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無限桃花~桃の上に雲叢がり~

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eroticman

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無限桃花~桃の上に雲叢がり~


 コンクリートで覆われた魔境。人ならざる魔物と、それに相対する黒い稲妻を操る少女。
 唯一の凡人である黒丸はそこで伏していた。 常に付けている胸元の無線から声が聞こえる。理子の声だ。

『先輩!聞こえますか先輩!何とか言って下さい!桃花さんそっちに着きましたか?せんぱ~い!』

「うるさいぞオバQ女。桃花さんは目の前だ。お前は?」

『あ!まだ生きてた!良かったぁ‥‥。私は指令室です。無線に付いてる発信機から先輩の位置を特定してケータイで桃花さんをそっちに誘導しました。間に合ってホント良かった‥‥‥』

「なるほどな‥‥‥助かったよ。ありがとう」
『お礼は桃花さんに言ってください』

「そうしよう」

 黒丸は桃花を見る。黒い長髪をポニーテールでまとめた少女は、この場面に限っては戦車隊より頼もしい。

「すみませんね桃花さん‥‥急に呼び立てて、しかも‥‥こんな色気の無い場所で‥‥‥」

「ムリに喋らないで下さい。すぐに救助が来ますから‥‥‥」

「桃花さん‥‥‥あの寄生の狙いは‥‥‥あなたです。申し訳ない。それでも桃花さんを呼ぶしか無かった‥‥‥」

「気にしないで下さい。黒丸さん」

「‥‥昌です」

「え?」

「私の名前は‥‥黒丸‥あ‥きら‥‥‥」

「黒丸さん!」

 黒丸は壁にもたれたまま頭を落とし、気を失った。寄生四天王との戦いはやはり凡人には無理があったのだろう。ここからの戦いは、もはや人が立ち入る領域ではない。

「お主が‥‥無限桃花か?」猿参は問う。

「そうだ」

「これはこれは‥‥わざわざ探さなくとも自ら出向くとは滑稽。ワシはお主の抹殺の命を受けし者。名は‥‥‥」

「お前の名前なんか興味ない」

 稲妻が走る。それは猿参はおろかコンクリートの外壁をも深々とえぐり、猿参は思わずたじろぐ。先程とはケタ違いの、恐るべき闇の天神と同質の力。
 かつて鬼神と呼ばれた猿参ですら、身構えるほか無かった。

210 名前:無限桃花~桃の上に雲叢がり~[] 投稿日:2010/02/12(金) 14:34:09 ID:Dk23ktpj
「ふむ‥‥闇の天神には遠く及ばぬが油断は禁物という事か。よかろう。ならばワシも婆盆の手土産、使わせてもらうぞ」

 猿参から影が伸びる。それは吹き飛んだ腕を形造り、元通り復元する。
 闇を纏った鬼は口から何かを吐き出した。唾液と胃液で濡れたそれは、古代の日本で使われたような両刃の長剣。

「ふはははは!見るがいい。これぞ日出る国に伝わる宝剣、天叢雲剣なり!!」

 神話の時代から存在する霊剣。それを誇り高く掲げる猿参。だが、桃花の興味は別の所にあった。

「お前今‥‥なんて言った?」

 桃花は目の色を変える。村正を包む布は影と消え、黒い刀身が鈍く光る。そして桃花の衣服は黒い袴へ、桃花の戦闘服へと変わって行く。
「婆盆って言ったな!」

 桃花の刃は一瞬で猿参の胸元へ飛び込む。間一髪でそれを避けた猿参は、宝剣で反撃を心見るが、神速の体術を修めた桃花には見切られるのみだった。
 稲妻を発しながら、桃花は攻勢を緩めない。無限流の剣術で振るわれる魔剣は、猿参を追い詰める。
 先程の黒丸など、桃花の戦闘能力と比べれば無きに等しいだろう。


「言え!奴は‥‥‥婆盆は何処に居る!!」

 怒り。それは桃花と、稲妻を発する村正の力を増して行く。猿参は焦った。影糾に、彼方に言われていた。天神が目覚める前に殺せと。
 もし無限の天神が彼方と同格ならば敵わない。自身の身体で覚えている。闇の天神の強さを。

「覇ッ!!!」

 猿参の頭上から村正は振り落とされた。またも回避されたが、それは地面を砕き地下への入口を造る。
 桃花と猿参は、真っ黒な地下世界へと落ちて行った。

「ここは‥‥‥!

