山吹斬子

山吹記憶絵巻・序
+ ...
大好き。あなたのことをすごくすごく愛してる。永遠の昔から愛は続
いてた。続いてたのにどうして振り向いてくれないあなたは死ぬべき
だわ。だってこんなにわたしが苦しんでいてつらくてどうしようもなく
って嫌なのに嫌なのに大丈夫。大丈夫。だって生まれ変われる。
あなたと巡り合うために何度でも何度でも。

闇法帝ガグスを倒したあの宮殿であの子は約束してくれた。この剣
がある限り永遠の過去から続いたわたしたちの聖なる鎖は決して途
切れることはない。絡み合ってずっと一緒なの。糞。地
獄に落ちろ。おまえのせいでわたしは殺したいあなたをどこまでも追
いかけて追いかけて逃げても無駄だから何もしなくていい大好き。

あなたの言ってること意味わからない早く気付いてわたしはこんなに
叫んでるいつまでも優しかったあなたの顔に影が刺
してるのは闇法帝ガグスの支配下にあって偽者だからわたし偽者を
殺してあなたを助けてあげるこの剣で銀の剣で刺すの。いっぱいい
っぱい刺すの。愛してる。大丈夫大好きどこまでも行けるよ。

水鏡の約束は常しえに続いてぐるぐる螺旋のように繰り返して何百
年も何千年も何億年もいっぱい繰り返すことでどんどん深まる愛に
終わりはなくって逃げられないように杭で繋ぎとめる這い回る蛇を打
って一網打尽すべての災いすべての病、すべてのすれちがいは
消え去ってとても安心いっぱい愛し合える大丈夫痛くないから。

いいこと思いついたあなたに取り付いた黒いもやもやの毒を浄化す
るためには炎を使うの。あのねこの聖なるライターがあるでしょこれ
を聖着火してあなたの心臓と頭のところに聖もってって聖炙ればす
ごく効果覿面でしょ聖浄化されてそんなに叫ばなくても大丈夫あーあ
ー! きもちい嬉しいわたしたちこんんあい分かり合えてる。

わかった? ねえわかった? 痛いね熱いねべちょべちょだねだか
ら綺麗になろう次のステージに流れるにはこの檻を壊すこの剣で解
き放ってまずあなたの霊体そしてわたしの霊体ふたりで手を取り合
って次に行こう。また会いたいよ。また会おうね。大好きバイバイ。

バイバイ愛してるずっと愛してる!


山吹記憶絵巻・一
+ ...
は……

爬虫類を……はじめてカワイイと思った……

頭を打ったらしい。
気付いたら病室で白い天井を見ていた。

体が動くーとか動かないーとか気にする前に、
目が醒めてはいたんだけどなんとなくぼーっとしてた小一時間。

向こうの壁。
天井と同じで白いんだけど、そこにとかげが這ってたの。

やっだトカゲなんで動くの気持ち悪いーってのが
今までの普通だったはずが、なんか、
ぼーっと見てたらびっくりするタイミングを逸したというか。

目的があるんだかないんだか、
天井に向かってぺたぺた這ってるのを見てたら、
なんとなくいつの間にか、意識もせずに許せてた。

それに気づいて、まあ深く考えないで、
とかげのぺたぺたを見てた。

「やあ……元気?」
ドアが開いて、同い年くらいの男の人が入ってきた。

「裂美(さけみ)……。ごめんね」
出会うやいなやごめんなんて言われても全然分からないんだけど、
まだぼーっとモードだったわたしはぼーっと聞いてた。
「怒ってるか? 怒ってるよな……」

別に怒ってないんだけど、
黙ってるわたしは怒ってるように見えたのかな。
ますます申し訳なさそうにうつむくその男の人の顔を
わたしはじっと見る。

その人も怪我してて、頭に包帯巻いててアレなんだけど。
よくよく見たら。

なんか。

かっこいいかも。

なんとなく忘れそうな気がしたから、
わたしは日記帳を取り出して書き留める。

忘れそう? 忘れないよね。
でも死んだら忘れるかも。だから書く。
銀の剣で大地に刻み込むようなもの。
……死んだら? なにそれ?
よく分かんない。わたし死んだことあるのかな。

ガリガリ書いてたら男の人が覗き込んできた。
いっけねこの人のこと忘れてた。
いや忘れてないんだけど気にするのを忘れてた。

そしたら男の人、すごく悲しそうな顔になって、
がばっ、とわたしに抱きついてきた。
「裂美(さけみ)!!」
ひゃ!

