Get Back

 玉座に一人の王が鎮座している。
 高潔で偉大な王だ。
 民は王を敬愛し、王は民を慈しみ、国は富み、国は栄え、理想の王国がそこにあった。
 だというのに、王の表情は暗い。
 その理由を私は知っている。

「また、あの方を思い出していたのですね。兄上」

 私の声に王は、私の兄は力なく笑ってみせる。
 その姿が酷く痛ましい。
 私は知っている。
 この国は民にとっては理想の国であっても、兄にとっては理想の国などではないのだ。
 どれだけ素晴らしい国であっても、兄の隣にあの方がいないのであれば意味はない。
 それを、私も兄も重々承知していたというのに。
 その為に、14年もの長い月日を戦い続けていたというのに。
 何故、私は止められなかったのかと、あの時からずっと後悔をしている。
 この頃、私はいつも思う。あの頃に戻れたらと。
 私と兄とあの方の三人でいつも笑っていたあの頃に。

 きっと、兄は新たな后を娶らずにその一生を終える。私はそれでいいと思う。
 兄には口が裂けても言えぬことではあるが、それで国がどうなるかなどは知った事ではない。
 そうしたのはあの方の不貞を疑った民衆どもの自業自得だからだ。
 過ぎたことは取り返せない。
 終わったものは取り戻せない。

 ああ、それでも奇跡が起こってくれるのならば――

 ◇

 酒を呑む。一人になってしまった部屋で、誰も伴わずにただ酒を呑む。
 アルコール混じりの吐息を吐きながらぼんやりと窓ガラス越しに夜空に浮かぶ月を見上げる。
 真ん丸で見事な月。いつか、あいつ等と見た月を思い出し、顔をしかめて頭を振る。
 何かがあるとあの二人といた時の事を思い出す。
 それだけ私と飛鷹と提督の三人は付き合いが長かったという訳だ。
 私が酒を呑んで、飛鷹が諌めて、提督が巻き添えをくって。そんないつも通りの日常はもう戻ってこない。
 薬指に嵌めていた指輪を形見に宵闇に沈んだ飛鷹。憑かれた様に深海棲艦を殲滅しようとし始めた提督。
 そんなあいつを飛鷹は望んでいない事を理解していながら、私にはどうすることも出来なかった。
 酒を呑む。あいつらと呑んだ時はあんなにも美味かった酒が今では酷く味気ない。
 飛鷹がいてくれたらなぁ、という考えが頭に浮かんでは、それを忘れる様に酒を呑む。
 死んだやつは生き返らない。
 失ったものは返ってこない。

 ああ、それでも奇跡が起こってくれるのならば――

 ◇

「呑まないのかい?」

 盃に日本酒をなみなみと注ぎながら、隼鷹という名を持つ女がランサーとして現界した己のサーヴァントに訊ねる。
 ランサーのサーヴァントの見た目は少年のそれだ。緑青色の長髪と中性的な顔立ちではあるが、がっしりとした体つきから男性であることは見てとれた。
 何にしろこの光景を第三者に見られれば未成年飲酒の疑いで通報されそうなものではあるが、幸いにもここは隼鷹に宛がわれた仮の家の中であり、通報される心配はない。
 赤らんだ顔でにやけた笑みを浮かべる己が主を見つめ数瞬考えた後、ランサーは隼鷹が差し出した盃を受け取ると一息に飲み干した。
 おお、という感嘆の声が隼鷹から上がる。

「いい呑みっぷりだねぇあんた。坊やだと思って甘くみてたよ」
「こんな形でも中身はそれなりに老成しているからね、私は」

 酔いで微かに顔を赤らめながら微笑んで見せるランサーを見て隼鷹が不敵に笑う。
 こんな子供が自分のサーヴァントなのかと、からかい半分に酒を勧めてみた隼鷹ではあるが、彼女ら艦娘同様にサーヴァントも見た目で判断してはいけない存在の様だと理解する。

「単刀直入言わせてもらおう、マスター。私には叶えたい願いがある」

 ランサーが隼鷹を見つめる。
 真っ直で決意のこもった眼差しを向けられては隼鷹も茶化すことはできなかった。 

「悪逆と罵られようが非道と蔑まれようが構わない。私の願いを叶えるにはこれしかないのだ。失ったものは二度と戻ってこない。そんな不可逆の理をねじ曲げる為には」
「失ったもの、ねぇ」

 ランサーの"失ったもの"という言葉に隼鷹が反応する。
 自分と同じ様にランサーも何かを失ったというのだろうか。
 奇縁、というやつなのだろうかと酔いの回った頭のどこかでそんな考えが浮かんできた

