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エーテルの嵐 2


14 :創る名無しに見る名無し:2010/07/27(火) 20:41:51 ID:Kasbv/La

次スレ立った記念に
前スレ》644-648の一年ぶりの続きを投下


15 :創る名無しに見る名無し:2010/07/27(火) 20:42:42 ID:Kasbv/La

国境の町、コルドーナを後にし真っ直ぐな道を北へと向かう。
できれば夜が来る前に一番近いローニャ村へと辿りつきたかった。
右を見ても左を見ても、寂寥とした景色だけが広がり、空は薄暗く太陽の光はあまり差さない。
入国者たちの群れも、三々五々と小さな集団ごと、あるいは一人で点々と道を歩いてゆく。
用を済ませた商人たちの馬車が、足早に追い抜いて自分や他の人々を追い抜いて行った。

馬車に乗せてもらおうとする者も居たが、商人たちはまるでそんな暇など無いもしくは時間を惜しむかのように冷たく通り過ぎてゆく。
高い金を払ってどうにか乗せてもらえるものも居たが、少数だ。
彼らは恐ろしいのだ。 この国を徘徊する獣、「狩猟者」たちが。
夜になれば狩猟者たちがうろつき回る危険な野を通行するのはリスクが大きい。
だから、少しでも明るいうちに街と街を移動する。 野宿などすれば、襲われて朝がたには骨すら残っていないだろう。

恐ろしいのは他にもいる。
野盗・強盗の類だ。 旅人を襲って金品を奪う悪党どもは、どこの国に行ってもかならず居る。
特にこの国は入国者の中にその手の犯罪者、お尋ね者が多く紛れている。
真っ当な生き方を出来ないもの達が悪事に手を染め、官憲の追捕を逃れるうちに最後にこの国に辿りつく。
理由は、この国は一度入ったら出られない代わりに、他国からの追っ手も入ってこられない事。
そして、それはこの国の官憲が、入国者が犯罪者だと気付いても、隣国に引き渡したり入国を拒否したりはしない事。
国内で悪事を働いた場合は、「殺人と盗人は死刑」とコルドーナで兵士が宣言した通り、厳しい刑罰が待っている。
だが、それはあくまで現行犯に限る。
例えば殺人を行っても、現場を見られて咎められなければ、それまでだ。
故に、悪党にとってはこれほど仕事のやりやすい国は無い。
その首にかけられた賞金の額が多い名のある犯罪者ほど、この国に逃げ込みたがるだろう。

そして、今まさに自分の前方でも、悪党どもの「仕事」が行われている最中だった。


「たっ助けて! 助けてください! どうか命だけは……!!」

明らかに自分と同じ入国者だとわかる一人の女性を、3人の男が手に凶器を携えて取り囲んでいた。
男たちはどう見ても、善人には見えない面つきをしている。
判りやすい光景だった。 入国したばかりでこの国の勝手がわからない人間は、強盗の餌食になりやすい。
この国の街道を、一人きりで武器も持たず歩くことがどんなに危険な事か、知らないからだ。
それを身を持って学んだ時には、既に死体になっている。
哀れなその女性……その顔には見覚えがあった。 コルドーナの町でエーテル嵐に遭遇した時に隣に居た、らい病の女だ。
せったく変異の恩恵を受けて不治の病から癒されたと思ったのに、運が無い。
不幸な犠牲者は、悪党どもの振り下ろした斧を体に受けて、悲痛な叫び声を上げながら自分の血の海の中に倒れた。

悪党どもが、離れた場所で見ていた自分に気付く。 次の獲物に見定めたのだろう。
いやらしい笑みを顔に浮かべながら、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
丁寧に、近づく度同時に三人で取り囲むような体勢をとり、逃がさないようにしている所を見ると、相当手馴れているようだ。
外套の下で自分は2本の大振りのナイフのうち1本を握る。
病を患ってから随分と使っていなかったが、今はエーテルの加護によって往時の肉体の力強さを取り戻している。
いや、前よりも逞しくなったような気もする。 数年のブランクは、大した枷にもならないだろう。

「運がなかったなあ、兄ちゃんよお……俺らも好きでこんな事やってるわけじゃねえんだがよ、ははっ」

何が面白いのか、三人の強盗の中の髭面の男が笑った。 手には血の滴る斧を持っている。
自分も、少し笑い返してやった。 特に面白い事があったわけではない。
人殺しが日常になり、殺した相手の身ぐるみを剥いで生活する事を当たり前になっても「笑える」ようでは、
「手馴れ」ては居ても、悪党としては大した手合いではない。
仕事に心の余裕を持ってしまってはダメだ。 それは油断を呼び、獲物を見分ける感覚や嗅覚を麻痺させる。

