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souzou

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1週間ほど前に俺と同じミッションに参加したそいつは俺より少し若い奴だった。

この作戦が終わったら母に会いに行けると言っていた


あっけないもんだった…運が無かった…力に頼りすぎた…


『ジャーム化』俺達オーヴァードへの死の宣告。

そして俺はスコープ越しに奴を見つめている。


無線機がノイズ交じりの音声を伝える。

「こちらα、全チームに通達。周囲一帯の避難完了。ΩはプランB1開始せよ。」

「こちらΩ。プランB1了解。」

障害物の陰から標的が安堵する顔が見える。見た目にはジャームとは思えない。

「こちらα、Ωどうした?トラブルか?」

「こちらΩ。ポジションが良くない。この位置では無力化できない。標的を9時方向に誘導願う。」

「α了解。β、γは標的を誘導せよ。」

通信が切れると2チームからの攻撃で標的が障害物から追い出される。

あせる表情、叫ぶように開かれる口…

そして標的は俺に背中を向けた。

トリガーは羽のように軽い。

スコープに捕らえた男の背中に穴が開いた。

その瞬間体が風船のようにはじけ飛んだ。


「こちらα、敵戦力の無力化を確認、事後処理に入る。」

俺はビルの屋上に伏せた状態でサイト・スコープから目を離さずに返答する。

「Ω了解。」

「全チーム、プランY2にて撤退。以降、このチャンネルは通信封鎖する。」


風は冬の始まりを告げる様に冷たく街並みは少し寂しそうな雰囲気を醸し出す。

「こんな寒空に3時間も待機させやがって…」

自分の身長よりも長い対オーヴァード用ライフルを分解しギターケース型の隠匿用ケースに収めてゆく。


明日は我が身…

ジャーム化した者の魂を救う事はできない…

人間を超えた力を授けられた者共が背負う罪の十字架…


屋上を後にする時、何かに後ろ髪を引かれて背後を振り返る。

「『もし、僕が死んでしまったら…』か…約束は守るよ…」

いつの間にか夕暮れが迫り、全てを赤く染め上げていった。



一時間後、何故か俺は『猫』を抱えて夜の闇を疾走していた。

雪のような真っ白な体に紅玉の様に赤い目。

何故か猫は「揺らさないで走れ、バカ人間」と上目遣いで苦情を言っている。

実は今の所『何故しゃべるれるのか』と言う素朴な疑問はさして重要じゃない…

一番の重要なのは街中で平然と銃を乱射するような奴に追われていると言うことだ。


再度、胸元で猫が話しかける。

「逃げてないで反撃しろ!腰抜け!」

「うるさい!バカ猫!黙ってろ!」

「バカ猫とは何だ役立たず!」


追っかけてくる人数が徐々に多くなっているの気のせいとは思えない。

走る俺の横を銃弾が掠めていく…


正確に言おう、実は先ほどから何発か当たってる。

作戦時に着ていた防弾服を脱いでいなかったのだが、拳銃の弾程度では貫通しない代物。

オーヴァードならライフル弾でも打ち込まれなければ問題ない。


前から別部隊らしい奴らが迫ってくる。

角を直角に駆け抜け市外に向けてひた走る。

いきなり衝撃が体の横を掠め、後から銃声が響いてくる。


「音が後から来る?ライフルを使ってきたぁ!」

叫び声をあげながら全力疾走

また、一発掠める。

髪の毛が衝撃で何本か抜け、衝撃で一瞬目が霞む。

『大口径ライフルを使ってる?』

あせる俺の目の前に橋が見えてくる

「今掠めたぞ!反撃しろ!役立たず!」

「黙れ!飛ぶぞ!」

猫を怒鳴りながら走ってきた勢いのまま橋の欄干を飛び越え河の流れの中に飛び込む。

「バカ人間!何考えてやがる!!!」