「本当に帰ってくるのかなぁ、失ったものが」
「帰ってくると信じているからこそ、私はここにいる」
「そっかぁ」

 馬鹿正直に答えるランサーの姿に、一瞬だけ変わり果てる前の男の姿を幻視する。
 彼女の姉がその男を愛したのはそういう所に惹かれたからだ。
 もしも、あの時の男を、海に沈んだ姉を、あの騒がしくも充実した日々を取り戻せるというのであれば、夢物語に賭けるのも悪くはない。

「禁酒とまではいかないけどさ、当分は酒を控えようかなぁ」

 最後に一杯だけ、酒を煽る。
 最後の一口だけはかつての様に美味い酒だと感じることができた。




【CLASS】ランサー
【真名】ラクシュマナ
【元ネタ】ラーマヤーナ
【身長・体重】162cm、58kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:A+

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【固有スキル】

化身(アヴァターラ):A
インド神話の神霊が転生した存在。
ラクシュマナはナーガラージャの一柱であるシェーシャのアヴァターラである。
シェーシャの権能によってラクシュマナは毒に対する耐性と驚異的な再生力を誇り、また同ランクの神性を得る
ラクシュマナを殺害する場合は霊格を直接破壊するか、再生力を上回る速度あるいは威力で攻撃を与えねばならない。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

真言:C
マントラ。
真言を唱える事で物理的な攻撃に対する障壁を展開する。

【宝具】
『雷鳴を払う不滅(ブラフマーストラ)』
ランク:A+ 種別:対魔宝具 レンジ: 1~10 最大補足:1人
魔性の存在に対して絶大な威力を誇る槍。
魔王ラーヴァナの息子、メーガナーダを倒す為に神々から与えられた矢をランサーとして呼ばれたかったラクシュマナが改造し槍へと改造した。真名解放と共に投擲して使用する。

【weapon】
雷鳴を払う不滅:真名未解放時でも武器として使用する長槍。真名が解放されていない場合は魔性に対する特効効果も発動しない。
形状は投射しやすい様に飾り気のない短槍。

【解説】
ラーマヤーナに登場する英雄、ラーマの弟。
ヴィシュヌの化身であるラーマに対してヴィシュヌが乗る竜王(ナーガラージャ)のシェーシャが化身した存在である。
兄であるラーマとその后であるシータを深く敬愛しており、彼らが追放された際にはラクシュマナもその追放に同行した。
理知的で穏やかな物腰だが、自身の敬愛している者や親しい者が貶められたり不当な扱いを受けると一転して怒りの感情を露にする激情家の一面も持っている。
ラーマから教わった武芸や真言の腕はかなりのものであり、持ち前の技量とシェーシャの権能による頑健さ、そして神々より与えられた宝具によって、かのインドラ神を下した強敵メーガナーダを(好条件が重なったとはいえ)単騎で渡り合い討ち取る事に成功した。
兄と義姉が何よりも大事であり、彼らの自慢話をするといつもの物静かさはどこへいったのかというくらいに饒舌になる。所謂ブラコン。
本来のクラスはアーチャーであるが、座に昇る際にセイバーとして自らの霊基を登録したラーマを補佐する為に、神々の矢を槍に改造して自らをランサーのサーヴァントとして座に登録させた。
マスターに忠実な性格ではあるが、もし同じ聖杯戦争にラーマかシータが参戦していた場合は彼らを第一に行動するだろう。

【特徴】
緑青色の髪に翡翠を思わせる目の色。たれ目がちの顔つきは柔和で中性的。
Fate/grand orderのラーマの服装に近しい服装をしているが基調となる色は髪の色同様に緑青色をしている。

【聖杯にかける願い】

ラーマとシータを再会させる


【マスター】

隼鷹@艦隊これくしょん(ブラウザ版)

【マスターとしての願い】

飛鷹の復活、彼女と提督と送っていた何気ない日々を取り戻す

【weapon】

零式艦戦52型
九九式艦爆
九七式艦攻

式神を介して召喚する。サイズはプラモデル程度。偵察や攻撃が可能

【能力・技能】

艤装

【人物背景】

軽空母・隼鷹の魂を宿した艦娘。酒が大好きでしょっちゅう呑んでいる呑兵衛。
ヒャッハー!が口癖で常にハイテンションでフレンドリー、元となった艦が終戦まで撃沈されず生き延びたことから運がいい。
本話では提督とケッコンカッコカリまでした姉妹艦の飛鷹を失ったこと、そのせいで提督が豹変してしまった事などから少々ナーバスになっている。

【方針】

聖杯の獲得

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最終更新:2017年06月28日 22:53