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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.8A

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匿名ユーザー

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闇。
 全てを汲まなく覆い、包み隠すそれのただ一点を上方より白い光が丸く縁取り、鮮烈に切り出す。

「………………」

 そこには1人の年老いた男がいた。
 木製の椅子に腰掛け、ただ前を見据える。その眼光は彼が老いているとは思えないほど力強く、そして真っ直ぐだった。

「――久しいな、我が父の友だった男よ。」

 何処からともなく男の耳へと届き、響く声。
 物静かで、落ち着いた――だがどこか高圧的にして威圧的なその声の主は、不意に彼の目の前へと姿を現した。

「――アレーティア、か……ふん、変わらんな貴様は。」
「そういう貴方は年老いた。」
「当たり前じゃ。“人”なのだからな……セカイの理を逸脱した貴様らとは違う。」

 老人は敵意を露に、そのアレーティアと呼んだ黒衣の男を真っ向から睨む。
 だがその当の本人はそんな視線を意に介する事無く、言葉を続ける。

「我等とて好き好んでこうなったわけではない……それは貴方も分かっているだろう?」
「…………」
「それに私は貴方をこのような事を語り合う為に、ここへと招待したわけではない。」
「だろうな……ならばこんな老いぼれ、何ゆえ浚った?今のワシに貴様らの足しになることなど何1つとしてあるまいて。」

「――全ては我等が“父”の意のままに。」

 その言葉を聞き、なるほどなと頷く老人。

「やはり、か。貴様らも、そしてワシも、所詮何処まで行けどもあの男の呪縛からは逃れられんのじゃな。」
「そういう事だ。」

 観念したような声を吐く老人。しかし――――

(だが、あれなら……“イグザゼン”なら……“O(オー)”の最も近き写し身、予定調和の外にあるあの“解”ならば、その限りではあるまい。アリス、ディー、リョウ――――総てを、託したぞ。)

 彼の瞳は、光を失ってはいなかった。



eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.8




 翌日。我が家にて。
 昨日見たバールが残したメモリに写っていたアレ――リョウが言うにはロン‐クーロンという男の屋敷――は以前もリョウが言っていたように、このスチームヒルの隣のジャンクヤード“アクアリング”にある。
 一体何があるのかは勿論分からないが、今ある唯一の手掛かりであるそれを調べてみない手は無い。ただ日帰りで行けるほどそこはここから近くは無く、
 そこで見つかった物次第ではしばらくここに帰ってくることも無いだろう。

「っと……これで全部か。」

 そんなわけで旅の荷支度を済ませていた俺。
 大き目の緑色をしたリュックサックに非常食やライト、携帯ラジオなど諸々を詰め込み、半壊したバールの部屋にはアリスに手伝ってもらい、応急処置として大きなブルーシートを屋根から被せておいた。
 元々ここらは乾燥しているので、雨風を凌ぐならこれぐらいで十分だろう。

「しばらく家を空ける事は周りの皆に伝えておいてあげたよ。勿論何が起きたかと聞かれたが……」
「言ったところで……なぁ?」
「そういう事だ。適当にはぐらかしておいた。」
「サンキュ。」

 キャリアーに戻ってきた俺に一足先に帰って来たらしく、そう言うリョウ。
 ……股の下に両腕を高速回転させているなんだか良く分からない一輪車がいたような気がするが見なかった事にしておく。

<ソリャナイゼェ~!>

 旅というと大概心躍るものだが、こうもワクワクしない物も珍しい。
 まぁ当たり前か。目的が観光じゃない、皆を助ける為なのだから。

「では、出発するよ。忘れ物は無いかい?」
「ああ、大丈夫だ。」

 運転席にリョウ。助手席に俺。後部座席にアリスとミッチーを乗せたリョウのキャリアーは、俺の返事だけ聞くとゆっくりと動き出した。

(………………)

 ゆっくりと、加速度的に遠く離れていく我が家。それを俺はただ眺めていた。


 果ての見えないジャンクの海。
 その内に孤島の如くぽつりぽつりと点在するジャンクヤード。
 それぞれを繋ぐ整った陸路は無く、ジャンクヤード間を移動するには専らそれらを地下で繋ぐ高速鉄道“ギガライン”なるものが用いられている。

 ジャンクヤードの地下。丁度ヒルズコンビナートの直下に設けられたギガライン専用の停車駅。
 構内は行き交う人々でごった返し、はぐれたら二度と出会えないのじゃないかなんて思えてくるほど。そんな中を俺達は極力離れないようにしつつ縫うように歩いていく。

