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ワイルドアイズ 第1話後

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匿名ユーザー

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村の入り口に即席で作られたバリケードに半分体を隠すようにしながら、スタンディングモードのトラクターが
腕の先の機銃を掃射して「人狩り」のグラップルを近づけまいとさせる。
だが、非力な装備しか持たないトラクターでは装甲車クラスの相手にもならない。
機関砲の直撃をくらって体を痙攣させると、そのまま仰向けになって倒れる。
もう1体のトラクターは怖気づいたのかヴィークルモードに変形し、慌てて後退しようとするが「人狩り」のソルジャーが
放ったロケット弾頭が命中し、炎を噴き上げて動かなくなった。
勇敢にも村を守ろうとした二人の若者は儚く命を散らし、「人狩り」たちは村の中に進入する。
ボロいバラックが立ち並ぶ粗末な村の中を逃げ惑う住民に機関銃を向け、掃射する。
破壊と略奪は彼らの日常でありお家芸だ。
基本的に、奴隷としての価値は歳が若い順にしたがって高くなるために、対して値段の付かない年寄りほど捕獲する意味が無い。
なので、捕まえるよりも殺して間引く。 その方が手間が減るからだ。
そして、若い女や子供はなるべく生かして捕まえる。 器量がよければ売る前のお楽しみが増える。
他にも村の蓄えられた食糧や燃料などの備蓄、金、財産、そういったものを強奪する。
調子に乗って、家屋をロケット砲で吹き飛ばす。
暴力衝動と獣性を思う存分解放出来るのだから、これほどやってて楽しく、なおかつ儲かる商売も無かった。
また一人のソルジャーが、本来は車載用となる重機関銃を腰だめに構えて逃げ遅れた村人の背中に向け、トリガーを引こうとする。
が、乾いた連謝音とともにその体に小さな赤い花が咲き、自分が撃たれた事を理解する間もなくさらにとどめの銃弾が頭部を撃ちぬいた。
物陰から片膝をついたシズナがサブマシンガンで狙撃したのだ。

「ふん、「人狩り」の割にはいい装備持ってるじゃないか」

エノラは周囲を警戒しながら倒したソルジャーの死体に近づくと、重機関銃を手に取る。
十数kgの12.7ミリ機関銃もサイバネティクス化されたシズナの腕力にとっては、大したことの無い重さだ。
既に景気良く撃ちまくってくれた後なのか、ベルトリンクの先の残弾は残り少なかったが、充分だ。

「なにせ、武器はお前らが充分持ってるんだしよお!! 手前で手前の武器を向けられて殺される気分はどうだ、
この低能蛆虫野郎ども! 地獄に落ちやがれ!!」

雄たけびを上げ重機関銃を構えながらシズナは通りを駆け抜け、出会う「人狩り」どもを片っ端から撃ち殺していく。
背中に発電用のエンジンを背負い、コードの先を体の各所に接続したサイバネティクスらしき男に撃ちきった重機関銃を投げつけて
その頚骨を折り、代わりにそいつが持っていたロケットランチャーを拾う。
目に暗視装置を直接埋め込んだソルジャーと顎がガスマスクに完全に置き換えられたソルジャーが通りの角から現われ、
銃弾を浴びせてくるのを積み上げられた資材の陰に隠れ、ランチャーに弾頭を装填。
連射音が止んだのを見計らって飛び出し、発射。 吹き飛ばす。
焼け焦げた死体からグレネードランチャー付きの小銃を拾うと、次の獲物を探した。

「対人戦闘訓練、特に市街地戦がなって無いぜ。 ソルジャーっつっても弱い一般人ばかり相手にしてりゃ、こんなもんか?
そりゃ武器もろくに持たないで逃げるか隠れるかするだけの人間追い回してれば楽だろうな!」

「人狩り」のソルジャーたちの動きは、素人もいい所だった。
遮蔽物を利用しようともせず、往来の真ん中に立ち尽くして、全員がいっせいに銃を撃ちっぱなしにするだけ。
相互に射撃してマガジンリロード時のカバーリングさえしない。
見通しの悪い通路の角の先から敵が飛び出してくることも予想せず、クリアリングも怠る。
対クルマ用の装備が中心であるところを見るに、クルマ戦ではまだ話が違うのかもしれないが、彼らは
まるでソルジャーを相手にした事が無いような印象があった。

「ちっ、これじゃユキホの「母さん」に死ぬほど叩き込まれた事が馬鹿らしくなるじゃねーかよ。
まあ「人狩り」に対抗するっつったら大抵は、クルマを持ったハンターだ。
ソルジャーは二の次、というかハンター雇うだけで報酬の金が尽きるしな。
クルマに乗ったハンターすら仕留めてしまえば、あとはクルマでソルジャーを制圧、一方的な蹂躙だ。
「人狩り」のソルジャーが対クルマ用に特化し、対人戦を忘れるのも無理はねえって所か?」

