クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー

 端的に言ってしまえば、少女の望みだったものは、この聖杯戦争に招かれた時点で、既に叶ってしまったと言う事になる。
――望みだった、叶ってしまった、と言う表現からも窺える通り、彼女にとってその願いは望むべくものでは最早ないのであるが。

 イリヤスフィール……もとい、『クロエ・フォン・アインツベルン』は、イリヤ、と言う一人の少女より生まれた、正真正銘のもう一人のイリヤであった。
同じ顔、同じ背格好をしていながら、有している知識の総数で、イリヤに勝っていたクロエは、自身がこの世に生れ落ちた真の理由に忠実だった。
クロエは、自分――イリヤ――が、アインツベルンが聖杯戦争を勝ち残る為の鍵である、聖杯の器として生み出された存在である事を認識していた。
認識していたからこそ、クロエは、己のレゾンデートルに忠実であろうとしたのだ。

 母の胎内(からだ)の中にいた頃より聖杯としての力を調整され続け、生れ落ちて数ヶ月も経たぬ内に、言葉や知識を埋め込まされていた彼女はしかし、
その役目を果たす事もなく封印され、運よくこの地上に身体を得て見れば、存在意義たる聖杯戦争すらも既に解体されていて。
自分には既に、居場所もなく、生きる意味もない事を理解した彼女。後は好き放題振る舞って来たツケでも支払うように、世界から消え去るだけの……筈だった。
そんな彼女に、生きていても良いと、認めてくれた少女がいた。クロエ自身が心の底から敵視し、そして、自らの手で殺して全てを奪おうとした、イリヤと言う名の泣き虫。
聖杯戦争だけが、嘗ての存在意義であった少女に、それ以外の生きる意味を与えてくれた少女の事を、クロエは、忘れはしないのである。

 何の因果なのだろうか。
自分は今、夜の冬木の海沿いの砂浜にいた。自分の元居た世界と同じ市名、同じ立地に同じ街並みと、まるで鏡写しの様な街。
そう、此処は確かに、クロエの知る冬木の街だった。だが、違う。此処は冬木市であって、冬木市じゃない。
何故なら――この街には、聖杯戦争がこれから起ころうとしているのだ。クロエが自身の生きる意味だと嘗て思い込んでいたあの戦いが、この街では本当に起ころうとしているのだ。

 昔なら。小聖杯として育っていたのであれば、今の現状をきっと喜んでいたのだろう。
だが今は、全く喜べなかった。自分が傷つく事を、良しとしない少女・イリヤと、その友人や知り合い達の存在、彼らとの絆は明白にクロエを変えてしまった。
自分は、もう違うのだ。家族がいて、友達がいて、テストが嫌だと仲間と愚痴り、しかしそれでも勉強はしなくてはいけなくて。
時には仲間と部活に精を出し、時には仲間とたまの夏や冬休みの時期に、何処かに旅行に行って。そして、一日の終わりに家族と一緒にご飯を食べて。
そんな、何処の誰もが経験する普通の生活を、クロエは送っていたい。普通に、生きたい。それが今の彼女の願いであった。
皮肉であった。自分が本当に叶えたい願いが叶っている最中の今になって、過去の叶えたかった願いが成就されようとしているなど。

 聖杯戦争は、もうクロエにとっての全てではなかった。況して、叶えるべき、叶えたいと言う願いですらもない。
自分が死ねば、泣き虫イリヤは泣きわめくだろう。美遊は、あのクールな鉄面皮に何かの動きを与えるだろうか。ママのアイリは、後悔するのか。
それを思うと、クロエは聖杯戦争で死ぬ訳には行かなかった。聖杯戦争で、人を殺すのもごめんであった。
昔なら、ああ仕方ないで割り切れていた事柄が、今では全く割り切れない。そして、クロエはその心境の変化に全くの後悔も抱いていない。
それで良いのだ。自分は変わった。そしてその変化を、クロエ自身は良い変化だと思っていた。
だって、彼女はその変化で、良い笑顔を浮かべられるようになったのだから。そんな笑顔を浮かべられる変化は、良い変化に決まっているのだ。

