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F-1-643

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匿名ユーザー

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エーテルの嵐


643 :創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 22:54:15 ID:+yCgvXI/

設定的にまだ未完成な所が多いけど何時までたっても終わりそうにないからちょっと投下してみる

注意・この作品は某フリーゲームのローグライクゲームと、
商業製品のFPSゲームの世界観や用語・設定などをベース・拝借して
ファンタジー世界を構築しています


644 :創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 22:58:06 ID:+yCgvXI/

その国との国境である町の酒場のカウンター席に腰を下ろし、ウォトカ酒を傾けながら自分は歌姫の声に耳を傾けていた。
尖った耳と美しい白い肌を持つ人種、エレアの歌姫は彼女らの、生物の体を蝕むエーテルの嵐の吹き荒れる故郷の物語を旋律にのせて紡ぐ。
悲しげで哀愁の漂うその歌声に聴衆は心を奪われたように聞き入る。
行商人、荒くれ者、お尋ね者、貧乏人、山師、それらが集まるこの町の酒場では誰もがこの酒場に足を運び、歌姫の声を聴くという噂だった。

『クラースナエリェース、かつて輝く森と言われた我らエレアの故郷
悲しみの襲ったその日、エーテル嵐と怪物に襲われ醜く人の住めない赤い森と化した
空は夕日よりも鮮やかな血の色に染まり、大地は揺れ動き、エーテルが屋根や壁を吹き飛ばし、我らは逃げ惑った
そして我らは故郷を離れ、帰る家を持たない流浪の日々が始まった
我らに安住の地はなく、ただ祖先の棲んだ輝く森の美しい姿を思い起こすのみ
そしてわずかに残った我らの兄弟は、故郷を取り戻すべく今もあの森で戦い続けている…』

歌が終わり、聴衆の割れんばかりの大喝采がこだまする。
エレアの歌姫は賞賛の拍手に深々とお辞儀をして答えた。
それを見ながらカウンターに硬貨を置き、重い荷物を背負っているかのようにゆっくりと席を立つ。
確かに美しく、物悲しく、そして素晴らしい歌声だったが、悲壮感が演出的に過ぎる。
肌は包帯に覆われ、フードを目深に被って人目をはばかるように歩くこの体からすれば、悲喜劇を歌ったようにしか思えなかった。


酒場を出れば、通りを歩く人々は聴衆たちと同様の職業の人々に加え、乞食、難民、敗残の脱走兵、病人、老人などが多く目立つ。
みな、周辺の国々からその国を目指して集まってきたのだ。
町の中にある、大きな市壁と門をくぐれば国境を越えてあの国側に入ることが出来る。
その国は入国者を拒まない。 だが、その国を出るのは容易ではない。
その国側が特に禁止はしていないが、国境を接するこの国がそれを許さない。
エーテルの吹き荒れるその国に一歩でも足を踏み入れたならば、エーテルに汚染される。
エーテルに汚染されたものが持ち込まれれば、汚染されていないこの国にもエーテルの毒がばら撒かれる。
エーテルの毒は生物を蝕むのだ。 だが、それでもその国に入ろうとする人間は後を断たない。
自分もそのつもりで来たのだ。 動かない足を引きずり、時に這いずりながら。

門の前まで来ると、人の流れは二つに分かれる。
この国とその国の間で生産物を交換する貿易商の列と、入国を希望する者たちの列だ。
人は入って戻る事を許されないから、物品は別のゲートを通じて持ち運びされる。
この場所では物だけが取引・交換されるのだ。
もちろん、その国の産物はエーテルが外に漏れ出ないように厳重に封印を施された上でだ。
エーテルに汚染されていない物もあるが、それはそれで貴重品なので丁重に護衛つきで扱われる。
代わりに、その国では生産出来ない種類の食品や嗜好品が向こう側に代価として運び込まれる。
門を警備している両国の兵士と役人が仲介ブローカーという訳だ。

門をくぐるのに通行証は必要ない。
武器を携帯していようと、何を持ち込もうと検査すらされない。
あくまでも、入るのは自由なのだ。 出ることだけが許されない。
だが、エーテルの毒と怪物の跋扈する地獄の様なこの国に入るために門をくぐる人々の顔はむしろ安堵と希望が浮かんでいる。
エーテルの毒は生物を蝕み、恐ろしい病や奇形を発生させると言うが、誰もそれを恐れない。
自分もその一人だ。 そのためにここまでやって来たのだ。
列の一つ前を行く細身で肩幅の狭さから女性だとわかる、ローブを纏った人影がゴホゴホと咳き込む。
首だけ振り返ると一つ後ろを歩いているのはおそらく、包帯で顔を覆っている事かららい病の患者だ。
皆お仲間だ。 同じ目的のために、病身を押してその国に来たのだ。


