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ビューティフル・ワールド 第五話 月夜

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その男の目の前に広がっている光景は、地獄だった。

男の目の前には、数時間前までは悪態を付きながらも、気心の知れた仲間達が変わり果てた姿で転がっている。
或る者は胴体を貫かれ、また或る者は一部分を切断され、未だに出血が止まる事が無い。凄惨。男の目の前には、仲間達が流した血の海で広がっている。
男の膝元はその血で真っ赤に染まっており、また、現実を認識する事を拒んでいる為か、がたがたと震えが止まらない。

「……嘘だ。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!」
瞳孔が開きっぱなしでかつ、涙を垂れ流しながら男は慟哭する。激しく首を横に振り、仲間達の姿を見ない様にする。
しかし、男の顔は自然に仲間達であったモノへと向いてしまう。反射的に、男は腹を押えて嘔吐した。

「ジャ……ック」
その時、男の耳元に虫の息で、男の名を呼ぶ声がする。ジャック――――と呼ばれた男は、ハッとすると震えている膝元を無理やり奮い立たせ、立ち上がった。
被害を負ったのはジャックの仲間だけでなく、ジャック自身もだ。ジャックの膝元や両腕等の部位には、大きな痣や痛々しい深い切り傷が幾つも走っている。
朦朧とした足つきで、ジャックは自らを呼び掛けた男の元へと片膝を下ろした。

ジャックの足元には、口元に蓄えられた、白き髭が逞しい男が仰向けになっている。口元から流れている大量の血が男の白髭を鮮血に染めており、今にも息絶えそうだ。
男が装着している、黒色の如何にも攻撃を受けつけない強固な装甲服は、斜め方向――――右肩から左脇腹にかけて深く抉られている。否、斬り刻まれている。
ジャックは血を押えようと装甲服を外すが、その有様を見て思わず目を逸らした。男が負っている傷の深さは、最早施しようが無い。

「隊長……隊長!」
「お前ほどの……奴が……泣くんじゃ……無い」
ジャックが隊長と呼ぶその男は、ジャックを泣かせまいとするように、腕を上げて涙を拭おうとした。
しかし男が幾ら腕を上げようとしても、男の意思に反して体が次第に硬くなっていく。もうすぐ限界が近いようだ。

「ジャック……頼みが……ある……最後……のな」
男の言葉に、ジャックは自分の腕で涙を拭うと、力強く頷いた。

「あの……子供を……助けて……やって……くれ……」

隊長の言葉に、ジャックの目が見開く。その顔には、何故そんな事をという疑問と、言いしれない怒りという複雑な表情が浮かんでいる。
「どうして……」

次にジャックはどう答えればいいか分からないのか、苦悶の表情で歯を食いしばると、グッと目を瞑って、叫んだ。
「どうして……そんな事を言うんですか、隊長! 奴は……あのガキは皆を、隊長を!」

「ジャック!」

男は今にも息絶えそうとは思えない、鋭く芯の通った声でジャックの二言を制した。
僅かに顔をジャックの方に向け、男は優しげで、温かい微笑みを浮かべながら、ジャックに言った。

「あの……子供も……俺達とおな……じ……利用され……た……だけ……なんだ……」

「だから……よ」

男の目から、一筋の涙が流れては、地面に落ちた。

「お前……が……救って……くれ……あの子……を」

―――――目が、覚める。どうやら夢を見ていた様だ。

それも、二度と見たくない、あのクソッタレな夢を。ライオネルは両手を開いたり閉じたりして、感覚を現実へとシフトさせていくと、舌を打って立ち上がった。

ライオネルが壁に寄り掛かって寝ていたこの部屋は、床と壁がシックな木彫で出来ており、夜はその木彫という特性故に、とても涼やかだ。
しかし奇妙な事に、その部屋には家電はおろか家具さえもない。
あるのは、同じく木彫のシンプルな二つのイスと、テーブル、そして月明かりが照らす大きな窓だけだ。

蓋の開いた瓶ビールを手に持ち、ライオネルは階段を下りて一階へと降りて行く。
そこでライオネルを迎えたのは、商売道具である、それぞれハンガーで吊られているのと、地面に鎮座している野良オートマタ達のガレージだ。
しかしライオネルはそれらに見向きもせず、どこからかバールを持ってきて中央に立つと、何も無い地面を二度叩いた。
すると地面から、凹型の大きな取っ手が音を立てて立ち上がった。バールを取っ手に引っ掛け、思いっきり上へと引く。

