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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

Infection

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 ある程度何でもこなせる自信はあったし、出来なければ努力してそれなりにそつなくこなして来たと思う。

 しかし、手塚国光はどうにも上手くまとめることの出来ない感情に、ひどく戸惑っていた。











Infection














 手塚はテニスが好きだ。

 こんな言い方をすると酷く陳腐に聞こえるが、好き以外の表現が見つからない。

 生活の一部? ライフワーク? 自己表現手段? どれもいまいちだ。やはり好きというのが一番しっくりくる気がする。

 そんなテニス大好き少年の手塚は、少しでもテニスが上手くなりたいという一心で毎日鍛錬に余念がなかった。

 おかげで勉強と部活の両立で忙しい日々を送っていた。


 そんなある日のこと。


「いや、絶対に俺を見に来てるね、あれは!」

「なんでエージ先輩そんな自信があるんすか!? 絶対俺っすよ!」

「桃こそなんで自信あんだよっ!」

「あ~もう、いい加減にしろよ、2人とも!」


 部活を終え、部室で部誌を書いていた手塚の耳に飛び込んで来た喧噪に、顔を上げ一瞬その顔をしかめる。

 すぐに菊丸と桃城が苦言を表した顔の手塚に気付き、後ろで叱っていた大石を振り返る。

 そんな2人に大石はため息を吐くと、2人を促し自分も着替え始めた。


「ほら、さっさと着替えるんだぞ、2人とも」

「ほ~い」

「うい~っす」


 それでも2人は無言で変な顔を作り合いながら着替えていた。

 何がそんなに気に入らないというのか。


「大石、あの二人は何をもめているんだ?」


 手塚が尋ねると、大石が苦笑する。


「ああ、最近よく見学に来てる子が、誰目当てなのかってのでお互い自分だって主張してるんだ」

「見学者?」

「そう。手塚は知らないかな? 2週間くらい前から来てて、部活が終わるちょっと前くらいの時間に校舎近くに立って見てる子なんだけど」


 手塚は見学者の様子を思い出したが、さして気に留めていないので気付いていなかった。そんな女子生徒がいたのかと、書き終えた部誌のチェックをしながら相づちを打つ。


「そうか、気付かなかったな。それで、何故あの2人がその女子の事で言い合ってるんだ?」

「その子が結構可愛くてさ、桃と同じクラスの子らしいんだけど、英二と桃、2人とも気に入ってるみたいで」


 またくだらない事を、と言いかけてやめた。

 何故なら手塚もまた2人と同じように1人気になる女子生徒がいるからだ。

 一つ年下でいつも笑顔のその少女のことが、手塚はなんとなく気になっていた。






 出会ったのは一月ほど前の自宅近くのテニスコート。肘の怪我で無理が出来なかった手塚は、部員に迷惑がかからないようにと部活以外での練習をそのテニスコートで1人行なうことが多かった。

 ある日いつも行かない時間帯に手塚がテニスコートに行くと、1人の少女が壁を相手に見事なラリーを続けていた。

 思わずそれに見入ってしまった手塚だったが、気付いた少女がこちらを振り返って驚いた顔をした。


「手塚先輩?」


 名前を呼ばれ、先輩とまで付けられたという事でこの少女が自分と同じ青春学園で、後輩だということが分かる。

 手塚はラリーをやめた少女にゆっくり近づき、じっと顔を見つめた。


「随分と熱が入っていたな」

「いや、あの、すみません」

「何故謝るんだ? 俺は別に怒っている訳じゃない」


 心外だと眉間にしわを寄せると、少女は小さくあっと言ってすぐに笑った。


「あはは。手塚先輩は厳しい人だって聞いてたから、つい」


 見知らぬ後輩にまでそんなふうに思われているのかと、手塚は一瞬今までの己の生活態度を振り返る。

 自分が特別厳しい人間だとは思わないが、大石や菊丸や河村達の普段の様子と比べれば確かに厳しいと言われても仕方ないかもしれない。彼らのようにいつも笑顔でいる訳ではないし、友達とふざけたりたりもしないのだから。

 だがそれは手塚にとって特別必要だとは思えない行為で、自分がその輪に入らずともそれなりに楽しめているから無理に騒ぐ事もないし、自分の役割ではないと自覚している。

 しかし、やはりというか、初対面の女の子にそんなふうに言われるのは些か残念ではある。


「ーーー俺を知っているということは、うちの生徒なのか?」

「はい、2年です」

「そうか……テニス部で見かけた記憶はないが」

「部活は吹奏楽部です。テニスは小学校の時にちょっとだけやってて、たまにこうやって壁打ちをするくらいで」


 そう言う割には動きも滑らかだったし、ボールを打つ時のラケットと体、ボールの距離感も完璧だった。ちょっとだけではなく、かなり本格的にやっていただろうことは容易に推測出来た。

