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チェンジ・ザ・ワールド☆
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苦くて甘いもの.6

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苦くて甘いもの








ブン太が決意を表明してから10分後、和葉と切原は真田、柳、柳生を連れて戻って来た。

丁度マンションの前で会ったらしい。


「じゃあ適当にくつろいでて。これからご飯作るから」

「お手伝いします」

「ありがとう、柳生君」

「俺も手伝います!」

「ありがとう切原君」

「俺も手伝うぜよ?」

「あ、ありがとう……でも皆はさすがに入りきれないから、何かあったらお願いするからゆっくりしてて」


図体のでかい男が何人もキッチンに立っていると、邪魔で仕方ない。

和葉は苦笑いをして全員をリビングへ追い出した。

和葉の住んでいるマンションは広い。

一人暮らしにはもったいないくらいの間取りだが、和葉はリビングダイニングとそこに続く部屋のドアを取り払って随分な広さを取っていた。

よく友達が泊まりに来るかららしいが、それでもまだ別に部屋が2つほどあった。

一つは和葉の寝室で、もう一つは物置として使っているという。

おかげでテニス部のレギュラー陣が全員揃っても十分な広さがあった。

いい匂いがして来て、皆が入れ替わり立ち替わり手伝いに行った。








夕方の18時になろうとしていた頃、肇がスーツ姿で現れた。


「おっ、全員揃ってんな」

「どうも、お邪魔しています」

「おう」


真田が挨拶をすると、肇はすぐに台所へ向かった。


「和葉、これ親父から」


肇が手渡したのは実家の母親が作ってくれた漬け物だ。和葉の大好物でもある。


「んー、ありがと。漬け物とか若い子食べるかな? あ、肇これ向こうに持って行って」

「年関係なく普通に食う奴は食うだろ? あいよ」


和葉と肇のキャッチボールは言葉と動作一緒くただ。

さすがに同じ遺伝子。

次に何か言う前に肇は行動に移してくれる。

肉の焼けるいい匂いが家中に漂い始め、ブン太と切原はソファーの上で腹を鳴らし始めた。


「腹減った~!」

「お前ら育ち盛りだからなー。もうそろそろ出来上がるぞ」


肇が大きなボウルに入ったサラダを三つテーブルに並べた。


「肇さんのスーツ姿、初めて見た」

「ははは、親父の仕事の手伝いだったからなあ。似合わねーだろ?」

「似合うけど、ちょっと堅気の人に見えないかも」

「それを言ったらジャッカル君も見えねーぞ?」

「俺ですかっ?」

「おお、肇さんと二人並んだらこえーだろうな!」


和気あいあいとした時間。

ブン太はずっと緊張しっぱなしだったのだが、肇の出現で少し落ち着きを取り戻していた。


「出来たよ~」


キッチンから聞こえて来た和葉の声に、全員が反応した。


「「「待ってました!」」」










食事は楽しくて美味しかった。

さすがプロの料理人が作っただけのことはある。家で食べているとは思えないクオリティの高さで、全員がその美味さにうなりを上げた。

すっかり食べ終え、用がある人間がちらほら帰り始めた。

時計を見ると、21時を少し過ぎたところだ。

いくら大学まであるエスカレーター式の学校とはいえ、一応受験生であるブン太達は、大学進級試験を受けなければいけない。柳生はもっと頭のいい大学に行くらしいので、全国大会が終わってから本格的に勉強に力を入れ始めたようだ。