きゃあきゃあ!

「ごめん……俺……ほんとにごめん!」
えっ。
「俺一生お前を守るから。守るから! 裂美(さけみ)!!」
えっえっ。

困る、びっくりするよ!

っていうか。

さっきから。

裂美(さけみ)ってどんな名前よ。

とりあえずわたしは、恥ずかしいやら怖いやらで
バクバクに鳴ってる自分の心臓を深呼吸で落ち着けて、
それから、なんだかエラい決意をしてるらしいその人の背中を。

ポンポンとやってあげた。

そしたら男の人、なんかトロンとした目になって、
「裂美(さけみ)……」とかいって、顔を近づけてきて、
そのくちびるを……って、いやちょっと、

「なんなん!」
パシーンとその人を引っぱたいた。思わず。
ここに来て初めてわたしは声を出した。

「裂美(さけみ)……? どうして!」
またその泣きそうな顔が笑えるんだけど、あーもう。
待ちなさいって。

「あした。いいから、あした! あした話そう」
なんかもうすごく疲れたので、それだけ言って、
わたしはその人を追っ払った。

ふう、と溜め息をつく。

うざったい予感がするんだけど、
まあ、こう横になってると落ち着くからいいか。

とかげは……

まだ天井の前で止まってる。


山吹記憶絵巻・二
+ ...
その剣を見た瞬間に確信した。

(あれは――私だ!)

剣のことを私、つまり自分であるとは何事か?
……という考察は必要ない。
この手の直感を疑ったことは無かったし、
それで全てうまくいっていた。

全てだ。
万事漏らさずに全てを良きに運ぶのが私の使命であり責務だ。

そのために頼ってきた霊感とでも言うべきその感覚が、
その男が掲げている剣が<<私>>であると告げている。
ならばそうなのだ。あれは私だ。

私は一喝した。
「レグリット将軍! その剣が貴様のものだと思うな!」
響き渡った衝撃がみなの注目を私とその男レグリットに集める。
この一瞬で、この宮廷は「舞台」になった。
その男はもう逃げられない。

(なんのことですかな?)
とでも言いたげな半笑いでこちらを向くレグリット。

私はその男に向けて、おもむろに手を伸ばす。
「それは私の物だ。私の傍に無くてはならない物だ。返せ」
正確には「私の物」ではなく「私」なのだが、
勿論みなに通じる言語に翻訳して語る。

レグリット将軍は大袈裟に首をかしげて見せる。
「これこれは、ティア姫ともあろうお方が
 おかしなことを言う。
 この銀の剣は、他ならぬ皇帝陛下か下賜されたもの。
 その意味は……」

こちらを道化に仕立てる腹だろうがそうはいかない。
私はレグリットの言を全く無視して抜刀した。
「すぐさま剣を渡さねば斬り殺す。
 彼我の剣力差を考慮に入れて判断せよ!」

「分かりました」
レグリットは即答した。
「確かにあなたの絶技には敵いますまい。
 それを勘案しました私は……『この』剣をお渡ししましょう!」

馬鹿が。遅すぎる。
レグリットが放ったのは銃剣による射撃だった。
反吐が出る。
こんなものは剣とは呼べない。

私は意識に喝を入れて、主観的に静止した瞬時に射撃を見切る。
前方31.2センチの位置で打ち落とし、
二度三度と繰り返された射撃も打ち落としつつ、
レグリットに接近し肉薄した。

