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第二話「やってきた悪魔」

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機動修羅:バイラム
   第二話「やってきた悪魔」
 パンツァーモービル、別名、統合戦闘機動兵器。
 初めて開発に着手されたのはおおよそ三十年ほど前、コンセプトは『どんな場所でも戦闘を続行できる機動
戦闘兵器』であった。
 そのため様々な形のパンツァーモービルが開発された。虫型、動物型、車型など。しかしどの形も構造上に
欠点を抱えていた為、出来ては消え、作られては廃棄されるという末路を迎えるのだった。
 そして様々な過程を得てパンツァーモービルは人型、という形で決着が付いた。
 『なぜ人型か』という疑問をあげるものも多いがパンツァーモービルの優位点である『器用さ』を確立した
のは他ならぬ人の手足なのだ。
 だがパンツァーモービルには弱点があった。それは"器用貧乏"であったことだったのだ。
 空は航空機に劣り、陸では戦車に劣る、さらに海では潜水艦や巡航艦といった物に負けてしまうことが多か
った。
 結果、パンツァーモービルは半端物の烙印を押されてしまう。
 しかしパンツァーモービルが軍事的に復帰する機会がやってきた。『中東戦争』である。
 この中東で起こった戦争はパンツァーモービルの再評価に繋がった。
 戦車で通れない陸路を移動をし、航空機には厚い装甲で対応、そして海では飛び魚のように空と海を交互に
行き来をし敵を撹乱し撃破した。
 こうしてパンツァーモービルは爆発的に広まり、軍事的に大きな礎を築くことに成功する。
 このことを人々は後にこう呼ぶ、『機動革命』と。

「はぁぁぁぁ!」
 ファルの乗るビスマルクがバイラムに近付くと腰に備え付けてある剣を振るう。
 凄まじい金属音が辺りに響きファルは確かな手ごたえを感じたが……
「嘘でしょ!?」
 ファルは起こったことが理解できなかった。
 なぜならバイラムはビルマルクのロングソードを無造作に掴んでいるからだ。
 決して遅い速度とは思えないビスマルクの斬撃を、だ。
 そしてそのまま力を込め、剣を砕き割る。
「くうっ!」
 彼女は一旦バックダッシュをし、間合いを取ると脚部に格納していたマシンガンを取り出し掃射する。
 だがバイラムは避けることも無く、そのまま弾丸の雨を受けた。
 まるで自身の頑丈さを試すかのように・・・
「甘い!」
 ファルはすかさずビスマルクの背面に付いているミサイルをバイラムに叩き込む。
「やったの!?」
 凄まじい閃光と爆音が辺り一面に広まり、ファルは完全に破壊されたと思った。
 当のバイラムはシールドを構えることも無く堂々と立っていた。
「そんなっ!」
 何の効果も無いの!?
 この事実に対し彼女は驚くしかなかった。
 折れた剣をバイラムに向け、様子を見る。
 お互い相手を睨みつけたまま動かなかった。
 いや、動かなかったというより出来なかったといったほうが正しいだろう。
 目の前の敵機の性能は未だ未知数。
 ネルソンの攻撃をかわした機動性、装甲を一撃で切り裂く剣、そしてビスマルクの攻撃をことごとく受け止
めた脅威の防御力。
 まさに化け物と呼ぶのに相応しい。
 そんな相手とどう戦えばいいの? どんな武器が、どんな戦法が有効なの?
 考えれば考えるほどいやな考えが生まれていき、答えは未だに深い闇の中にある。
「じゃあ、データを取るしかないわね」
 目の前の敵について徹底的に調べる! それが今の私に出来ること!
 ファルは自分にそう言い聞かせ、深呼吸をすると再びペダルを踏む。
 一方のバイラムは言葉を発することもなく、ただ真っ直ぐに敵を、ビスマルクを見ているだけだった。

「司令!」
 基地のオペレーターが茫然自失の司令官に向かって叫ぶ。
「司令! ミスリーア少尉からSパーツの呼び出しコールを受けていますが…」
 オペレーターの声に我を取り戻す。
「アンノウン相手にこちらの手を見せるべきか・・・仕方が無い、許可する!」
 司令の一声を聞くとオペレーターはキーボードを叩き始めた。
「それと基地内に残っているネルソンも出せるだけ出しておけ!」
「了解!」
 オペレーターの声を聞くと司令は自身の頬を叩き気合を入れなおす。
 あんなアンノウンにこの基地をやらせるわけにはいかん!
 彼の目に再び軍人としての誇りが宿る。
「我々に喧嘩を売った事を後悔させてやる・・・」
 新たな決意を秘め、彼は再びバイラムに戦いを挑もうとしていた。

