Shield x Shield!

 ――――あの、宝物を覚えています。

 世界全てが焼け落ちてしまったのかと思うような、炎の世界。
 もう自分は死んでしまうのだと、私は確信していました。

 正直に言えば、ちょっと怖かったです。
 歯の根がガチガチ揺れて、手がぶるぶる震えて、膝もガクガクいって。
 もしかしたら、泣いてしまっていたかもしれません。

 もうどうしようもなくて、何もできない事がわかっていたから。

 でも、そんな私を助けてくれた人がいました。
 あの炎の中で、手を差し伸べてくれた人がいました。

 もちろん、それで何かが変わるわけがないこともわかっていました。
 あの人にだって、それは理解していたはずです。
 だけれどあの人は、当たり前の事みたいに私に手を差し伸べてくれました。

 私のせいで自分が死ぬということはない――そう思わないようにと。
 本当に何でもないことのように、私を助けてくれたんです。
 それが自分の役目なんだと、気負うわけでもなんでもなく、自然に――……。

 ……だから、怖くても戦うのです。

 私はあの人から託されました。
 私は私が見た、あの素晴らしいもののために……。
 あの美しい宝物のお礼に、そういうもののために戦うために。

 だから私は、彼女の傍にいるのです――――……。




.


「シールダーさん、シールダーさん……よろしいでしょうか?」

 儚げな少女の遠慮がちな声に、物思いに耽っていたシールダーはパチリと目を開いた。
 そこは焼け焦げて埃の積もった古い廃墟で、崩れた壁や屋根の隙間からは白んだ光が針のように差している。
 これが月や星の灯だったら彼女としても喜ばしいのだが、路に並ぶ街灯によるものだろう。
 だがその無機質な白い光も、彼女は嫌いではなかった。

「はい、どうかしましたか?」
「おやすみ中のところ、申し訳ありません。現状の報告です。
 周辺を確認してみましたが、やはり此処は冬木市に間違いは無いようです」

 目を向ければ、そこには息せき切って駆けてきたと思われる少女の姿。
 今の自分のマスターである彼女に頷いて、シールダーは「そうですか」と言葉を漏らした。

「マスター。とりあえずという形でこの廃墟を拠点にしましたが、移動した方が良いでしょうか?」
「あ、はい。エーデルフェルト家の双子館……というものだと、資料で確認した覚えがあります。
 霊地の一つではありますし、呪的防御は必要かもしれませんが、概ね問題は無いかと――……」
「あ、いえ」とシールダーは慌てて首を振り「私ではなく、あなたの事です。十分な休息は必要ですよ」と言った。

 マスターである少女は言われて一瞬キョトンとした後、恥じ入るように頬を染めてうつむく。

「す、すみません。そこまで考えが至っていませんでした……」
「いえ、大丈夫です。初陣というのは、そういうものですから。
 そうですね、寝台は古くて埃まみれでしたがまだ使えるようですし、呪的防御に加えて掃除もしましょう。
 それにご飯を食べたら、ゆっくりお話もしましょう。……戦闘には炊飯、掃除、談話も必要不可欠です」
「はいっ」

 少女はこくこくと、何度も嬉しそうに頷いて答えた。
 本人は意識していないのだろうが、それははしゃいでいる子供にも似ていて、シールダーは柔らかく目を細める。

「あなたのお友達の安否も確認しないといけませんし、やるべき事は多いですね」
「ええ。わたしが無事ということは、みなさんも無事……だと良いのですけれど」

 物憂げにつぶやく少女の手には、星座の絵が描かれたカードがある。
 窮地に陥り、死が間近にせまったその時、彼女の手にはそのカードが現れたのだという。
 そしてそれに触れた瞬間、少女はこの冬木の街に現れて――その傍らにはシールダーの姿があった。

「きっと大丈夫ですよ。……などと無責任なことは言えませんが、信じるということは大切です。
 そうして一つひとつ、目の前の障害を突破して、次に向かう。そうすれば道は開いて続いていきます。
 私の尊敬する"あの人"も、そうやって戦ってきたのですから、絶対に大丈夫です」
「シールダーさんの尊敬する方ですか……」

