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無限桃花~烏の爪は至高き~

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eroticman

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無限桃花~烏の爪は至高き~




「先輩!」

「早く行け理子!」

 黒丸の放った銃弾は計4発。至近距離からの銃撃を受けたはずの男は黒い影を纏ながら、まだ立っていた。

「ほほう?これが闇の天神の力を封じた鉄砲か。人もなかなか面白い事をする」

「いいからさっさと正体を現せ化け物。人目が気になってダメか?」

「ふはは、小僧が言いよるわ。よかろう。無限の天神の居場所を吐露するまで、たっぷりと遊んでやろう」

 猿参と名乗った寄生は、大猿へと変身する。茶色の毛皮に丸太のような腕。身長は3メートルを優に超える。
 黒丸達にしか見えない魔物はその巨大な口を開き、恐ろし牙を覗かせる。

「改めて名乗ろう。ワシの名は猿参寄生・石川猿鬼。闇の天神より無限桃花の抹殺の任を受けた者」

「そりゃご苦労な事だな」

 黒丸は言うと同時にミネベアの引き金を引く。対寄生のサブソニック弾とサプレッサーの組み合わせにより銃声は驚くほど小さい。
 しかし、放たれた銃弾は猿参の胴体にめり込んで行く。

「ふはははは!いくら闇の天神の力を込めたとて、その程度ではこそばゆいだけだ。ヤタガラスとは名前だけか?」

 解ってるさ。と、黒丸は心で言う。相手はただの寄生ではなく、新たに四天王に座している妖怪。それも、無限桃花の抹殺という直接的な役割を与えられている鬼だ。
 悪世巣ほどではないだろうが、それに準ずる格のはずだ。

 どう足掻こうと敵うはずは無い。持たせるしかない。この寄生の標的、無限桃花が来るまで。対抗しうる存在は彼女しか居ないのだから。
「急げよ理子‥‥」

 それは静かな祈りだった。



「ええい!小僧!逃げてばかりでは何にもならんぞ!」

 黒丸は走っていた。いくら一般人には見えない化け物相手とはいえビル街のど真ん中で戦う訳にはいかない。
 少しでも人目につかない、そして自分に有利な位置を取る必要があった。

 黒丸は立場上は民間人だが、レンジャーの資格を持っている。都市型戦闘訓練も自衛隊で受けた。体力ならば誰にも負けない。
 速度を緩める事なく走り続けた黒丸は、やがてビルの隙間へたどり着く。ここだ。一度ビルの影に入れば、同じ街とは思えないほど人気は失せる。
 ビルに挟まれた地形も黒丸にとっては有利だった。

「さて、コイツがどれほど通用するかな‥‥っと」

 黒丸は手の平に陣を画く。念じるとそれは無数に空中に現れ、そして壁や地面に規則正しく張り付いていき、その場所と同化した。
 そして、ようやく奴が追い付いたようだ。

「ふむ。ようやく立ち止まったか。ワシが追い付けぬとはなかなか鍛練を積んだようだな」

「まあな」

「しかし‥‥突然止まるとは、笑止。何か小賢しい策を仕込んだな?」

「ああ。したぜ」

 黒丸は平然と言い放った。猿参もその策など関係ないと行った様子で接近してくる。
 ここで持たせるしかない。黒丸はゆっくりと、懐に忍ばせたもうひとつの武器を出した。

「小僧、鬼ごっこの次は何をする気だ?それとももう辞めるか」

「そうだな。相撲ってのはどうだ?お猿さん」
「相撲?組み打ちの事か。ふはは、お前はおもったより愚かなようだ。」

 猿参は悠然と黒丸に歩み寄り、その轟腕を黒丸へ向け打ちだす。
 しかしその拳は空を切り、代わりに猿参の腕には一筋の斬り傷が出来た。そして、その傷からは黒い影が煙のように吹き出す。

