シリウス・フィーナ

 仄暗い洞窟では蝙蝠が群生していた。それをプラチナ・ガーネットの案で奇襲を仕掛けたのだった。
 弓使いと剣使い、そして魔導士の私――初対面の3人での戦闘にしてはチームワークも取れていた。それは、流石戦闘慣れしている人間達だ、という感銘を受けたのだった。
 その蝙蝠は水の流れをせき止めるようにできた岩に留まり続け、未だ水路の水にプカプカと浮くものもいれば、とっくに水の流れに沿って流れて行ったものもいる。なにぶん数が多いものだったから黒い塊が無数に浮いている水路は何だか気味の悪く、仄暗い洞窟には似合いだな、と思った。
 再び静かになった洞窟を、黒く浮かぶ生物が自分の身体にひっつかないように避け歩きながら話す。
「溢れてるマナの所為で思った以上におっきいものになったわね」
「もー、シリウスちゃん、あんまり無茶しちゃダメだよー」
「別にこれくらい何ともないわよ、って――!?」
 それは随分聞き慣れた言葉に、先程まで一緒に行動をした男達とはまるで違う私を宥める可愛らしく女の子らしい声。その声の主は、紛れもなくルーラ・キャラットだ。
ルーラ! ブレスも? どうして――」
「えへへ、実はこっちのルートは行き止まりでしたぁー! あ、でもでも私たちのルートには奥に変なスイッチがあって、押しておいたからきっとこっちが正解ルートだよ!」
「……ああ、なるほど……先程の揺れはそれね。アンタね、それが洞窟の破壊スイッチだったらどうするのよ」
 じと……と、ルーラを少し責めるような目で見つめる。実際潰れなかったので、いいのだけど。
「えへへ……」
 ルーラはいつものように頬をかいて力なく笑った。
 そして、ルーラと行動を共にしていたトレアン・ブレスの姿もそこにあった。私とルーラとの再会の様子を見ていた。激しく燃える松明に照らされた青緑の髪を相変わらず気だるそうにして揺らしている。見ず知らず人が私たちと共に行動しているのに着目したようで、それに視線を変えるも押し黙りそこに立っていた。その視線に気付いた翔も同じくブレスの存在を少し意識したようだった。だが翔もその時が来るまで、といった様子で何も口にはしない。
 その気まずい空気の中で真っ先に口を割ったのはルーラだった。
「シリウスちゃん、その男の子は?」
 ルーラもその存在に気付き、気になっていたようで私に新しく加わることとなった翔の存在を訊ねて来た。翔も同じくルーラとブレスの存在を意識していた様子だった。
「あ……私。自己紹介まだだったのに、他人の名前を先に聞くなんて失礼だよね。私は、ルーラキャラット。 こう見えて格闘家なの! シリウスちゃんとは昔からの親友だよ。 宜しくね」
 ルーラは自分の存在を教えて居ないというのに人の名を聞くのは失礼だった、と発言の冒頭で謝ってから自己紹介をした。快く翔に握手を求めるルーラに戸惑いながらも翔は、普段格闘技をしている女の子とは思えない小さく柔らかい手を男の子らしい大きな手でしっかり包み込むように握った。
「ああ、俺は明 翔だ。好きに呼んでくれ。シリウスの親友か……おっかないだろ? 大変だな」
 翔はルーラを気遣うようにそう発言したのだが、気に入らない発言が聞こえたような気がした。
「なんですってぇ……?」
 私は今直ぐにでも魔法を撃てる準備をする。それをプラチナとルーラが必死に止めてくる。翔はけらけらと可笑しく笑う。
「そ、そんなことないよぉ。 ルーラにとっては大切な親友なんだから、ね? シリウスちゃん」
 ルーラは翔の発言を上手く弁解し、私の怒りを静めた。……この子だけには敵わないな、と私は思った。
 そんな中、ブレスはいまにも面白くないと言いそうな顔でそれを見つめていた。しかし、次は自分の番ということを認識すると息を整えてから発言に及ぶ。
「僕はトレアン・ブレス。錬金術師をやってる……。あまり戦闘には荷担できないだろうが怪我をしたらある程度は治せると思う」
 少しぶっきらぼうに、ブレスはそう自己紹介した。しかし、錬金術師と聞いた途端に翔の目の色が変わった。
「……錬金術、師!?」
 翔はその言葉を繰り返し反復するようにして言った。そうだ、ブレスは錬金術師だ。もしかしたら翔が探してるという白夜樹のことを聞き出すのかもしれない。
 しかし――
「なぁ、白夜樹を知らないか」
翔がその言葉を口にしたとき、ブレスの顔色が一瞬で変わった。
「白夜樹……それが、どうした」
 ブレスの声色がいつもと違った。白夜樹という言葉を発するとき、低く重いトーンの声――それはさしずめ怒りのようなものさえ感じたのだった。

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最終更新:2011年10月12日 23:24