五年前、柊頼斗にとって忘れることの出来ない出来事が三つ起こった。
一つは兄、才斗が命を落としたこと。二つ目はその数日後に起きたある出来事である。
一つは兄、才斗が命を落としたこと。二つ目はその数日後に起きたある出来事である。
「俺、戦うよ。兄さんの代わりに」
兄の死から数日後、彼はそう言って引きこもっていた自室から姿を現した。
兄の乗っていたサイファー、ソルサイファーを動かすためには特殊な精神エネルギーが必要なことは知っていた。そして、兄の次に適正があるのは自分だということも。
だから彼は泣くことを止めた。兄のいなくなった今、戦えるのは自分しかいないと思ったからだ。
彼が研究所の所長室で放った言葉には、そんな意志が込められていた。
「その必要はない。お前は今すぐ荷物を纏めてここを出て行くんだ」
だが、彼が研究所の所長である父、柊耕輔《ひいらぎ こうすけ》博士から告げられた言葉は予想外のものであった。
「今までは適正があったから施設内での生活を許可していたが、サイファーが失われた以上その必要も無くなった。そして火急に兵器を新造しなければならない現状、小僧は邪魔だ。家に帰れ」
「っ!? だったらその新兵器ってののパイロットになる! 今まで訓練だってしてきたんだから何にだって乗ってみせ……」
頼斗の言葉はそこで途切れた。柊博士が彼を殴り飛ばしたからだ。
「黙れ、餓鬼」
父の視線は眼鏡に反射されて良く分からなかったが、恐らく自分を睨みつけているのだろうと頼斗は察した。
何か言おうと思ったが止めた。父が一度言ったことは撤回しないことを頼斗はよく知っていたからだ。
腫れた頬を押さえ、大人しく部屋に戻って荷物を纏め始める。元々最低限の日用品以外は持ち込みを禁止されていたし、支度はあっさりと終わった。
ドアが開くと目の前には希美が立っていた。
「……希美も出て行くのか?」
しばしの静寂の後、頼斗がそう尋ねた。
「私はプログラムの組み立てに必要だって所長達に言われたから……」
ここに残る。と、頼斗と視線を合わせないようにしながら呟く希美。
彼女が兄に対してどんな感情を持っていたのかは知っていたし、兄と顔の似ている自分の事をあまり直視したくないのだろう。と、頼斗はそう思った。
「……これ、お金です。所長が頼斗君に渡すようにって。それと……」
札束の入った封筒を渡した後、希美はポケットに手を入れたまま目を伏せた。
「……それと、何?」
「……すいません。何でも、ないです。……気をつけて」
そう告げ、ポケットの中の何かを握りしめながら逃げるように去っていく希美。そんな彼女を、頼斗は追うことが出来なかった。
「……帰るか」
しばらくの間をおいて、頼斗もその場を後にするのだった。
兄の死から数日後、彼はそう言って引きこもっていた自室から姿を現した。
兄の乗っていたサイファー、ソルサイファーを動かすためには特殊な精神エネルギーが必要なことは知っていた。そして、兄の次に適正があるのは自分だということも。
だから彼は泣くことを止めた。兄のいなくなった今、戦えるのは自分しかいないと思ったからだ。
彼が研究所の所長室で放った言葉には、そんな意志が込められていた。
「その必要はない。お前は今すぐ荷物を纏めてここを出て行くんだ」
だが、彼が研究所の所長である父、柊耕輔《ひいらぎ こうすけ》博士から告げられた言葉は予想外のものであった。
「今までは適正があったから施設内での生活を許可していたが、サイファーが失われた以上その必要も無くなった。そして火急に兵器を新造しなければならない現状、小僧は邪魔だ。家に帰れ」
「っ!? だったらその新兵器ってののパイロットになる! 今まで訓練だってしてきたんだから何にだって乗ってみせ……」
頼斗の言葉はそこで途切れた。柊博士が彼を殴り飛ばしたからだ。
「黙れ、餓鬼」
父の視線は眼鏡に反射されて良く分からなかったが、恐らく自分を睨みつけているのだろうと頼斗は察した。
何か言おうと思ったが止めた。父が一度言ったことは撤回しないことを頼斗はよく知っていたからだ。
