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電光石火ゼノライファー 第3話

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sousakurobo

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 三体の球体人形へ向けて飛翔するライファーのコクピット内で、頼斗と希美は短いやりとりを交わす。
「武器はサイファーの時と変わってないよな?」
「はい。サポートユニットとの合体機構はサイファーより簡略化されていますが、それ以外は基本的に変化ありません」
 それを聞いて、頼斗がニヤリと笑う。
「おーし、だったらあの団子三兄弟に先制攻撃で一発ぶちかましてやるか!」
 頼斗は右腕を向かってくる人形へ向け、左手でそれを支える。
 トレースシステムで動くライファーも、それに倣って右手を人形に向けた。
「食らえ、アームバスター!」
 そして何か武器を使おうとしたのかそう叫ぶ頼斗。しかし、機体には何の変化も起きない。
「……あれ? アームバスター!!」
 もう一度叫ぶ。当然何も発射されない。
 今度は何も出ない右手をプラプラと振る頼斗。ライファーもそれを忠実にトレースするが、無論手には何の変化も起きはしなかった。
「……希美、音声入力システムは採用されなかったのか?」
 訝しげに尋ねる頼斗。
 彼の言うように本来人体には存在していない内部火器を使用する場合、サイファーは音声入力を行っていたのだ。
「えっと、音声入力は採用されてるよ。頼斗君が名前を間違えてるだけ。腕の武器はアームバスターじゃなくてアームブラスター」
 彼の問いに、希美は申し訳なさげに答えた。
「だったらすぐに教えてくれ。俺が馬鹿みたいじゃないか」
 脱力する頼斗。と、
「敵からビーム攻撃が発射されました! 直撃コースです!」
「へっ……何ぃ!?」
 頼斗は咄嗟に回避運動をとるが、間に合わずにビームが左肩に命中した。
 衝撃でコクピット内が小さく揺れる。それと同時に、頼斗の左肩に軽く痛みが走った。
 ロボットとパイロットの神経をリンクさせ全く同じ動きを取らせることのできるトレースシステムではあるが、このように機体の受けたダメージをパイロットにフィードバックしてしまうという弊害も併せ持っていた。
「くそっ、被害状況は?」
「衝撃はありましたが損傷は軽微です。あの程度の威力なら同じ箇所に七、八発当たらなければどうと言うことはありません」
「よし、じゃあさっさとお返ししてやるか!」
 三体の黒い人形から連続で放たれるビームを回避しながら、頼斗は再び右腕を敵の一体に向けて構える。
「アームブラスター!」
 すると今度こそライファーの腕に変化が起き、神経リンクのカットされた右拳が腕の中に収納される。
 そして銃口となった右腕から一条のビームが人形に向けて放たれた。
 ビームの直撃に耐えきれず、黒い人形の腹部に大きな穴が空く。と同時に、人形は炎に包まれ爆散した。
「よし、このまま残りも片づけるぞ!」
「はい!」
 頼斗は次の敵に狙いを定めた。

