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電光石火ゼノライファー 第1話

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sousakurobo

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 ほんの数時間前まで人で賑わう繁華街だったその場所は、今や地獄絵図と化していた。
 十数匹の巨大な生物が火を吐き四肢を使い街を破壊しているのだ。
 数ヶ月前から突如出現するようになったその生物達は、鳥や虫などといった動植物が20~30メートルに巨大化したような外見であり、それ以外は全くの正体不明であることから「アンノウン」と呼ばれていた。
 そして、炎に包まれた街の中には十数匹のアンノウンと、それと戦う一体のロボットの姿があった。
 コクピット内の人影は二人。中央に立っている鉢巻きを巻いた少年。その少年の前方、一段下がった地点にあるシートに座っている少女の二人である。
 年齢は少年が十代後半、少女が十代の前半に見えた。
 パイロットの少年が右拳を突き上げる。と同時に、トレースシステムによって少年の動きにリンクしたロボットもまた、右拳を上に突き上げた。
「うおおおおおっ! ナックルアーマー、ブレイズアップ!」
 少年の叫びと共にロボットの右腕の装甲の一部がスライド展開し、隙間から紅蓮の炎が吹き出し腕を包み込む。
「バーニングペネトレーション! 食らえええええええっ!」
 放たれた拳はロボットの目の前にいたモグラのようなアンノウンの腹部に突き刺さり、瞬間、アンノウンは炎に包まれた。
「敵はあと何体だ!」
 眼前で崩れるアンノウンには目もくれず、少年は同乗している少女に尋ねる。
「あと12体です!」
 レーダーに写る敵影を見ながら、少女は叫んだ。
「なら、このままこのまま押し切るぞ! ブレストアーマー、ブレイズアップ!」
 少年の言葉と同時にロボットの胸パーツにエネルギーが集中し始め、胸部の太陽を象った意匠が輝き始める。
「エネルギー、チャージ完了!」
「プロミネンスウウウッ、ブラスタァァァァァッ!!」
 刹那、ロボットの胸の意匠から山吹色の光が放たれる。そして、動きを止めていたロボットに殺到していたアンノウン達は、その圧倒的な光に飲み込まれ、塵となって消えていった。
 光が消えるのと同時に片膝をつくロボット。
 精神エネルギーを動力源とするこの機体にとって、それはつまりパイロットの少年がそれだけ消耗したのだということも示してた。
「敵アンノウンの反応、全て消失しました。……大丈夫ですか、才斗さん」
「……正直きついかな」
 機体とのリンクをカットしてコクピットに腰を下ろす少年。
 彼の名前は柊才斗《ひいらぎ さいと》。今まで戦闘をしていた巨大ロボット、ソルサイファーの開発者である柊博士の息子にしてパイロットである。
「しかし、なんだって今日のアンノウンはこんな大量だったんだろうな? いつもは多くても中型4の大型2くらいだってのに」
「わかりません。少なくとも大型が一カ所に二桁以上出現するなんて今までのアンノウンの行動パターンからは……」
 少女の言葉はコクピット内突然鳴り響き始めた警告音によって遮られた。

