シリウス・フィーナ
その時、誰かがふわりと私を包むように抱きしめる。
……誰?
それは、紛れもなく先程の少年だった。
「……ふぅ」
そしてギリギリセーフ、といったように少年はため息をついた。
「……な、何で」
私は自らが生きている状況が全く理解出来ずにそう言った。
……だって、私は……貴方を敵意満々で攻撃したのに……。
「誰かが俺の目前で居なくなるのは嫌だからな……っと、これは師匠の受け売り」
眼前の少年は白髪の髪を揺らしながら少しだけ恥ずかしそうに言った。
「俺より骨のありそうな女が目の前に居るっていうのに、ここで死なれたら勿体ねぇ」
少年は少しだけ笑ったようにもみえる。
「助けたからにはここで終わらねぇ、続きやろうぜ」
「……バカね、死んでも知らないわよ」
「美人に殺されるなら本望だな」
見た目に寄らず軽い発言をする少年。
「……生憎、私は無駄な戦闘はしないわよ。闘うメリットもないわ」
私は吐き捨てるように少年へと告げる。
「意外と尻込み早ぇのな」
少年は歯を見せて笑う。
……死を見せられた人の気も知らずに。
「うるさいわね、また魔法ぶつけるわよ」
「……そりゃ勘弁」
少年は両手を上げて私に抵抗をしないといったようにジェスチャーする。
「俺もなるべく無駄な戦闘はしない、それでいいだろ」
少しだけ気に障るけど、少年の言っていることはもっともだ。
「……変な奴」
私は少年のあまりに飄々とした態度に一人置いて行かれたかのように思える。
あまり真剣に対応すると、ペースを取られそうだから辞めておこう。
私はそんな事を考えながら返答する。
「そりゃ最高のホメ言葉だな。……そういや、名前は?俺は
明 翔。呼び方は好きに呼んでくれ。
普段は……そうだな、
ギルドの手伝いなんかやってるぞ」
いきなりの自己紹介をし出す翔。
……やっぱり、全く行動パターンがつかめないわ……。
「私は
シリウス・フィーナ。シリウスでいいわ。見ての通り魔導士よ」
私も名前を言われたからには名乗るしかない。
「ぼ、僕は
プラチナ・ガーネット。アーチャーをやっているんだ。こっちはクロ……よろしく」
先程の戦闘を見せられたからか、プラチナの声は少しだけ震えている。その様子ではプラチナに掴まっていたクロも、硬直状態だ。
……ちょっと、やり過ぎたかしら?いきなり高等魔法を唱えた私を反省する。
その反動が、今頃来ていてかなり疲れているんだけど……。
私はどっと疲れながら、つらつらと今までのいきさつを語る。
翔はふんふん、と言った様子で聞いている。プラチナはまた私たちが何処かで喧嘩をし始めるのではないかと監視している。
私はその目が、若干痛くも感じていた。
「……ふーん、じゃ……暫く俺も付いて行こうかな。さっきのアンタの魔法で俺の術符、この湿気で破れやすくなって破れた上に地面に落ちたんだ」
そして足下の術符を指さす翔。そこには泥や土やでどろどろになった使い物のならない術符をかろうじて発見できた。
「……どんくさ。その術符も安物じゃないの?」
私はこの期に及んで憎まれ口を叩いてやる。イヤミのお返しだ。
「ちょ……シリウスちゃん。ぼ、僕は賛成だよ。ね?」
プラチナが私をなだめるように私の名前を呼ぶ。
「……まぁ、いいわ。バランス的に接近武器を持った人間が私たちのパーティに居ると助かるしね」
私はプラチナの気遣いをそこは素直に受け止めて、翔をフォローする。
「じゃ、決まりだな」
口は悪いけど、心強い。そんな少年に少しの安堵を感じつつ私たちは洞窟の奥へと進んでゆく。
これから何が待ちかまえているのか、そんなことは気にせずに。
最終更新:2011年08月27日 23:45