「うるせーバカ猫、風邪引いて死ね!」

俺の怒鳴り返す言葉が終わらないうちに1人と1匹は河の中に消えていった。


河から上がって尾行者がいないのを確認し、慎重に這い上がる。

しばらく辺りを警戒し、仰向けに転がると腰の防水ポーチからタバコとライターを取り出し火を付ける。

「こう言う事は肉体派にお任せしたいね…」

煙から逃げるように移動しながら体についている水をブルブルと振い飛ばしばがら言う猫が言う。

「肺癌で死ね。自殺願望のバカ人間」

「伏流煙と言う言葉は知っているかバカ猫?」

「…」

暗闇に険悪なムードが漂い出す。

横のバカ猫を無視してタバコを吸いながら黙々と装備の確認をする。

防弾服…弾を何発か喰らった上に水浸し…

借り物のオートマチック拳銃…こいつはバラして整備が必要だな…

始末書もんだなと陰鬱な気分になる。

『まったくついてない』とタバコの煙を何回か吐き出した時、

防水ポーチの中の携帯電話が震える。

見ると連絡主は支部長だった。


「伊吹か?さっき霧谷さんから連絡があったんだけどさぁ~

 FHの実験施設から実験体『ホワイトα』と呼ばれているオーヴァードが脱走しこのK市に進入してきたらしいだよ。

 迷惑だよね。」

「実験体?」

「…詳細は掴めていないんだけどさ、FHの実験施設に潜入していたエージェントの報告によるとね、

 実験施設では動植物のオーヴァード化を実験していたらしいだよ。

 つまり、実験体『ホワイトα』は動植物の可能性があると言うこと。

 分類的には、人間も動物なんだから不可能じゃないんだろうけどさ…

 とにかく『捕獲しろ』ってのが上からの指示なんだ。」

「捕獲?」

「そう捕獲。

 こっちはFHの捜索隊らしき部隊と情報戦を展開中でね手一杯なんだよね。

 と言うわけで手が空いてる君が捕獲してくるってわけ、よろしくー」


通話の切れた携帯を見つめながら『俺って不幸だな』と呟き、しゃべる猫を睨みつける。

『動物かもしれない実験体』『しゃべる猫』『街中で銃を乱射する集団』

あまりの不幸な偶然に目眩がしてくる。

もう一度呟く『俺って不幸だな』



取り敢えず、本部からの救援が来るまでは逃げ回るしかないと判断。

くそ寒い中、痕跡を消す為に再度川に入り本部とは逆方向に向かう。


寒い・とにかく寒い・オーヴァードでも寒いもんは寒い!

少々、いらいらしていたかも知れない。

「そこから出てきてもらえますか?貴方が『ホワイトα』を保護している事はわかっています。」

男の声が聞こえいつのまにか俺は囲まれていた。


「だとよ、バカ猫」

「うるさいバカ人間」

俺は物陰に潜みながら様子を伺う。

包囲は隙がなく戦わずに抜け出せそうにはない…

しかたなく防水ポーチから煙草出し火を付ける。


「…なんで逃げ出した?」

「関係ないだろ」

「十分迷惑がかかってるんだが?」

「…」

「まぁ、言いたくないなら別にいいけどな」


「仲間が…」

赤い眼をした白ネコは辛そうに目を伏せ絞る様に声を出す。

「そう仲間…

 同じ実験体として捕まった仲間達がいたんだ。

 俺たちは奇妙な薬を飲まされ、注射され、良くわからない機械で毎日体を調べられた…

 βは運動機能に問題があったと、そこで働いている人間が言っていた。

 それで細胞再生実験っ言ってたかな…

 生きたまま焼却し細胞の再生速度を観測する実験に使われた…

 ΙとΖは組織移植実験で互いの体のパーツを交換された。最後は脳ミソを半分づつ交換された…」

辺りを伺う俺の目の端で自らの心を引き裂く言葉を吐き出す。

「おいら達は死ぬ自由さえなかった…

 普通に生きていたのに…普通に死にたかったのに…

 只の猫でいたかったのに!