ブン太はそのまま立海大に進学する予定なので、別に焦ってはいない。

かといって勉強しなくても平気なほど頭が良い訳ではないのだが。


「それじゃあ俺はこれで、本当にご馳走さまでした」

「いいえ、またいつでも遊びに来てね」

「はい。今度はお店に妹を連れて行きます」

「ありがとう。待ってるわ」


台所で後片付けの手伝いを終えた幸村が和葉と話している。そろそろ帰るつもりらしい。

ふと気付けば残っているのはブン太と仁王だけになっていた。


「それではおやすみなさい。ブン太、仁王! あまり遅くまでお邪魔して迷惑をかけるなよ」

「へ~い」

「分かっとる」


もう少しだ。

もう少ししたら、俺は和葉さんに告白するんだーーー


そう考えると、ブン太は体がカチコチになってしまった。

それに気付いた仁王が笑う。


「ブン太、お前ちいと緊張しすぎじゃ」

「う、うるせー。俺は今、一生に一度の大勝負に出る所なんだ……」

「顔と言葉が合ってないのお」

「あ? 何が大勝負なんだ?」

「あっ、肇さん」


仁王と話している所へ、キッチンから牛乳を持って戻って来た肇がブン太を見下ろす。


「……それ以上でかくなる気っすか?」

「あ? ああ、これか? もうなんつーの、俺の命の水だから仕方ねえだろ。お前ももっと飲め。そうしたらもう少し成長するかもしれないぞ」

「今更頑張っても大して伸びないからいい」

「で? 何が大勝負なんだ?」

「えっ?」


すっかり話の矛先を変えられたと思っていたのに、肇は再びブン太を見下ろして尋ねる。


「なんでもない」

「ふうん」

「なんか、ブン太の奴和葉さんに相談したいことがあるそうなんですよ」

「え? 和葉に?」

「ばっ! お前なに言ってんだよっ!?」


隣りに座っていた仁王が肇を見上げてそう言った。

慌てたブン太が仁王に掴み掛かる。


「どうしたの?」


とそこへ顔を出した和葉に、肇はああと小さく呟いてブン太を見てニヤリと笑った。


「そうかそうか。ま、そーゆー事なら仕方ねえな。仁王君、そろそろ帰るか?」

「そうですね」


立ち上がった仁王の足にしがみつき、ブン太が潤んだ目で見上げる。

そんなブン太の頭をポンポンと優しく叩くと、


「ま、頑張りんさい」


と言い残してブン太の腕をほどいた。


頑張れって、どうしよう! さっき告白するって決心したのに、俺、もうマジで胃が痛くなって来た!!

チキンですか? 俺ってば天才じゃなくてチキンですかっ!?