 少女はシールダーの言葉に聞き入りながら、ぱちぱちと眼鏡の奥で瞬きを繰り返した。

「ちょっと、羨ましいです。わたしには、まだ――……」
「いませんか?」
「いえ、その……」と彼女は言葉を濁した。

「わたしはあまり、他の人のことを詳しくは知らないのです。だから、慕っている――と言って良いものかどうか……」
「きっと、そういう人ができますよ。あなたにも」

 そう言って、シールダーはすっと立ち上がって、その盾を背に担いだ。
 マスターである少女が戻ってきた以上、この廃墟の修繕と結界の構築、そして掃除に洗濯、料理をしなければ。
 ここが自分たちの新たな城になるのだと思えば、手なんか抜いていられない。竜の攻撃にだって耐えられるように――……。 

「それにしても、驚きました」

 ふと少女が声を漏らし、シールダーはひょいっと彼女の方を振り向いた。

「何がです?」
「原典には触れていたのですけれど、もっと勇壮な方だとばかり思っていましたから」
「ああ、お恥ずかしいです。……初めての戦いでしたから、あまり、そのう……」
「それに――」

 そう言って、少女――マシュ・キリエライトは盾の英霊ウィラーフの顔を、まじまじと見つめた。

「こんなにも、わたしにそっくりな顔をなさっていたんですね――……」

 ――彼女はまだその手に触れた奇跡を知らず、その旅路は始まったばかり。





【クラス】シールダー
【真名】ウィラーフ
【出典】叙事詩『ベオウルフ』
【性別】女性
【身長・体重】158cm・46kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:A+

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではウィラーフに傷をつけられない。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。

自陣防御:C
 味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
 防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、
 自分はその対象には含まれない。
 また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。

【固有スキル】
竜の因子:A+
 竜の息吹(毒炎)、対毒、対火の複合スキル。
 ウィラーフはこれらのスキルをA相当で保有している。
 両腕を焼け爛れさせた竜の炎、胎内で未だ燻り続ける残り火。
 息吹といってもブレス攻撃は不可能であり、両腕に毒炎を付与する。

戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
「生き残りし者」という名前の意味そのもの。

直感:C
 窮地に陥った時、その場に残された活路を"感じ取る"能力。
 修練や経験に因らない、説明不可能な一瞬の"ひらめき"。
 逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移すチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『継承闘争(ロード・ベオウルフ)』
 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 ベオウルフから受け継いだ「決して壊れない」鋼鉄の盾。
 真名開帳によりベオウルフの力を引き出し、勇気の続く限り、全ての能力を十倍に強化する。
 勝利を約束するわけでも、因果の逆転を起こすわけでも、不死身になるわけでもない。
 恐怖に震えながらも勇気を振り絞って戦いに挑まなければ、何の意味も無い宝具。
「真名、開帳──この身、この命、この物の具こそは、陛下と私を守るべきもの……」
「どうぞ立派に成し遂げさせてください、どうか力の限り命をお守りください――継承闘争(ロード・ベオウルフ)!!」

【weapon】
『鮮黄絶剣(エーアンムンド)』
 巨人が鍛えた黄金造りの古剣。傷を負わせた相手を絶息させる魔剣。
 対象が何者であれ、酸素や魔力など存在維持に必要な外的要素全てを一時的に遮断する。
 本来ウィラーフの宝具となる武器だが、今は封印されている。

【解説】
 叙事詩『ベオウルフ』の主人公ベオウルフの忠臣。「生き残りし者」。
 火竜退治に赴いたベオウルフに、ただ一人最後まで付き従ったイェーアト国の若き騎士。
 他の騎士たちが竜に恐れ慄き王を見捨てて逃げる中、初陣だったウィラーフだけが踏み止まった。
 ウィラーフはベオウルフの盾に庇われながらも竜の喉笛を切り裂き、逆転の機会を掴み取る。
 しかし竜を討ったベオウルフは既に致命傷を負っており、ウィラーフはその死を看取る事になる。
 戻ってきた家臣たちを罵ったウィラーフは、王の遺言通り財宝を民のために使い、王を岬に葬った。
 だが偉大な王を喪った以上、近い日にイェーアトが戦火に襲われ滅亡することを予感させて叙事詩は幕を閉じる。