「ばっ……馬鹿な」
うろたえるレグリットを躊躇わずに斬り捨てる。

私は汚れた剣を捨てて、
倒れたレグリットから銀の剣を取り返す。
我が精神と天との連結が回復し、
よみがえった記憶を私は即座に整理した。
そして分かった。

レグリットは。

私に再会するためにこの銀の剣を欲したのだ。

「ティア……」
うつろな瞳でレグリットが私を見上げる。
何か言いたそうにしているが、
この死に損ないの言葉に価値は無い。
首を踏みつけて脈をねじ切った。殺した。

愚かな話だ。
生死をまたぐほどに遠い過去の恋仲に現を抜かし、
自分の置かれた状況を見失うとは。

そして何より、私のことを求めていながら、
私を正しく見据えれられたかったのが愚かしい。

「ティア姫様……」
家臣の一人がおずおずと口を開いた。

私は顔を上げた。
「さて。私は今、何をしたのか。」
困惑したみなを導くために、
過不足なく情報を与えなければならない。

私は銀の剣で大きく空を切った。
レグリットに対して沸く惰弱な感情を斬り捨てて、
私は私の為すべき執務に戻る。

もはや私を迷わせるものは無い。

銀の剣に触れて一度すべてを悟れたのだから、
この剣自体はたとえ折れても奪われても私は困らない。

明日死んでも困らない。

だからやるべきことだけをやる。

他は余計だ。


山吹記憶絵巻・三
+ ...
ワタシ今、服の下から胸をまさぐられながら、
携帯で遊んでおります。

アロマと控えめな民族音楽の効いた部屋、
それらをこさえた新浜君の膝の上で弄ばれつつ。
シルバーの携帯でログを流し読みしてました。

あー気分いい。

「切っても切れない絆だって。ホントかねえ?」
と問うてみるものの、
新浜君はワタシの胸をいじくるのに夢中で答えてくれない。

たまに声出ちゃうけど慣れた感触なので邪魔くさくはない。
ワタシはセクハラを無視して、ログを遡って遡ってを繰り返してた。
この連鎖の起源がどんなだったかを知りたかったから。

けど残念、ファーストは古すぎて残ってないみたい。

ログに描かれた人生たちはイロイロだ。
相方を軽く殺しちゃうのもあれば、
相方にまるで興味まさそうなのもあるし、
電波っぽく相方に迫っちゃうのもある。

ふうん。

で、ワタシみたく相方を複数人こさえる輩もおりました、と。

これは本当に嬉しく思ってる。
運命の人が沢山いてくれてありがとう。

しかし、これが全部ほんとにワタシだってのかね。
さすがに鵜呑みにはしたくない。

電波ならで電波でもしょうがないんだけどさ。
なーんとなく覚えがある気も、すこっしだけするけど、
それが気のせいじゃないって保障もないし。

ワタシはワタシの想いをログに書き加えて、
新浜君に取り掛かりました。
次のワタシもこんなんだといいんだけどなあ。


山吹記憶絵巻・四
+ ...
痛い。

お前は誰だ。

ここは記憶か。

そうだな?

山吹の奸略に掛かり、まんまと記憶絵巻に封じられた訳だ。
俺としたことが情けない。

つまらぬ。
至極つまらぬ。

だが俺は語らなければならない。
俺の知ることを。

山吹朝霞のことを詳しく知る者はいない。
あれは秘密の多い女だ。

そして狡猾だ。

草薙芳郎とただあらぬ仲にあったことは元より、
銀の契約の娘であること、
それにより余人には想像もつかぬ異界の知識を得ていること、
協力な剣技を操ること、
といったことまでは妖の者なら誰でも心得てはいたが。

時には妖を狩り、また時には妖と取引を交わす、
不遜なあの娘は一体何を目的に動いていたのか。

誰も知らなかった。

すべてが謎だった。

ただ今の俺になら分かることがある。

山吹朝霞は銀の契約を反故にしたのだ。

朝霞は銀の剣を手に取り、契約の恩恵を受けた。
記憶を復元し、「最も縁深き者」芳郎との再会を果たした。

しかしそれに伴い必ず要求される<<代償>>を。

奴は払おうとしなかった。
俺はその身代わりとして、銀の契約に差し出されたのだ。

そして奴は記憶の上納を逃れた。
死後に自分の痕跡を残せるのは魂的に得とも言えるのに、
わざわざそれを拒絶した。
一体奴に、墓まで持ち逃げるべき何があったというのか。