 聖杯戦争には、乗らない。それよりも何よりも、今自分はこんな事をしている場合ではないのだと、クロエは思い出す。
黒い泥の様な何かに呑まれたと言う美遊、神話の世界での出来事を再現してみせた様な力を奮う黒泥の主。
その主を倒したかと思いきや、突如として現れた二名の女性達。そして、空が割れ、ドーム状の光が巻き起こり――気づけばクロエは此処にいた。
穂群原小学校の制服――この世界にはロールと言うものが有り、クロエは元の世界同様の学校の生徒として生活しなければならないらしい――の懐にしまってある、
一枚のカード。それをクロエは取り出した。これこそが、今彼女がこの冬木市にいる原因となったもの。何処ぞから何時の間に、このカードは現れ、
気付けば彼女はこれを握っていたと言う訳である。その結果が、ご覧の有様だ。憎むべきカードなのか、それともあの状況から自分を救ってくれたカードなのか。
それはクロエにも解らない。確かなのは、これは明白に『クラスカード』とは違うものであると言う事。
サーヴァントのクラスを象徴する刻印ではなく、十二星座が刻印されている所からも、その点は明らかだ。クロエのカードには、ふたご座が刻印されていた。
イリヤの一件も考えると、不気味な程符合が一致している辺り、気味の悪いカードだ。だが、この世界に自分を招き入れるだけの力や現象があると言う事は、
逆説的に、元の世界に戻す方法もあると言う事。希望は、ゼロではない。何としてでも、クロエはイリヤや美遊の下まで戻らなければならないのだ。

 ――ならない、のに。

「どうなってんだ? 今の中国(なかつくに)はよ」

 砂浜の上をザッザッ、と。無遠慮な音を立てて歩く者がいた。年若い、二十かそこらの男の声だった。
知性的とは呼べない、チンピラの様な声音のする方に、クロエが振り返る。唐草模様の風呂敷を肩に掛けた、褐色の肌の男がいた。
鍛え上げられている事がクロエにも解る、ギリシャ彫像を思わせる黄金比を体現したような均整の取れた身体つき。
それでいて、搭載されている筋肉量は格闘家のみならず、ボディビルダーですら裸足で逃げ出す程のそれ。
誰に出しても恥ずかしくない身体なのか、その茶色の髪の男は、黒い褌を一丁巻いただけの姿だった。
だが、それが異様に様になっているのは、きっと男の身体つきが極めて完成されたそれだからなのであろう。

 ……だが、男の身体に刻まれた、黒色に光る、大樹の根が絡み合うような意匠の刺青は、何だ。
刺青と言えば、イリヤやクロエの知識では、そちらのスジの人間が付けるような、般若や桜吹雪、花魁や龍と言った、誰が見ても『絵』であると解るそれの筈。
目の前の男に刻まれている刺青は、絵と言うよりは何かの『モティーフ』だ。モティーフにしても、植物の根にする意図が解らない。
その、不気味な刺青がまた、クロエの身体に威圧感と言うものを叩き込む。

 結論を、述べる。目の前にいる男こそが、クロエの引き当てたサーヴァント。
並行世界と呼ぶべき冬木で行われる聖杯戦争に於いて、彼女と一蓮托生の存在。そして、クロエがこの冬木を抜け出すまでの、パートナー。
その真名を、『アテルイ』と言う。平安時代初期の日本国において、蝦夷の軍事的指導者であった男。成程、サーヴァントとしての風格や風情は申し分ない。
だが、クロエは――目の前の男が、嫌いだった。目の前の男が、元の世界に自分が戻る為の大事な相棒であると理解した上での評価だ。

「ちぃと辺りをぶらついたら、黒い影法師みたいな奴らの襲撃にあっちまった。俺の生きてた時代には、あんな化生はいなかった筈だがな」

「倒せたの?」

「でなきゃ愛しのハニーの所にこれないだろ?」

 誰が愛しのハニーよ、と。クロエに向けてウィンクを送るアテルイに、侮蔑の目線を送った。
その目線に肩を竦めさせたアテルイは、肩に掛けた風呂敷の裏地から何かを取り出し、それをクロエの下に放り投げた。
巾着袋である。砂地の落ちた際に生じた音から察するに、空ではない。何かが入っている。