 ウィラーフはベオウルフの一族最後の者であった。
 故にウィラーフは何としてでも戦士とならねばならなかった。
 ――たとえ北欧の戦士たちから戦いに不向きと蔑まれる、女の身であっても。
 だが彼女は自身の性別を恥じることはない。ましてや男であったらなどは夢にも思わない。
 自分一人だけで、どうして王の最後の戦いを覆せるというのか。それは傲慢にもほどがある。

 戦いを恐れ、敵に慄きながら、勇気を振り絞って、誰かのため懸命に盾を掲げて前へ飛び出る。
 あの日あの時王に付き従った十人の家臣の中でただ一人、一番臆病な彼女だけが戦士だった。
 彼女自身は知らないが――ウィラーフとはそういう英霊なのだ。

【特徴】
 一言で表現するなら黒髪、黄金瞳、絶壁のマシュ・キリエライト。一人称は「私」。
 銀に赤のラインが入った甲冑、中央に焼け焦げのある巨大な鋼鉄の盾を装備している。
 戦闘では盾による殴打、毒炎を纏った拳による殴打を駆使して白兵戦を行う。
 マシュにとっての"先輩"が、彼女にとっての"あの人"。それが恋心だったのかどうかは定かではない。
 うっすら筋肉が透けて見えるスレンダーな体型。マシュマロではなくウェハース。

【聖杯にかける願い】
 特に無し。
 英霊として、ベオウルフ王のように在りたい。



【マスター名】マシュ・キリエライト
【出典】Fate/GrandOrder
【性別】女

【Weapon】
 なし

【能力・技能】
憑依継承:?
 サクスィード・ファンタズム。
 デミ・サーヴァントが持つ特殊スキル。
 宝具『継承闘争』の真名開帳と同時に、その効果を自身にも適用できる。
 加えて鎧を纏い巨大な盾を携えた、英霊としての姿へと一時的に霊基が再臨される。
 本来は憑依した英霊のスキル一つを継承し、自己流に昇華するスキル。
 ウィラーフとマシュが接続されたまま別個に存在している事で効果が変化した。
 恐らく「継承する」というスキルと宝具の相性が良かったためだと思われる。

マスター適性
 読んで字のごとく、サーヴァントのマスターとしての適性。
 英霊を維持するのに最適な魔術回路に加え、英霊に関する豊富な知識を有している。
 戦闘訓練では最下位だったが、総合ではマスター候補生主席の座を獲得するほどの成績。
 聖杯戦争中、英霊に供給する魔力が枯渇することは無い。

【人物背景】
 人理継続保障機関カルデアの局員。一人称は「わたし」。
 英霊と人間とを融合させる憑依実験の成功体「デミ・サーヴァント」。
 しかし英霊としての能力は発現せず、結果マスターとして特異点事象へ介入する事になる。

 16歳の誕生日、"先輩"と出会ったマシュは特異点Fへのレイシフト実験に参加した。
 しかしカルデアを襲った破壊工作により下半身を潰される致命傷を負い、死を待つばかりとなった。
 そして手を伸ばした先にあった星座のカードに触れた瞬間、冬木市に出現。
 ここを「特異点F」と認識し、状況は不明ながら特異点事象の解決を目指して行動を開始した。

 ――彼女はまだ奇跡を知らず、その旅路は始まったばかり。

【参戦時期】
 『FGO』プロローグ カルデア管制室破壊直後 主人公到着直前より参戦

【マスターとしての願い】
 1.所長と"先輩"の安否確認。Dr.ロマンとの交信再開。
 2.特異点Fの解決。
 3.カルデアへの帰還。

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最終更新:2017年05月31日 23:06