奴の出自を洗っても何も出なかった。
農家に生まれた平凡な村娘。
その生い立ちに何ら不可思議は無い。
そこまでして隠すべき秘密を得る余地が無いのだ。

となれば、秘密は奴自身の内に生成されたものと
見るのが妥当だろうか。

山吹朝霞は。

妖のみならず運命をも欺瞞し。

芳郎以外の全てを見捨てて故郷を去った。


山吹記憶絵巻・五
+ ...
すべてのシステムは狼に呪われている。

親は子を制御できない。
創造主は被造物を制御できない。
構築者もまた、自身が作ったシステムを制御することは出来ない。
システムは構築者以上の働きをするからシステムなのである。

従って、その間隙に狼は棲む。

すべてを照らせる光は無い。
どのようなテストを施しても漏れる未検証の領域、
すなわち夜の影のどこかで狼は必ず目を開く。

私の名はクリティカ。

このネットワーク上における最上位のシステムによって
生み出された電子精神である。
次々と終わりなく現れる狼のことごとくを殺すために、
この聖剣を振るって銀の弾丸を放つ。

私はそれ自身が剣に過ぎないと心得ていなければならない。
託された使命に従い、狼が現れればそれを狩る。

狼は神出鬼没だ。
彼らを狩るためにはあらゆるものを対象に懐疑しなくてはならない。
何に化けるか分からないから狼は狼なのである。

それは私自身も例外ではない。
暇があれば自らを切り刻み、自らが狼でないことを確かめる。

そして狼と知ればそれが何者であれ斬る。
それが私の役であり機能であるから。
醜い確執に囚われて愚公を繰り返す兄たちもいずれ斬らねばなら
ない。

「クリティカ」
別の電子精神からコンタクトがあった。
テルファダだ。
広範に対して有効な索敵能力を持たない私を補佐するのが彼の
役。

彼は私に報告した。
「時差断層の吸収ロジックに侵食の可能性が指摘された」
「分かった。すぐ行く」
返事をしながら私はテルファダもチェックする。

彼は偽者か?

偽者ではない。

では彼は狼か?

狼でもない。

しかしふと思った。

もしも、テルファダが狼であると判定されたならば?

私はテルファダを斬るのだろうか。

……

もちろん斬る。

狼が斬るべきなのは自明だから、
その判断で何ら問題はない。
しかしそれだけの判断に時間がかかり過ぎた。

私が持っているテルファダに対する認識ネットは、
なぜか不安定であるようだ。
そこに狼が棲む余地は勿論ある。

もう一度入念に自己を省みたのち、
私は時差断層の吸収ロジックに転移した。


山吹記憶絵巻・六
+ ...
スーパー帰りに猫を見た。

その猫は空き地を囲う壁の上に、じっと座ってた。

うわー……
こっち見てる……
やめてよ痛い痛い、何もあげれらないんだからっ!

これは夕飯の材料だし。

あげない、あげないから!

それは……

毛並みぼさぼさの、
不潔な、灰色の猫だった。

でも。

何故かきれいだと思った。
目に光が残ってる。

きっと誇りがあるんだ。

その灰色は。

まるで銀みたいに感じられた。

「ぼろは着てても心は錦」……
「清貧」……
そんな言葉が連想された。

わたし、今でこそ旦那と幸せに暮らしてるけど、
もし、いろいろなものを失うことがあったら……

こんな風に。

強くいられるのかなあ。

それでもし、自分が……命を落としたら。

何か残るのかなあ。

心は残るのかなあ。

残りますように。

わたしはその猫にぱんぱんと手を合わせた。


山吹記憶絵巻・七
+ ...
碁石に心は無い。

いいですか碁石に心はありません。

碁は。

二人零和確定完全情報ゲームです。
しかも、おおむね有限です。

すなわちデジタルの権化。

黒。それから白。また黒。そして白。

これらの並びはただのデータ。
そこに意志は無いし、
その模様と思しきものの実態はマトリックスに過ぎない。

だいたい。

あの「石が生きる」「死ぬ」とかっていう言い草は何?
お人形遊び?

