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大は小を兼ねる 後篇
焚き火が爆ぜる音。
虫の鳴く音。
風の音。
半月は高く空に昇り、もうすっかり夜も更けた。
虫の鳴く音。
風の音。
半月は高く空に昇り、もうすっかり夜も更けた。
焚き火を囲むのは三者。
毘羯羅、天邪鬼、豆蔵。
安流は横になって眠っている。
毘羯羅、天邪鬼、豆蔵。
安流は横になって眠っている。
いろいろな話をした。
まずは豆蔵が安流にミサキを話す。
御伽 草子郎を知っているだけに、安流の理解は早かった。
そして、治癒の方法。
御伽 草子郎を知っているだけに、安流の理解は早かった。
そして、治癒の方法。
安流にとって、これがとても簡単だがとても難しい。
かぐやの魔装を用いれば一発で治る。
しかし。
それを用いる事を忌避する現在。
どうしたものか。
かぐやの魔装を用いれば一発で治る。
しかし。
それを用いる事を忌避する現在。
どうしたものか。
そして安流が語りはじめる。
かぐやと出会った事。
かぐやが死んだ事。
金時と出会った事。
人を殺した事。
かぐやと出会った事。
かぐやが死んだ事。
金時と出会った事。
人を殺した事。
高熱という体調不良なのを押して、訥々と安流は語ったのだ。
毘羯羅が何度かブレイクを入れようとしたが結局しゃべりきる。
朦朧とする意識の中。
しゃべらずにはいられなかったように。
毘羯羅が何度かブレイクを入れようとしたが結局しゃべりきる。
朦朧とする意識の中。
しゃべらずにはいられなかったように。
そのさなか、安流は何度も何度も感情を表に出した。
吐露した。
溢れたのだ。
せき止められないでいた。
吐露した。
溢れたのだ。
せき止められないでいた。
それは寺をなくした時の悲しさであったり。
かぐやと出会った時の衝撃であったり。
かぐやと別れた嘆きであったり。
金時と出会った時のやるせなさであったり。
人を殺した時の恐れであったり。
それからずっとつきまとう魔装への怖れであったり。
かぐやと出会った時の衝撃であったり。
かぐやと別れた嘆きであったり。
金時と出会った時のやるせなさであったり。
人を殺した時の恐れであったり。
それからずっとつきまとう魔装への怖れであったり。
「かぐや殿が兄弟を欲しいと話していた時、漠然と僕もそうだと思いました……
それから、龍の首の珠を使った後……
かぐや殿が兄弟を欲しいと言った心がやっと分かりました。
恐い。
恐いんですね……この魔装。
止めてくれる人、見てくれる人……となりに誰か、いて欲しく、なるんですね……」
それから、龍の首の珠を使った後……
かぐや殿が兄弟を欲しいと言った心がやっと分かりました。
恐い。
恐いんですね……この魔装。
止めてくれる人、見てくれる人……となりに誰か、いて欲しく、なるんですね……」
弱々しく、か細く、小さな声で安流は途切れ途切れに語った。
結局、しゃべれるだけしゃべって安流はダウンした。
天邪鬼が魔法で作った氷を額にのっけて眠ってから。
毘羯羅が次に語った。
結局、しゃべれるだけしゃべって安流はダウンした。
天邪鬼が魔法で作った氷を額にのっけて眠ってから。
毘羯羅が次に語った。
別に人間に友好的でもなんでもなかった頃。
だからと言って異形として何者かと連れ合うでもなく。
そんな一人旅の途中、ある人間の薬師に出会ったり。
その薬師に惹かれてついてったり。
人の道を説かれたり。
名前をもらったり。
薬師を慕って強い異形が集ったり。
集った異形で薬師の村を護ったり。
真達羅のせいでピンチになったり。
だからと言って異形として何者かと連れ合うでもなく。
そんな一人旅の途中、ある人間の薬師に出会ったり。