すると、地面であった場所が重圧な音を立てながら開きはじめた。どうやらマンホールの如く、地下へと繋がっているドアの様だ。
ドアを完全に引き、バールを投げ捨てて、ライオネルは梯子を降りながらその中へと入っていった。

地下へと着いたライオネルは、壁を触りながら近くにあるスイッチを押した。

明るくなった途端、ライオネルの目の前に左右で横並びに並んだ数十機のオートマタの姿が映った。地下とは思えない程、その空間は奥行きがあり遠くへと伸びている。
歩きながらライオネルは一体一体に鋭い目つきを送る。どのオートマタも、野良オートマタとは比べ物にならない程にデザインが洗練されており、実に強そうだ。
そう……どれも野良オートマタと違い、同じ様なデザインの機体は一体も無い。全て何かしらカスタマイズされている様だ。しかし疑問である。

何故ライオネルは、これほど多種多様なオートマタを所持しており、また地下に隠しているのかが。

やがてライオネルはビールを一気に飲み干し、再び地上へと戻る。
地上に戻り、バールを引っ掛けてドアを完全に閉じた。地面には一切、取っ手はおろかドアがあった形跡さえ見えなくなっている。
階段を昇り、二階の寝室に戻ると毛布に包まって小さく寝息を立てて眠っている。琥珀色の目の少女がいた。

ライオネルが少女に近づき、頬を撫でる。すると。ん……と、少女は眠そうな目を少しづつ開いた。


「仕事に行くぞ、リシェル」



                          ビューティフル・ワールド

                       the gun with the knight and the rabbit


「あー……うん、大体分かった。つまりあんた達は予期せぬアクシデントのせいで、この世界に落ちてきたって訳だ。その……巨大ロボットに乗って」
<現実味が無さすぎて、逆に現実的ですね。私が云うのもなんですが>
「そう。現実味が無さすぎて、私達も正直混乱してるのよ。まぁ……貴方達の所に落ちてきたのが不幸中の幸いね」

女性が語った今までの経緯について、クリームシチューに舌鼓を打ちながら、リヒトは分かっているのか、分かっていないのかヘ―シェンと共に頷いて見せた。

今から数分前、空気をブレイクして乱入してきたやおよろずの大黒柱こと、リヒト・エンフィールドを囲み、各々の自己紹介がてら、夕食が始まった。
黒髪の少女は自らをまどか・ブラウニングと名乗り、異世界より来た三人に、この世界の事をすべからく教えた。
ちなみにリヒトも自己紹介したが、またもオーバーフリーズを引き起こしてくれたので割愛する。

この世界は一度、何か大きな事があってリセットした事、マナと呼ばれるエネルギー、そしてオートマタなる、世界から欠かす事の出来ないロボットの事等……。
女性はシチューを食べながら聞いているが、青年と少女は真面目に食事に手をつけず、じっと話に耳を傾けている。

「冷めちゃうから食べながら聞こうぜ、そこのボーイミーツガール」
「そう固くならないで、食べながら気軽に聞いて下さい。温かいうちが美味しいので」
リヒトとまどかにそう言われて、青年と少女は申し訳無さげに小さく頭を下げて、シチューを食べ始めた。青年が具のジャガイモを口に運ぶ。

「あ……美味い」
<当り前だ。まどかの作った料理は常に美味と決まっている>
青年がふと漏らした言葉に、玉藻が誇らしげにそう言った。
「おかわりもありますんで、欲しかったら言って下さい」
「おかわり!」
まどかの言葉に異常な程タイミング良く、リタがすっからかんになった皿を差し出した。

「早っ! まだ食べ始めて3分も経ってないよね!?」
「ライディースさん知らないんですか? カレーと同じくシチューも飲み物ですよ」
「どこのウガンダだ!」

「それにしても悪いわね、まどかちゃん。ただでさえ厄介になってるのに、こんなに美味しいご飯を食べさせて貰って」
女性の言葉に、まどかはいえいえと首を横に振った。ちょっとした仕草からも、品の良さが出ている