 ビスマルクの換装パーツの一つ、通称『Sパーツ』である。
 Sパーツは打撃と斬撃をメインとした装備であり、特に大型対艦ソード『ブリューナク』と装甲破壊武器
『ミョルニル』の威力は折紙つきである。
 他にも装甲を貫通させる槍『グングニル』やレーダーやロックオンシステムの無効化する『フェアリーテール』
など近距離に特化した装備である。
 だが不幸にもこの基地にあったのは『ブリューナク』のみであった。

 バイラムの後方にある射出口から緑色のコンテナが現れる。
「きたっ!」
 バイラムを飛び越しパーツに近付こうとする。だがバイラムはそれを感づいたのかビスマルクの足を掴もう
と手を伸ばす。
「こんのぉぉ!」
 ファルは思いっきり床が抜けるほどペダルを踏み込み、バーニアを吹かせる。
 間一髪、バイラムの手は空を切り、捕まれることは無くパーツのところへたどり着いた。
「行くわよ、ビスマルク。まずはこいつの正体を突き止める!」
 背面のジョイントを開放し、パーツを取り付け始めるビスマルク。
 だがバイラムはその隙を見逃すことなく彼女の方へと向かっていく。
「足止めなら、これで!」
 ファルはビスマルクに残っていた弾薬全てをバイラム・・・ではなく基地の地面に叩き付けた。
 バイラムはひるむことなく突っ込んでいくがビスマルクの姿はどこにも見えない。
 首を動かし敵をを捕捉しようとした瞬間・・・
「でぇぇぇい!」
 上空からブリューナクを振り下ろそうとするビスマルクがいた。
 突然の事にバイラムの反応も遅れる。
 激しい金属音が当りに鳴り響いた。
 誰もが攻撃は当ったと思った、倒れることはなくても傷一つぐらいつけられると思っていた。
 しかしバイラムにはダメージが無かった。
「こ、こんなことって・・・」
「あ、ありえん・・・」
 バイラムがダメージを受けなかった理由、それは・・・
「し、真剣白刃取りだって!?」
 そう、バイラムはブリューナクを見事両手で器用に挟み、自らの顔面の前に押しとどめたのだ。
 あまりの人間的な動きに誰もが驚愕した。
 見ていたケントの額に汗が流れる。
 いくらパンツァーモービルが人型だからってあんな動きが出来るはずが無い! たとえ、プログラムされて
いたとしてもそれを使うには個人の技量や機体の細かい制御が必要なはず!
 バイラムの技術力に思わず身体がすくむ。
 バイラムはそのままブリューナクを振り回しビスマルクを大地に叩きつけようとする。
「まずい!」
 ファルはブリューナクを手放し体勢を立て直そうとするが、目の前にバイラムが現れ剣を振るう。
「きゃぁぁぁ!」
 思わずレバーを倒すファル。
 それが幸か不幸か分からないがバイラムの剣はビスマルクのコックピットではなく右腕を切り裂くだけに留まった。
「くぅぅ・・・」
 凄まじい轟音と共に倒されるビスマルク。
「はっ!」
 ファルが辺りを見ると既に十機以上のネルソンがバイラムの周辺に展開をしていた。
「ミスリーア少尉! ここは撤退をしろ! 作られたばかりの新型を壊されるわけにはいかん!」
 突然ディスプレイに基地司令の顔が大きく写る。
 目はギラついており、何が何でもバイラムを撃墜する意志を感じる。
「しかし!」
 ファルもファルとて退きたくはない。こちらとてエースのプライドがかかっているのだから。
「これは命令だ! それに片腕を失ってまで戦う必要も無い!」
 ここは彼の方が正論である。
「っ! 了解……」
 基地からの通信が切れるとファルはそのまま地下の格納庫行きのエレベーターに乗った。