その薬師に惹かれてついてったり。
人の道を説かれたり。
名前をもらったり。
薬師を慕って強い異形が集ったり。
集った異形で薬師の村を護ったり。
真達羅のせいでピンチになったり。
「毘羯羅……とか真達羅とか、覚えにくいし言いにくいな」
「猪羅とか鳥羅とかでいいよ」
「ああ、そりゃ分かりやすい」
「猪羅とか鳥羅とかでいいよ」
「ああ、そりゃ分かりやすい」
桃太郎と出会ったり。
「まだ御伽 草子郎が生きていた頃のはずだな」
「豆蔵さんたちも、各地に派遣されていたんでしょう?」
「ああ、あっちこっち行ってた。もっとも拘束されて戦場まで運ばれて放り込まれてただけだけど」
「豆蔵さんたちも、各地に派遣されていたんでしょう?」
「ああ、あっちこっち行ってた。もっとも拘束されて戦場まで運ばれて放り込まれてただけだけど」
結局、薬師が殺されたり。
そのおかげで仲間の龍が暴れ狂ったり。
それを止めるまでに住人にも被害がいくらか出たり、村が壊滅したり。
新しく村を造っても龍が暴れた手前いずらくなって旅に出たり。
そのおかげで仲間の龍が暴れ狂ったり。
それを止めるまでに住人にも被害がいくらか出たり、村が壊滅したり。
新しく村を造っても龍が暴れた手前いずらくなって旅に出たり。
その旅すがらに天邪鬼に出会ったり。
「お前ら二人、まだ組んで日が浅いのか」
「もともと俺も、その薬師に命を救ってもらった事があってな。その縁だ」
「じゃっくん、割と顔広いんですよ」
「瓜坊は世間知らずだな」
「だからこうやって旅してるんじゃないですか!」
「もともと俺も、その薬師に命を救ってもらった事があってな。その縁だ」
「じゃっくん、割と顔広いんですよ」
「瓜坊は世間知らずだな」
「だからこうやって旅してるんじゃないですか!」
豆蔵が次に語った。
とは言え、生きている大半の時間。
施設に閉じこめられていた豆蔵である。
あまり話す事はなかった。
せいぜい、殺した、殺せなかった、殺された、殺されかけた。
こんな話ばかりだ。
とは言え、生きている大半の時間。
施設に閉じこめられていた豆蔵である。
あまり話す事はなかった。
せいぜい、殺した、殺せなかった、殺された、殺されかけた。
こんな話ばかりだ。
ただ、仲間の話を。
御伽 草子郎の被害者、被験者の話をする時。
いくらか安らかな表情であった。
御伽 草子郎の被害者、被験者の話をする時。
いくらか安らかな表情であった。
「桃太郎さんもその中の一人ですね」
「そうさ、まだ生きてる御伽 草子郎の被害者ん中じゃ一番古いんじゃないかな」
「他に、どんな方が?」
「牛若と鬼若ってのもいるな。牛若が小角の術に特化させられた奴で、鬼若は鉄を食う異形の遺伝子と人の遺伝子混ざって生まれた奴だ。牛若は今一緒にミサキを追ってる」
「え?」
「俺、牛若、すずめって三人で追いかけてるんだよ、ミサキを。だがお前らに会う前にすずめってのがちょっと痛手を負ってな。牛若が看病、俺が先行してんだよ」
「そうでしたか。仲間がいたんですね」
「御伽 草子郎が死んで……正直一人だったらしんどかっただろうがな、牛若、すずめがいてくれて助かってる」
「だから、安流さんのお話に出てきたかぐやさんも、兄弟を欲しがったのですね」
「ああ、かぐやの気持ちは分かる。よく分かる。しっかりと、つながりを俺も作りたいと今更気づいたよ」
「……すずめさんもまた、御伽の?」
「そうだ。こいつは体をいじられ、安部の魔法に特化させられた女の子だな。ただ、ちょっと障害が残っちまってな、しゃべれなくなっちまってんだ」
「そうさ、まだ生きてる御伽 草子郎の被害者ん中じゃ一番古いんじゃないかな」
「他に、どんな方が?」
