バスノンの地下城砦

 エンゼスメキア北西部に位置する巨大な地下城砦で、闇の領域。現在、暗黒帝国の南大陸における拠点となっている。“夜の主”というメルグアズールによって統治される。
 聖剣エグネウンの力によって廃虚と化したが、闇の領域にとって、廃虚となることは壊滅と同義ではない。かえって、よりいっそう侵入者を寄せつけない、迷宮としての複雑さを増したともいえる。確かに“主”以外のほとんどの魔物は滅ぼされたのだが、今では魔物の数も回復し、以前より増大しているようだ。
 この城砦は“夜の主”の結界の完全な領域内にあり、ここでは“夜の主”は絶対なる支配力をもつ。
 バスノンの創造は、“暗黒王”ヴァザルダウアによって為された。かつて暗黒王がその深い闇の眠りから目覚め、南大陸において地上への侵攻を始めた際に築き上げた拠点。地底深くへ巨大に穿たれ、複雑に構築された迷宮。地上から隔絶し、ひとつの世界を形成している。ここを徘徊する魔物たちの生態、暗い回廊をかすかに吹き抜ける湿った風、地下水脈を流れる水滴の一粒一粒・・・、この閉じた世界を形成するすべての様態は、互いに他の様態と関連し合い、複雑に絡み合って集積する。あたかもその全体が意志を持っているかのように。そして閉じた世界に対し与えた効果・・・・たとえば腕を上げるようなことが・・・が、全体にどのように波及し、どのような影響をおよぼすかの規則を知るだけの知性があれば、世界への効果と影響を操作し、その様態をまた読み解くことで、これを思考の代用として用いることができるであろう。それはいかなる書物よりも深く思索を拡げる道具となるのだ。
 暗黒王はまさにそのようなことを意図して、この広大な地下世界を構築したのだという。そこで生じるあらゆる事象を詳細に計画して。つまりこれは闇の軍勢の拠点であると同時に、暗黒王の思考を拡張した、ひとつの精神界でもある。・・・かつてリッジェはそのように語った。暗黒王こそはまさにこの複雑な構築物によって、人の限界など遥かに超えた概念領域を思考し、超常への道を模索しているのだと。
 やがて暗黒王は自らつくりあげた思考の中心においてエレフに破れ去る。遥かな歳月を主なきままに過ごした後、ついに聖剣に破壊されたとき、バスノンは積年の闇と静寂に加えて混沌という要素を取込み、奇怪にその様態を変えたともいえる。新たな主のもとでそれが今、何を‘思考’するかは、もはやどのような存在にも把握できないであろう。世界最大の迷宮、最大の異界と呼ばれる所以である。











最終更新:2009年10月25日 00:50