一人で呟きながらシズナは最後の一人のソルジャーを射殺し、小型無線機の回線をオープンにする。
先のハンターたちとの戦いで「人狩り」のソルジャーたちが半数以下に数を減らしていたのも加わり、ここまでの戦いは
かなり順調に進んでいる。

「ユキホ、こっちは村に散会したネズミを全部始末したぞ。 足元の心配はしなくていい。
支援してやるから好きなように奴らを料理してやれ」

『了解。 シズナちゃんも、クルマの機銃掃射には気をつけてね。
あと、巻き込まれないように。 あんまり近づきすぎちゃダメだよ? 建物が多いから僕からもシズナちゃんは見えにくいんだ』

「誰に向かって心配してんだよ」

シズナは無線機の向こうの相棒に余裕ある声音で応答すると、無線機を切って武器を拾い、次の行動に移った。


『ソルジャーどもの連絡が途絶えた? まだこの村の連中が雇ったハンターが残っていやがったのか。
おい、気をつけろ。 残りのソルジャーをクルマから離れさせんな。 目にするんだ。
まだクルマが残ってるなら、仕掛けてくるのは奇襲だ。 ここじゃ建物が邪魔をして見晴らしが悪い。
ソルジャーにクルマを見つけさせて、発見次第ロケランをかまさせろ』

大通りを村の中心に向かっていたジャックハンマーとグラップル、そして2~3名の僅かなソルジャーたちは
村人達を追い立てるため別働させた部下たちが消息を絶ったとの報告を受けてまだ脅威が残ってる事に気づいた。
流石に集団のリーダーであるジャックハンマーは、市街地でのクルマとソルジャーが共に行動することの重要性を知っており、的確な指示を出す。
だがそれも、主にクルマ警戒してのものであって、シズナというソルジャーの存在の可能性すら頭からすっぽりと
抜け落ちているのが致命的なミスだった。
突如として、彼らの足元に投擲された煙幕手榴弾が転がり、白い煙を噴出する。
ものの数秒で周囲は煙に包まれ、視界は遮られた。 それを投げたのは、もちろんシズナだ。
その煙の中、家屋と家屋の狭い隙間に車体を潜ませて、ユキホがハンドルを握るバギーが静かにエンジンをスタートさせる。

『…煙幕とは多少は頭が回る。 全周を警戒しろ。 どこから襲ってくるかわからんぞ!
先ほどのハンターどもよりは、面白い戦いにはなりそうだな。 そうでなくては詰まらん』

ジャックハンマーが部下のグラップルと背中合わせにクルマを立たせ、右腕の主砲の砲口を煙幕の先に向ける。
その先に、潜んでいる敵を求め、何時出てきても一撃の元に打ち倒すつもりで意識を集中させる。
だが、襲ってきたのは背後、部下の方に対してだった。

走行音とともに急速に接近、直前で変形を開始。
一瞬でバギーの全部品がバラバラに細かく解体され、別々の部品と合体して瞬時に再結合。
スラリとした細い脚部の先にタイヤを配置し、固定砲塔の変形した左腕には30ミリガトリング機関砲を装備。
同じく左肩のハードポイントにミサイルランチャーを装着し、胸部には12.7ミリ機銃。
頭部の青い一つ目のカメラアイが輝き、変形を完了したバギーは後腰に右手を伸ばすと、そこにマウントされた
ヴィークル形態時の前部バンパーを刀剣のように握り、抜いた。
赤熱化したバンパーの表面が高速で振動、神速の突きをグラップルに向けて繰り出す。
煙幕に視界を遮られていたと言う事もあり、反応する暇も無くグラップルは胸部装甲を貫かれる。
驚き、見上げる足元のソルジャーたちが我に返ってロケットランチャーを構えるよりも早くバギーはバンパーソードを引き抜くと
そのまま回転してガトリング機関砲と12.7ミリ機銃を掃射。
砲弾に引き千切られた哀れなソルジャーたちをひき肉に変え、そのまま変形。
ジャックハンマーが振り向き、主砲を構えた時には既にヴィークル形態で足元を通り過ぎている。
後には、倒れ伏したグラップルとソルジャーたちの死体が残る。