「牛若と鬼若ってのもいるな。牛若が小角の術に特化させられた奴で、鬼若は鉄を食う異形の遺伝子と人の遺伝子混ざって生まれた奴だ。牛若は今一緒にミサキを追ってる」
「え?」
「俺、牛若、すずめって三人で追いかけてるんだよ、ミサキを。だがお前らに会う前にすずめってのがちょっと痛手を負ってな。牛若が看病、俺が先行してんだよ」
「そうでしたか。仲間がいたんですね」
「御伽 草子郎が死んで……正直一人だったらしんどかっただろうがな、牛若、すずめがいてくれて助かってる」
「だから、安流さんのお話に出てきたかぐやさんも、兄弟を欲しがったのですね」
「ああ、かぐやの気持ちは分かる。よく分かる。しっかりと、つながりを俺も作りたいと今更気づいたよ」
「……すずめさんもまた、御伽の?」
「そうだ。こいつは体をいじられ、安部の魔法に特化させられた女の子だな。ただ、ちょっと障害が残っちまってな、しゃべれなくなっちまってんだ」
毘羯羅が苦い顔をする。
しかしながら、御伽の手にかかったほとんどが死人廃人。
言葉を失うだけですんでマシだと考えるべきか。
しかしながら、御伽の手にかかったほとんどが死人廃人。
言葉を失うだけですんでマシだと考えるべきか。
「ついた二つ名は舌切りすずめ」
「悪趣味なネーミングですね」
「御伽 草子郎の墓の場所分かったら一緒に叩き壊しに行こうぜ」
「桃太郎さんも呼びましょうね」
「悪趣味なネーミングですね」
「御伽 草子郎の墓の場所分かったら一緒に叩き壊しに行こうぜ」
「桃太郎さんも呼びましょうね」
それから。
最後に、天邪鬼が語る雰囲気だったけど。
最後に、天邪鬼が語る雰囲気だったけど。
「もう夜遅い。寝ろ」
と、はぐらかされた。
もっとも、これが女の子集合の姦しパジャマパーティならまだしも、
割と血なまぐさいのも混じる昔話大会なので深く突っ込まずにみんな横になる。
もっとも、これが女の子集合の姦しパジャマパーティならまだしも、
割と血なまぐさいのも混じる昔話大会なので深く突っ込まずにみんな横になる。
横になってから。
「豆蔵」
天邪鬼が口を開く。
「どうした」
「お前はかぐやが兄弟を欲しいと言った心が分かると言ったな」
「お前はかぐやが兄弟を欲しいと言った心が分かると言ったな」
安流は寺を無くして兄弟を欲しく思った。
いや、兄弟でなくてもいい。
共に過ごす者をぼんやり夢見た。
いや、兄弟でなくてもいい。
共に過ごす者をぼんやり夢見た。
そしてかぐやの形見。
魔装に対する恐れから、となりに誰を欲しく思った。
魔装に対する恐れから、となりに誰を欲しく思った。
二度。
最初は寂しさから。
次は恐怖から。
最初は寂しさから。
次は恐怖から。
では、かぐやは?
「言ったよ」
「詳しく教えろ」
「……俺たちは、中途半端な化け物もどきだ。人外奇形の見た目の奴だっていた。
そいつらが、人の海にまぎれるのは難しい。だから、寄り添おうとしたんだろう」
「ではかぐやも異形の見目だったのか?」
「いや、美形だった。ぶっちゃけ、人の街でも暮らしていけたはずだ。ただ、かぐやは優しかったんだよ。
だから、俺たちが固まろる土台を作ろうとしたんだと思う。俺だって背格好が一向に変わらねぇんだ。ガキの見た目のままずっと変わらねぇ。多分、村で暮らしても気味悪がられるだけだ」
「……なるほどな」
「だがあの坊主はそういうわけじゃねぇ。かぐやの形見は俺が引き取るから、高熱さえ引けば後は普通に生きていけばいい」
「聞くかな。かぐやに随分執着していた」
「だが魔装を恐がってもいるからな。俺は丁度いい引き取り手だろう。ここが手放す機会だ」
「……どうかな」
「なんだ、手放さないって言うのか?」
「多分だがな……もっとも、あの坊主がやりたい事をも少し詰めて聞く必要がある」