腫れた頬を押さえ、大人しく部屋に戻って荷物を纏め始める。元々最低限の日用品以外は持ち込みを禁止されていたし、支度はあっさりと終わった。
ドアが開くと目の前には希美が立っていた。
「……希美も出て行くのか?」
しばしの静寂の後、頼斗がそう尋ねた。
「私はプログラムの組み立てに必要だって所長達に言われたから……」
ここに残る。と、頼斗と視線を合わせないようにしながら呟く希美。
彼女が兄に対してどんな感情を持っていたのかは知っていたし、兄と顔の似ている自分の事をあまり直視したくないのだろう。と、頼斗はそう思った。
「……これ、お金です。所長が頼斗君に渡すようにって。それと……」
札束の入った封筒を渡した後、希美はポケットに手を入れたまま目を伏せた。
「……それと、何?」
「……すいません。何でも、ないです。……気をつけて」
そう告げ、ポケットの中の何かを握りしめながら逃げるように去っていく希美。そんな彼女を、頼斗は追うことが出来なかった。
「……帰るか」
しばらくの間をおいて、頼斗もその場を後にするのだった。
「……」
かつて、彼の家のあった場所は瓦礫の山と化していた。周囲も似たような状況である。
「……」
事情を説明してもう一度研究所で生活させてもらおうか? と、頼斗は一瞬考えたが、すぐにその考えを取り消した。
恐らく父はそれを許さないだろう。そもそも自分の話を聞くかどうかすら分からない。ひょっとしたら全て承知の上で追い出したのかも知れない。
そうして立ちつくしていると、彼の頬に冷たいものが当たった。雨が降り始めたのだ。
「……ふふふふふふ」
頼斗は背負っていたリュックサックから札束の入った封筒を取り出した。そして封筒を破り捨て、中身を周囲にぶちまける。
「ははははははははははっ! いいさ、生きてやる。アンタの力なんか何一つ借りずに生きてやる! 親父ぃっ!」
こうして頼斗は五年前、事実上天涯孤独の身となった。彼の心を救うことになる三つ目の出来事が訪れるのは、もうしばらく後の事である。
かつて、彼の家のあった場所は瓦礫の山と化していた。周囲も似たような状況である。
「……」
事情を説明してもう一度研究所で生活させてもらおうか? と、頼斗は一瞬考えたが、すぐにその考えを取り消した。
恐らく父はそれを許さないだろう。そもそも自分の話を聞くかどうかすら分からない。ひょっとしたら全て承知の上で追い出したのかも知れない。
そうして立ちつくしていると、彼の頬に冷たいものが当たった。雨が降り始めたのだ。
「……ふふふふふふ」
頼斗は背負っていたリュックサックから札束の入った封筒を取り出した。そして封筒を破り捨て、中身を周囲にぶちまける。
「ははははははははははっ! いいさ、生きてやる。アンタの力なんか何一つ借りずに生きてやる! 親父ぃっ!」
こうして頼斗は五年前、事実上天涯孤独の身となった。彼の心を救うことになる三つ目の出来事が訪れるのは、もうしばらく後の事である。
そして、五年ぶりに彼等は再会した。
ロボットから降りた希美と頼斗は、五年前のように正面から向かい合う形になる。
「……年が近くなったからかな? 前よりも才斗さんに似てきたね。頼斗君」
「そりゃそうだ。五年前の俺、お前と同い年の12だったんだぞ。今の方が似てるに決まってら」
険悪ではないものの、気まずい雰囲気が流れる。そして、先に口を開いたのは頼斗だった。
「……さっきの奴、アンノウンなのか」
「『正体不明』という意味では、紛れもなくアンノウンです」
「なんつうか事務的な答えだな。部外者にほいほい情報はやれないってわけか。……ま、いいや。死なない程度に頑張ってくれ」
それだけ告げると、頼斗は希美と、彼女の乗っているロボットに背を向けて去ろうとした。
「あの! 今更こんなこと言えた義理じゃないのは分かっているけど、私たちと一緒に戦ってくれませんか!」
そんな頼斗に向かって、希美は力の限りに叫んだ。
「あれから五年! この二号機も完成したし、研究所も世界規模になりました! でもパイロットがいないの! 頼斗君以上の適正値を持ったパイロットが!