「にしても俺はまだ見てないんだが、その巨大ロボットはどれだけの傷を負ってるんだ? 再起不能レベル?」
「いえ、原動力である部分には恐らく傷が無いから、外装と駆動部を修理さえ出来れば、一週間も掛からないと思う。ただ……それは10人以上の整備員がいたとしたらね」
「そうか……」

女性の返答に、リヒトは唸った。シビアな事を言えば、出来るだけ早く修理を終わらしてもらった方が良いだろう。
ウチはただでさえ、毎月のオートマタの整備に困窮するほど家計が火の車だ。生活費云々の事を考えれば、もっとシビアな事になる。
まぁ……今はそういう事を言っている場合じゃないか。リヒトはその考えを打ち消した。

「大丈夫ですよ!」
元気一杯口の中にシチューを入れながら、リタは極めて明るい声でそう言った。

「私とライディースさん、それにルガ―さんの力があればアレを一週間掛からず三日で直してみせますよ!」
「いや三日は無理だよ。まだどんな構造になってるのかも分からないのに……」
「やる前から諦めちゃ駄目ですよライディースさん! ネバーギブアップ!」
「ネバーってまだ始まってもいないんだけど……」

二人の漫才を制する様に、ルガ―がゴホンと咳払いをして三人に向きなおると、静かに、尚且つ落ち着き払った様子で口を開いた。

「一先ず、貴方達は今日から、やおよろずの一員として働いて貰う事になる。寝住食はこっちで保障するから心配しないでくれ。
 ただ、郷に入れば郷に従え。たまちゃんが言っていた様に、この世界と、やおよろずのルールに従って、生活してもらう。それだけは肝に銘じておいてくれ、分かったかな」

ルガ―の言葉に三人は深く頷いた。その目からはしっかりとした真摯さと誠実さが窺える。
と、女性がちょうどシチューを食べ終わり、何処からか取り出したハンカチで口元を拭うと柔らかい口調で微笑みながら話し始めた。

「この世界についての事を詳しく、それに分かりやすく教えてくれて本当に有難う。それに美味しい料理まで食べさせてもらえて、心から感謝するわ。
 それで……まだ、私達の事を教えていなかったわね。だいぶ遅くなったけど」

女性は胸元に手を当てると、ゆったりとしたテンポで、自己紹介を始める。

「改めて初めまして。私の名前はマチコ・スネイル。どっちもカタカナね。
 本業はそうね……科学者兼パイロットかな。今は、この子達の保護者って所。それでこの子達の事だけど」

女性が右手で、バスガイドの名所案内の様な手つきで、二人を紹介し始めた。

「女の子の名前はメルフィー・ストレイン。ちょっとドジっ子で融通の利かない所があるけど、素直で一生懸命な子。
 男の子の名前は鈴木隆昭。正直言って、どこにでもいる様なとっても普通の子。けど、イザって時にはしっかり決める子よ。二人とも良い子だから、宜しくね」

「宜しくお願いします」
「あ、えっと……宜しくお願いします」
丁寧にピシッと頭を下げる少女――――メルフィーと、たどたどしく頭を下げる青年――――隆昭。
どことなく性格の、というか育ちの違いが結構出ているものの、二人とも内から出る真面目さが良く分かる。

「それじゃあ俺も改めて。リヒト・エンフィールドだ。業界では結構名が知れてる、イカしたハードボイルドだ。宜しくな」
<確かにハードボイルドですよね。毎回素晴らしくタイミングを外しても、平然とネタに走るんですから。
 あ、そんなハードボイルドのオートマタ、ヴァイス・ヘ―シェンです。4946>
「お前って奴はいっつもいっつも……」
リヒトとヘ―シェンの自己紹介に、スネイルは声を潜めて笑う。隆昭とメルフィーは反応に困っている様だ。

「それでは僕達も。僕はルガ―・ベルグマン。やおよろずではマネージャーといって、仕事の斡旋をしたり色んな事をしてる。何かあったら聞いてくれ」
「僕はメカニックのライディース・グリセンティ。メカならオートマタでも何でも担当するよ。勿論あの巨大ロボットもね。宜しく」
「頼もしいわね。宜しく、二人とも」