「むう?その刃は?」

「これをさっきの弾丸と同じにするなよ。寄生数百匹を詰め込んだ俺のとっておきだ」

黒丸の手には、刃渡り20センチほどの短刀が握られていた。

 それは過去の『ヤタガラス』が作った、対寄生武器の中でも特別な物だった。
 銘もなく斬れ味も悪いが、寄生を斬る能力は、黒丸が持つ武器の中でも他に類を見ない。

「小癪な小僧だ。そのような小刀を持っていようとは。だが無駄な事。所詮は人の子。鬼神の力、思い知らせてやろうぞ」

 猿参の攻撃は激しさを増す。鼻先をかすめる拳は列車が通ったような威圧感すらある。実際、まともに受ければ人間である黒丸には耐えられないだろう。

 力任せの攻撃を見切るのは簡単だった。そのつど黒丸は短刀で猿参を斬る。しかし、ダメージは殆ど無い。
 その皮膚は岩のように硬く、せいぜいかすり傷だ。なにより、足りないのだ。寄生の力が。
 数百匹もの寄生を封じた剣ですら、四天王一匹には遠く及ばない。


 このままではじり貧だ。黒丸の集中力は限界に近づく。早くしなければ‥‥‥

「小僧!これほど戦い続けるとは驚いたぞ。しかしさすがに飽きてきたわ。そろそろ終わりとしよう」

 突如、猿参の攻撃は先程と打って変わる。
 人のように拳を振るっていたのが、地面に四本の脚で立ち、爪を覗かせた。

「なかなかだったぞ小僧よ。しかしワシも成すべき事がある。遊びは終わりだ」

 そして、猿参は跳び、頭から黒丸へぶつかって行く。黒丸は身を反したが、少しばかり遅かった。
 黒丸は木の葉のように舞い、コンクリートにたたき付けられる。

「ぐ‥‥‥このエテ公め‥‥‥」

「ふはは、組み打ちをしようと言ったのはお前だろう。しかし、一回で終わってしまったようだな」

 猿参は一歩一歩、黒丸へ歩み寄る。

「く‥くくく‥‥」

「何がおかしい小僧?気でも触れたか」

「いや、お前に吹き飛ばされたのが可笑しくてな」

「なんだと?ふはは、気が触れたのは冗談では無いらしい」

「勘違いするなよ化け物。吹っ飛ばされた事じゃなく吹っ飛ばされた場所が可笑しいのさ」

 黒丸が居る場所そのものに意味は無い。それに寄ってきた猿参の位置。それが重要だった。
「さて、俺の最後の攻撃だ」

 黒丸は九文を切り、一言「不動」と唱えた。すると辺り一面に陣が現れ、猿参がその中心に居た。

「なに?これは‥‥」

 そして、陣からは紫の炎が現れ、猿参を包む。

「これが『ヤタガラス』オリジナル。不動紫炎陣だ。炎の神、不動明王に焼かれるがいい」

「ぬあああぁぁ!おのれ小僧!」

「喚くなよ化け物。こっちはリアクションする余裕はないんでね」

 黒丸は猿参の一撃で、既に動けないほどダメージを受けていた。左肩と肋骨は折れているか。壁にたたき付けられた勢いで背中も痛む。

「限界だな。こりゃ病院送りか」

 黒丸は炎を見つめつぶやく。しばらく入院生活も悪くない。この際だからたっぷり休むか。
 しかし、それは一瞬の妄想で終わる。
 紫の炎から、茶色い毛皮の腕が伸び、黒丸の首を捕らえる。先程までの緩慢さは見られない。首を締め付ける手から伝わるのは、怒りだった。

「‥‥小僧ぉお!人と思って油断したわ!もしワシが鬼神でなければ消えていただろうが、そうは行かなかったな」

 黒丸の攻撃は破られた。やはり、寄生四天王は黒丸達では太刀打ち出来る相手ではなかった。

「もうお前に用は無いわ。無限桃花の居場所は先程の女に聞くとしよう。お前はワシの腹の足しにしてやろう。苦痛と共にな」

「そりゃ‥‥‥光栄‥‥‥だ‥ね」

「今に減らず口も叩けなくなる。さぁ、覚悟は良いか?」


 ここまでかと黒丸は思った。だが、黒丸の思いは予想外な形で裏切られた。稲妻だ。黒い稲妻が黒丸と猿参の周りを走っている。
 そして聞こえて来た

「爆ぜよ天!!!」

 黒い稲妻は黒丸を掴む猿参の腕を撃ち抜いた。肘から先が落ち、黒丸は魔物の手の中から解放された。

「桃‥‥花さん‥‥」

「遅くなってごめんなさい、黒丸さん」



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