今一番適正のある私でも、補助エネルギーを使ってやっと数分戦えるかどうかなの! だからお願い! 頼斗君の力を貸して!」
「五年前は邪魔だからって捨てた癖に、ホント随分と虫の良いお願いだな」
振り返った頼斗の表情は、それまで希美が見たこともない程に醒めたものだった。希美は思わず半歩後ずさってしまう。
「あ、あの時のことは、研究所のみんなが頼斗君に悪いことをしてしまったと思っています。もちろん、私も」
「……あの野郎はんなこと欠片も思っちゃいないだろ」
恐ろしい程に平坦な表情と口調でそう告げる頼斗。
「っ……それは……」
目を伏せる希美の姿を見て、頼斗は一度小さなため息をつく。そして普段の表情に戻ると気まずそうに頭をガシガシとかき始めた。
「悪い。野郎の事でお前を責めてもしゃあないよな。ま、なんだ。俺だって元々やる気だったわけだし、そっちが良いってんなら乗るぜ」
「えっ!?」
頼斗の言葉に、希美は喜ぶのではなく驚きの声をあげた。正直に言えば、彼女は頼斗が断ると思っていたし、頼斗自身のためにも出来れば断って欲しいと思っていたのだ。
「いや、『えっ』って何だよ『えっ』って。お前は俺に乗って欲しいのか、乗って欲しくないのか、どっちなんだ?」
当然、そんなことを知らない頼斗は不審げにジト目で希美を見つめる。
そんな彼の不審を晴らすため、希美は自分に出来る精一杯の努力で誤魔化しを行うことにした。
「あっ……いえ、その……そう! こんなあっさり了承がもらえるとは思っていなかったので驚いたんです。そう! そうなんです!
大体こんな所で都合良く頼斗君と鉢合わせるとも思ってなかったし、何ていうか今日は驚いてばっかりなんです! そうなんです!」
しかし、生真面目な彼女は嘘をつくのが下手だった。わたわたと手を動かしながら言い訳をする姿は誰が見ても嘘丸出しである。
そんな彼女の様子に、
「ぷっ……ははははははっ!」
思わず頼斗は吹き出した。
「な、何で笑うんですか!? 私笑われるようなことしてませんよ!?」
「くくっ……お前、何か五年前よりも抜けてるな」
笑いながら、頼斗はロボットのコクピットを指さした。
「さっきの言い訳辺りからずっと何か鳴ってるぜ。気付いてなかっただろ。通信じゃないのか?」
「はい? ……ああっ!? 気付いてたならもっと早く言って下さい!」
急いでコクピットの中に入る希美。しばらくして、彼女は再びコクピットから顔を出した。
「頼斗さん! 先程と同じ敵が三体、こちらに向かって来ているそうです!」
「さっきの奴、一体だけじゃなかったのか!?」
「詳しい説明は後でします。ともかく、二号機に乗って下さい!」
希美の言葉に頷き、頼斗もロボットのコクピットに乗り込んだ。
ロボットから降りた希美と頼斗は、五年前のように正面から向かい合う形になる。
「……年が近くなったからかな? 前よりも才斗さんに似てきたね。頼斗君」
「そりゃそうだ。五年前の俺、お前と同い年の12だったんだぞ。今の方が似てるに決まってら」
険悪ではないものの、気まずい雰囲気が流れる。そして、先に口を開いたのは頼斗だった。
「……さっきの奴、アンノウンなのか」
「『正体不明』という意味では、紛れもなくアンノウンです」
「なんつうか事務的な答えだな。部外者にほいほい情報はやれないってわけか。……ま、いいや。死なない程度に頑張ってくれ」
それだけ告げると、頼斗は希美と、彼女の乗っているロボットに背を向けて去ろうとした。
「あの! 今更こんなこと言えた義理じゃないのは分かっているけど、私たちと一緒に戦ってくれませんか!」
そんな頼斗に向かって、希美は力の限りに叫んだ。
「あれから五年! この二号機も完成したし、研究所も世界規模になりました! でもパイロットがいないの! 頼斗君以上の適正値を持ったパイロットが!
今一番適正のある私でも、補助エネルギーを使ってやっと数分戦えるかどうかなの! だからお願い! 頼斗君の力を貸して!」
「五年前は邪魔だからって捨てた癖に、ホント随分と虫の良いお願いだな」
振り返った頼斗の表情は、それまで希美が見たこともない程に醒めたものだった。希美は思わず半歩後ずさってしまう。
「あ、あの時のことは、研究所のみんなが頼斗君に悪いことをしてしまったと思っています。もちろん、私も」
「……あの野郎はんなこと欠片も思っちゃいないだろ」
恐ろしい程に平坦な表情と口調でそう告げる頼斗。
「っ……それは……」
目を伏せる希美の姿を見て、頼斗は一度小さなため息をつく。そして普段の表情に戻ると気まずそうに頭をガシガシとかき始めた。
「悪い。野郎の事でお前を責めてもしゃあないよな。ま、なんだ。俺だって元々やる気だったわけだし、そっちが良いってんなら乗るぜ」
「えっ!?」
頼斗の言葉に、希美は喜ぶのではなく驚きの声をあげた。正直に言えば、彼女は頼斗が断ると思っていたし、頼斗自身のためにも出来れば断って欲しいと思っていたのだ。
「いや、『えっ』って何だよ『えっ』って。お前は俺に乗って欲しいのか、乗って欲しくないのか、どっちなんだ?」
当然、そんなことを知らない頼斗は不審げにジト目で希美を見つめる。
そんな彼の不審を晴らすため、希美は自分に出来る精一杯の努力で誤魔化しを行うことにした。
「あっ……いえ、その……そう! こんなあっさり了承がもらえるとは思っていなかったので驚いたんです。そう! そうなんです!