「何、これ」

「その影法師共の落した、砂……っつーか、塵か? 魔力の集積体だ、今のマスターの腹の足しにはなるだろ、持っとけや」

 恐る恐るクロエは、アテルイの投げた巾着袋を広い、それの中身を見てみる。
紫色の砂のような物が、確かに入っている。しかも、彼の言う通り極めて高い魔力をこれ自体が有している。
クロエは目で見て触れられる少女ではあるが、彼女の本質は肉ではない。彼女は、その全てを魔力で構築された存在である。
何もせずとも魔力を消費して行く彼女にとって、サーヴァントの分の魔力の負担……しかも、ステータスとスキル、宝具のどの観点から見ても、
一級品以外の評価を下しようがないアテルイを維持するとなると、平時ならばすぐにイリヤとキスをし魔力の快復を量らねばならない程だ。
……だが、この世界ではどうにも、『魔力の減りが元居た世界よりも遅い』。当初は奇妙に感じたクロエだったが、今はその奇妙な現象が有り難い。
その上に、アテルイの持って来た紫の塵である。これで幾許か、この世界でクロエとしての形を維持する事の出来る時間に余裕が持てる。
少なくとも、いきなり魔力が霧散すると言う不様な結果だけは避けられる。

 そんな、目に見えて優れた働きをしたアテルイに対して、何故未だに、クロエは侮蔑の目線を隠さないのか。
それは、単純明快。クロエは子供の姿と、子供に若干近い精神性こそ持ってはいるが、知識だけなら下手な大人を上回る。
その知識が――アテルイがその影法師と何をしたのか、その答えを導き出していたのだ。彼の身体から香る、汗と、精臭。何をして来たかなど、明白だ。

「セイバー。本当に、影法師を殺して来ただけなのね」

「あたぼうよ」

「嘘はつかないで。……それ以外に、何か……」

 赤面して何かを告げようとするクロエを見て、嫌らしい笑みをアテルイが浮かべた。
一秒後、顔を抑えて、砂地が震える程の爆笑を炸裂させた彼は、ひとしきり笑い終えた後、粘ついた光を宿す黒瞳でクロエの事を睨めつけた。

「最近のお子ちゃまってのはマセてんね~。何だ、次はマスター自身がお相手してくれるのか? いいぜいいぜ、大歓迎だ。アンタァ、俺の好みだしな」

「ふざけないで!! 誰がアンタみたいな最低男!!」

 キス魔だ何だと言われて、性的なイメージで見られていた事はクロエ自身も重々承知している。 
だが、性に放埓放恣ではないと、彼女は信じていた。目の前で下卑た笑みを浮かべる男には、身体を重ねる事は勿論、キスですら御免であった。

「――なぁに気取ってんだよ、ガキ」

 チャラついた、軽い声の調子が、一転した。
そうとクロエが認識するよりも早く、アテルイは、瞬間移動と見紛うような速さで、クロエの眼前へと移動。
首筋に、ヒヤリと冷たい物を当てられている感覚を、彼女は一瞬憶え――それの正体を認識した瞬間、身体が硬直した。
剣である。セイバークラスの所以だろうと考えられる、サンドブラスト加工を施したようにザラついた表面が特徴的な、
灰色の直剣の剣身が、クロエの首の皮膚に当てられているのだ。クロエを見下すようにアテルイは、右手に握ったその直剣をクロエの柔肌に当て続ける。

「第一、テメェが何もしてねぇのに魔力を勝手に消費して行く難儀でクソ使えねぇ体質だから、俺も困ってんだろうが」

 蓋しの正論過ぎて、クロエは思わず歯噛みする。

「目の前に殺意を向けて来た、とってもマブい女がいました。さて、男だったら如何するよ。犯すに決まってんだろ? その上魔力も回復するんだ、良い事尽くめ。腕を肘の辺りから斬り飛ばしてよ、脚を膝から下四回ぐらい圧し折ってよ、気の強い女を犯すとどうなると思う? 泣き叫びながら罵詈雑言をこれでもかと飛ばす癖に、抵抗も出来ねぇから屈辱的な憂き目にあわされる。ハハッ!! それがよ、俺の心を満たすんだよ!! 気持ち良くて、心も満たされ、魔力も満ちる!! その上お前も消えずに済む!! 良い事しかねぇだろうが、責められる謂れもねぇよ!!」

 この男は、破綻している。クロエは、とても少女に熱を込めて力説するとは思えない内容の事を口走るアテルイを見て、そう感じた。
だがアテルイが、己の男根を中心に物事を考えるだけの男なら、強い嫌悪こそ感じはすれど、此処までの敵対心は憶えなかった。
事実、アテルイの言う通り、彼のやった事は結果的にはクロエの為にもなる事である、と言う点は事実なのであるから。
それ以上に、問題だったのは、次にクロエが口走ろうとしていた、あるもう一つの事実だった。