門をくぐりおえれば、もうその国だ。
踏みしめる足の感触に何も変わりはない。
ただ景色だけが荒涼とした風景と、曇り空と、北へと続く長い道が、ついにこの国へ来たのだという事を告げた。
だが旅の終わりは歓喜や感動を沸き立たせるものではなかった。
北の空の方向が赤く染まり始め、にわかに地響きの様な音と、雷鳴が耳に届く。

「エーテル嵐だ!」

誰かが叫んだ。 門のこの国側の警備をしている兵士が、シェルターへの避難を促す。
しかし、みすぼらしい入国者達の群れは叫んで空に向かって両手を挙げたり、どこへとも付かぬ方向に走り出したりし始める。
兵士と、何人かの入国者たちが地下避難壕への扉を開け、または建物の中へと逃げ込む。

「ばかやろう、そんなに『変異』がしたいのか! 変異できたとしても、その前にエーテル汚染で死んじまうぞ!!」

風が強くなり始め、地面がさらに揺れる。 空がついに血の色の様な赤に染まった。
腹の底から響いてくる恐怖を覚え、さすがに自分も避難をしようとした次の瞬間、それはやって来た。
ゴウという凄まじい突風に押し倒され、地面に叩きつけられる。
耳の中でガリガリという音がして激しい眩暈に襲われた。 立つ事もままならない。
強い吐き気がするし、体中が熱風に晒されているかのような暑さを感じた。
誰かの叫び声が聞こえた。 視界の端に、さっき後ろにいたらい病患者が自分と同じように蹲っているのが見える。


いつまでそうしていたのだろうか…やがて風も地鳴りも収まり、空の色も灰色に戻っていた。
雷鳴は過ぎ去り、エーテル嵐は収まっていた。
地下のシェルターや建物の中から人々や兵士が顔を出し始める。
目の前でらい病患者が全身の包帯を取ると、その下からは美しい腕と顔が現われ、彼女は信じられないという表情をしていた。
自分の体にも変異が感じられた。
萎縮し貧弱だった腕や足はは引き締まり、鍛え上げられたかのように力に満ちていた。
素肌は鉄のように固く、刃物も通さないように思われた。
かすむ目は今ははっきりと物を写していた。

フードをとり、見違えたような自分の手の様子を見る。
その手で顔を触り、どこも爛れていないのを確認する。
エーテルは生物の体を蝕み、毒で汚染し、『変異』を起こさせる。
だがその全てが悪いものではない。 変異によって恩恵を受ける事もある。
事に病人、不治の病を抱えたものはその病気が治り、健常な体を手に入れることができるとも言われる。
そしてその変異を得た瞬間、これまでの苦難の旅と人生の全てが報われたと感じた。
しかし、幸福なことばかりはもたらさない。 変異には危険な代償も付きまとう。

「うあああああああぁ!! おごおおおおお!!」

くぐもった叫び声とともに周囲が騒然となる。
見れば、変異を起こしたらしい、ボロ布を纏った小柄な老人が口から液体を迸らせ、苦悶の表情で身をよじっている。
その両腕は膝の下までという異様な長さにまで伸び、指先からは人間のものとは思えない鋭利な爪が伸びていた。
これも、変異だ。 エーテル汚染による変異はその多くが人間や動物を怪物へと変える。
そうして怪物へと変わったものを、この国では「狩猟者」と呼んでいた。
その老人は不運にも変異の恩恵には授かれなかったようだ。
口から滴る液体は毒か酸であるのか、老人自体の体に降りかかって火傷の様な傷を負わせ続けている。


兵士達が号令一下、武器を構えて狩猟者と化した老人へと向ける。
乾いた破裂音とともに武器の先端から炎が噴出し、老人の体に見えない矢が突き刺さって穴を開けた。
流れ出す血とともに倒れ付す老人だった死骸。
静まり返る空気の中、人々の視線がその死骸へと向けられていた。

よく見れば、倒れているのは老人の死骸だけではなかった。
変異を起こしかけた途中でエーテルの毒に耐え切れずに死んでしまった者や、元の姿のままで事切れている者もいる。
その中には咳き込んでいた細身の女性の姿もあった。
自分と、老人や彼女らと分けたのは単なる幸運の結果でしかないと思い知る。
兵士たちはいつもの事であるかのように、それらの死骸を片付け始めた。
穴でも掘って埋めるのだろう。

「さあ、エーテルの嵐は過ぎ去った。 次に吹き荒れるだろう一月後までは、何の心配もない。
この地に足を踏み入れたからには、諸君らはこの国の国民だ。 好きなように暮らすがいい。
ようこそチェルヌヴィリヤへ、呪われた国へ! ここでの法は二つだけだ! 殺人者と盗人はその場で死刑、それだけだ!」

兵士達の隊長が、まだ呆然としている新たな国民達へと大声で告げる。
こうして、チェルヌヴィリヤ国での自分の新たな人生が始まった。

〈了〉

※続きは、2-014

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