あわあわと一人で慌てるブン太を他所に、肇が和葉に声をかける。


「和葉。ブン太がお前に相談したいことがあるんだそうだ。俺達もう帰るから、真剣に相談に乗ってやれ」

「え? ブン太君が私に? 私なんかで役に立てるの?」

「いや、和葉さんにしか解決出来ない悩みなんです」

「仁王君、よく分からないんだけど……食べ物の相談?」

「まあ、とにかくちゃんと話きいてやれよ。じゃあまたな」

「ご馳走さまでした。また皆で店に行きます。おやすみなさい」

「あ、うん。肇も仁王君も気をつけて帰ってね」


適当なことを言って去って行った肇と仁王を横目に、ブン太はどうしようどうしようと頭を抱える。

そんなブン太の気持ちも知らず、和葉は緑茶を入れてブン太の前に置いて隣りに座った。


「どうしたの、ブン太君。私に相談したいことって?」


ああ、そんな優しい目で見ないで欲しい。

ブン太はゴクリと唾を呑み込み、何から切り出そうかと命一杯頭を働かせて考えた。


チラリ


和葉の首からはシルバーのチェーンだけ見えている。

まずはそこから聞くべきか。

それとも、いきなり告白してしまうべきか。


「うう……」


とうとう考えすぎてうめき声が口から漏れた。

それに和葉は目を丸くする。


「ど、どうしたの? そんなに悩んでることなの?」


心配してくれる和葉に、ブン太はもう格好つけていられないと思い切り顔を上げて和葉と向かい合った。


「和葉さんっ!」

「うん?」




                  • 沈黙


名前を読んではみたものの、和葉と視線が合ってしまってまた言葉が出なくなった。

誰もいなくなった部屋はとても静かで、クーラーの機械音だけが虚しく響いている。


ああ涼しいな。


なんて間抜けな事を考えてしまうのは、きっと現実逃避しかけているからだろう。

和葉はブン太の言葉の続きを待っている。

その様子にブン太は胸が苦しくなった。


「ーーー俺」


絞り出した声は自分でも情けなくなる位に弱々しくて、ブン太は和葉から思わず目を逸らした。


「俺……」


なかなか先を言い出せないブン太に、和葉は苦笑する。


「ブン太君、言いにくいことなら無理に言わなくていいんだよ?」


和葉の優しさに、ブン太はため息が出た。

やっぱり、好きだ。

自分の気持ちを誤摩化すなんて出来ない。

和葉に彼氏がいようと、自分の事を子どもとしか見てもらえなかろうと、何もしないで終わるのは嫌だ。


ようやく心が決まり、ブン太は和葉の手を取った。


「和葉さん。俺……あんたが好きだ」

「ーーーえ?」


驚く和葉。

ブン太は続けた。


「さっき、和葉さんがこけた時に首に指輪が付いたネックレスしてるのが見えた」


ぴくりと和葉の体が反応する。


「だから、もしかしたら彼氏がいるんじゃないかって思ったし、俺は和葉さんより10も年下だし、背も低いし全然眼中に無いって分かってるーーーでも! ……俺は、和葉さんが好きなんだ」

「……ブン太君」


和葉は眉を寄せて、ブン太を見た。

ブン太の真剣な目に、和葉はぐっと目をつぶる。


どうしよう。どうしよう。


そればかりが頭の中を行き来する。

ふっと正太郎の笑った顔が浮かんで来て、ブン太の笑顔と重なった。


あ……


和葉はその時、初めて正太郎とブン太が似ていることに気付いた。

いつも笑っている所。

食べ物が大好きな所。

和葉が作った料理を、美味しい美味しいと言って食べる所。

優しい所。

でも、ブン太はブン太であって正太郎ではない。

そんな事は分かっている。

ブン太に惹かれていると気付いて、正太郎と似ていることに今気付いた。


もう、いいのかな?


心の中で、自分自身に問いかける。

もちろん答えなど帰って来ない。


「ブン太君……」


名前を呼んで目を開けると、ブン太は泣きそうな顔で和葉を見ていた。


「ありがとう。すごく嬉しいよ」

「ーーー本当、に?」


和葉の言葉にブン太は驚く。


「このネックレスはね、私の大事な人がくれたものなの」


そう言って和葉はネックレスを外した。


「物に執着しちゃいけないって、その人に言われたことがあった……大切なのは物や特別な記念日なんかじゃない。ここだって」


和葉は自分の胸に手を置いた。


「心?」

「そう、心……相手を思う心。大切にしたいと思う心。愛しいと思う心……心があれば、物やお金は大事じゃない。結局、何の力も発揮しないただのモノ」


正太郎に言われた言葉を思い出しながら、和葉は言った。

ブン太はじっとそれを聞いていた。


「その私の大切な人……ううん、大切だった人は、今はもういないけど、私のここにずっといる」


ズキンーーー


ブン太の胸は痛かった。

でも、和葉の話を聞いていたくて、黙って和葉を見つめた。


「だけど、また新しく大切な人が出来てもいいよね?」

「えーーー?」

「今すぐに返事は出来ないけど、私もブン太君に惹かれてる」

「ーーーーーー」

「もう少しだけ、時間をくれる?」


和葉は外したネックレスをテーブルの上に置いた。

ブン太は和葉の言った言葉の意味を必死で考えていた。


「和葉さん……それってーーー?」


良く分からずに尋ねると、和葉は笑った。


「ブン太君がもう少し大人になったら、その時にきちんと返事させて?」


分からない。

やっぱり分からなかったが、今この場で振られた訳ではないということだけは分かった。


「うっそ……マジで? え? ーーー本当に? 俺が大人になってって、いつ? いつまで待ったら返事くれんの?」


その時にいい返事がもらえるかどうか分からないのだが、ブン太にとっては今振られなかったという奇跡の方が遥かに重要だったらしい。

目を輝かせて和葉に詰め寄った。

それに少し身を引いて、和葉が答える。


「そうだね、取りあえず、二十歳になったら……かな?」

「二十歳ぃ~~~!? って、あと三年近くもあるじゃん!! そしたら和葉さん三十路だぜっ!?」

「はは~ん、そういう事言う訳ね。じゃあ、さっきのは無かったことに……」

「うわわわわわっ! たんまっ! 違っ、そう言う意味じゃなくって!! 俺、頑張るっ! 絶対ぇ俺の事好きにさせてみせるからっ!」


必死に取り繕うブン太に、和葉は吹き出した。


「ははははっ! うん。分かった」

「絶対絶対俺にメロメロにさせてやるからな! 覚悟してろよぃ!」

「ーーーうん。じゃあまずコーヒーをブラックで飲めるようにならないとね」

「うぐっ……み、見てろよ」

「お~! ブン太、良かったじゃねえか~!」

「わあっ!?」


ドスンッ!