「だから別に、兄弟でも家族でも、村で作ればいいだろう」
「そこだ」
「どこだよ」
「……明日、本人俺が本人に尋ねるさ。そこでな、豆蔵、お前に頼みたい事がある」
「なんだよ」
「ちょっとした芝居をしてくれ」
「詳しく教えろ」
「……俺たちは、中途半端な化け物もどきだ。人外奇形の見た目の奴だっていた。
そいつらが、人の海にまぎれるのは難しい。だから、寄り添おうとしたんだろう」
「ではかぐやも異形の見目だったのか?」
「いや、美形だった。ぶっちゃけ、人の街でも暮らしていけたはずだ。ただ、かぐやは優しかったんだよ。
だから、俺たちが固まろる土台を作ろうとしたんだと思う。俺だって背格好が一向に変わらねぇんだ。ガキの見た目のままずっと変わらねぇ。多分、村で暮らしても気味悪がられるだけだ」
「……なるほどな」
「だがあの坊主はそういうわけじゃねぇ。かぐやの形見は俺が引き取るから、高熱さえ引けば後は普通に生きていけばいい」
「聞くかな。かぐやに随分執着していた」
「だが魔装を恐がってもいるからな。俺は丁度いい引き取り手だろう。ここが手放す機会だ」
「……どうかな」
「なんだ、手放さないって言うのか?」
「多分だがな……もっとも、あの坊主がやりたい事をも少し詰めて聞く必要がある」
「だから別に、兄弟でも家族でも、村で作ればいいだろう」
「そこだ」
「どこだよ」
「……明日、本人俺が本人に尋ねるさ。そこでな、豆蔵、お前に頼みたい事がある」
「なんだよ」
「ちょっとした芝居をしてくれ」
◇
日が昇り。
安流が重いまぶたを開ければ天邪鬼が火を見ていた。
安流が重いまぶたを開ければ天邪鬼が火を見ていた。
「よう」
「おはよう御座います」
「おはよう御座います」
二人きりである。
毘羯羅と豆蔵、二人の少年の姿はない。
毘羯羅と豆蔵、二人の少年の姿はない。
「あいつらは朝食調達だ。山に行ってるよ」
「そうですか」
「お前、腹は?」
「減ってはいますが……」
「食えんか」
「はい」
「そうですか」
「お前、腹は?」
「減ってはいますが……」
「食えんか」
「はい」
ほどなくして、ウサギを手に豆蔵が。
五本足で眼が八個あってぬめぬめして「ぎゃぎゅぎょー!」と鳴く小型の異形を手に毘羯羅が。
それぞれ戻ってくる。
五本足で眼が八個あってぬめぬめして「ぎゃぎゅぎょー!」と鳴く小型の異形を手に毘羯羅が。
それぞれ戻ってくる。
「瓜坊はそれ山に返してこい」
朝食はウサギだけと相成った。
首を落とす、皮をはぐ、肉を削ぐといった生々しい調理。
しかし割りと生臭坊主だった安流の事、特に気にせず。
木の枝に刺して塩を振り、焚き火であぶるが三人分だ。
やはり安流は食べられそうにない。
しかし割りと生臭坊主だった安流の事、特に気にせず。
木の枝に刺して塩を振り、焚き火であぶるが三人分だ。
やはり安流は食べられそうにない。
「安流」
さて、肉を噛みながら。
豆蔵が切り出した。
豆蔵が切り出した。
「かぐやの形見を俺が預かろう」
「……」
「昨日話したように、ミサキのウィルスは魔装を使えば楽に治せるが……今のお前には酷だろう。なら、危険物は今俺が預かっておいた方がいい」
「……」
「昨日話したように、ミサキのウィルスは魔装を使えば楽に治せるが……今のお前には酷だろう。なら、危険物は今俺が預かっておいた方がいい」
安流がまぶたを閉じる。
もどかしげに。
やるせなげに。
もどかしげに。
やるせなげに。
「安流、お前の目的は何だ?」
「……」
「安流」
「兄弟を、欲しいと思っています」
「ならば、異形を相手取るような武具もいらんだろう」
「……」
「安流」
「兄弟を、欲しいと思っています」
「ならば、異形を相手取るような武具もいらんだろう」
安流が、眼を開ける。
言うか、言うまいか。