「ほう‥‥?かような場所を造るとは、人もなかなか恐ろしいものだ。」


 巨大な地下空間。そこは東京都が建造した、とてつもなく広い治水施設だった。

「ぐはっ‥‥か‥‥‥」

 桃花は地面に打ち付けられる。地下空間の床から地上までは100メートル近くある。戦闘服で無ければ死んでいただろう。
 そして一緒に落下した猿参は、宝剣・天叢雲剣の切っ先を桃花へ向け立っていた。

「無限桃花よ。村正の力、見せてもらったぞ。なるほど、婆盆がこの宝剣を持たせた理由が解ったわ。たとえ真に目覚めずとも無限の天神。手心を加えては勝てぬ」

「婆盆‥‥!どこだ‥‥奴はどこだ!」

「ふはははは。先程からしつこい奴だ。知りたくば教えてやろう。奴はまだ闇の天神とともにこの都に居る。しかしもうすぐ旅立つだろう。かつて闇の天神が生み出した軍を蘇らせる為に」

「闇の天神‥‥影糾の事か‥‥」

「影糾?ふはは。そうだったな。闇に落ちし時自らをそう名乗ったのだった。かつては人の名を持っていたが‥‥転生した今の名は‥‥たしか無限彼方だったか。お主の妹だったな。」

「‥‥彼方‥‥!」





「嘘だっっ!!」

 桃花の稲妻は激しさを増す。村正は切っ先を向けた天叢雲剣を払い、桃花は猿参の懐へ飛び込んだ。

「嘘だ!!彼方が‥‥‥寄生されただと!」

「寄生だと?何も知らぬのか。闇の天神、影糾は誰にも憑いてはおらぬ。無限彼方、お主の妹こそまさに、『奴』がこの世へ転生し蘇った姿」

「嘘だ!!!」

 桃花から影が吹き出す。袴は漆黒のボロ着れへと代わり、村正は闇を讃える。まるであの時のように。

「ふはははは!そのいで立ち、まさに闇の天神と同質の力よ!しかし未だ完全ではないな!奴はもっと恐るべき力を秘めておったわ!」


 猿参は不敵な笑みを浮かべる。そして遂に、宝剣はその牙を剥く。
 突如見えない斬撃が、桃花を斬り付ける。その一撃で桃花は弾き飛ばされた。

「ぐ‥‥!これは‥‥‥!?

「ふはははは!もはやお主など敵では無いわ!」

 神話にかく在り。かつて山火事を一振りで薙ぎ払った伝説の剣。別名草薙剣。
 その威力は今、桃花へ向けられている。

「これは素晴らしい。さすがは神話に伝えられる剣。さて無限桃花よ。覚悟は出来ているか?」

 猿参は天叢雲剣を振るう。それは空を斬る音だけを残し、動きを止める。
 だが桃花は感じでいた。巨大な空気の壁が、自分へ向かって飛んでくる。その中へ混じった無数の見えない刃が、全てを斬り刻まんと乱舞している。

 再び桃花は弾かれる。戦闘服を纏うからこそ耐えられるが、そうでなければ既に無数の肉片だろう。
 ただ受けるだけで、桃花はダメージを受ける。

 猿参はその斬撃を振るい、さらにはその巨体を桃花へとぶつける。天叢雲剣だけでも脅威だが、猿参の肉弾攻撃もまた脅威だった。
 すでに見切ったとはいえ、宝剣との連携で繰り出されれば避けるのも容易ではない。

「んぎっ‥‥くそ‥」

「無限桃花よ、さすがにこの威力には敵わんか。ふはは。今止めを刺してやろう」

「彼方‥‥彼方‥‥!」

 桃花は言った。

「ふはははは!本当に何も知らなかったようだな。妹がまさかお前を殺すようワシを仕向けた事。未だ信じられぬか。動揺しておるのが手に取るように解るぞ!」

「‥‥嘘だ‥‥!取り消せ!」

「喚こうが真実は変わらぬ。もう死ね。無限桃花よ」

 桃花の纏う影は激しさを増す。同時に桃花の意識は薄れていく。
 だが、それはあの時とは違う。桃花の魂が、まるで外へ抜け出そうとしているようだった。
 桃花の意識はさらに薄れる。そして、影は人の形となり、桃花の手から村正をそっと取った。

 無限の天神が、現れた。



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