「どうした!?」
「ち、地下からアンノウンの反応確認、上昇してきます! 嘘……通常の十倍近い反応値だなんて……」
「とにかくここから離れるぞ!」
 才斗は即座にトレースシステムのリンクを再開させると、ソルサイファーを上空へ飛び上がらせた。
 それから間をおかずに街全体のアスファルトにヒビが入り、地下から巨大なアンノウンが姿を現し始める。
「なんて大きさだ……」
 粉塵を巻き上げながら姿を現したそのアンノウンは、ソルサイファーが玩具に見える程の大きさであった。
「アンノウンは樹木型と断定。地上に出ている部分だけでも200メートル以上……こんな巨大なアンノウンが地下に存在していたなんて」
「どうやらさっきの群はこいつが原因みたいだな。ともかく暴れ出す前になんとかする! ブレストアーマー、ブレイズアップ!」
「了解!」
「プロミネンスブラスタァァァァァッ!」
 ソルサイファーから放たれた一撃がアンノウンの頭頂部に直撃、大爆発を起こす。
「まだまだぁっ! レッグアーマー、ブレイズアップ!」
 才斗の言葉に反応し、ソルサイファーの両足のアーマーがスライド展開、吹き出した炎が両足を包み込む。
「バニシングスピンブレイカァァァァァッ!!」
 高速でスピンしながら先程爆発した地点へ急降下をかけるソルサイファー。
 瞬間、樹木型アンノウンの幹の部分に無数のレンズ状の物体が出現、その一つ一つから光弾が放たれる。
「何っ!?」
 咄嗟に技を中断して両腕をクロスし防御耐性を取るソルサイファーに、無数の光弾が直撃する。
 その威力は凄まじく、一撃一撃がソルサイファーの肩を、足を、腰を破壊していく。
「があぁぁぁぁっ!?」
 高性能すぎるトレースシステムの弊害によってそのダメージは才斗の身体にも伝達され、全身を貫く激痛に才斗は苦悶の声を上げた。
「才斗さんっ!? きゃあっ!」
 才斗の声に後を振り返った少女も、近くにあったコンソールの爆発を受け悲鳴を上げる。
 そして光弾の嵐が止むと、わずかな間をおいてボロボロになったソルサイファーが地面に叩き付けられた。
「ぐうっ! ……損害状況は!?」
 落下の衝撃に呻きながら、才斗は少女にそう尋ねる。
「……腕に守られていたおかげで胴体ブロックはそれほど損傷を受けていません。ただ、それ以外の部位は損傷率70パーセントを超えています。特に左肩はリンクシステムとフレームが完全にやられてしまっていて……」
「使い物にならない、か」
 才斗はまだ稼働する右腕を使ってソルサイファーを立ち上がらせた。
「……なあ、一つ頼まれてくれないか?」
「何をですか?」
 言葉を聞いて振り向いた少女に向けて、才斗は左手で頭に巻いていた鉢巻きを外し、放り投げた。
「そいつを頼斗に渡しておいてくれ」
「……はい?」
 鉢巻きは受け取ったものの、質問の意図が分からず思わずそう聞きかえす少女。
「何か俺は渡せそうにないからさ」
 微笑みながらそう告げ、才斗は近くの強制分離装置のスイッチを押した。
「っ!? 才斗さ……」
 少女の言葉は、座っていたシートの移動によって遮られた。
 シートはソルサイファーの胸部に合体していた戦闘機のコクピットに移動し、そのまま戦闘機は機体から分離、離脱していく。
「……頼んだぜ、希美」
 戦闘空域から離脱していく戦闘機を見つめてそう呟くと、才斗はアンノウンの方へ向き直る。
「出てきて早々で悪いが、お前さんにゃ俺と心中してもらうぜっ! ソルサイファー、ブレイズアァァァァァップッ!!」
 才斗の叫びに応え、ソルサイファーの全身から炎が吹き出す。
 その姿に本能的に危険なものを感じたのか、アンノウンはソルサイファーに向けて先程と同じ光弾を放った。
「おおおおおおおおおっ!!!」
 光弾の雨を受け、装甲を吹き飛ばされながらも背中のブースターを全開にしてアンノウンに突撃するソルサイファー。
 そしてソルサイファーはアンノウンに激突し、辺り一面を大爆発が包み込んだ。


 ……これが、後に『アンノウン大災害』と呼ばれるアンノウンとソルサイファーの戦いの結末である。
 この戦いを最後にアンノウンは姿を消し、人々の間には一応の平穏が訪れたのだ。
 そして、五年の月日が流れた。

「……また、あの夢か」
 布団から上半身だけ起こし、少年は額に手を当ててそう呟いた。
 その表情は暗く、春先のまだ肌寒い朝だというのに彼は汗だくである。
 少年の名は柊頼斗《ひいらぎ らいと》。ソルサイファーのパイロットだった柊才斗の弟である。
「ったく、あれから五年だぞ。……いい加減忘れろよ、俺の阿呆め」
 あの戦いを研究所のモニターで見ていた彼は、未だに悪夢に苛まれているのだ。兄が死んだ時の光景に。
 そして、憔悴していた頼斗は気付かなかった。二つの人影が自らのすぐ横まで迫っていることに。
「……だったらカウンセリングでも受けたらどうだ?」
「うんうん。一人で悩んでてもあんま良いことないよ」
「うおっ!?」
 突然両脇からかけられた声に、頼斗は驚きの声を上げる。
 ひとりは少年、ひとりは少女のものだ。
「……おまえら、何で勝手に人の部屋に入ってんだよ。てか鍵かけてたはずだぞ俺」
 声の主に心当たりがあるのか、やれやれといった様子でそう尋ねる頼斗。
「朝ご飯の用意ができたから起こしに来たんだよ」
「そしてこれが合鍵だ」
 一つ目の質問は少女が、二つ目の疑問には少年が鍵を見せながらそれぞれ即答する。その様子に、今日にでも錠前を買ってこよう、と頼斗は心に誓った。
「しかし、すぐ横まで俺たちが近づいても気づかないとはな」
「すっかり自分の世界にトリップしてたもんね。『ったく、あれから五年だぞ。いい加減忘れろよ、俺の阿呆め』って」
 独り言を額に手を当てている様子ごと少女に真似されて、頼斗の顔は恥ずかしさで真っ赤になる。
「だあぁっ! よせ、やめろ! 蘭も善司も今すぐ出て行け!」
 手を駄々っ子のように振り回す頼斗の様子に、善司と蘭と呼ばれた二人の少年少女は苦笑しながら部屋を後にした。