 時を同じくして、春風荘。
 避難を指示するアナウンスなどどこ吹く風といった様子で、善司は部屋の窓から空を眺めていた。
 目をこらせば、遠くに戦っているライファーと謎の敵の姿が確認できる。
「……」
 無言でその一点を見つめ続ける善司。と、不意にドアの方から「善司……」と声をかけられた。
「どうした、蘭?」
 窓から目を離し、善司は部屋のドアの方を向く。そこには、携帯を握りしめた蘭の姿があった。
「頼斗が携帯に出ないの……」
 そう告げる彼女の声は震えていた。よく見れば携帯を握る手もまた震えている。
 五年前にアンノウンによって家族を失った彼女にとって、この状況で不安に駆られるのも無理はない。
「……私、頼斗を探してくる!」
 普段の明るい彼女からは想像も付かないような声音で彼女は叫び、玄関に向かって駆け出そうとする。
 が、善司が彼女の腕を掴んでそれを引き留めた。
「待て、この状況で探しに出てもまず見つからない。それどころかお前だって危険だ」
「何でそんなに落ち着いてるの!? 頼斗が心配じゃないの!?」
 激しい剣幕で善司を睨みつけ蘭は必死になって腕を振り払おうとするが、予想以上の力で腕を掴まれておりそれも叶わない。
「俺だって心配はしている。だが幸い戦闘は上空で行われているし、命に関わる危険にはそう見舞われないはずだ。
それにこの状況では携帯に出ないのもそれ程不思議な話ではない。戦闘が終わってからもう一度電話をかけてみて、探すのはそれからでも遅くはないはずだ」
 努めて冷静に、そして真剣に語る善司の言葉を受けて、やがて蘭は小さく頷いた。
「……わかった。ごめん、大声上げちゃって」
「いや……」
 善司は蘭の腕から手を離し視線を再び窓の外、戦闘が行われている場所に向けて口を開いた。
「心配するな。あいつなら大丈夫なはずだ」



「アームブラスター、発射!」
 ライファーのアームブラスターが二体目に向けて放たれる。
 だが、敵は完全に胴体部を捉えた筈の一撃を体をいくつもの球体に分裂させることで回避した。
「野郎、分裂しやがった」
「伊達や酔狂で体を球体で構成しているわけではないということですね。敵球体群、エネルギー反応増大。こちらに対してビーム攻撃を仕掛けてくるつもりのようです」
 希美の言ったとおり、分裂した球体一つ一つがそれぞれライファーに向けてビームを放ってきた。
「ちっ、一つ一つ潰してる余裕はないか……」
 アームブラスターで一体ずつ落とすのはリスクが大きいと判断し、頼斗は別の武装を使用することにした。
「ラピッドフィンガーショット!」
 頼斗のかけ声と共に、収納されていた右拳が再び姿を現す。
 そして両手の指先に内蔵された機関砲が球体群に向かって火を噴いた。
 威力はアームブラスターに比べて数段劣るものの、広範囲の敵に対応するには有効な武装である。
 無数に降りかかる銃弾の嵐を受け、球体群が一つ、また一つと撃墜されていく。
 と、希美がライファーに向かって急接近するエネルギー反応を感知した。
「左から攻撃が来ます! 回避して下さい!」
「何っ!?」
 ライファーが攻撃を中止して回避運動を取る。直後、先程までライファーのいた地点を高出力のビームが通過していく。
 ビームの放たれた方に目を向けるライファー。そこには、今までのものよりも二回り程巨大な黒い球体人形が存在していた。
「新手か!」
「妙ですね。データでは飛来した物体に大きさの差異はなかったはずなのに……」
 希美のその疑問の答えは、目の前で敵が身をもって解答してくれた。
 今まで戦っていた球体の残り、そして残るもう一体の人形が分裂し新たに現れた大型の人形に結合したからだ。
「一体一体じゃ勝てないから合体か。どこも考えることは同じなんだな」
「解析の結果、あの敵を構成している球体は今までのものの約八倍と測定されました。恐らく地上に降りた機体の全てが結合していると推測されます」
「つまりアレを片づければ万事解決ってわけか。丁度良い」
 頼斗は右腕を敵に向ける。