「はーい! 私も同じくメカニックのリタ・べレッタです! 19歳の花咲く乙女です! 宜しくぅ!」

「……俺より年上だったのか……小学生かと思った……」

隆昭の本当に、本当に悪意の無いうっかり出てしまったその小声はしっかりと、リタの耳に届いている。
しかしリタはあえて何も言わない。何も言わずに、その小学生と一見間違えそうなプリティフェイスで天使の笑顔を浮かべながら、隆昭を見つめている。

「では。私はこのやおよろずのオーナーである、まどか・ブラウニングと言います。宜しくお願いしますね」
<まどかのオートマタである玉藻・ヴァルパインだ。特に言う事はないが、厄介な事は起こすなよ、良いな>

玉藻の言葉に、隆昭が強張った顔になる。よっぽど返事の件で怒られた事が響いている様だ。
隆昭の様子に気付き、まどかが苦笑いしながらフォローする。何があったかは台所に居ても大体分かってる。

「たまちゃんは口調がちょっぴりキツイけど、優しい子だから大丈夫ですよ、鈴木君」
「あ、はい……すみません」

そして最後は、三人と初めて出会い、そして三人を助けた、遥の番だ。
「えっと……一条、遥です。やおよろずではまだまだ新人ですが、これからもどんどん自分が出来る事を……」

「遥、面接じゃないんだから、軽く自分の事を話せばいいんだぞ」
「あ、そ、そうでした、ごめんなさい!」
リヒトの言葉に、そう言って遥は赤面した。しかしやおよろずの面々は誰も遥を笑ったりはしない。家族の様な、温かい視線を向けている。

「……何か良いですね。皆仲が良くて、温かくて」
周囲に聞こえない様、メルフィーは小声で、スネイルに耳打ちした。スネイルはふっと視線をメルフィーに向ける。
「しばらく忘れてました……こういうの」
そう言って俯くメルフィーに、スネイルはただ、メルフィーの左手を優しく握ってあげた。

「一条遥です。やおよろずでは新人ポジションです。宜しくお願いします!」
<リヒター・ペネトレイターです。マスター、及び一条遥のオートマタです。宜しくお願いします>

「うし、全員自己紹介が終わったな。んじゃ、飯を食い終わったら早速役割分担だ。寝る前の一仕事、頼むぜ、皆」



食事が始まって30分後、あれだけ鍋にたっぷり入っていたクリームシチューは、大人数なだけあり、既にすっからかんになっている。
リヒトは一仕事と言ったが、別に全て終わるまで何もしてはいけないという訳ではない。個々で自由にお風呂に入って良いし、夜食を食べても構わない。
ただ、気持ちの良い朝を迎える為には。その前の夜にやるべき事をやろうというのが、ここ、やおよろずのルールの一つだ。

それぞれの役割分担はこうだ。まず遥とスネイルは洗濯物の折り畳み、及び整頓、まどかとメルフィーは皿洗い及び台所の掃除。
一番大変な、ガレージの掃除及び道具の片づけは、ルガ―とリタ、そして隆昭が担当する。
話し相手として、遥チームにはリヒタ―、まどかチームには玉藻、ルガ―チームにはヘ―シェンが付く。

リヒトとライディースは用があると言って、何処かに行ってしまった。リタは二人に対して不満げに頬を膨らましていたが、ルガ―に言われて仕事に取り掛かる。


「流石に量が多いわね……さすが大所帯」
山の様に三つのかごに入っている洗濯物を見ながら、スネイルは苦笑しながらそう言う。

「けど毎日やってますからね。普通に慣れちゃいますよ」
「……初めて会った時からそうだけど、良い子ね、遥ちゃんって」

スネイルの言葉に照れているのか、頬を少し赤くして、遥は俯いた。
「いえ……日常的な事をしてるだけですから」
「ううん。そうやって謙遜してる所とかとっても……」
何故かスネイルが遥との距離を縮めてくる。と、凄く自然な感じに、リヒタ―が割り込んできた。