そんな迷いがなかった。
言うか、言うまいか。
そんな迷いがなかった。
「僕は……人も、異形も、あなたたちさえつなげたい」
「……つなげて、どうする」
「すれ違いを無くす」
「すれ違い?」
「かぐや殿と金時くんが出会い、結局殺し合いをしました。金時くんを受け入れた山を、……金時くんの家族を手にかけたからです」
「おい、坊主、武具を手放さないという事は、だ」
「……つなげて、どうする」
「すれ違いを無くす」
「すれ違い?」
「かぐや殿と金時くんが出会い、結局殺し合いをしました。金時くんを受け入れた山を、……金時くんの家族を手にかけたからです」
「おい、坊主、武具を手放さないという事は、だ」
天邪鬼が口を出す。
毘羯羅は、空気に和気がないのを察しておろおろしはじめた。
毘羯羅は、空気に和気がないのを察しておろおろしはじめた。
「ナイフを喉元に突き付け合って話し合うわけか?」
「違います。僕は両手を挙げます。相手のナイフを全て……受け付けない自衛です」
「相手は疑いと恐怖しか持つまい」
「時間はかかります」
「……今の日本を、お前はどう捉えている?」
「どう……と言われても。まだ混乱してますよ。二次掃討作戦が終わっても落ち着いたというわけではない」
「戦国だ」
「え?」
「今はな、戦乱だよ。この国は割拠しているのさ」
「……分かる、気はします」
「気がするだけだな。もっと煮詰まればこの国はどう転ぶかまるで暗闇の中。無論、戦国だ割拠だとは言え、人同士は自治体の豊かさで競うだろう。
だがその根底は食い合いだ。遠い未来でも確実に、国は纏まらざるを得まい。一つに纏まらないとしても、いくらかの分裂で均衡だ」
「違います。僕は両手を挙げます。相手のナイフを全て……受け付けない自衛です」
「相手は疑いと恐怖しか持つまい」
「時間はかかります」
「……今の日本を、お前はどう捉えている?」
「どう……と言われても。まだ混乱してますよ。二次掃討作戦が終わっても落ち着いたというわけではない」
「戦国だ」
「え?」
「今はな、戦乱だよ。この国は割拠しているのさ」
「……分かる、気はします」
「気がするだけだな。もっと煮詰まればこの国はどう転ぶかまるで暗闇の中。無論、戦国だ割拠だとは言え、人同士は自治体の豊かさで競うだろう。
だがその根底は食い合いだ。遠い未来でも確実に、国は纏まらざるを得まい。一つに纏まらないとしても、いくらかの分裂で均衡だ」
安流が押し黙るが、天邪鬼は止まらない。
まるで、攻めるように続けた。
まるで、攻めるように続けた。
「異形が一個に集って人と拮抗するかもしれん。異形と人が手を取る可能性もある。今は閉鎖したこの国が、海の外から何が来るか予想できるか?」
「……あ、う……」
「その中で……お前が言う事は、不当に暴力を持つ集団を作ろうと言うものだ。人と、異形と、御伽の子らをつなげてどうしようと思っていた?
ひっそりと暮らしたいか? ささやかに寄り添いたかったか? 笑わせる。誰もが思うだろう、何を企んでいるのだ、と」
「……そんな、そんなつもりでは……ただ、僕は全国に散っていても仲間がいると思えれば……」
「そんなつもりではないと主張して聞き入れてもらえるか? 時間をかけるか? その時、時間はあるか? 信じられる事なかったとしたら?」
「……」
「国が穴だらけの現在の日本が永劫続けばお前の夢も叶うだろう。だが変わる。混乱と言うものはいずれ収束してしかるべきだ。
この国の混乱も収束するぞ。収束したその時、収束の途中、お前の夢に居場所はあるかな?」
「……あ、う……」
「その中で……お前が言う事は、不当に暴力を持つ集団を作ろうと言うものだ。人と、異形と、御伽の子らをつなげてどうしようと思っていた?