 ふとコート脇を見ると置かれたテニスバッグには何本かラケットが入っていて、テニスが好きなのだとすぐに分かった。

 自分と同じ、テニスを好きな少女。

 ふと興味が湧いた。


「少し、俺と打たないか? 壁を相手にするよりましだと思うが」


 手塚がそう言うと、少女は一瞬驚き、すぐに大きく頷いた。


「いいんですか!? よろしくお願いします!」













 あれからたまに、お互い待ち合わせをすることはなかったがテニスコートで会えば一緒に打ち合う事が増えた。

 大会を控え、怪我の不安も多少残る手塚にとって少女とのテニスは良い気分転換となっているようだった。

 部誌のチェックも済んで片付け終え、帰ろうと荷物を担いだ所で再び菊丸と桃城の声が聞こえて来る。


「だーかーら! あいつは俺を見に来てるんですってば!」

「も~! 桃、いい加減認めろよっ! 俺この間あの子とたっくさんおしゃべりしたんだかんな!」

「何言ってんすか! 俺なんて毎日教室でしゃべってますよ! 仲良いんすからっ!」

「2人ともいい加減にしろ!」

「うへっ」

「すんませんっ! 部長っ!」


 とうとう手塚の雷が落ち、いい加減2人もくだらない言い争いをやめた。

 菊丸は納得していない様子で、手塚を見送りながら変な顔を作って無言の抗議をしている。

 それに気付かぬフリをして、手塚は部室のドアノブに手をかけた。


「先に出る、戸締まりは頼んだぞ」

「ああ、お疲れ。あれ手塚、着替えないのか?」

「まだ少し体を動かしたいからな」

「あまり無理するなよ。大事な試合が控えてるんだ」

「分かっている」


 心配そうな大石に大丈夫だと頷き、部室を後にした。

 コート脇を歩きながら、手塚はいつものテニスコートに寄ってみようと思っていた。

 あの少女がいるかは分からなかったが、もしいるならばラリーでもしたいと思ったのだ。

 何故?

 歩きながらそう問いかける。

 手塚は恋愛に対して鋭い方ではない。もちろん他者と比較する事は出来ないのではっきりとは言えないが、今までそういった事柄に感心を持った事がなかったので鋭いとは言い難いと思っている。

 しかし、あの少女の事を無意識のうちに考えていることが良くある。という事に、最近気付いた。

 それは疲れた時や精神的に参っている時が多いようだが、それが何故なのか、明確な答えを導き出せずにいたのだ。

 モヤモヤとした心を抱えたまま、それでも少女の笑顔が見たいと思う。

 初夏の夕方はまだ日が高く、ボールを打つには十分すぎるほど明るかった。

 いてくれたらいいのだが。

 そんな事をまた無意識のうちに考えながら、手塚は歩くスピードをあげた。















 示し合わせた訳でもないのに、驚いた事にテニスコートに少女はいた。意思の疎通が出来てるような気がして、先ほどまでの心のもやがゆっくりと晴れて行く。

 少女はいつものように黙々と壁に向かって綺麗なフォームでラリーを続けていた。

 フォア、バック、フォア、バック……と、交互に見事に打ち分けては軽やかなステップを刻んでいる。まるで小鳥が踊っているようだと手塚は思った。

 決して目立つ容姿ではないが、女の子らしい小柄な体に愛らしい顔立ちをしている少女。学校では自分とは違い、さぞかし友人も多い事だろう。

 そこで何故か桃城の顔が浮かんだ。そしてその事に自身で腹を立てる。

 何故?

 またそこで疑問がわき上がる。

 と、少女が手塚に気付き、ボールを打つ手を止めて笑顔で挨拶をしてきた。


「お疲れ様です、手塚先輩」


 その笑顔に先ほどまでの疑問も形を潜めてしまった。


「ああ、相変わらず熱心だな。吹奏楽部の方は出たのか?」

「はい、終わってそのままここに直行したんです」


 そんなにテニスが好きなのかと、手塚は何故だかくすぐったいような感情に襲われた。

 少女がテニスが好きだという気持ちが嬉しくてたまらない。

 自分と同じ気持ちを持っているという事がたまらない。


「そうかーーー少し、打たないか?」

「ありがとうございます……って、いつも相手してくれますけど、私みたいなヘタクソと打っても先輩の練習にならないと思うんですけど」


 心配そうに言う少女に、手塚は顔をしかめた。


「もし俺がお前と打ちたくなければ、こうやって誘うと思うか?」

「ーーーいえ、思いません」

「それならばお前のその質問は愚問だな」

「それじゃあ先輩は私とテニスするのが楽しいって思ってくれてるんですか?」


 少女のその一言に、手塚はシューズの紐を結ぶ手を止めた。

 ゆっくりと少女を見上げ、すぐに視線を足元に戻す。

 楽しい? 