<所で聞いてみたかったのですが>
「むむ……やるな、リヒタ―君」

<あちら側の……未来では、どういった生活をされてたんですか? 穏やかな生活では無いとは思いますが……>
「あ、私もそれがちょっと気になってました」

リヒタ―の質問に、スネイルは畳んでいた洗濯物を膝に置き、少し考える素振りをすると、静かに口を開いた。

「あんまり良い生活では無かった……かな。こうやって、ゆっくりと家事をしながらお喋りなんてすごく久しぶりだもの」
そう語るスネイルの横顔は、笑っている様に見えて寂しそうにも見えた。

「だから、変な事言うけど、今の作業って凄く面白いというか、楽しいの。昔を思い出してね」
「そう……ですか」
<不躾な質問をしてしまい、申し訳無い>

「ううん、良いのよ。リヒタ―君。私が変に感傷に浸ってただから。気にしないで」
「……だけど」
「ん?」
「……だけどきっと、こういう日常に戻れると思います。スネイルさんも、メルフィーちゃんも、鈴木君も、皆。私、信じてますから」

「……ありがとう。遥ちゃん」


「それで、メルフィーさんって鈴木君とはどういうご関係なんですか? 恋人ですか?」

まどかから出てきた、あんまりにもドストレートな質問に、メルフィーは危うく皿を落としそうになった。
後ろではじっと玉藻が見張っている為、そうそうミスは出来ない。雰囲気は和やかではあるが、奇妙な緊張感をメルフィーは感じている。
それにしても……まどかとメルフィーが並んでいるのを見ると、色んな意味で男にとって最高に保養な眺めだ。

「いえ……彼とはそういう仲では無いです。けど……」
「けど?」

やおよろずのオーナーとはいえ、まどかはそれを除けば普通の等身大な女の子だ。色恋沙汰にも当然興味がある。
キラキラと目を輝かせて返答を待つまどかに、メルフィーはどう答えるか迷った挙句、答えた。

「……大事な人、ですかね。私にとって」
「大事な人ですか……それってつまり友達以上で恋人……」

分かりやすいくらい、メルフィーの顔が赤くなった。そして思いっきり否定する様に、大きく首を横に振った。
その反応にまどかはニヤニヤする。それにしても二人とも、こうして見ると普通の女の子だ。

「そ、それは違います!」
「分かってますよ。だけど鈴木君、羨ましいですね。こんなにもメルフィーさんに思われてるなんて」

まどかの言葉に、メルフィーは今度は小さく首を横に振った。その目は何故か、憂いていた。

「時々……」

「時々……不安になるんです。隆昭さんを見てると」
「不安……と言いますと?」
「……隆昭さんは大事な人です。けど……」

「けど……時々、気付いちゃうんです。隆昭さんを……昔、好きだった人に重ねてる自分に」



「突然ですが! 鈴木くんのあだ名を決めちゃおうのコーナー!」
<イエ―イ!>
「イエー……って何ですか、それ?」

やおよろずの本拠地である、二階木造建ての隣に隣する大きなガレージで、ルガ―達は一日の締めである片づけを行う。
といっても複雑な事をする訳ではない。そこら辺に置かれている道具や器具を、決まった場所に片づけたり、埃などが溜まっている地面を掃いたりするくらいだ。
とは言え道具や器具は中々の重量な為、必然的に男が必要になる。何時もはライディースやリヒトだが、今回は男という事でちょうど隆昭が入った。

最初こそ、リタとヘ―シェンは道具をどこにしまうかなど真面目に教えていたが、案の定、物珍しい真面目モードは2分程度で切れた。

「んじゃーまず一つ目はアッキ―はどう?」
<お、呼びやすいですなー。けどインパクトに欠ける気がしますね>
「俺は別にアッキ―でも……」

「んじゃ二つ目! 隆昭だからタッキー!」
<あーこう何と言うかガッカリカーニバルですね、色々と>
「え、いや、だから俺はアッキ―でも……」

「中々決まりませんねぇ~ではでは、こいつでどうだ! タカ坊!」
<タカ坊……採用! 良いですね! 何かどっかのギャルゲの主人公みたいで!>
「タカ……はいぃ?」
「それじゃあ宜しくです、タカ坊!」
<4946、タカ坊!>
「ちょちょ、ちょっと待って下さいよ! 俺の意思を尊重してくれても」