「アームブラスター!」
 ライファーの右腕からビームが放たれ、人形の左肩に直撃して爆発が起きる。
 だが、人形に動じる様子は全くない。それどころか地面に転がっていた球体の残骸が再び左肩に集結し、破損部が即座に復元されてしまう。
「効いてないのか!」
「確かに相手の肩部は破損していました。敵の構造から考えて、心臓部を破壊しない限り球体を再結合して破損部を復元できるのだと思われます」
 希美がコンソールを操作しながら口を紡ぐ。
「よし、なら俺がもう一回攻撃するからエネルギーの流を調べて心臓部の位置を特定してくれ」
「了解です」
 再びアームバスターを発射するライファー。それに対して、敵は頭部の球体から放つビームで対抗してきた。
 ライファーと大型人形の丁度中間辺りの空間で二つのビームが直撃する。同時に辺り一面がまばゆい光に包まれた。
「野郎、味な真似してくれるじゃねえか」
 左手で光を遮断しながら、頼斗は悪態をつく。
「合体した分、ビームに使用できるエネルギーが増えたのでしょうね。出力はアームブラスターとほぼ互角でした」
「そりゃ、やっかいだな……」
 と、ライファーのセンサーがエネルギーの反応をキャッチした。
「攻撃、来ます!」
 希美の言葉を受けて頼斗はすぐにその場から離れた。それと同時に、ビームが今までライファーのいた場所に向けて放たれる。
「にゃろっ!」
 すかさずそこにアームブラスターによる攻撃を加える。狙いは頭部の球体、ここを潰せば復元するまでビーム攻撃は行えないだろうと考えたからだ。
 そして狙い通り頭部に命中、爆発が起きる。
「よっしゃ! これで少しの間攻撃は出来ないだろ」
 一気に大型人形との距離を詰めようとする頼斗。
 それを希美の叫び声が阻んだ。
「敵の両腕にエネルギー反応!」
「っ!?」
 直後、人形の両腕から放たれたビームを紙一重でかわす。
「危ねぇ……そういやついさっきまで分離してビーム撃ってたんだよなあいつ」
 額の汗を拭う頼斗。そんな動きまでライファーは忠実に再現する。
「敵機、頭部の復元を終えました」
「心臓部は?」
「ビーム攻撃の際のエネルギーの流れと合わせてほぼ特定できました。やはりと言っては何ですが、胴体の中央部です」
「よし、だったら隙を突いてアームブラスターを叩き込んでやるぜ」
 頼斗の言葉に希美が首を横に振る。
「無駄です。アームブラスターの火力では心臓部まで攻撃は届きません」
「だったら……」
「はい、ブラストナックルファイヤーです」