ひっそりと暮らしたいか? ささやかに寄り添いたかったか? 笑わせる。誰もが思うだろう、何を企んでいるのだ、と」
「……そんな、そんなつもりでは……ただ、僕は全国に散っていても仲間がいると思えれば……」
「そんなつもりではないと主張して聞き入れてもらえるか? 時間をかけるか? その時、時間はあるか? 信じられる事なかったとしたら?」
「……」
「国が穴だらけの現在の日本が永劫続けばお前の夢も叶うだろう。だが変わる。混乱と言うものはいずれ収束してしかるべきだ。
この国の混乱も収束するぞ。収束したその時、収束の途中、お前の夢に居場所はあるかな?」
安流は何も言えない。
見据えていなかった。
見通していなかった。
見越していなかった。
見据えていなかった。
見通していなかった。
見越していなかった。
例えば平賀研究区。
五つの名前の一つの下に異形と人が共存するそこを確かに疎ましく思う者も少なくない。
しかし手を出せるかどうかと言えば別だ。
求められる技術を高めているからだ。
五つの名前の一つの下に異形と人が共存するそこを確かに疎ましく思う者も少なくない。
しかし手を出せるかどうかと言えば別だ。
求められる技術を高めているからだ。
己はどうだ。
安流は自問すれども、代償行為でしかないと思わざるを得ない。
かぐやを失った過ちを、もう起こさぬよう。
それだけだ。
安流は自問すれども、代償行為でしかないと思わざるを得ない。
かぐやを失った過ちを、もう起こさぬよう。
それだけだ。
「分かったら大人しく坊主をやっていろ。かぐやを忘れろとは言わん。だがまっとうに生きろ」
「……できません」
「ならばかぐやの魔装で一生涯殺し合いを続ける事になる。いや、お前は諸手を挙げるだけだったな。
一身にただただ周囲から殺意敵意害意を向けられる日々になる。耐えられるか?」
「それを耐えるための兄弟が欲しいと……」
「作った兄弟もあらゆる者から疎まれてもいいと?」
「違う、僕は……ただ……」
「かぐやの魔装を手放せ」
「……できません」
「ならばかぐやの魔装で一生涯殺し合いを続ける事になる。いや、お前は諸手を挙げるだけだったな。
一身にただただ周囲から殺意敵意害意を向けられる日々になる。耐えられるか?」
「それを耐えるための兄弟が欲しいと……」
「作った兄弟もあらゆる者から疎まれてもいいと?」
「違う、僕は……ただ……」
「かぐやの魔装を手放せ」
代わって。
豆蔵が口をはさむ。
ますますおろおろする毘羯羅を、天邪鬼が手で制す。
豆蔵が口をはさむ。
ますますおろおろする毘羯羅を、天邪鬼が手で制す。
「それが一番幸せだ」
「……………………できません」
「かぐやは残念だったが、あいつ以外の兄弟を作れ」
「……僕は、かぐや殿の言葉が、忘れられないのです」
「忘れんでもいい。偲べ。お前の夢は偲ぶ事もできなくなるかもしれん……死ぬかもしれん夢だ」
「…………できません。かぐや殿と金時くんのすれ違いを見て、僕だけが平穏なんて……つらすぎる」
「どうしてもか」
「……………………はい、どうしてもです」
「……………………できません」
「かぐやは残念だったが、あいつ以外の兄弟を作れ」
「……僕は、かぐや殿の言葉が、忘れられないのです」
「忘れんでもいい。偲べ。お前の夢は偲ぶ事もできなくなるかもしれん……死ぬかもしれん夢だ」
「…………できません。かぐや殿と金時くんのすれ違いを見て、僕だけが平穏なんて……つらすぎる」
「どうしてもか」
「……………………はい、どうしてもです」
豆蔵が腰に下げた小槌を手に取った。
みるみる大きくなっていくそれは、すぐさま人を叩き潰せるサイズと化す。
みるみる大きくなっていくそれは、すぐさま人を叩き潰せるサイズと化す。
「なら死ね」
呆然と、打出の小槌が大槌になるのを見届ければ。
豆蔵が振りかぶる。
腰を据えて。
安流に向けて。
豆蔵が振りかぶる。
腰を据えて。
安流に向けて。
「豆蔵さん!」
「よせ」
「よせ」