「セイバー……」

「あ?」

「……この巾着袋、何処で手に入れたの?」

 単純な話だ。クロエは、アテルイにこんな物を預けた覚えはない。 
となれば、この男の性格から考えて、導き出される答えは、一つ。

「震えた声で聞いちゃって、可愛いねぇ」

 口の端を吊り上げて、アテルイが言った。

「元の持ち主を殺して、に決まってんだろ? 影法師と戦ってる所を散歩中のババァに見られたんでな、斬り刻んだ。あぁ、でもよ、これは間違っちゃねぇだろ? 神秘の秘匿、だっけか。重要なんだろ? それよ」

 次に飛び出させるつもりだった言葉が舌の上で蒸発し、しかし、頭蓋の中に熱して溶かした鉛を注ぎ込まれる様に怒りで熱くなって行くのを、クロエは憶えた。
これが、自分の呼び出した、サーヴァント? サーヴァントは、生前縁のあった触媒を用意しないでの召喚の場合、その存在と一番縁深い存在が、
呼び出されると聞く。これが、自分と一番縁の深い存在であると? それを思った瞬間、クロエは、どす黒い殺気の籠った瞳で、アテルイの事を睨まずにはいられなかった。

「心配すんなよ、マイ・ハァニー。俺は俺の邪魔をしない限り、一蓮托生のお前を殺す程馬鹿じゃぁない。俺は最強だ、マスターが殺せって言われたらどんな強いサーヴァントだろうが剣の錆にでもしてやんよ」

 そこで、首筋に当てていた剣をクロエから離して、ニヤ、っとアテルイが嗤った。

「一緒に進もうじゃねぇかよ、マスター。このクソッタレな葦原中国を、悪徳と暴虐の坩堝に叩き落とす為によぉ」

 月を背負ってゲラゲラ笑うアテルイの姿を見て、クロエは、絶対に元の世界に戻ると同時に、令呪で、この男を抹殺しようと、固く決意したのであった。




【クラス】セイバー
【真名】アテルイ
【出典】史実(日本:生年不明~AC802年9月17日)、続日本記等
【性別】男性
【身長・体重】183cm、75kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:A+ 耐久:A 敏捷:A 魔力:B 幸運:D 宝具:A

【クラス別スキル】

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【固有スキル】

神性:D
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

堕天の魔:A+
魔性や悪性の属性を付与された時に獲得するスキル。このスキルのランクは、その付与された属性の強さの度合いを表す。
ランクA+は、意図的に第三者の手によって属性が付与された訳でもない限りは、主神或いはそれに近しい神格の神霊が、悪魔や鬼にでも貶められねば、獲得は不可能なランク。悪属性のサーヴァント達による全ての害意ある干渉の威力を、ツーランクダウンさせる。

鬼種の魔:B+++
鬼の異能および魔性を表すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
魔力放出の形態は、セイバーの場合は『嵐』であり、相手の身体を爆散させる程の風や、低ランクの剣宝具並の切れ味を誇るカマイタチ等の創造を可能とする。
セイバーは厳密には鬼ではない。ただ、古の昔、数多く喰らってきた鬼に含まれていた、鬼の因子と、生来備わっていた神の因子が融合を起こし、このような値になってしまった。

心眼:A
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】

『天十握剣(ほろぼされるいのち、とおではきかず)』
ランク:B++ 種別:対人~対軍宝具 レンジ:1~10 最大補足:1~10
セイバーに残された、スサノオの司る武芸の権能及び超常の絶技の体系が宝具となったもの。
記紀神話に度々名前の語られる神代三剣の名前を司っているが、上記の通りこの宝具は『剣が宝具となったものではなく』、セイバーの有する技術と能力が宝具となったもの。
セイバーは手にした剣及び、剣に似た形状の武器に、宝具ランク相当の神秘と切れ味及び攻撃力の付与が可能となる。
そして、この宝具によって強化された武器は、相手の身体を斬り裂くだけでなく、『相手の存在していると言う事実』を斬り裂く。
これによって、相手は如何に高ランクの防御ステータスを持ち、どんな防御スキルや防具、宝具を持っていようとも、其処に在ると言う事実が斬られている為、
直撃してしまえば元のダメージに加算される形で更に大ダメージを負い、神秘を帯びた防具や宝具で防御しようにも、存在すると言う事実を斬られている為、
一見して無傷で攻撃を防いだと思っても、実際にはダメージを負っているので、防御し続ければいつかは破壊されてしまう。
防御には最低でもAランク以上の、空間遮断以上の防御能力が必要。それ以下のランクでは、セイバーの超常の膂力と技術力で、空間を遮断したとてその空間ごと破壊されてしまう。