 だから、逃げ出したんだ!」


俺とユキの記憶がフラッシュ・バックする。

自由が欲しかっただけなんだ。

「それでいい…」

びっくりしたような顔で猫が顔を上げる。

俺は日常を、自由を守る。

それが人であって人ではない、同属殺しの裏切り者である俺たちのなけなしの誇り。

それこそが、俺が心に抱く贖罪と義務の2つの十字架だ。


「出てきて頂けないようですね…残念です。」

パチンと指を鳴らす音と共に銃のコッキング音が響き渡る。

「撃ちなさい」

男が命じると俺達を囲んだ気配から銃撃が俺の潜んでいる辺りにばら撒かれる。

銃弾がまるでスロー再生の様に迫ってくる。

四方から迫る銃弾が体を切り裂く寸前、俺は人では飛び上がれないような高さに跳躍する。

足元に敵を収め、つぶっていた目を見開く。

力を解放する証、両眼が”真紅(クリムゾン)”に染まる。

俺の体の回りはいつの間にか血霧が漂い、舞う血霧が嵐となって敵を穿つ。

「ブラッティー・ストーム!」

十重・二十重と囲んでいた者達は体中を貫かれて倒れていく…

草むらに降り立った時、俺を包囲していた者達は次々と倒れていった。


「お見事です。」

拍手と共に崩れ落ちる人影の後ろから一人の男が前に出る。

「そして残念です…

 貴方のような才能を持つ方を殺さなければならないなんて…

 どうですか?我がFHでその力を生かす気はありませんか?

 これが私が差し上げられる最後のチャンスです。」

ホワイトαが心配そうに俺を見上げる。

暫くの静寂の後、俺は口を歪ませ鼻を鳴らす。

「こんなバカ猫一匹捕まえるのに苦労している使えない奴らの仲間になれ?

 そりゃもの好きってもんだ。」

「な、誰がバカ猫だ!バカはお前だ!バカ人間!」


男の髪の毛が逆立ち体が電光で包まれる。

「貴方いい度胸ですね…死んでから悔やみなさい!」

ドゥォーンと音がすると高電圧の電撃が俺を中心に暴れ回る。

心臓の鼓動が停止し血が沸騰するが、レネゲイドウィルスが俺の肉体を瞬時に再生(リザレクト)する。

俺は流れ出す血を矢にして投げつけるが、雷光に包まれた敵は神速で全て避けきる。

「この磁力の結界の前には児戯に等しい技ですね…」

スッと、刺された指先から電撃が飛ぶ。

衝撃が体を揺さぶり自分の意思とは関係なく膝が落ちる。


上体が揺らぎ倒れそうになるのを手を地面に付き防ぐ。

『やべぇ体が動かねぇ…』俺は意識が落ちていくのを感じた。


『僕この作戦が終わったら母に会いに行けるんです。』

 不意にビルの上から狙撃した奴の顔が脳裏に蘇る。


『母、料理下手なのにいっぱい作るんですよ。困っちゃいますよね。』

 口調とは逆に誇らしげな顔で自慢する。


『父と母は凄い科学者だったそうです。

 その為か父はFHのオーヴァードに襲われ何の意味もなく殺されました。

 僕はその時、父を守れなかった…いや、一緒に殺されて…

 気付いたら病院で、オーヴァードになったと告げられました。


 この力、神様がくれたんだと思うんです。

 母と弟を守りなさいって。


 伊吹さん。もし、僕が死んでしまったら…』


意識が覚醒する。

『もし、僕が死んでしまったら…』

死んでしまったあいつとの思いが、俺の体を突き動かす。

グラリと状態を揺らして立ち上がる。

止まった心臓が動き出し、体中の傷がまるでフィルムを巻き戻すかのように直っていく。

「粘りますねぇ…」

男は顔を微妙に引きつらせながら再び体に雷光を纏い始める。


俺は倒れる訳にはいかない、守るべきものがある限り。


「いい加減、落ちなさい!!」

男の体にこれまで以上の雷光が集まり出す。


この一撃に俺の全力を叩き込む。

両目が真紅に輝き、口から雄たけびが迸る。

俺の肩に白猫『ホワイトα』が飛びつく。

「バカ人間!聞け!

