒にならないだけまだマシである。
 着ていたドテラがはだけていたので、ひなのはそれを正しくしてやる。
 あとは枕代わりに手持ちのバッグを頭の下に置いてやり、あとは見守るだけ。こういう時はほっとくのが一番なのだ。

「起こすのも忍びないですしねー」

 そう言わしめる程に、安らかに眠る発子。

「……発子っていうな~……」

 今更手遅れだ。

「ですよねー」
「うにゃ~……」





 ※ ※ ※




「寝ちゃった?」
「みたいね」

 と、無限姉妹。
 発子の演説から潰れるまでを観察し、まぁいつもの事だといった感じでひなのお手製のお重に手を伸ばす。
 毎回グダグダな集まりなのでこの程度は気にも留めない様子だった。
 桃花はから揚げを悪世巣にあげながらまったりお茶を飲み、時折おにぎりをもぐもぐ頬張る。中身は焼きたらこ。もちろん焼いたのはひなの。

「おにぎりおいしい」
「から揚げも」

 そう評する。
 過去に地獄鍋を二回ほど創造したひなのだが、それもちゃんとした料理の腕前があるという前提のもとに成り立つのだ。かつて発子自身をして「ひなのは料理が上手」と言っている。その時、発子はなぜかとろろまみれにされたのだが、それはどうでもいい話。
 お花見らしく行楽弁当そのものという内容だったが、しっかりお重に納めてくるあたりこだわりが見て取れる。

「から揚げおいしいですかー?」
「うん」
「うまいうまい」
「そうですかー。でもそれ獣羽鶏の肉なんですよねー?」
「ブー!!!!!!!!!!」
「ゲロゲロォ!!!!!」
「ウソですー」
「ウソかい!」
「なんでウソついたの!?」
「ちょっとした茶目っ気ですー」
「ホントか……? 他のも怪しく思えてきた」
「大丈夫ですー。うぱ以外は普通ですー」
「うぱは大丈夫」
「うん。うぱならイケる」

 あわれうぱ太郎。ここでも基本的に食われる。
 実際にうぱを食ったかは別として、そのほかは怪しい物は見受けられないから大丈夫だろうという事で納得した桃花と彼方。なによりひなの自身がバクバク食うので問題なさそうに思ったらしい。
 ふと、桃花は彼方の横にある物体に目をやる。
 来た時から何やら大事に抱えていた小さな鉢植え。
 しきりにそれを指で撫でたり、にこにこ語りかけたり。意味は解らないが可愛がっている、と言った感じだ。

「なにそれ?」
「何って、鉢植えじゃない」
「いや、それはわかるけどさ、なんでお花見に鉢植え?」
「かわいいから」
「かわいい?」
「姉さんとかは悪世巣居るでしょ? はっちゃんは謎太郎とか居るでしょ。私も何かペット飼おうと」
「私のはペットじゃないけど……」
「うちは発子う類もいますー」
「そんでね。なんか居ないかなーとか思ってたら、ちょうどいいのが居たのよ。あんまり手間もかからないし」
「それが鉢植え?」
「まさかと思いますがー……?」
「ねー? 花園ー」
「やっぱりか」

 彼方の手の中の鉢植え。そこに咲く花は大昔に存在したおもちゃのごとくくねくね動いていた。
 率直な感想はというと。

「きもい!」
「な……! きもいって何よきもいって!? 化け狐より扱いやすいわよ!?」
「動かないだけじゃん!」
「そーだけど! でも発子う類よりキモさはかなり下だと思うけど!?」
「姉さんは発子う類をかわいいかわいいと言ってますー」
「女神の超感覚と私は違うの! とにかくよく見て見なさいよ! かわいいから!」

 そう言われて、鉢植えを覗き込む二人。
 くねくね動く一本咲の花一輪。花の中心には心なしか人の顔っぽいものが浮かび、かすかに異音を発しつつくねくね。

「きめぇ!」
「改めて言うなよ! 慣れの問題だって!」
「こんなのに慣れないでよ! ていうかいつからコイツを!?」
「結構前」
「てことは結構前からコイツと寝泊りしてたって事だよね!? さぶイボ出てきた……」
「そんな嫌がらないでよ。『キモかわいい』って単語もあるじゃない」
「『かわいい』が完全に欠落してるじゃない!」

 言われ放題の花園である。
 ちなみに花園寄生とは便宜上の名前で正確には「花の寄生」だ。花園が丸ごと寄生になったら数の暴力ここに極まれりな事態になる。
 そして、彼方のペット(?)について言い合っている二人をしり目に、桃花のペット(?)の悪世巣が鉢植えをじーと見ている。
 じーっと、だ。

「……」
「びちびち。びちびち」
「……」
「くねくね」
「……。はぐっ」
「ぼぎゃ」
「えっ」
「えっ」
「むしゃむしゃ」
「……ぐぎゃあああああ……」
「花うめぇ」
「は……花園ォぉぉぉおおオオ!!」

 状況を簡単に説明しよう。

 『悪世巣が花園を食べました』

 動物を飼ったことがある人ならば経験はないだろうか?
 鉢植えやプランターの草花をはぐはぐしている犬や猫。
 猫ですらたまに葉っぱを食べたりしている。

「いやあああああああ!」
「よくやった。なでなでしてあげよう」
「よ……よくやったって……! 吐き出せ! 吐き出せバカ狐!」
「いやだ。食物繊維が欲しい」
「だからってこの子食べるなよ!」
「大丈夫。根っこは残したからまた生えてくる」
「そういう問題じゃねぇだろバカー!」