大体こんな所で都合良く頼斗君と鉢合わせるとも思ってなかったし、何ていうか今日は驚いてばっかりなんです! そうなんです!」
しかし、生真面目な彼女は嘘をつくのが下手だった。わたわたと手を動かしながら言い訳をする姿は誰が見ても嘘丸出しである。
そんな彼女の様子に、
「ぷっ……ははははははっ!」
思わず頼斗は吹き出した。
「な、何で笑うんですか!? 私笑われるようなことしてませんよ!?」
「くくっ……お前、何か五年前よりも抜けてるな」
笑いながら、頼斗はロボットのコクピットを指さした。
「さっきの言い訳辺りからずっと何か鳴ってるぜ。気付いてなかっただろ。通信じゃないのか?」
「はい? ……ああっ!? 気付いてたならもっと早く言って下さい!」
急いでコクピットの中に入る希美。しばらくして、彼女は再びコクピットから顔を出した。
「頼斗さん! 先程と同じ敵が三体、こちらに向かって来ているそうです!」
「さっきの奴、一体だけじゃなかったのか!?」
「詳しい説明は後でします。ともかく、二号機に乗って下さい!」
希美の言葉に頷き、頼斗もロボットのコクピットに乗り込んだ。
「……懐かしいな」
訓練の時以来のコクピットの感覚に、感慨深げに頼斗は呟いた。
「最後にもう一度聞きます。頼斗君、ここで戦うことを選んだらもう後戻りは出来ません。それでも……戦いますか?」
サブシートに座りコンソールを操作していた希美の頭に、頼斗は微笑みながら手を置いた。
「お前さ、ホントは俺に戦って欲しくないんだろ?」
「……」
「優しいからな、お前。俺が兄貴みたいに戦って死ぬんじゃないか不安になってんだろ? ありがとな」
「……」
「大丈夫だ。俺は死なないし、死ぬつもりもない。周りの人間だって死なせない。で、死なない程度に頑張るさ。約束する」
「……破ったら、許しませんよ」
振り返った希美に、頼斗はサムズアップで答える。
それを見て希美も微笑み、スーツの胸ポケットから何かを取り出した。
「受け取って下さい。本当は五年前に渡さなければならなかった物だけど、才斗さんからの預かり物です」
それは赤い鉢巻きだった。五年前の戦いの際、才斗が希美に託したものである。
「これ、兄さんのか?」
「はい。……すいません、頼斗君への預かり物だったのに、今の今まで渡すことが出来なくて」
「いや、サンキュな」
鉢巻きを受け取り、頼斗はコクピットの中央、トレースシステムのある部分まで移動し、額にそれを巻き付けた。
「で、さっきの黒団子はなんだったんだ?」
「正体は不明。分かっているのは宇宙から来たこと、明らかに人工物であることくらいです。五年前のアンノウンとの関連性も現状あるともないとも言い切れません」
コンソールの操作を続けながら、希美は説明を続ける。
「サテライトベース、大気圏外にある異常観測用の施設の事なんですけど、そこが発見したのが42体。内31体は大気圏突入前に撃墜できたんですが、残りは地球への侵入を許してしまいました」
「さっきの団子はその内の一つか。でこっちに来てるのが三体、残りは?」
「消息不明です。気は抜けないですけど、まず私たちはこちらに向かっている三体にだけ集中するべきですね」
「オッケー」
気合いを入れるため頬を叩いた頼斗は、そこでふと一つのことに気付いた。
「……そういや、こいつの名前何? さっきから二号機としか言ってないよな」
「まだありません。正パイロットに付けてもらおうって、メカニックのみんなで決めていたので。でも、仮の名称を決めるのも苦労したんですよ。みんな二号機にするんだMK-2にするんだって大騒ぎになりました」
その時のことを思い出したのか、希美はコンソールの操作を止めてクスクスと笑い出す。そして、顔を頼斗の方に向けた。
「パイロット登録の準備が出来ました。音声データの登録と一緒に、一つ派手に命名してあげて下さい」
「名前ねえ……」
腕を組んで考え込む頼斗。少しの間をおいて、彼は一度大きく頷いた。
「決めたぜ! 兄さんが乗っていたのがサイファー。なら、俺が乗るのはライファーだ!」
握り拳を作り、彼は大きくそう宣言した。その様子に、希美は笑みをこぼす。
「頼斗君らしい名前の付け方だね。了解、音声データ登録。及び、機体名称をライファーに固定。トレースシステム作動、ライファー、機動します」