『朝征陽殺(ほうむるべきいのち、よろずにとどけ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
セイバーが生前喰らって来た、朝廷によって住処を追われた力ある種族及び妖怪達、そして真正の鬼達の力及び能力の、全呪解放。
発動すると刻まれた刺青から黒い瘴気が噴出し、それが厳めしい鬼をモチーフにした鎧を形成。その状態になると、全てのステータスに+の補正が一つつくだけでなく、
攻撃どころか呼吸、目線に及ぶ、セイバーが行う、及び発散する全ての物事に、上述の『天十握剣』の効果が適用される。
目線を合せて睨みつけるだけで、相手の身体はズタズタに斬り裂かれ、呼吸をするだけで周囲の存在は真っ二つになり、高速で移動するその余波で、
C~Bランク相当の斬撃が刻まれ続けると、この状態のセイバーは生きた斬撃兵器と化す。唯一の欠点は、魔力の消費量であり、現状のマスターの弱点を鑑みるに、乱発は出来ない切り札である。

【weapon】

無銘・骨剣:
生前殺した鬼の骨を加工して作り上げた、刃渡り一mを大きく超える直剣。
サンドブラスト加工を施した様にざらついた表面の剣身を持った、灰色の剣であり、これが正真正銘の天十握剣、と言う訳では勿論ない。

【解説】

アテルイ、或いは悪路王と時に呼ばれるこの存在の正体は、今も謎に包まれている。
平安時代初期、当時の大和朝廷から敵と認識されていた、蝦夷の軍事指導者であり、坂上田村麻呂と激戦を繰り広げた後、処刑された、
と言う事が歴史書には記述されているが、彼の詳しい人となりについては一切が不明。
性格は元よりその体格、何よりも、田村麻呂との戦いの模様についても、田村麻呂の戦力数とアテルイの戦力数についてざっくばらんに説明し、
どちらが勝ったのかと言う結果のみしか記されていないと、ヒステリーとしか思えぬ程、アテルイについて詳しい記述が控えられている。

その正体は、『高天原から追放される際に、記紀神話の神々から強制的に分離させられた、素戔嗚尊(スサノオノミコト)の純粋なる悪の部分』そのもの。
スサノオは幼年時代と青年時代とでは、余りにも性格に違いがあった。幼年~少年期は、それこそ邪悪その物と呼ぶべき悪行を度々繰り返して来たが、
青年期になると少年期の悪逆非道さが嘘のように消え失せ、落ち着いた性格になり、神としての威厳や、大人物と呼ぶべき風格を取り戻した。
この性格の違いの真実は何て事はなく、姉である天照大神が天岩戸に閉じこもらざるを得なくなった程の悪行であった、逆剥ぎの一件で、
とうとう天津神達が我慢の限界を迎え、強制的にスサノオから、悪の部分を全て抽出、分離。その上で二名を、地上へと追放したのである。
この一件で、善の方のスサノオは力が完全な状態の9割にまで低下させられてしまうが、悪の方のスサノオは、残りの1割の力しかなかった。
当時はまだ神代の世界であったが為に、如何に悪のスサノオとは言え、1割の力しか発揮出来ぬようでは死んだも同然。と言うのが、神々の見解だった。
だが、悪のスサノオは生きのびた。己の力で、妖怪や鬼を殺し、喰らい続け、力を蓄え続け、魔性の者と成り果てながら、彼は生存。
それどころか、多くの天津神、それこそ姉のアマテラスや善のスサノオですら、他の神霊同様に世界の裏側に隠れてなお、悪のスサノオは地上に残り続けた。
永い時をかけて成長した悪のスサノオは、己を地上に叩き落とした天津神や、姉であるアマテラスの直系である、天皇家を滅ぼさんと画策。
それはつまり、日本の転覆に等しかった。そこで悪のスサノオは、当時の東北を拠点に、鬼や魔の者達で構成された大軍勢を結束。それが、蝦夷であった。
この時から己の名を『アテルイ』と改名、それこそ日本が本当に滅ばん限りの悪逆非道を尽くそうとしたが、流石に此処までの暴挙は許されない。
天津神のみならず、仏達の加護を得た坂上田村麻呂が、鈴鹿御前とのタッグを組み、二名が死ぬ一歩寸前まで追い込まれて漸く倒された魔王。
それこそが、このアテルイであった。これだけ特徴的だった男が、異様に記述の少なかった訳は、単純明快。彼の正体が曲りなりにも日本人の総氏神とも呼ぶべき女神の弟、それから別たれた悪の部分であり、しかも別たせた者がよりにもよって天津神であった、と言う事を記述する訳には行かなかったからに他ならない。アテルイは、意図的に存在を秘匿された侵略者であった。