 アンノウン大災害から五年の月日が流れ破壊された街も復興が進み、人々の顔にも笑顔が戻りつつあった。
 とはいえ当然家族を、親を亡くした子供も多く、大災害以後そういった身寄りのない子供を引き取る施設やアパートが爆発的に増加していた。
 頼斗の住む『春風荘』もそのひとつだ。
 身寄りがなくなったわけではなかったものの、諸々の事情で親元で暮らしづらくなった頼斗はかれこれ四年ほど春風荘のお世話になっている。
 春風荘の住人は三人。管理人の伊吹善司《いぶき ぜんじ》、五年前身寄りを亡くした如月蘭《きさらぎ らん》、そして頼斗だ。
 同い年の少年少女三人暮らし、しかも管理人が未成年ということで多少苦労はあったが、災害復興によるお上のゴタゴタ等に助けられ、なんだかんだで三人平和に暮らしている。
「じゃあ今日のアルバイトは街の方なんだ」
 客間で朝食をとりながら、三人は今日の予定を話していた。
 ちゃぶ台の上には白米と味噌汁、そして鮭の塩焼き。朝は和食が一番、というのがこの三人の共通見解である。
「ああ」
 錠前も買えるし一石二鳥だな、と心の中で付け足す頼斗。
 復興が進んでいるとはいっても、まだまだ修復を行っている建造物は少なくない。当然、日雇い労働の募集は掃いて捨てる程存在しており、肉体労働の得意な頼斗は毎日せっせと働いているのだ。
「頑張ってね、ガテン系兄ちゃん。家の家計は君が支えているんだから」
「へーへー」
 味噌汁を一気に呷ると、頼斗は近くに置いていたバッグを手にとって立ち上がった。
「んじゃ、行ってくる」
「待て」
 玄関へ向かっていた頼斗を呼び止める善司。
「ん? どうした」
 振り返った頼斗に向かって、善司はきっぱりと告げた。
「管理人としては勝手に扉に錠前をつけるのは勘弁して欲しい」
 ……俺、錠前のこと口にしてないよな? と、頼斗は尋ねようと思ったが、返答が恐かったので止めておくことにした。

 同時刻、VICT---五年前、ソルサイファーを所有していた研究所が使っていたコードネーム。現在は防衛組織の名前となっており、世界各地に様々な施設がある---の司令部に緊急連絡が届けられた。
「サテライトベースから緊急連絡。未確認の物体が複数、地球に接近しているとのことです。数、42!」
 オペレーターの報告を受け、壮年の司令官が指示を出す。
「サテライトベースへ連絡、予想到達地点と時刻の割り出しの依頼! 場合によっては迎撃も許可する!」
 「了解!」というオペレーターの返答を聞くと、司令官は背後にいた人物の方へ顔を向けた。
 そこにいたのは十代後半と思われる一人の少女。端正な顔立ちで腰まで伸ばした長い黒髪の美しい少女である。
 司令官の顔から、彼の口に出そうとしていることを察したのか、少女は首を横に振った。
「フライヤー、ドリラー、ブレスター共に最終調整中です。実戦にはまだ出せません」
「他支部も似たような状況だそうだ。……万が一の場合は二号機を出す」
 その言葉に、少女の顔は暗く沈んだ。