「えっ? はっ、肇さんっ!? 仁王!?」


突然部屋に入って来た肇と仁王に、ブン太は驚いてソファーから落ちた。


「あはははっ! い~いリアクションだな」

「ブン太、お前格好わるいぜよ」

「ななななな、なんで二人ともいるんだよっ!? 帰ったんじゃなかったのかっ!?」


目を白黒させるブン太と違い、和葉は平然と立ち上がる。


「二人とも心配して外で待ってたの?」

「ま、そういう事」

「お茶飲む?」

「コーヒー」

「ブラックで」

「はあい。あ、ブン太君は?」

「ななな、なんでそんな冷静なんだよ、和葉さんっ!?」

「え? 何でって……肇の考える事分かるもん」




ーーーーーああ、そうですか。


とそこで納得するブン太。

体をソファーに戻して座り直す。

隣りに座った仁王が、不適な笑みを向ける。


「良かったのう。取りあえず速攻で振られんかったき」

「うっせー。馬鹿」

「ま、これからまたショッキングな話聞いて、それでもめげなかった時は認めてやるよ」


向かいのソファーに座りながら言う肇に、ブン太と仁王が顔を見合わせる。


「ショッキングな話?」

「そ。これをあげた男の話」


これ。と言って純が指差したテーブルの上のネックレス。

さっき和葉はこれをくれた人は今はもういないと言っていた。

ということは、死んでしまった。という事。

和葉の彼氏だった人は、死んだのだ。


なんか、それだけでショッキングなんですけど……


暗くなったブン太に、肇がため息を吐く。


「覚悟しろよ。お前より和葉は大人なんだ。その分お前が経験したこともないような経験をしている。それくらいの覚悟はあるんだろ?」

「っ……あったりまえだろ? 年上に考えも無く告白なんかするかよ……」

「ーーーそれならいい。ブン太……和葉を……解放してやってくれ」

「う? うん……」


まだ今は肇の言葉の意味も和葉が先ほど言った言葉の意味もちゃんと理解出来なかったが、それでもブン太は頷いた。

大人になるまで待てと言った和葉の気持ちを考えなくてはいけない。

ただ甘えているばかりではいけないのだ。

肇は真面目な顔からいつもの笑顔に戻った。

ブン太は肇が背中を押してくれていることが嬉しかった。

チラリと隣りに座る仁王を見ると、仁王も何だか優しげに微笑んでいた。


まあ、こいつもこいつなりに俺の事心配してくれてんだろうな。ムカつくけど。

ジャッカルにも後で電話すっか……幸村は……今度でいいや。


「はい、コーヒー入ったよ~」


キッチンからコーヒーの香りがしてきて、ブン太は立ち上がった。


「手伝うぜ」

「ありがとー」







苦くて甘いものは、何ですか?

踏み出した二人の道は前途多難かも知れないけれど、それでも進まなきゃ分からない。

辛い過去の無い人なんて一人もいないのだから。

寂しさを紛らわすなんてそんなことじゃなくて、心からの安らぎを見つけること。

愛して、愛されて。

そんな関係が一番だと思える時が、きっと本当の幸せを見つけた時。







                                  END











あとがき

終わりました……
長々とこんな話にお付き合いくださいまして本当に本当にありがとうございました。
オリキャラ満載で申し訳ないです…
こんなに長くなるなんてまったくもって予想ガイ☆
でもブン太可愛いから許す(笑)
大事な人を失う悲しみとか、それを乗り越える勇気と時間って、誰にでもやってくる事ですよね。
ブン太の純粋な気持ちが和葉さんの心を溶かせて良かったと思います。
ってか、マジで10歳も年下と付き合うなんて、楽しそう(笑)
年上には年上なりの葛藤とかがあるんですよ。10歳も年下に告られたら悩むって。マジで…

え~っと、このお題は「苦くて甘いもの」でした。難しかったです!
取りあえずブン太はケーキ好きみたいなんで、ブラックコーヒーは飲めないだろうなー
と勝手に思って書きました。ところでブン太ってこんな性格なの?(知らないってのが酷い…w)
それでは、またお会いしましょう! See you!





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