スサノオから抽出された純粋悪な物であるから、およそ善の要素など欠片たりとも存在しない。正真正銘の悪性そのもの。
加えて、抽出した元がスサノオであるから、その趣味趣向まで似たり寄ったり。早い話、マザコン、シスコン、ロリコンの三重苦。
ただ殺し、ただ犯し、ただ盗む、悪の中の悪であり、通常こんな存在は狙っても呼び出せない。
それにもかかわらず、クロエがこんな化物を呼び寄せられたのは、彼女がイリヤから分かたれた存在であり、アテルイもまた、
スサノオから分かたれた存在である事に起因する。聖杯に掛ける願いは、日本と言う国家の転覆と荒廃。嘗て敵視した姉や善のスサノオが消えた世界と解っていても、この男はこんな荒唐無稽な行為に身を染めるのである。

ちなみに宝具の天十握剣は、スサノオの有する武神・戦神としての権能が、これでもかと言う程落魄してあのランク。
真実本物のスサノオで、かつ本物の天十握剣を握った状態で行われるこの宝具は、このアテルイが振うそれを遥かに超越する程の威力を誇る。

【特徴】

唐草模様の風呂敷を肩に掛けた、茶色の髪をした褐色の肌で、黒い褌を一丁巻いただけの姿の男。
ギリシャ彫像を思わせる黄金比を体現したような均整の取れた鍛え上げられた身体つきを誇る。
身体には刻まれた、黒色に光る、大樹の根が絡み合うような意匠の刺青が刻まれている。

【聖杯にかける願い】

国家転覆






【マスター】

クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】

この世界からの脱出。場合によっては、聖杯戦争をも止める。

【weapon】

投影した宝具及び武器など。

【能力・技能】

現界の触媒であるアーチャーのクラスカードによって英霊化の状態にあり、身体能力は人間以上。
アーチャーの能力である投影魔術を苦もなく発揮し、その戦闘能力は高い。
アーチャー同様に『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』を使いこなし、刀剣で壁を作るなど機転が利き、状況判断にも優れている。
また、限定的ながら願望機である聖杯の能力も持っていて、望んだ魔術を理論や過程をすっ飛ばして行使することが(クロの魔力の及ぶ範囲で)可能。
投影魔術を苦もなく行使できるのはそれに特化した英霊の能力のみならずこの能力の賜物でもある。加えて大抵の拘束魔術は無効化し、転移魔術も操れる。
しかし、その肉体は魔力によって維持されており何もしなくとも常に消費されているため、枯渇する前に何らかの方法で魔力を補給しなければならない。
クロがキス魔なのは魔力補給の手段として手っ取り早かったためらしい。

……だが、今回の冬木市は何処か異常らしく、クロエの平時の魔力の消費量が『遅くなっている(尤も、普通のマスターに比べればその消費量は早めではある)』

【人物背景】

もともとはイリヤが赤ん坊だった頃に、アイリによって機能と知識と記憶を封印された『本来のイリヤ』。
この封じられた記憶がいつしかイリヤの中で育ち「一つの人格」が出来上がり、ついに肉体を得た存在。
イリヤが危機におちいった際、封印が一時的に解かれ、危機を回避した後に再封印される、というプロセスを経るはずだったが、
円蔵山の地下大空洞の地脈逆流時に危機を回避しようとした際、地下に眠っていた『大聖杯の術式』の力により「弓兵」のクラスカードを核として受肉化した。

2wei!最終巻以降の時間軸から参戦

【方針】

脱出の為の情報探索。アテルイを出しぬく

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最終更新:2017年07月14日 00:29