 思い出せお前の最初の攻撃を!

 避けれないから下っ端を盾にしたんだ!」


「『ホワイトα』貴様ぁぁ!」

男の叫びよりも早く俺は鳥のように飛ぶ。

「そこだ!バカ人間!」

磁力の反発力を使って攻撃を避けると言うなら避けきれないだけの攻撃をする。

毛細血管から血霧が舞い俺の頭上で真紅の竜巻となる。

『ホワイトα』の示す一点めがけて絶叫と共に真紅の竜巻を叩きつける。

「ブラッティー・ストーム!」

男は血の嵐の渦で何かを叫ぼうとするが体中を真紅に染め、急速に結晶化する。

足先まで結晶化した敵は澄んだ音をたて砕け散る。


俺は疲れからか安堵からか、たっていられなくなり膝をつく。

「バカ人間!しっかりしろ!」と言う声が聞こえたような気がした。

意識が遠のく…

『伊吹さん。もし、僕が死んでしまったら母と弟を頼みます。』

遠のく意識の中でそいつは微笑んでいた。



翌日俺はK支部の支部長室に呼ばれていた。

支部長室と言っても隠しボタンを押すと支部長のコレクションが展開されると言う、

とんでもない部屋である。

ちなみに俺の右肩には白猫が載っている。

まるで「ここは私のテリトリー」とでも言いたげだ。


ドアをノックすると「入っていいよー」と支部長の声。

ドアを開けて入るとコレクションが所狭しと展開されていた。

手にはなんかのロボットらしき物を持っている。

肩の上の猫が興味をそそられたのかピクピクとヒゲを揺らす。

「その『ホワイトα』の事なんだが、うちの支部で預かる事になった。」

「はっ?まぁ…そうですか。で、誰に引き渡せばいいんですか?」

「引き渡さなくていいよぉー」

「えっ?」

「だって、君に一番なついてるじゃん」

「意味がわかりませ…」

「ホワイトα、君はどうだい」

「仕方ないね。嫌だけど我慢するよ。」

「…」

「だって宜しくね!

 秘書君、かわいそうだから彼のバイト代少し上げてちょうだい…

 少しだよ?」

「…言うことは、それだけか?」

俺の目が物騒に赤く輝きだす。

「あっ!支部長に対してその言い方は良くないと思うよぉ、伊吹君!」

その後、支部長、秘書、猫、俺、警備の面々による混戦が続き…


「支部長なら、支部長らしくしろー!」


俺の叫び声が、支部長質の外まで何度も響きわたった。



そんなこんなで家に居候ができた。

バカ猫が名前を付けろと言ったのでラクロと言う名前を付けた。

本人も気に入っているらしい。

名前はこの前読んだ『危険な関係』を書いた『コデルロス・ド・ラクロ』から頂いた。


ちなみにあれから大きな騒ぎはない。

支部長の趣味は相変わらずだし、店も相変わらず猫耳だ。

ラクロは生意気にも俺を"武"と呼び捨てにする。

まったくついてない。


「ラクロでかけるぞ」

「あぁ?うまいもの食えるのか?」

「墓参りの後だったら食わしてやる。だまってついて来い。」

「墓参り?」

「いいからこい」

俺はぶつぶつ言うラクロを引っつかみドアを開ける。

冬の澄んだ空気が肺に満たされる。

「『母と弟を頼みます。』か…」

「何か言ったか、武?」

「なんでもない。行くぞ」

バイクにまたがり走り出す。道は果てしなく続く。

きっと俺達の日常を守る戦いも果てしなく続く。

しかし道が続くなら這ってでも進まなければいけない。それだけのものを背負ってしまったから…

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