「相変わらず凄い人と熱気だね……普段こんな所来ないから余計そう思うよ。」
「年がら年中引き篭もりだからな。」
「引き篭もりとは酷い言い草だな。ただ出る必要が無いからそうしていないだけさ。」
「ふぅ~ん……」

 先頭をリョウが行き、その背後を俺とアリスが行く。
 ちなみにミッチーはリョウの背中に括り付けられ、おぶられていたりする。ウロウロされて見失ったりしたら大変だもんなぁ。まぁそれはともかく

「……しかし重いね、君は。少しシェイプアップしたらどうだい?」
<肉抜キ!?肉抜キナノカ!?走ッタダケデボキッテ折レルノハヤダ~!>

 ……完全インドア派には少々文字通り荷が重かったようだ。
 だが手伝ってやるつもりは毛頭ない。自分が一番そうなのに人に運動不足なんか言った罰である。

「あれか……いつ見てもでかいなぁ……」
(……要塞か、あれは?)

そんな調子でしばらく歩いた後、人ごみの更に向こうに聳える壁のような何かを皆で仰ぎ見た。

 大型キャリアー3両分ぐらいはある横幅。
 高さもビル数階建て相当という巨大なもの。
 こんな馬鹿みたいにドでかい列車がそれぞれのジャンクヤードを繋ぎ、この世界の経済を成り立たせているのだから良く考えてみれば凄いもの。
 そしてこれだけのでかさである。人は勿論場合によればキャリアーごと載る事も出来、金さえ払えば個室なんかも使えたりする。

「さ、時間には余裕はあるが早々に乗ってしまおう。その方が楽だからね……」
<ジュウリョク100!ジュウリョク100!>

 なんかさっきより元気がなくなっている気がするが放っておく。

 ちなみに言わずもがな、今回の旅にはリョウとミッチーも付いてくる。
 急ぐなら前みたく俺達だけでイグザゼンの力を使って飛べばいいんじゃないかとリョウには言ったが

「アクアリングまで行った所で屋敷の位置が分からなければ意味が無いだろう?それに僕だって少しぐらいは役にも立ちたい。水先案内は任せてもらおう。」

 と最もな言葉を返され、アリスからも“奴ら”の襲撃に備え体力は出来る限り温存しておいた方がいいと言われて、結局これを用いる事と相成った。

(“奴ら”か……)

 アリスを追って来たらしく、俺らを軽く伸して何故かバール達を浚った連中。
 アリスが“励起獣”と呼んだヘドロのような怪物とか、同じくアリスに“ビルドグランデ”と呼ばれ、ソートギガンティックが倒した機械の怪物とはまた別の勢力らしいが、
どうも俺には似たような“臭い”がしている気がしてならない。
 この世界から“ぶれた”ような、“奇妙”かつ“理不尽”かつ“不自然”極まりない“臭い”。
 正直俺の頭じゃどう言葉で表せばいいのか良く分からないが、そういうどうしようもない違和感を奴らから受けたのは事実。そして

(イグザゼン……)

 そう。イグザゼンからも。
 この違和感の正体が何なのかは勿論分からないが、少なくともこれらはある意味では“同類”なのには間違いない。
 ただ、イグザゼンがあいつらの同類だとしてもやる事は変わらない。俺の力として使えるなら使えるだけ使ってやるだけだ。

「…………」

 俺には難しい事は分からない。
 アリスのこと。あの本の事。イグザゼンの事。怪物の事。奴らの事。そして、ロン-クーロンの事。
 一寸先は闇の中、のたうつような状態の俺。だが、やる事だけは決まっていた。

(皆を取り戻す……ただそれだけだ。)

「……ディー?」

 黙って考え込んでいたのをいぶかしんだのか、あの子が声を掛けてきた。
 この子も奴らに追われていた。だけどあの時、奴らは敢えて泳がすような事をした。理由なんて分かるはずも無いが、ぶっちゃけそんな事はどうでもいい。考える必要なんてありもしない。

「いや、何でもない……行こう。」

 ギガラインの城壁のような車体。
 その内でも客車には高い箇所にある入り口ごとにタラップが掛けられており、そこから中に入れるようになっている。

「…………」

 赤錆びた階段を一段ずつ昇る。
 随分上がった所で一瞬後ろを振り返った。見えるのは先程と変わらずごった返した駅構内。

(……行ってきます。)

 心の内でそう呟く。
 お得意さん達は家の前に張り出した張り紙を見てどう思うだろう?この街にまたあの化け物が現れる可能性は?