 言われてみればそうかもしれない。手塚はいつも部活が終わるとこのテニスコートの事を、少女の事を思い出していた。

 自分がコートに出向かなかった日など、少女は行ったのだろうか、それとも行かなかったのだろうかと考える事もある。

 それは一体どういう事なのかーーー


「でも、手塚先輩とテニス出来るなんて滅多に経験出来ませんもんね! とっても嬉しいです」


 無言の手塚に何を思ったのか、少女はそう言って笑うとコートの向こう側へと走り去った。

 ラケットを握り立ち上がり、向かいの少女をじっと見つめる。

 もしかしたら、俺は……

 思案し始めた手塚に向かって、少女のサーブが飛んで来た。

 ボールをリターンするそのラケットを伝って来る振動に、手塚は一つの答えを確信し始めていた。

 一つ一つ、丁寧に返って来るボールの感触は豊潤で、言葉がなくとも語っているようだった。

 しばらく打ち合い、ほどよい倦怠感が腕に溜まった頃、手塚は手を止めた。


「今日はこのくらいにしておこう」

「ありがとうございました」


 少女は頭を下げ、こちらへと戻って来た。


「どうぞ」

「ああ、すまない」


 ペットボトルを渡され、ベンチに腰掛けてそれを飲む。

 部活の後とはいえ、それほどハードに動かなかった手塚は大して疲れてはいなかった。

 ぐっぐっと何度か左腕に力を入れてみる。

 病院でも大丈夫だと医者に言われた。もうすぐ強いライバル達と本気で打ち合えるのだ。

 そう思うと胸が躍った。


「そう言えば、桃が……」


 突然少女から発せられた名前に驚くと同時に、嫌な思いが渦巻く。

 手塚が少女を振り返ると、少女はドリンクをぐいっと飲んで息を吐き、笑顔で手塚を見た。


「あ、私桃城君と同じクラスなんですけど、彼が手塚先輩は自分にも他人にも厳しい人で、いつも眉間にしわ寄せてて怖いって言ってたんです。だから最初ここで会った時に怒られるんじゃないかって妙にびくびくしちゃって……でも実はすごく優しい人なんだなって、気付きました」


 優しい人だと言われたことに、自分でも驚くほど喜んでいる。もちろんそれを顔には出さないが。


「ーーーあいつは、クラスでもそんな事を言っているのか」


 そして桃城の能天気な顔を思い出し、手塚はため息を吐いた。


「ふふっ。私、中学に入ってからすぐ吹奏楽部に入ったんでテニス部の練習って実は見た事無かったんです。でも2年になって桃と同じクラスになって、すっごく楽しそうにテニス部の話ししてくれるから、またテニスやりたいなあって、やっぱりテニスが好きなんだなあって思って……それで、ここで1人でたまに練習するようになったんです」

「そうだったのか。テニスを辞めたのは、何か理由があるのか? ーーーあ、いや。言いにくい事ならば答えなくていいが」


 自分の怪我の事を思い出し、手塚はバツが悪くなった。

 しかし少女は首を振って答えた。


「私、親に無理矢理スクールに通わされてたからすっごいテニスが嫌いだったんです。全然上達しないし、周りも同じ位の年の子がほとんどいなくて、楽しくなかったし。お姉ちゃんがいるんですけど、お姉ちゃんは小さい時からずっとフルート習ってて吹奏楽やってたから、私もお姉ちゃんみたいにフルート吹けたら楽しいだろうなって思って……それで、中学に入学すると同時にテニスをやめて、吹奏楽部に入ったんです」

「なるほど」


 好きでなければ何事も続かないし、上達もしない。少女はテニスが嫌いだったのだ。

 でもやっぱり好きだと少女の口から聞けた事は、手塚にとって何より喜ばしいことだった。

 そう、テニスは楽しいのだ。

 手塚はふと笑った。


「わっ、手塚先輩が笑った顔、初めて見ました」

「ーーー俺のイメージは一体お前の中でどうなっているんだ?」


 すぐに口を曲げると、少女が吹き出す。


「桃が怖い怖いっていっつも言うから……でも、先輩笑った方が断然素敵ですよ!」

「っ……」


 そんな事を言われたのは初めてだった。少女の言葉が素直に嬉しいと思ってしまう。


「私、手塚先輩とここで偶然会った時本当に驚きました。噂ですごく上手な人だって聞いてたし、実際一緒にやらせてもらって上手だって身をもって知ったんですけど、そんなすごい人が私みたいなのとテニスしてくれるのが嬉しくてーーーそれで、どうしても部活やってるのを見たくなって、最近放課後、吹奏楽の練習が終わってからテニス部見に行ってるんです」