希美のその言葉と共に、コクピットハッチが閉じ、それまで暗かった周囲のモニターが外の景色を映し出す。
「レーダーに反応、敵を捕捉しました。正面に三、もうすぐモニターの方でも捉えられるはずです」
希美の言葉通り、すぐにモニターが遠くで光る三つの光を映し出し始めた。
「おーし、ブランクのある分、サポートは頼むぜ、希美!」
「了解!」
そして、ライファーは一度瞳を大きく輝かせると、足のブースターを点火して敵に向かって突撃を始めた。
訓練の時以来のコクピットの感覚に、感慨深げに頼斗は呟いた。
「最後にもう一度聞きます。頼斗君、ここで戦うことを選んだらもう後戻りは出来ません。それでも……戦いますか?」
サブシートに座りコンソールを操作していた希美の頭に、頼斗は微笑みながら手を置いた。
「お前さ、ホントは俺に戦って欲しくないんだろ?」
「……」
「優しいからな、お前。俺が兄貴みたいに戦って死ぬんじゃないか不安になってんだろ? ありがとな」
「……」
「大丈夫だ。俺は死なないし、死ぬつもりもない。周りの人間だって死なせない。で、死なない程度に頑張るさ。約束する」
「……破ったら、許しませんよ」
振り返った希美に、頼斗はサムズアップで答える。
それを見て希美も微笑み、スーツの胸ポケットから何かを取り出した。
「受け取って下さい。本当は五年前に渡さなければならなかった物だけど、才斗さんからの預かり物です」
それは赤い鉢巻きだった。五年前の戦いの際、才斗が希美に託したものである。
「これ、兄さんのか?」
「はい。……すいません、頼斗君への預かり物だったのに、今の今まで渡すことが出来なくて」
「いや、サンキュな」
鉢巻きを受け取り、頼斗はコクピットの中央、トレースシステムのある部分まで移動し、額にそれを巻き付けた。
「で、さっきの黒団子はなんだったんだ?」
「正体は不明。分かっているのは宇宙から来たこと、明らかに人工物であることくらいです。五年前のアンノウンとの関連性も現状あるともないとも言い切れません」
コンソールの操作を続けながら、希美は説明を続ける。
「サテライトベース、大気圏外にある異常観測用の施設の事なんですけど、そこが発見したのが42体。内31体は大気圏突入前に撃墜できたんですが、残りは地球への侵入を許してしまいました」
「さっきの団子はその内の一つか。でこっちに来てるのが三体、残りは?」
「消息不明です。気は抜けないですけど、まず私たちはこちらに向かっている三体にだけ集中するべきですね」
「オッケー」
気合いを入れるため頬を叩いた頼斗は、そこでふと一つのことに気付いた。
「……そういや、こいつの名前何? さっきから二号機としか言ってないよな」
「まだありません。正パイロットに付けてもらおうって、メカニックのみんなで決めていたので。でも、仮の名称を決めるのも苦労したんですよ。みんな二号機にするんだMK-2にするんだって大騒ぎになりました」
その時のことを思い出したのか、希美はコンソールの操作を止めてクスクスと笑い出す。そして、顔を頼斗の方に向けた。
「パイロット登録の準備が出来ました。音声データの登録と一緒に、一つ派手に命名してあげて下さい」
「名前ねえ……」
腕を組んで考え込む頼斗。少しの間をおいて、彼は一度大きく頷いた。
「決めたぜ! 兄さんが乗っていたのがサイファー。なら、俺が乗るのはライファーだ!」
握り拳を作り、彼は大きくそう宣言した。その様子に、希美は笑みをこぼす。
「頼斗君らしい名前の付け方だね。了解、音声データ登録。及び、機体名称をライファーに固定。トレースシステム作動、ライファー、機動します」
希美のその言葉と共に、コクピットハッチが閉じ、それまで暗かった周囲のモニターが外の景色を映し出す。
「レーダーに反応、敵を捕捉しました。正面に三、もうすぐモニターの方でも捉えられるはずです」
希美の言葉通り、すぐにモニターが遠くで光る三つの光を映し出し始めた。
「おーし、ブランクのある分、サポートは頼むぜ、希美!」
「了解!」
そして、ライファーは一度瞳を大きく輝かせると、足のブースターを点火して敵に向かって突撃を始めた。
『電光石火ゼノライファー』―――To be continued
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