「撃てぇい!」
 司令の叫びと共に何十、何百発もの砲弾がバイラムに向けて撃たれる。
 激しい轟音と爆発音が天に響き、焼け焦げた硝煙の匂いが基地全体に広まる。
 そして焼けた鉄の弾がバイラムを焼く。
「やったか!?」
 しかし・・・悪魔は堂々と立っていた。しかも壊れた様子は何一つなく細かい傷といった物も特に見当たら
ずに。
「うっ・・・」
 避難所で誰かが思わず声をあげる。
 悪魔が笑ったように見えたのだ。まるで我々の無力さを嘲笑するかのように。
「バ、化け物か!?あのバイラムとかいうPMは!!」
 司令が恐怖と混乱に陥っているとバイラムは武器も構えず一機のネルソンのほうへと前進していく。
 当然ネルソン達も持ちうるだけの銃弾を再びバイラムに叩き込む。
 しかし、ネルソンの砲撃をものともせずゆっくりと進んでいく。
 そしてネルソンが間近に近付くとそのまま手で頭部を掴む。
 メキメキと金属が軋む音を響かせながら力任せに引きちぎり、地面に投げ捨てた。
 まるで圧倒的力を誇示するかのように。
 首が取れたネルソンをネルソンの装備品であるロングソードを胴体に突き刺す。
 刺した場所が悪かったのかネルソンに火花が走る。
「自爆プログラムを起動させろ!あんな奴にユニオンの誇りを汚させるわけにはいかん!」
「了解! 4871番機、自爆!」
 基地司令の命令を聞いたオペレーターが破壊されつつあるネルソンに自爆プログラムを送る。
 自爆プログラム送られたネルソンはバイラムに取り付き自爆しようとするが……
 だが取り付く間もなくバイラムの剣によって真っ二つにされてしまった。
「くそ!」
 一機のネルソンを倒し終えるとバイラムは剣を構えながら上昇していく。
 基地を見渡せる高さに到達するとゆっくりと多数のネルソンの方へと振り向き、背中のバーニアを光らせな
がら向かっていく。
 そして殺戮が始まった。
 一機目と二機目は横に真っ二つにされ、三機目と四機目は袈裟をばっさりと斬り裂かれる。
 五機目と六機目は剣によって串刺しにされ、七機目と八機目は頭部と動力部を盾で叩かれ撃墜された。
 三機編成でやってきたネルソンには備え付けの銃で、動力部、駆動部、集積部の部分をそれぞれ撃ちぬく。
 数機でバイラムを囲むもののすばやい攻撃で突破され、ワイヤーで身動きを取れないようにするが逆に振り
回され、ソードで一斉攻撃をするが素手で胴体などを引きちぎられた。
 ありとあらゆる攻撃手段を行うがただの鉄くずが増えるだけという結果に終わった。

 そして、最後のネルソンが縦に真っ二つに斬られ、爆発した。
 基地の全戦力をあのPMに向けた、しかしバイラムは圧倒的な性能で基地に存在していた全てのPMを駆逐
してしまった。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁ…」
 基地指令は気の抜けた声を上げながらその場に力なく倒れる。
 基地司令だけではない、オペレーター、避難所に居た全員も声をあげることが出来なかった。
「正に……化け物……というわけか……」
 ボルスがやっとの事で出した言葉はここにいた全員の気持ちを表すものだった。
「……ボルス」
 この時の親友の顔をケントは忘れないだろう、悔しさと恐怖が混じり合わさったこの顔を。

 バイラムは辺りを見渡し、目ぼしい敵がいなくなったのを確認すると天高く飛びあがり凄まじい速度で飛び
去っていった。
「……行ったか…」
 ケントが呟くと会場が少しずつ騒がしくなっていく。
 あれは何だ?
 ユニオンの新型ではないのか?
 いや、もしかしたらテロリストによる襲撃かもしれない。
 様々な憶測が会場を包んでいる中、ケントは悪魔が去ったことに対し安堵のため息をついた。
「ボルス、そろそろ僕たちも行こう」
 ケントがボルスの肩に手を置く。
「そうだな……」
 ボルスは会場を後にしようと出口に足を向けながら、もう一度黒い悪魔をの事を思い返す。
 圧倒的な力で基地の戦力を蹂躙した悪魔。
 もし、もしもあれと戦うことになれば…
「全滅は必至だな」
 ボルスはかつて無い危機感と共に雲ひとつ無い青空を仰いだ。
「……負けちゃった…」
 ファルはビスマルクのコックピットの中で膝を抱えている。
 エースとしての自信はあった。たとえどんな敵であろうと勝つ……とはいかなくてもデータぐらい取れると
思っていた。
 だが、結果は惨敗。手も足も出なかった。
「ううう…ごめん、パパ……」
 彼女は胸元からロケットを取り出し、手に跡が付くほど強く握り締めた。
 ファリウェス=ミスリーア、彼女の戦いもここから始まろうとしていた。

 三日後、ユニオンはバイラムに対し第一種テロリスト手配を国連に求めた。
 国連側もこれを了承、バイラムは国際的テロリストの名を得る。
 しかし、この戦いは人類に対する破滅へのプレリュードでしかなかったことを誰も知らない・・・

第3話「遥か東の地にて・・・」に続く

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