 少女の言葉に手塚はさっき部室で菊丸と桃城がもめていた事を思い出した。

 まさかという思いが頭をよぎる。


「それは2週間ほど前からか?」

「あ、はい。えっ? ご存知だったんですか? なるべく手塚先輩の視界に入らないようにこっそり覗いてたんですけど」


 そう言って笑いながら頭をかく少女に、手塚は信じられないと目を丸くさせる。と、次に可笑しくなってしまった。

 ああ、そうか。

 どうやら気付かないうちに、心の中をこの少女に振り回されていたようだ。

 自分と同じようにテニスが好きなこの少女は、手塚の心にいつの間にか強烈なスマッシュを打ち込んでいたらしい。


「そう言えば、桃城がお前は自分の事を気に入っていると言っていたが、そうなのか?」


 こんな女々しい事を自分が質問するとは、つい先ほどまで思いもしなかった。

 それでも少女の答えを期待しながら待っている。


「え? まあ、仲は良い方だと思いますけど。桃がそんなに自信を持って言うほど気に入っているかと言われたら……正直普通だとしか……」


 予想通りの答えに満足する。


「そうか……ならば菊丸はどうだ? あいつもお前とこの間たくさん会話をしたから、自分の事を気に入っていると言っていたが」

「えっ!? 菊丸先輩ですか!? ーーーびっくりした。この間確かにテニス部の練習見てた時に声を掛けられてお話しましたけど、話したのはそれが初めてですよ? 気に入る入らない以前の問題だと思うんですけど」


 その答えに再び満足する。

 そして、


「では、俺はどうだ?」


 そう尋ねた所でじっと少女の顔を見つめた。

 少女は目を大きく見開き、自分を見つめる手塚としばし見つめ合うと、慌てて視線を逸らした。


「てっ、手塚先輩ともまだ知り合ってそんなに経ってないじゃないですかっ! な、何言ってるんですか!? 先輩がそんな冗談言うなんて……」

「……そうか。俺はお前を気に入っているんだが」


 真っ赤になった少女の顔に、手塚は答えを待ちながら思わぬ衝撃を受けていることに驚いていた。

 ぎゅっと胸を締め付けられるような、そんな感覚。

 今まで味わった事のない痛くて苦しくて、それでいて優しい気持ちになるその感覚に、酷く混乱した。

 まるで少女の惑乱が伝染したみたいに、手塚の心が騒ぎ立つ。


「わ、私も……先輩の事、気に入ってますよ、とっても!」


 そう言って乱暴に荷物をつかみ取り、少女は勢いよく頭を下げ失礼しますと力をこめて言うと、コートから走り去った。

 少女の後ろ姿を見送って、手塚は一人ベンチに体を預けて空を見上げた。

 気付けば日は沈みかけ、濃紺色の空に星が見え始めている。


「ふう……」


 大きく息を一つ吐き、手塚は眼鏡を外し手で顔を覆った。

 その口元は、ほんの少し、上がっていた。







                       END




※あとがき※

どうわあっっっ!!
最後までお読み頂き、ありがとうございました!お題は「感染しました」で、珊瑚さんからのリクエスト「振り回される手塚」だったんですが…
すみません、こんな程度にしか手塚を振り回せませんでしたっ(涙)力不足で申し訳ないです……><
素敵な手塚漫画で萌えをくださる珊瑚さんに、是非とも手塚のお話しをプレゼントしたかったんですけど。。
こんなんで良かったら、どうぞ原稿中の息抜きにでもしてやってください(ならねーよw)
手塚って、テニプリキャラの中で旦那さんにしたい人ベスト3に入ります。
でも、絶対に手塚から「申し訳ありませんが、こちらから願い下げです」と丁寧に断られるに違いない(笑)
だって管理人ごっつマイペースだし、大雑把だから。テニスやっても大雑把だもんなあ…サーブも力任せだしww
そんなこんなで、いつも萌えをくださる珊瑚さんに本当に本当に感謝でございます!

ちなみに他の旦那さんにしたい人は「大石」「河村」。彼氏にしたい人は「鳳」「千歳」「黒羽」ww。下僕にしたい人は「跡部」「仁王」「真田」www でもどのキャラもみんな好きですけどね。




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