<小学生。俺より年下とは思ってなかった……全く、タカ坊は甘いですねぇ>
「えっ……」
「聞こえてないと思ってました? ふっふっふ、このリタイヤ―は100メートル先に落ちた針の音をも聞き取れるんですよ~」
「何かもう訳分かんないです……」

「ちゃんと掃除してくれないと、何時まで経っても終わらないよ。ほら、隆昭君も気にしないで仕事仕事」
どうにも悪ふざけが過ぎる一人と一機、そして巻き込まれている隆昭に、ルガ―は苦笑混じりに言った。しかし、とルガ―は思う。
こうして見ると、この青年――――鈴木隆昭は、本当にどこにでもいる様な、普通の青年だ。
こんな青年が本当にあの巨大なロボットを操り、戦っているのだろうか……。心の奥底で、ルガ―は如何しても懐疑心を持ってしまう自分が嫌になる。

だが何にせよ、今日からスネイル達3人はやおよろずの大事な仲間である事には変わりはない。
ならば、マネージャーとして三人を迎え入れ、そして守っていかなければいけない。
それが――――このやおよろずのオーナーであるまどか・ブラウニングに対する、私なりの流儀であり、誓いだ。


「それにしても謎のオートマタに異世界から来た三人か……しばらく退屈しねえぞ、こりゃあ」

各々が役割分担をこなしている中――――ライディースとリヒトは、やおよろずの地下にある、ある部屋に居る。
至る所に数々の書物が塔の如く積み重なっており、薄暗い雰囲気が妙に怪しげなこの部屋は……。
ライディ―スの大事な居場所にして、リヒトが情報を得るに絶対不可欠な場所でもある。

今、二人の目の前にある、四角い物体はリセットする前の文明で人々が日常的に使用していた、膨大な情報端末。
その名もパーソナル・コンピューター、略してパソコンだ。このパソコンは非常にデリケートかつ高級な品物な為、本当に一部分の人間しか所有していない。
また、異様に電気代を食う為、やおよろずの家計簿が火の車なのは正直これのせいもある。

「退屈はしないけど、その分生活費が大変な事になりそうですけどね……」
手慣れた手つきで、パソコンの一部分である、文字が羅列された薄いキーボードを高速で打ちながら、ため息交じりにライディースが呟いた。

「で、今回は何を調べるんすか? 最初に言っておきますけど、あの三人が乗って来た巨大ロボットについては何も出てこないっすよ」
「んなこた分かってる。俺が調べたいのは三つ」

「オートマタの型番と、その型番の出現地、そして最近起こった、オートマタ絡みの犯罪だ」

リヒトが話したワードに、ライディースは苦々しい顔をする。明らかに何でそんな事を調べるのかと言いたげな。
そんなライディースに、リヒトはポンッと肩をたたくと、二カッと笑って無駄に爽やかな声で言った。

「心配すんなって。ちょっと、な」
「……リヒトのちょっとは後で必ず大事になるから怖いんすよ。……解除するっす」

深いため息を吐きつつ、ライディースは瞬間的にキーボードに打ちこんだ。
すると、パソコンの画面を多くの数字が流れ出すと、その一部が浮き出し、数秒後、75753という数字が画面中央に出てきた。

情報を閲覧出来るとはいえ、大きな事件が絡んでいたり、機密事項な情報な場合、固いプロテクトが掛けられている事が多々ある。
そんな場合、この75753――――通称なごなごみにアクセスし、パスワードを入力する事で、一時的にプロテクトを解除できる。巧みにこの75753が何かは不明だ。

ライディースがイスから立ち上がり、リヒトと替わる。リヒトは慎重に、75753のパスワードを打ちこむ。数秒の沈黙の後、白いツールバーが出てきた。

「行くぞ……。ZAX‐1、出現地、オートマタ関連の犯罪……と」

リヒトがそのキーワードを打ち込み、エンターと書かれたキーを押した。
すると画面上に、ZAX‐1が出現地と思われる場所が、×印で描かれた地図とここ数日で起こった、様々なオートマタ関連の犯罪事件のデータが羅列された。