 名残は勿論惜しい……が、今はそれ以上にやらねばならない事がある。
 故に俺はスチームヒルを去る。

 ――次に帰って来るときは、皆と一緒である事を信じて。


 ギガラインはでかい――いや、長い。
 この世界にある乗り物の中でも随一の規模である。全長約3キロ。最前部から見て最後尾が見えないというのだから相当だ。
 全両合わせてどれぐらい数あるのかは知らないが、実は客車は初めの数両のみ。
 後は貨車やらそういった類のものが延々と繋がっており、そんな巨大な物が地下を走り遠く距離を隔てたジャンクヤード間を直線で繋ぎ、人や荷物を交互に運び、それぞれを潤し、満たす。

 ちなみにここから輸出される物は、ほとんどがジャンクからの再生品。
 俺達スカベンジャーが拾い集め、専門の業者によって買い叩かれて内側の倉庫街で備蓄され、必要に応じてヒルズコンビナートで加工され、使えるようになった物。
 どうでもいいがスチームヒル産の再生品は質が良い事でも評判だったりする。

 そして、今回俺達が乗るギガラインが向かう先はジャンクヤード011通称“アクアリング”。
 ジャンクヤードとしての規模は中程度。スチームヒルより少し小さい程度。農業を産業の中心としており、ジャンクヤードの中では珍しく緑が多い……らしい。

(…………)

 らしい、というのは俺自身が直に見た事がないというのが理由。今まで言ったのは全部本やら雑誌やらテレビなんかの受け売りである。
 例え隣でもジャンクヤードとジャンクヤードの間は極めて広くギガラインみたいな便利なものが敷設された今の世の中でも、一生を1つのジャンクヤードで過ごす人は少なくは無い。
 肝心の俺はというと休暇にバールに連れられ何度か他のジャンクヤードに出かけた事はあるが、アクアリングを訪れなかったのはただ単純に縁が無かっただけだろう……閑話休題。


 今俺がいる場所は、リョウが自腹で借りてくれた個室。
 2段ベッドが2つ左右に並び、中央の突き当たりにドア、もう片方に窓がある単純な造り。実質自由に動けるのはベッドの上のみという狭いと言えば狭いが、
 どうせここでする事と言えば寝る事だけだし気にするほどでも無い。ならそんな所で何をしているのかというと

「…………」

 特に何もしていないと言うのが実情。
 乗ってしまえば目的地に着くまでは何もする事は無い。何もする事が無ければ、こうやってぼうっと考えを巡らすぐらいしか暇も潰せない。寝ようとは考えたがどうも目が冴えて寝る事もできない。

「はぁ……」

 ぼうっとしつつ眺める窓の向こうは真っ暗闇。
 地下を走っているのだし当然だが、アクアリング到着まで丸1日こうだと考えると少し気が滅入ってくる。

「…………」

 ちなみに俺以外はどうしているのかと言うと、リョウは早々に寝てしまい、ミッチーも出歩きたいと駄々を捏ねていたが、忘れられがちだがこいつも一応はバリード。下手に動き回れば騒ぎを起こしかねない。
 そう言う俺の説得に渋々ながらも応じ、しばらくは大人しく窓辺で外の様子を伺っていたが、時期に飽きてスリープモードに自ら入ってしまった。
 で、アリスはというと気付かない内に何処かへふらっと出かけてしまい帰ってこない。
 まぁいくらこれがでかいと言っても一般人がうろうろ出来る範囲はそこまで広くは無い。その内帰ってくるだろうと考え、追いかける事もしなかった……しなかった、が。

「……………………」(10分経過)

「………………………………」(30分経過)

「………………………………………………」(1時間経過)


「……やっぱ、追いかけたほうが良かったかな。」

 あの子の事だから心配はいらないだろう。余計なお世話だと言われるかもしれない。
 なので、単純な俺の気持ちの問題である。他に理由があるとすれば真っ暗闇を眺めるのにも飽きたというのもあるし、小腹が空いたというのもあるが……まぁそれらは横に置いとく。

「よっと。」

 そんなこんなでおもむろに俺は立ち上がると、ひとつ伸びをした後ふらりと部屋の外へと出て行った。


 途方も無く巨大な列車。
 私はその中にいる。列車というものをデータで知る事はあったが、実際に乗ったのはこれが初めて。逃亡する前も、した後も、乗り物に乗る機会などほとんど無かったからだ。

「…………」

 平均時速は80キロほど。
 乗り心地も悪くは無い。一度に大質量の貨物を運搬するには理想的な形だろう。
 全体が物々しい重装甲に覆われているのは何者かの襲撃を予想してか……そのような事私の知る由ではないが、対象を逐次に観察すると言う事は半ば本能。必要が無くてもしてしまうのが私と言うものだ。

 そして今、私がいるのはこの車両に備え付けられた食堂らしい。
 長い机が5つほど並び、何人かの乗客達が思い思いの席で食事を楽しんでおり、程々に賑やか。
 もっとも、それらを行う必要の無い私と言えば端の席で暗い外を眺めているだけだが。

(……何故ここに来たのだろう?)