この間、わずか2.5秒。
まさしくあっと言う間に雑魚の掃討を完了し、一撃離脱で煙幕の向こうに姿を消した。

『……』

全ての部下を倒され、ジャックハンマーは立ちこめる煙幕の中、どこからとも知れない襲撃者の探知に意識を集中させる。
モニターは白い煙以外、映るものは無い。
だが、敵の気配を探るように、「人狩り」のリーダーはそこに映る僅かな影でも見逃すまいと目を凝らした。
次の方向は、横。 ジャックハンマーの右側から接近する走行音。
即座に反応したジャックハンマーが、主砲を向け、発砲…するよりも早く、変形を完了したバギーの繰り出したバンパーソードが
その銃口を下段から跳ね上げる。
その剣速の素早さに驚愕するジャックハンマーの胸部に、返す刀で切っ先を突き入れる。
だが、流石に厚いジャックハンマーの装甲を貫くには至らず、バギーはそのまま再度変形し、離脱した。

『…やるな。 この視界の中で俺の位置を正確に把握しているということは、熱源探知装置でも装備しているようだな?
それだけの装備と、操縦技術…さらにクルマの構成チューニングも相当なものだ。 只者じゃあないだろう。
名を名乗れ。 このジャックハンマー様を満足させるに足るほどのハンターの名を、聞いておこう』

ジャックハンマーは目の前の敵に対する多少の敬意を含んだ口調で、煙幕の向こうに呼びかけた。
しばしの沈黙の後、答えは返ってきた。

『…オルペインレス。 ”Ol' Painless(皆、苦痛なく殺せる)” それが、このクルマ。 そして僕の名だ』

煙幕の向こう、モニターに表示される熱源探知装置の映像を見つめながら、ユキホは名乗りを上げる。
ジャックハンマーは、自らのモニターにオルペインレスの頭部の放つ青い目の光を見た。

『そこだーーーっ!!』

見つけた! 煙幕の中でわざわざ自分の位置を光でバラすとは、馬鹿め!と心の中で好機に笑みを浮かべた。
100ミリスパルク砲の方向から大量のマズルファイアが吹き上がり、砲弾が発射される。
だがそれを、オルペインレスは体を捻って回避。 装甲脇を通過した砲弾が遥か後方に着弾、爆発する。
そしてオルペインレスは自身の左腕のガトリング機関砲を、スパルク砲の砲口にぶつける。

『なにっ!?』

『来るとわかってれば、避けるのは簡単だよ』

ユキホが、静かな口調で呟く。 カメラアイをわざと発光させたのは、挑発して攻撃を誘引させるためだった。
そしてそれに気づかず高速の砲弾を避けた事にのみ驚愕するジャックハンマーは、オルペインレスの行動に反応する間が一瞬遅れた。
6本の束ねられた30ミリ砲身が回転し、機関砲弾をスパルク砲の砲身内部へと叩き込む。
砲の機関部を内側から破壊されたジャックハンマーの右腕は、炎を上げて吹き飛んだ。

『クソッタレがああああああ!!』

叫びながら交代して距離を取り、まだ炎を纏わり付かせる右腕から格納されていた30ミリ単装機関砲を新たに展開し、同時に背中の連射迫撃砲を起こす。
だが、背中に轟音と衝撃を受けてよろめいた。
損害表示を確認すると、連射迫撃砲が吹き飛ばされている。 攻撃方向は、後背。
見ると、建物の屋根に上がったソルジャー…シズナが対戦車ロケットを構えてこちらに鋭い笑みを向けていた。

『子ネズミがチョロチョロと!!』

機関砲をシズナに向けようとするジャックハンマーを、オルペインレスのヒートバンパーの斬撃が阻止。
機関砲の砲身を両断し、さらにハイキックを頭部に浴びせる。
よろめくジャックハンマーの巨体に、追い討ちのように突きが入るが、それでも増加装甲を貫くには至らない。

『おのれええええええっ!! この、ジャックハンマーさまが! こんな所で!
こんなちっぽけな村ごときで!! ハンターなんぞにいいいいいっ!?』

ジャックハンマーは左腕で反撃のフックを繰り出そうとするが、バックステップでかわされる。
そして、カウンターにガトリング機関砲が胸部に掃射された。 数枚の増加装甲が吹き飛ぶ。

『こんな、戦車でもない、ただの軽車両クラスの、二流のハンターごときに!!
これほどの改造を施した、ジャックハンマーが負けることなど!!』

オルペインレスの左肩から発射された対戦車ミサイルが着弾。
さらに増加装甲が砕け、燃えて落ちる。

『ありえない! 強いクルマを持っている方が強いのだ!! 圧倒的な火力とパワーを持っている方が勝つのだ!!
強力な主砲と強力なエンジンを積んだ、強力なシャシーで構成されたクルマの方が絶対的に有利なはずだ!!
だから、ありえない!! ここでジャックハンマーが、このクルマが負けることなどありえないぃぃぃぃっ!!』