「で、これで何を……」

リヒトの背後から興味深げに見ていたライディースが、そのデータと地図を一緒に見ていて何か気付いた様だ。
「分かったかい?」
「……このZAX-1って型番のオートマタ、色んな事件に関わってるじゃないっすか。……どういう事です?」
確かにライディースが言う通り、表示されているバツ印は全て、犯罪事件のデータに必ず該当している。それも10件以上。

「この前グスタフの件で、ヘ―シェンがぶっ倒したオートマタに今俺が調べた型番、ZAX‐1ってのが刻んであったんだよ。
 俺はあの時、野良の奴らが嗅ぎつけてきたと思ってたが、それは違う。本当に野良なら、型番なんざとっくの昔に消えてる。って事はだ」

「悪い奴がいるって事だよ。下種な奴らに野良オートマタを騙ったオートマタを貸し出してる、いわば死の商人って奴がな」


「まだ眠いよ……ライオネル」
「どうせすぐ終わる。それに明日遊ぶんだろ? なら先に仕事しろ」

未だに深い眠りについているレンガ造りが洒落た町で――――ライオネルと、その後ろで眠そうに少女が目を擦っている。
少女は寝間着だろう、だいぶだぼだぼなパジャマの上に、毛布を羽織ったまま歩いており、あの不気味な杖が入った大きなギターケースを背負っている。
と、少女の前を歩いているライオネルが、動きを止めた。

そして振り向き、しゃがむと少女に言い聞かせる様に話す。
「獲物だ。俺が奴を引きつけてる間、奴をギターケースから出せ。良いな。」

ライオネルの言葉に少女は分かっているのか分かってないのか、コクンと頷いた。ライオネルは立ち上がると、真正面へと振り向いた。
正面から、何者かがこちらへと歩いてくる。街灯がぼんやりと照らす中、その何者かがはっきりと姿を現した。

「カルマス・ダインだな」
ライオネルはその何者かに対して、挑発する様な口調で声を掛けた。

その何者か―――――否、カルマス・ダインと呼ばれた男は、ライオネルに反応して、バッと右腕を振り上げた。
拳闘家の様な黒き衣装をマントで羽織ったその男は、正に筋骨隆々という言葉に相応しい程の肉体で、強者のオーラに満ちている。
一切の無駄を省いたスキンヘッドに、口元に生えている立派な髭、そしてライオネルを見据えるその目は、自らの勝利を常に確信している、そんな自信に満ち溢れている。

「どこの馬の骨かは知らんが……こんな時間に我を呼び出すというのなら、それなりの覚悟があろうな」

そう言いながら、カルマスは右腕に嵌めたバンドに触れる。バンドには、銀色の球体が、深夜とは思えないほどの光を放っている。

「まぁ待て。お前の相手は俺じゃない」

「リシェル、出番だぞ」

ライオネルが後ろを見ながらそう言うと、あの杖を持った少女が、寝ぼけ眼でライオネルの前に出てきた。
その少女の姿に、カルマすがあからさまに嫌悪感を示す。

「おい、貴様何の真似だ? こんな子供を……」

「遠慮する事はねえぞ、リシェル。叩き潰してやれ」

ライオネルがそう言った瞬間――――寝ぼけ眼だった少女は、はっきりと目を開けた。
その目の瞳孔は、淡い琥珀色から―――ー鈍く、そして凶暴性を感じさせる紅色へと変わっていた。
少女――――リシェルは杖の先を、地面に着けると、カルマンの顔を見て、口元の端々を歪ませ、言った。

「パラべラム」


「それではお気を付けて」
「早く帰れ。干渉されると鬱陶しい」

女性に言われるが早く、黒服は夜に溶け込む様な黒色の高級車に乗り込み、その場を後にした。
灰色のダッフルコートを着、中に漆黒のスーツと、朱色のネクタイをしたその女性は、黒き髪を束ねており
聡明そうな、しかし感情が計り知れない、深い蒼眼をしている。片手には、何が入っているのか重そうなアタッシュケース。

女性はスーツの胸元から、一冊の文庫本サイズの聖書を取りだした。
聖書を開くと、左のページには、大極を思わせる、白と黒の球体が嵌めこまれており、そして右には、一枚の写真が挟まれている。
その写真を見、女性は無感情な口調で、一人つぶやいた。


「リヒト・エンフィールド……試してみる価値はあるか」





                               第五話


                                月夜



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