 あえて言うが悪世巣に悪意は無い。目の前の栄養を動物的本能で摂取しただけである。
 だから大目に見てほしい。

 と、まぁこんな具合にいつもの様子の四人組。
 もはや桜などどこ吹く風でぎゃーぎゃー騒いでグダグダ楽しんでいるご様子。
 花より団子はどこでも同じ。最終的には涙目の彼方を桃花がから揚げで慰めて、悪世巣は土の上を駆け回る。
 ひなのは一人先に潰れた発子を気にしつつ、お重を食べて一人にこにこ。
 何も変わらないグダグダな、いつもの四人のありのまま。
 いつもいつも、変わらぬ姿だ。







 ※ ※ ※









「~~ん……」

 それが寝息から変わった時。彼女は思い切り伸びをして欠伸を出す。
 結構な時間同じ姿勢で寝ていたのだろうか、全身の関節からぽきぽき音が鳴る。
 がばっと起き上がり、寝ぼけ眼で周りを見る。
 一面の桜。
 降り積もる花びら。
 そして、すやすや眠る三人。

「あれぇ~?」

 発子はしばらくぼーっとして、今の状況を理解しようと試みる。
 出した結論は、花見に来て自分がさっさと酔いつぶれた事。そして、まわりの皆も眠ってしまい、一人先に目が覚めた事。
 そして、珍客が近くに来ている事。

「しょーがないなーみんなー」

 自分が言えた物ではないが、発子は三人を見てそう言った。
 おそらく彼方はよほど飲んだのか、周りに空き缶をまき散らしうつぶせで眠っていた。なぜか鉢植えがあるがそれが何かは解らない。
 桃花は丸まって、お腹に悪世巣を抱いて目を閉じている。よほど懐いているのか、桃花に抱かれて警戒心などまったく見受けられない様子の悪世巣。それを受け入れている桃花もなんだかんだで気に入ってるのだろう。
 そして、おそらく最後まで起きていたであろうひなの。
 三人残して一人帰るわけにもいかなかったのだろう。待ってる間に春の陽気にでもやられたか、最後には自分もすやすや眠ってしまったらしい。

「うーん……」

 発子は紙コップにお茶を注ぎ、寝起きの水代わりに一気飲み。
 ぬるくなっているがお構いなしだ。

「ふー」

 そして、ブルーシートの外へ一歩踏み出す。
 桜の花びらが舞う。
 また一歩。
 また舞う。
 着ていたいつものドテラは脱ぎ捨てて、かわりにひなのにかけておいた。
 また一歩踏み出す。
 光が放たれる。発子の体から。
 また一歩。
 いつもの緩い風貌は消える。目には悲しさと厳しさを持った、創発の女神のそれへと変貌していく。
 さらに一歩。
 足元の桜の花びらは、いつの間にか変化した荘厳なドレスの周りを飛び回る。
 H・クリーシェ。創発の女神。
 女神たるクリーシェは、そのまま歩き続ける。そして、ある桜の木の下までやってくる。


「いつまで見てる気?」

 言った。

「フフ。はやり気づかれたか」

 答えが返ってきた。

「あたりまえよ。緩いばかりが仕事じゃないもの」
「そうだったな」

 影が現れる。
 桜の木の陰から出てきたのは小さなシルエット。一見すると年端もいかぬ少女に過ぎない。
 だが、実態は別物。
 長い銀髪をたなびかせて現れたのは、創発の魔王こと、S・ハルトシュラー。
 クリーシェが感づいた珍客とはこの人物の事だ。

「ここに来るなんて珍しいわね」
「まったくだ。なんの気まぐれだか自分に問いかけたいくらいだ」
「で、私たちを観察してて何するつもりだったの?」
「お前たちが居たのは偶然だ。私は桜を見に来たのだ」
「へぇ」

 ハルトシュラーは隠れていた桜の木にそっと手を当てて、見上げる。
 上は桜色。クリーシェもつられて、上を見た。
 桜色の中に浮かぶ蒼と、銀。

「いいものだな」
「桜が?」
「ああ」
「意外な事言うものね。それで一人さびしく隠れて見てたの?」
「嫌味な奴め。まぁ、実際に一人で見ていたのだがな」
「なんなら私たちに加わればよかったのに。歓迎はしたわ」
「私がそうすると思うか?」
「いいえ、まったく」
「それに、私の目的は花見などではないのだからな」
「何をしてたの?」

 ハルトシュラーは並木を見通し、小さくため息をついてから答えた。

「簡単だ。桜だよ。あらゆる季節の、あらゆる景色を眺めてきたが、これはその中でも殊更美しい部類だろう」

「そうね」
「私はあらゆる物を創造出来る。どんな物でも、ありとあらゆる物をだ。だが、唯一出来ない事がある。それがこれだ。
 これらの基礎を創る事は出来るだろう。だが、これらの美しさは私の手の内にある限りは再現できない。成り行きのまま、見守る以外出来ない」

 小さく風が吹く。
 花びらが舞う。

「こればかりは敵わない。自然の物には太刀打ちできないものなのだよ」

 ハルトシュラーは微笑んで、クリーシェにそう言ったのだった。







【終わり】















「それはそうとクーラーボックスにマックスコーヒー入ってたけど?」
「……何?」




【おわり?】



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