そんなこいつらが、「笑って」仕事をできる程度の小物でしかない事と、自分との対比が、何故か笑えたのだ。


小ばかにされた、と髭面の男もこちらの笑みでなんとなく気付いたのだろうか、急に不機嫌な顔になった。
苛立ちがよく判る。 自分が笑いながら、見下しながら、殺そうと思った相手から笑い返されるのは愉快じゃあるまい。
そして怒りは、動作を鈍らせる。 髭面が斧を振り上げる動きは、必要以上に大振りで、鈍間だった。
外套を跳ね上げ、神速の踏み込みと共に短剣を握っていた右手を素早く突き出す。
胸に対して水平に向けた切っ先は髭面の肋骨の隙間に上手く入り込み、肉を切り裂いて肺腑へと到達した。
斧を持った右腕を頭上に掲げたまま、髭面は何が起こったのかわからない、という表情をして硬直する。
後ろに居た二人の仲間も一瞬硬直し、すぐに事態に気付いてそれぞれの武器を振り上げ、襲い掛かってくる。
その動きは気配で知れていた。
一方的になぶり殺しにするとでも思っていた獲物に予想外の反撃を受け、強盗たちは明らかに動揺していた。
髭面から短剣を引き抜くと振り返りざまにもう一本の短剣を左腕で腰の鞘から引き抜き、後から剣で
切り付けようとしていた禿頭の男の攻撃を防ぐ。
短剣の刃と、長剣の刃が打ち合った瞬間、長剣の表面に霜が降り、刀身を伝って禿頭の男の腕までを白く覆った。
男が腕に走った痺れるような激痛に悲鳴を上げ、長剣を取り落とす。
その様子に、残る一人の強盗は困惑して抜き身の短刀を携えたまま、思わず攻撃の動作を止めた。

禿頭の男の腕は、凍傷になって皮膚が青紫色に変色していたのだ。
自分の左手に握る、こちらも大振りの短剣の表面が青白く輝き、冷気を発している。

「な、なんだそりゃあ……! アーティファクトで作られた武器か!? ま、まさか手前、氷剣のマクス……!?
そんな、そんなはずはねえ!! 氷剣のマクスは、3年前に腐人化病で死んだはずだ!!」

強盗のうちの最後の一人は、青ざめた顔で叫んだ。 明らかに脅えている。
自分が西方の国でその二つ名で呼ばれていた頃、悪党どもの一員だった頃の事を、彼は知っているようだ。
もっともその二つ名は、自分の力量や仕事の悪名よりも、この魔法を帯びた短剣によって知られるようになったものだが。
そして彼らにとって残念な事に、自分は、氷剣のマクスは生きていた。 病を患い、死人のようになっても生き延び、そしてこの国に来た。



「待ってくれ、あんたがマクスだってことは、知らなかったんだ。 知ってたらこんな事はしねえ!
た、助けてくれ! か、金なら、やる! 全部持って行っていいから、頼む、命だけは……!!」

どこかで聞いた様な命乞いの台詞を口にしながら、そいつは震える足で後ずさりをする。
ゆっくり歩いて近づきながら、凍て付いて動かない右腕を左腕で押さえながら膝を泥の中に突いて呻いている禿頭の男の喉を
すれ違いざまに短刀で切り裂いてやると、強盗の最後の一人は持っていた武器も投げすてて声にならない悲鳴を上げて背を見せ駆け出した。
その男を、自分が追う。 たいして面白くも無い行為だ。 何十回、何百回と繰り返した、「仕事」。
人殺しが日常になり、であった相手を殺して金品を奪う、既に飽きて何の感情も湧かなくなった行為。
そんな、感情の麻痺した自分を自嘲気味に笑う事はあっても、「楽しい」とは思えない。

だから、その男も走って追いついて、その背中から短剣で抉り、殺してやった。

三人分の財布と、武器と、衣服や靴など売って金に出来そうなものと、その他に食料や酒の瓶なんかを持っていれば
頂戴して荷物に纏め、早々にその場を立ち去る事にした。
死体は、明日になれば「狩猟者」が始末して形も残らないだろう。
歩き出す前に、ふと強盗どもに殺された哀れな女の死体に目を向ける。
病身を押してこの国にやってきて、エーテルの嵐に遭い、せっかく病が治りもとの美しい顔に戻る事が出来たというのに
たった数刻も経たず、この女は死んでしまった。
生きていれば、生まれ変わった姿でどんな人生を歩むつもりだったのだろうか。

哀れみを憶えはしても、別に埋葬してやる事も無い。 そもそも、助けもしなかった。
その女が服の袖から覗かせている綺麗な石の細工で作られた腕輪が目に入ったが、奪ったり盗む気にはなれなかった。
元々、自分が殺したわけでも無い死体から奪う習慣を俺は持たない。
わずかばかりの感傷だけを残し、日が落ちる前にその場を足早に去ることにした。

〈了〉

世界観と設定は組み上がったのに
登場人物と物語が上手くできなくて
どうしたものか困っています

とりあえず世界観の説明ができるような文章で書いていけたら良いのですが

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