 ブラストナックルファイヤー。それはエネルギーを炎の塊にに変換し敵にぶつけるという、サイファーの武装中最大の火力を誇った武装である。
 頼斗はその必殺武器を使用するべく、右腕を腰に据えた。
「ナックル、エネルギーチャージ!」
 音声入力を受け、腰に据えられたライファーの右腕にエネルギーが収束し始める。
 無論そんな隙を見逃すはずもなく、大型人形がライファーに向かってビームを放ってきた。
 それに対して、ライファーは左腕を正面に突き出す。
「サークルプロテクション!」
 瞬間、ライファーの左腕から円形の防御フィールドが出現、ライファーの正面を覆うように展開された。
 そしてビームがサークルプロテクションに接触し、頼斗の左腕に衝撃が直に伝わってくる。
「グッ……エネルギー充填率は!?」
「97……98……99……行けます!」
 その言葉を受け、敵の攻撃が止むと同時に頼斗は機体を急上昇させる。
 そして人形を見下ろせる位置で静止すると、右腕を天に向かって突き上げた。
「右腕アーマー、展開!」
 頼斗の言葉を受け、突き上げられたライファーの右腕装甲の一部がスライド展開する。そして、スライドした装甲の隙間から炎が吹き出す……と頼斗と希美は疑いもなく思っていた。
 だが、装甲の隙間からは炎など微塵も噴き出さず、その代わりに溢れんばかりの電流が流れ出始めた。
「なっ……!?」
「何ですか……これは……」
 予想外の事態に戸惑う二人。機体の故障かとも思ったが、右腕のリンクは正常に行われている上、頼斗の右腕は特に痛みも感じていない。
 と、突然モニターに『BLAST KNUCKLE SPARK』の文字が浮かぶ。
「ブラストナックルスパーク? こんな武装、取り付けた記憶は……?」
 戸惑う希美を余所に頼斗は天に突き上げられ、電撃を纏ったライファーの右腕を一度見て、アバウトに結論を出した。
「ま、どの道炎だろうが電撃だろうが結局ぶちかますことには変わりないか。行くぜぇぇぇっ、ブラストナックル、スパァァァァァクッ!!」
 頼斗は天を向いていた拳を人形に向けて突き出す。
 同時に、ライファーの右腕から凄まじい勢いの電撃が放たれた。
 自らに向けて放たれたブラストナックルスパークに、大型人形は頭部と両腕からビームを放って対抗しようとする。だが、その攻撃は電撃の奔流に触れた途端、あっさりと飲み込まれ消え失せてしまう。
 そして電撃の矢は見事に人形の胴体を捉え、一瞬にして人形の腹に大きな風穴が形成された。
 一瞬の静寂の後、人形は大爆発を起こし、黒煙が周囲に広がっていく。
「やったのか?」
 間違いなく倒したのだと確認するまで気を抜かず、頼斗は身構えながらそう尋ねる。
「敵機の反応、完全に消失しました。撃破したと考えて間違いないです」
 希美がはっきりとそう言いきった所で、頼斗はようやく肩の力を抜いた。
「ふぅ、どうにかこうにか片づいたな」
「お疲れ様でした」
「ああ……」
 短くそれだけ言葉を交わすと、二人とも何を話すべきか分からず顔を見合わせたまま黙り込んでしまう。
 コクピット内に微妙に気まずい空気が流れ始め、そんな空気に耐えられなくなった頼斗がとりあえず口を開いた。
「……そういやさっきの電撃の事、お前も知らなかったんだよな?」
「えっ? はい、これっぽっちも知りませんでした。……よくよく考えてみれば開発仲間の私に内緒で変な武装を追加しているなんて、ちょっと許せませんよね」
 フフフフフと、とても良い笑顔を浮かべる希美。それは彼女を知っているものが見たらすぐさま全速力で逃げ出すだろうと思わせる程の、とっても良い笑顔だった。
 頼斗は心の中で顔も知らないメカニックの皆さんに合掌を送る。
 何となく頼斗の考えていることが分かったのか、希美は小さく微笑んだ。
 が、すぐに人形が爆発した地点に目を移し、今度は険しい顔で何事かを考え始める。
(それにしても、思っていた以上に簡単に勝つことが出来た。人工物であるのは確実として、送り主が私たちの戦力を見誤っていたんでしょうか? それとも試されていた? こちらの戦力を……)

 戦闘の終了と同時刻、戦闘の起きた場所から遠く離れたとある町。そこに、黒人形との戦闘を終え空中に佇むライファーに向けて拍手を送る壮年の男がいた。
 黒い紳士服で身を包んだその男は、常人では決して見ることができない筈の距離から今の戦闘を余すところなく観察していたのだ。
 男の不可思議な点はそれだけではない。彼は建設中のビルの天辺に、まるで蝙蝠のように逆向きに立っているのである。
「ブラボー、流石に殲滅プログラムの第一段階を退けただけのことはある。中々良い戦闘兵器じゃないか」
 男は懐からシガレットケースを取り出し、煙草のようなものを一本口にくわえる。
 そして左手の人差し指からまるでライターのように火を灯し、煙草に火をつけた。
「……でも、残念だったね。僕が来てしまった以上君たちには滅亡という未来しか残されていないんだ」
 男はスーツの襟元を正す。と、それまで磁石のように鉄骨に吸い付いていた足が唐突に離れ、男は重力に従って地面に落下を始めた。
 だが、地面に激突する寸前に男は足を下に向け、何事もなかったかのように地面に着地する。
 これまた不可思議なことに、周囲の人間で男の今の行動に気が付いた者は誰一人として存在しなかった。
「さてと、仕事の前に少し町を歩いてみようかな。何か僕の琴線に触れるものが有るかも知れないし」
 男は小さく微笑み、人混みに紛れて消えていった。



『電光石火ゼノライファー』―――To be continued

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