毘羯羅が疾風じみて止めようとするのを天邪鬼が止める。
安流は、唇を震わせて何も言えずにいる。
安流は、唇を震わせて何も言えずにいる。
「お前は高望みが過ぎている。どの道のたれ死ぬ結果に終わるだろう……どうあっても地獄だ」
「う……ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、く……は、ただ……」
「う……ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、く……は、ただ……」
後ずさる安流を、退いただけ豆蔵が詰める。
本物の殺気に当てられて安流の腰は当に抜けていた。
かつて金時と対峙した迫力と酷似している。
本物の気迫。
小さな豆蔵の体から、猛獣以上の脅威を感じる、
本物の殺気に当てられて安流の腰は当に抜けていた。
かつて金時と対峙した迫力と酷似している。
本物の気迫。
小さな豆蔵の体から、猛獣以上の脅威を感じる、
気づけば安流は泣いていた。
豆蔵に恐怖したか。
かぐやの形見を手放す事が悲しいか。
ただ。
死ぬことを厭う心では、なかった。
豆蔵に恐怖したか。
かぐやの形見を手放す事が悲しいか。
ただ。
死ぬことを厭う心では、なかった。
「最後だ。かぐやの形見を手放せ」
手放そうか。
安流が、そう考えてしまう。
安流が、そう考えてしまう。
国のためではない。
自分のために、つながりを作ろうとしたのだ。
それは不要な混乱さえ招きかねない事。
自分のために、つながりを作ろうとしたのだ。
それは不要な混乱さえ招きかねない事。
本当につながりたかったのは、かぐやなのに。
ここで止まらなくても、辿り着くこともない。
心の底から望んだ人は、もういないのだから。
ここで止まらなくても、辿り着くこともない。
心の底から望んだ人は、もういないのだから。
だからやろうとしている事は所詮、代償行為なのだろう。
かぐやを失った過ちを、もう起こさぬよう。
それだけだ。
それだけだ。
それ。
だけ。
だ。
だけ。
だ。
違う
それ。
だけ。
は。
だけ。
は。
それだけは。
それだけは、
それだけは、
「譲れない」
「あん?」
「あん?」
それだけは、譲れない。
かぐやを無駄死ににさせないためにも。
かぐやが生きた意味があるように。
かぐやの心が続いていくように。
かぐやを無駄死ににさせないためにも。
かぐやが生きた意味があるように。
かぐやの心が続いていくように。
「手放せない! 手放さない! 僕は、僕が! つなげる……! 戦乱でも、割拠でも! 必要とされてやる! 手を出させない!」
槌が、振り降ろされ。
安流は、まぶたを閉じず。
涙を流しながら、豆蔵を見上げ続け。
安流は、まぶたを閉じず。
涙を流しながら、豆蔵を見上げ続け。
同時。
貝の形の薄幕が。
安流を護るように、現れる。
――燕の子安貝
貝の形の薄幕が。
安流を護るように、現れる。
――燕の子安貝
「……離せよ」
「そうはいきません」
「そうはいきません」
そして、大槌が止まった。
貝の防壁に触れる事もなく。
毘羯羅に止められ。
貝の防壁に触れる事もなく。
毘羯羅に止められ。
「いや、瓜坊、もう離していいぞ」
毘羯羅を抑えていた天邪鬼は吹っ飛ばされて転がっている。
身を起こして、それだけ言った。
身を起こして、それだけ言った。
貝の防壁が溶けるように消えていく中。
安流が、まだ泣きながら。
まだ緊張しながら。
まだ見上げながら。
安流が、まだ泣きながら。
まだ緊張しながら。
まだ見上げながら。
「芝居だ」
「……は?」
「いや、殺す云々は芝居だから離せって」
「……は?」
「いや、だから殺す云々は芝居だって」
「……は?」
「いや、殺す云々は芝居だから離せって」
「……は?」
「いや、だから殺す云々は芝居だって」
毘羯羅が半信半疑に槌を止める手を離せば、豆蔵も小槌を元に戻す。
本当に。
演技だったようだ。
本当に。
演技だったようだ。