 昼の休憩時間、頼斗はむき出しになったビルの鉄骨の上で弁当を食べていた。
 眼下に見えるのは豆粒のような人、彼がいるのと同じく建設中のビル群。そして、遠くには最後の戦いの時に出来上がった立派なクレーターも見えた。
「……」
 無言でクレ-ターを見つめる頼斗。今朝見た夢の事もあって思い浮かぶのは五年前の光景ばかりである。
「……ん?」
 そこでふと、頼斗は上空から何か光るもの降ってきていることに気が付いた。
「流れ星? ……いや、違うな。何だあれ?」
 摩擦熱によって赤く輝いていた「それ」は、上空から垂直に落下し、やがて減速しながらクレ-ターの中心に降り立った。
 衝撃もなにもなく、驚く程自然に降り立った「それ」は、大きさは二十メートル程で、数十個の黒い球体が集まって出来た人形の様な外見をしていた。
「何だ? あの黒団子」
 そのあまりに奇天烈な外見に、頼斗は思わずそう呟いていた。
 人形はしばらく直立不動の体制を崩さずにいたが、突然思い出したように周囲を見渡すそぶりをすると、人で言えば頭部にあたる部分の球体を輝かせ始めた。
 そして、人形の頭部から一条の細い光が放たれ、一拍おいて光が通った場所が大爆発を起こし始める。
「へっ? ……えええええぇっ!?」
 ようやく状況のヤバさを理解する頼斗。
 彼にとっての不幸は二つ。
 一つ、五年前の大災害の時安全な研究所におり、兄がロボットに乗っていたこともあって他の一般市民より巨大な物体への危機意識が欠けていたこと。もう一つ、ビルの上にいたせいで黒団子の出現に逃げまどう市民に気付かなかったこと。
「やべ、早いとこ逃げねえと!」
 慌ててビルを降り始める頼斗だったが、高層ビルの上の方にいたことが災いして地上に降りた頃には被害はかなり広がっていた。
「っ!」
 周囲から上がる炎に五年前の光景が重なり、思わず立ちすくむ頼斗。
「……馬っ鹿野郎! この程度でビビってんじゃねえ!」
 自分を叱咤し、震える足で無理矢理走り出す。
 しかし、やはり逃げ遅れは致命的だった。駆けだして間もなく近くにあった建物が吹き飛び、その衝撃で頼斗もまた吹き飛ばされた。
「がっ!」
 容赦なくアスファルトに叩き付けられ、思わず苦悶の声があがる。
 そして粉塵が晴れると、建物のあった場所には代わりに瓦礫と黒い人形の姿があった。
「くそっ、球の塊のクセに舐めた真似しやがって!」
 立ち上がり、再び駆け出す頼斗。
 人形も狙いを頼斗に定めたのか、ゆっくりとした動きではあったが頼斗に向かって歩を進め始める。
「ビームは使わないで直接潰しにくるたぁ良い根性してるぜ、ったく!」
 悪態をついてる間にも距離は縮まり、頼斗のすぐ後まで迫った人形は彼を叩きつぶすために腕を振り上げる。
「畜生、こんな所で死んでたまるかあああああっ!!」
 そうだ、死ぬわけにはいかない。今自分が死ねば、間違いなく二人の人間を悲しませることになる。だから、勝手に死ぬことは許されない。
 頼斗は叫んだ。腹の底から叫んだ。
 瞬間、何かが頼斗の頭上を通り過ぎ、人形にぶつかった。

「!?」
 それは一体のロボットだった。人形を体当たりではじき飛ばしたそのロボットは、一度頼斗に視線を送ると再び人形の方へ向き直る。
 ビルに激突し粉塵を巻き上げさせていた人形は、ロボットを脅威と判断したのか立ち上がると先程のように頭部を輝かせ始めた。
 それを確認したロボットも、足の裏のブースターを全開にして人形へ向けて突撃する。
 そして光線が放たれようとした瞬間、人形の懐まで接近したロボットが左拳を人形の、人で言うところの顎の部分に叩き付けられる。俗に言うアッパーカットだ。
 頭を無理矢理上の方へ向けさせられ、人形の光線は何もない虚空を切り裂く。同時に、ロボットの右拳が人形の腹部に放たれ、人形を貫いた。
「!?!?!?!?」
 人形からノイズのような音が発生する。それを断末魔の叫びにして、人形は爆発、四散した。
「……」
 その光景を、頼斗は逃げることも忘れてただただ見つめていた。
 やがて、爆発の中からロボットが姿を現した。それは頼斗の事を見つめながら近づいてくる。
 しかし、頼斗は先程のように逃げようとはしなかった。そのロボットに見覚えがあったからだ。
「サイ……ファー……?」
 そう、そのロボットはかつて彼の兄が乗っていたロボット、サイファーに酷似していたのだ。
 違うのは装甲の色だろうか。サイファーが赤と黒を基調にしていたのに対して、ロボットは青と白を基調にしている。
 やがて、頼斗の眼前まで近づくと、ロボットの胸のハッチが音を立てて開いた。
「久しぶりだね。頼斗君」
 コクピットから現れたのは先程司令室にいた少女だった。
 彼女の声と顔の輪郭から、頼斗の頭に一人の少女の名前が浮かぶ。
「……希美、か?」
 頼斗の言葉に頷く少女。彼女の名前は星川希美《ほしかわ のぞみ》。かつて、才斗と共にソルサイファーで戦っていた少女であった。


『電光石火ゼノライファー』---To be continued

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