もはやジャックハンマーの叫びは悲鳴に近い。
その言葉は、一応正しくなくもない。 だが、それは絶対的に「有利」ではあっても、絶対の勝利を約束してくれるものではない。
クルマのランクが格下でも、装備が劣っていても、操縦者の腕と戦法で上回られて居れば、ひっくり返る事もある程度のものだ。
だが、自分より弱い格下の相手ばかりを倒してきた、そもそも弱者を襲撃して奪う事しか繰り返してこなかった
「人狩り」のリーダー、ジャックハンマーにはそれに気づく事はなかった。

『嘘だあああああっ!! 俺が負けるなどおおおおおおっ!!』

オルペインレスの脚部のタイヤが猛然と回転し、全力ダッシュでジャックハンマーに突進する。
加速し勢いをつけたヒートバンパーの切っ先は、大きな火花を散らして胸部装甲に激突、貫通。
その下の操縦席にいるジャックハンマー本人を串刺しにし、高熱と超振動で跡形もなく焼き尽くして絶命させた。




戦闘が終わり、流れ弾で破壊されたバラックの家々からまだ煙の立ち上る村は、とりあえずの平穏を取り戻した。
避難していた人々は安堵の表情を浮かべ、半ばまだ信じられないというような感じで倒された「人狩り」たちのクルマの残骸を見上げている。
ヴィークル形態へと変形したバギーの運転席では、ユキホが疲れたような顔をしていた。
そのユキホを、バギーのフロントに腰掛けたシズナが激励する。

「お疲れさん。 これで、賞金は手に入るし、そこそこの装備も奪えたし、村から報酬は貰えるしで、
働いた分に対してはまあまあいい稼ぎになったってところだな」

「結構危ない橋を渡ってた気がするけどね…。 あのハンターさんたちがちょっとは頑張ってくれてたから、
ボクたちは何とか勝てたようなもんだし。 奴らが一回戦って損耗してなかったら、こっちが負けてたかもしれないよ」

言葉を交わす二人に、白髪の多少増えたような印象のある村長が複雑な表情で近づいてきた。
きっと、報酬の話だろう。

「あの…村を守ってくださって、本当にありがとう御座います。 しかし、もう少し村の被害を抑える事はできませんでしたでしょうか…。
あの亡くなられたハンターさんたちは、村の外で戦ってくれましたというのに…」

村長の背後では、まだ燻り続けている焼け落ちた家屋が無残な姿を晒している。
その前で途方にくれているのは、その家の住人だろう。
「人狩り」との戦いを村の中で行ったために、村は守ったものの結構な損害も出ていることは明らかだ。
加えて、村人の死人も、「人狩り」に殺された者があちこちに転がっているはずだ。

「なんだよ? 文句があるっていうのか? 俺たちはただ頼まれたとおり、「人狩り」と戦って追い払っただけだぜ?
別に、村を無傷で守れなんてのは言ってなかっただろ」

「それはそうですが…!」

村長は抗議を続けようとして、シズナが肩に担いでいる重機関銃を目にして言いよどんだ。
わざとらしくシズナが機関部に弾帯を装填するので、脅されているかのように脅えの表情を浮かべている。
村長はユキホの方に視線を泳がせて助けを求めるのだが、ユキホはユキホで「燃料はあと1回分暴れられる程度かなあ…
残弾は…」とやはり物騒な事をさらっと呟いている。
さらにダメ押しのように、シズナが宣言した。

「あと、報酬は望みどおりにって言ってたよな。 お言葉に甘えて、好きなだけ要求させてもらうぜ。
とりあえず、この村の備蓄と、金をバギーに積めるだけ全て寄越しな。
あと、燃料代も当然タダだよな。 「人狩り」と戦うのに結構な弾薬を消耗したからそのくらい貰わないと赤字だよなあ?」

いくらなんでも法外な要求である。
「人狩り」は居なくなった。 今この村にクルマと言えばこの二人のバギーが一台。
村のトラクターは既に全滅している。
確かに、約束してしまったこととはいえ、今更「口約束でしたから…」と報酬を値切ろうとすればどんな目に逢うかたまった物ではない。
だがこれでは、「人狩り」の代わりに別な盗賊団を迎え入れたものではなかろうか。
村長の顔が青ざめ、大量の汗を掻き始めたのを見てユキホは苦笑いした。

「これじゃあ、僕たちが悪役みたいだよねえ…」

シズナが、フン、と鼻を鳴らして答える。 その声はどこか明るく、機嫌が良さそうだった。

「言っただろ。 正義が勝つんじゃないんだ。 強い奴が正義なんだよ」



(終り)


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