「安流、平賀に会いに行け」
そして、天邪鬼がこう言った。
まだ訳も分からず緊張したままの安流を豆蔵が立たせ。
まだ訳も分からず緊張したままの安流を豆蔵が立たせ。
「まずは魔装を使いこなせ。俺が言った戦乱とか、兄弟が疎まれるとか、気にするな。まずは力をつけろ。話はそれからだ」
「…………はぁ」
「しゃんとしろ。必要とされてみせるんだろう?」
「あ、いえ、その、それは……」
「…………はぁ」
「しゃんとしろ。必要とされてみせるんだろう?」
「あ、いえ、その、それは……」
毘羯羅もそろそろ、あーなるほどー、とか言ってる。
落ち着き始めた安流も、試された自覚が出てくる。
しかしまだ腰が抜けたままだ。
落ち着き始めた安流も、試された自覚が出てくる。
しかしまだ腰が抜けたままだ。
「俺が言った事は、間違っているかもしれんし間違っていないかもしれん。だがまだ時間はある。猶予のようなものが、まだあるだろう」
「……」
「まずはお前が柱になれるだけの強さを得ろ」
「僕が……柱?」
「柱になるならば人間だ」
「……」
「まずはお前が柱になれるだけの強さを得ろ」
「僕が……柱?」
「柱になるならば人間だ」
涙は、流れ続けている。
しかし先程とは違う涙だ。
豆蔵が笑いかけてくれる。
しかし先程とは違う涙だ。
豆蔵が笑いかけてくれる。
「お前の夢は、きっと叶えるに値する」
「だから安流、まずは平賀だ。かぐやの魔装について、調べてもらえ。どう使えばいいか、把握しろ」
「あ、あのですね!」
「だから安流、まずは平賀だ。かぐやの魔装について、調べてもらえ。どう使えばいいか、把握しろ」
「あ、あのですね!」
ようやく話の流れに追いついた毘羯羅も手を上げる。
「薬畑という村に行くといいですよ」
「くすりばたけ?」
「一次掃討作戦の後の荒地にできた村なんですけど、僕の仲間がいるんです。名前は迷企羅。虎です。虎羅です」
「虎……?」
「はい。唯一、旅に出ていない僕の仲間で、教える事が好きだから、きっといろいろ話をくれますよ。強くなるのがどうとか魔法がどうとか」
「くすりばたけ……」
「名前の通り、薬ばっかり作ってる所です。ただ、新旧あって、古い方の薬畑です。京の南の方にある田舎ですよ」
「ありがとう御座います、寄ってみます」
「くすりばたけ?」
「一次掃討作戦の後の荒地にできた村なんですけど、僕の仲間がいるんです。名前は迷企羅。虎です。虎羅です」
「虎……?」
「はい。唯一、旅に出ていない僕の仲間で、教える事が好きだから、きっといろいろ話をくれますよ。強くなるのがどうとか魔法がどうとか」
「くすりばたけ……」
「名前の通り、薬ばっかり作ってる所です。ただ、新旧あって、古い方の薬畑です。京の南の方にある田舎ですよ」
「ありがとう御座います、寄ってみます」
豆蔵が安流の肩を叩く。
励ますように。
背中を押すように。
励ますように。
背中を押すように。
「まだ魔装は恐いだろうが、小まめに使って魔素を消費し続けろ。じき、熱は引く」
「……はい」
「俺の仲間をつけようとも思ったが……もう一人で大丈夫だな?」
「……はい」
「さっきの言葉、嘘じゃないな?」
「……はい」
「よし、それじゃあよ、また生きて会うぞ」
「……はい、必ず!」
「……はい」
「俺の仲間をつけようとも思ったが……もう一人で大丈夫だな?」
「……はい」
「さっきの言葉、嘘じゃないな?」
「……はい」
「よし、それじゃあよ、また生きて会うぞ」
「……はい、必ず!」
こうして。
安流は平賀と迷企羅へ進路を取る。
人をつなげられる強さも知識も得るために。
柱になっても折れぬため。
安流は平賀と迷企羅へ進路を取る。
人をつなげられる強さも知識も得るために。
柱になっても折れぬため。
そして。
毘羯羅と天邪鬼、そして豆蔵は京の北の果て。
浦島へと進路を取る。
ミサキを止めるため。
毘羯羅と天邪鬼、そして豆蔵は京の北の果て。
浦島へと進路を取る。
ミサキを止めるため。
再び会おうと約束をして。