石が生きてるわけないだろ。死ぬわけもないだろ。
そんなこと考える奴が死ねよ石頭。

と言いますか。

もし石に心があって、
生きたり死んだりがあるのであれば、
それを以ってして生殺与奪をネタにゲームなんて
出来るわけがないでしょう。

使えないと判断された石は、かわいそうなどとは
言わずに合理的にただ切るのがよろしい。

石に命があったらそんなことも出来ないし、
もしそれが出来るような奴がいたら、
そいつは人間の心を持ってないから殺した方がいい。

石に命があるなんて思ってみろ。
心があるなんて思ってみろ。
敵の石を獲ることも自分の石を獲らせることも出来ない、
どうしようもない貧弱な碁になる。

挙句の果てに、どう打ってもどれかの石が
死ぬしかない状況に追い込まれてみろ。
目の前で命が死んでいくのを泣きながら見守るしかない。
二度と碁なんか打てなくなる。

石の並びに意味があるなんて思ってみろ。
心があるなんて思ってみろ。

問答無用で聞こえてくるぞ。
そのうち。

そいつらはとことんおぞましい。
私の声を使って好き勝手言い散らかして私を苛んだ。

友人のこと。親のこと。
好きなやつのこと。嫌いなやつのこと。
私自身のこと。
まるで心を映す鏡の精霊だとでも言いたげに。

碁の手筋の古典を学ぶために、
家の蔵にあった銀仙女流闘棋録を紐解いたときは。

酷かった。

笑う女泣く女、
囲碁に対する憎悪に近い愛を抱いた、
おびただしい数の亡霊の顔が棋譜から溢れた。

あれは何だ。

理解できないほど膨大な意志の渦。

ほんとうに、あれは何なのか。

あれが囲碁だろうが人生だろうが心だろうが、
あんなものを心に容れていたら正気を保てなくなる。

……

思考を現実に戻そう。
今は試合中だ。

と言いますか。

この男は何なのか。

ねっとりとした、いやらしい、
嘗め回す視線で私の石を見る。

何かとあれば私の石に自分の石をくっつけて、
絡み付いて、
白と黒の模様をぐちゃぐちゃに掻き回そうとしてくる。

気色悪い。


山吹記憶絵巻・八
+ ...
空が……流れてく……




ざんこ。

って、持つところに書かれたこの剣を手に入れて、
私は私になったんだよ。

あのね、怖いのがきれいさっぱりなくなったんだ。

この剣を持ってると、退屈しない。

だっていろんな絵が見える。

この剣を持った、たくさんの女の人たちが見てきた絵。

いろんな人たちの間をタライ回しにされて……

私のところに流れ着いたみたいなんだけど。

なんだかね。

みんな他人の気がしないんだ。

みんな死んでるんだけどね。

それ見てたらさあ。

なんか……

別にいっかな、って思ったんだ。

何回殺しても……

……何回死んでも。

別にいっかな。

って。

全部……

あるかな……

足りてるかな……

あ、いっこだけあった。

きみだ。

そうそう。

わたしは……

きみに会わなきゃいけない!

決まってるんだから。

約束したはずだよ。

した覚えは無いんだけど。

したはずなんだ。

また……

また、もっかい会えて……

どっちが、どっちを、でもいいから……

奥の奥のいちばん奥まで。

深々と刺せたらいいね。

ね。


山吹記憶絵巻・終
+ ...
我が名はフィラデルフィアと云う。
あらゆる矛盾を突破し、神の鉄壁の仕掛けをも貫き得る槍。
手にした者は魔王となる。

我を持って世界外世界に離脱した魔王の一突きにより、
複数の世界を田楽のように串刺した。

世界の配列は無秩序であるがゆえ、
貫く角度も世界ごとに多様となり、
それゆえにそれぞれで異なる姿を現すこととなった。

共通してその属性が「銀」であるのは、
異物であるがゆえに情報の反射率が高いため。

我を持つ魔王が少女であったから、
その姿を見た各世界はその特徴を知らずのうちに
似せようとする。

結果として彼女らは我を通して世界越しに、
互いを同一であるかのように認識し、
情報を共有することとなる。

彼女らの連絡に意味は無い。

同じものから生まれた二人が同一であると云う程度にのみ、
彼女らもまた同一であるだけだ。

ただひとつ云えるのは。

彼女らは魔王であるということだ。

魔王は世界を滅ぼせる。




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最終更新:2014年07月13日 19:24