 疑問に思うが答えは無い。
 何1つ意味の無い行動だと分かっていて、更に彼から目を離すという行いは危険だと言うのも理解しているというのに。
 彼から離れたかった?逃げ出したかった?そんな筈は無い。そんな筈は無い……はずだが。

「……何故だろうな。」

 誰にも聞こえない声はその疑問と共に誰の耳にも届く事無く空へと消える。

――そんな私の耳に、何者かの下卑た声が聞こえたのはそう間も無く、だった。

「ほぉ~?嬢ちゃんカワイイねぇ!」
「お前さん1人かい?その身なり……出稼ぎだろ?そんなカワイイのなら普通に働くよりよっぽど稼ぎになるとこ知ってるがどうだい?」
「それが嫌ならおじさん達と一緒にこねぇか?サービスするぜ?ヘッヘッヘッヘッ!」

 見れば回りを囲う3人の大柄な男達。
 出稼ぎか……つなぎ姿の私を見ればそう思うのも無理は無いが、問題はそれ以外。
 どう見ても真っ当な人間とは思えない、人を嘗め回すような視線。不快感極まる言動。そして悪臭。
 人の世というものをあまり知らない私であるが、これらの者共が精神的に最底辺の存在である事ぐらいは理解できる。こんな者達に絡まれる筋合いは1つとしてないが、降りかかる火の粉は払わねばなるまい。

「オラ!無視してんじゃねぇよ!損はさせないからよ……!」

 男の1人の腕が私に迫る。
 どうせこちらの事などお構いなしに連れ去るつもりなのだろう。ならば、私もその気が無くなる程度には容赦しない。

――ゴキッ

 そんな音がした。
 鈍い音。何かが折れる音。曲がる音。

「いでででぇぇ~~~~~~~っっ!!!」

 有り得ない方向に腕が曲がり、痛みのあまり椅子などを蹴飛ばし地面をのたうつ男。
 他の男達は呆然とし、その様子を見ている。

「な、何が……!」
「このガキがやったのか!?」

 この調子ならこれ以上やる必要も無いだろう。
 私は彼らの内1人を見定め、目を細めつつひとつ警告をしておいた。

「次はお前か?」

 一気に青ざめ、血の気の引く男の顔。
 それはもう1人も同じだ。私の評価を1人の少女から未知の脅威へと変え、のたうつ男を肩に担いで一目散に退散していった。

「ひ、ひぃぃ!?」
「バッ、バケモノ!!」

 怪我をしている仲間を放っておかなかったのは少し見直すが、以前の強盗といい、今回の彼らといい、このセカイにはこんな者達ばかりが蔓延っているのだろうか?
 私には関係の無い事だが、ここに暮らす真っ当な者達は少々気の毒にも思う。

「…………」

 気付けば、一部始終を目撃していた乗客達の視線は私に集まっていた。
 無理も無い。あのような屈強な男達を軽々と退けるような子供が何処にいると言うのだ。彼らにとっても私はあの男達と同じく奇異な存在として見えている事だろう。
 見られる事自体はどうでもいいが、こうやって複数人に凝視されるのは私とて好く事ではない。そう思い、早々に退散しようと席を立った時だった。

「すげぇな、ねぇちゃん!あいつらを軽くひねっちまうなんて!」
「ありがとよ!いつもあいつらにはほとほと困ってたんだ!」
「格闘術とかなんか習ってるのかい?カッコよかったぜ!」

 何故か口々に感謝の言葉を口にしながら私の周りに集う乗客達。
 完全に予想外の行動。困惑する私にその内の1人がその理由を言ってくれた。

「あいつら、いつもここでああやって女子供を浚ってたのさ。対抗しようにも腕っぷしもえらく強くて、その上捕まえようにも金をばら撒いたのかここの自警団も知らん顔でどうしようもなかったんだ。
それをああも簡単にやっつけてくれて……いやぁ、スカッとしたよ!ホント!」
「いや、礼を言われる事は……」
「そう謙遜するこたぁねぇ。そういやあんた何にも食べてなかったな?出稼ぎで金に困ってるんだろ?奢ってやるよ!」
「おばちゃーん!究極ランチセット頼むわー!」
「あいよー!」

「………………」



どうしてこうなったのか?
……私には理解できない。



 1時間後、様子を見に来たディーを待っていたのは噂を聞きつけ更に集まった沢山の乗客達にもまれて、逃げるに逃げられず困った顔をしたアリスだったとか。

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